豪鬼メモ

一瞬千撃

私のブロンプトン総集編

ブロンプトンを8年間乗ってきた感想と、ここ1年ほどでカスタマイズしてきた内容を総集編的にまとめてみる。所有感や美観よりも実用重視でカスタマイズしたので、走れる使えるブロンプトンを手に入れたい人は参考になるかと思う。

ブロンプトンはいいぞ

ブロンプトンの魅力は、可搬性、耐久性、走行性能の三つにまとめられると思う。

  • 可搬性:15秒で折り畳めて、折り畳むと非常に小さくなって、運搬にも保管にも便利。
  • 耐久性:鋼鉄(クロモリ)のフレームが非常に頑丈で、何年乗っても何万キロ乗っても耐える。
  • 走行性能:ジオメトリやドライブトレインやサスペンションがよく考えられていて、折り畳みの16インチ小径車の割にはよく走る。

私の勤務先には無料の自転車置き場がないので、折り畳んでオフィスに持ち込めるというのが私が使用する自転車の最重要要件である。ブロンプトンは簡単に折り畳めて非常に小さくなるので、通勤通学にも、旅の友としても便利だ。週末のサイクリングの際にも、行った先の飲食店や各種店舗に持ち込みできるし、行き帰りに電車輪行するのも簡単だ。雨や疲労やパンクで行程を切り上げたとしても、電車やタクシーですぐに帰れる。家に帰って保管する際にも、折り畳んで室内や玄関先に持ち込める。三つ折りの折り畳み機構が何より秀逸だ。折り畳んだ際に形がロックされるから片手で持ち上げても崩れないとか、チェーンが前輪と後輪の中間に来るので持ち運んだ際に衣服を汚しにくいとか、折り畳んだ状態でキャスターを転がして移動できるとか、かなり練った設計で利便性が追求されている。折り畳みや展開が15秒くらいでできるというのが非常に重要な点で、その作業の精神的負荷が小さいからこそ、どこにでも持ち出せるのだ。面倒だったら乗らなくなってしまうだろう。ブロンプトンの車体は展開するとロードバイク並みに大きくなるが、畳むとロードバイクの前輪だけよりも小さくなる。ここまで小さいからこそ、オフィスやカフェの机の下に収納できるし、車のトランクに入れられるし、片手で持ち運んで電車輪行もバス輪行もできるし、スーツケースに入れて飛行機輪行すらできる。

ブロンプトンは長く使える。私は六本木までの往復12kmを4年間くらい、渋谷まで往復5kmを4年間くらい、通勤でブロンプトンに乗ってきている。年間240日稼働とすると通勤だけで16320kmも乗っていることになる。それ以外のサイクリングで月に平均250kmくらいは走っていると思うので、それが8年間だと24000kmだ。合わせると40320kmで、地球一周と同じ距離になる。ブレーキシューやタイヤなどの消耗品は何度か交換したが、フレームもホイールも全く劣化した様子がない。今の調子なら10年過ぎても全く問題なさそうだ。長持ちする要因の第一は、鋼鉄(クロムモリブデン鋼)でできていることだろう。鋼鉄には疲労限度があり、金属疲労が一定以上進行すると停止して、無限回の繰返し応力に耐えるという特性がある。つまり、降伏応力以上の負荷や衝撃を与えない限りは、一定以上の経年劣化はしないので、いつまでも使えるということだ。アルミやカーボンではそうはいかない(アルミは疲労限度がないし、カーボンは割れやすいし樹脂部分が経年劣化する)。しかもフレームが太くて頑丈な作りなので、降伏応力も高い。実際、私のブロンプトンは何度も転んだり倒れたりしているが、歪んだり壊れたりする様子はない。溶接や塗装もしっかりしていて、製品寿命のことをしっかり考えて作られているのが感じられる。鋼鉄だし太いしで、車体が重いのはブロンプトンの欠点だが、10年20年持たせるためであれば納得できるだろう。また、折り畳んで屋内保管できるのも、長く乗るには重要な要素だ。そうすれば錆びることもないし、盗まれることもない。ブロンプトンを持つなら絶対に屋内保管すべきだ。そうでないなら安物を乗り潰した方がいい。

ブロンプトンはよく走る。しかし、まず大前提として、16インチの小径車であり、走行性能を追求した車体形状でないのは認めないといけない。その上で、小径車の割には期待以上に走るということを主張したい。ドライブトレイン(ペダル、クランク、チェーンリング、チェーン、スプロケット、ハブ)の効率はブロンプトンでも一般のクロスバイクロードバイクでも大して変わらないし、そもそも同じパーツを使うことができるので、機械抵抗に大差はないと言える。空気抵抗は乗車姿勢によって決まるが、ローハンドルのブロンプトンクロスバイクは同じくらいな一方、ロードバイクのエアロポジションには敵わない。一番の問題は路面抵抗が大きいことだ。これは16インチ(349C)の小径車なので宿命的であり、700Cのタイヤよりも路面抵抗が1.67倍にもなるらしい。以下の動画に詳しい解説があるが、機械抵抗と路面抵抗と空気抵抗を総合すると、ブロンプトンが23km/hで走っていると、同じ労力でロードバイクは25.3km/hで走れるそうな。より速い速度域では空気抵抗がものをいうので差がもっと広がる。しかし、見方を変えれば、街乗りの速度域では、ブロンプトンロードバイクの91%の速度で走れるのだ。30分先のカフェに行くとしたら、ロードバイクの方が3分弱先に着くというだけの話だ。ロードバイクは安全に置ける場所を探す時間が必要なので、所要時間はトントンだろう。街乗りやちょっとした買い物であれば折り畳み自転車の方が便利だ。私のブロンプトンに関しては、後述するカスタマイズを経て、その辺のクロスバイク勢には負けない程度の走行性能を獲得したと自負している。通勤や買い物など際の日常の足としてはもちろん、ロングライドにも活躍している。
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ブロンプトンのジオメトリと乗り味については以前の記事で考察した。要は、ステアリングと加速が軽く感じるので、曲がったり止まったりが多い街乗りに向いているということだ。もちろん市街地の通勤通学や買い物などにも向いている。輪行の容易さから、遠隔地まで自家用車や公共交通機関で行ってから現地でサイクリングするのにも向いている。そして何より、乗っていて楽しいのだ。自分の力で走って各地の風景と季節の風を楽しむというのを手軽にやりたいなら、ブロンプトンはうってつけの道具だ。
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メリットがあればデメリットも当然ある。まず、価格が高い。安い自転車なら1万円台で買えるのに、10倍も20倍も金出すなんて勇気がいることだ。本体だけでなく各種のパーツも高いので、維持費も高くつく。正直なところ、自転車がそこそこ好きか、そこそこ金に余裕があるかでないと辛いかもしれない。そして、小径車なので、走行性能はその範囲に留まる。いくらカスタマイズしても、物理法則による限界は覆せない。路面抵抗は大きいし、悪路の走破性は悪いし、直進安定性が低いし、急ブレーキすると前転して転ぶ危険性が高いし、路面が濡れていると滑って転びやすいし、振動吸収性は低いし、タイヤの摩耗が早い。走行性能を第一に考えるなら、用途に応じてロードバイククロスバイクやマウンテンバイクを買うべきだ。そして、フレームが鋼鉄なので、重い。これは耐久性の裏返しではあるが、それに納得できるかどうかが問題だ。自分が実際に耐えられる重さかどうかは店舗などで確認した方がいいだろう。そして、高価だし、目立つし、持ち運びやすいので、おそらくだが、普通に道端に駐輪しておくと盗まれる確率が高い。折り畳んで身近に管理することで逆に盗難リスクは下げられるとも言えるが、防犯に気を遣うことは間違いない。それらのデメリットを覚悟した上で買わないと、後悔するだろう。

おすすめのモデル

ブロンプトンは安いモデルでも今や25万円くらいして、それ加えてカスタムパーツや消耗品を買い揃えたら、そこそこ金がかかる。実際、私は2016年2月に本体を買ったが、20万円ちょいだった。ミッドレンジのロードバイクよりは安いが、それでもおいそれとは買えない値段だ。しかし、既に8年くらい乗っているので、今すぐ廃車にしたとしても1ヶ月の減価償却費は2000円くらいになる。各種消耗品とカスタマイズの費用で20万円くらい追加で使っているが、それを入れても月に4000円くらいだ。大人の趣味としては安いと思っている。自転車通勤することで、片道220円の通勤バス代の月8800円が節約できているので、むしろ黒字とも言える。それはともかく、本体を買い替えないで済むように吟味して決めるのが総合的なコスパにとって重要だ。カスタムパーツも何となく買うのではなく、仕様を精査してレビューを調査して実際の効果を検証するという過程を繰り返すことが重要だろう。その過程を記録したのがこのブログだ。

これからブロンプトンを買うのであれば、Cラインの外装2段のSハンドルのモデル(S2LまたはC-Line Urbanとも呼ばれるらしい)を私は勧める。私がそれに乗っていて、強い選択支持バイアスがかかった意見ではあるが、それなりに理由がある。金に糸目をつけないならPラインやTラインの外装4段モデルにしたいところだが、一般庶民には手が出ないし、高すぎると盗まれたり壊れたりするのが怖くなって、乗り回しに心理的制限がかかるという欠点がある。Cラインでも安くはないので同様の心理的制限はあるのだが、大分マシだ。Cラインは11.4kgからで、Pラインで2kg軽量化し、Tラインで4kg軽量化するが、それにそれぞれ20万円と50万円を追加で払うかどうかはあなた次第だ。峠に行くのでもなければ走行中の重さの差は気にならないし、折り畳んで持ち運ぶ際にもキャスターを使って転がせるので、重さが問題になることはあまりないと私は思う。まあ金が余っているならTラインやPラインが欲しいというのは正直なところだが、Cラインでも十二分に楽しめるというのも本当だ。

あとは変速機構の選択が重要だ。走行性能を考えたら外装2段の一択だ。内装3段の遊星ギアは機械抵抗が大き過ぎて、1速と3速がだるい。6段モデルは内装3段と外装2段の併用なので、同じ理由でダメだ。外装2段のデフォルト状態でほとんどの場合で乗りやすいと思うが、軽過ぎたり重過ぎたりと感じたら、チェーンリングやスプロケットを適宜カスタマイズすれば良い。自分で作業すれば1万円もかからない。重量も外装2段が最も小さい。そして、ハンドルはSハンドルが良い。Mハンドルよりペダルに体重をかけやすいので、平地で速いし、登坂も楽だ。Mハンドルの方が乗車姿勢が楽というのは一理あるが、乗車姿勢を支えるくらいの体幹の筋力は1ヶ月も経てば勝手につくので、それよりはペダリングしやすい方が長期的に見てお得だ。さらに言うと、前傾姿勢の方が尻に優しい。

ラック付きとラックなしの選択だが、大きな荷物や大量の荷物を運ぶ予定があるなら、ラック付きを選ぶべきだ。また、ラックについた車輪が折り畳んだ状態で転がして運ぶ際に有用なので、12kgの車体をを持ち上げて運ぶ力に自信がない人もラック付きを選ぶべきだろう。そうでないなら、ラックなしの方がいい。ラック付きは600gほど重いからだ。また、ブロンプトンは前後荷重配分がかなり後ろ寄りなので、荷物はフロントキャリアブロックを使ってキャリアバッグやカゴに入れた方が走りやすい。なお、S2Lモデルが11.4kgとCラインの中では最軽量なのは、SハンドルがMハンドルよりも軽いのと、外装ギアが内装変速より軽いのと、ラックがないことによる。値段も一番安い。

ところで、「ブロンプトンが高いのは輸入代理店が価格を1.5倍にしているからだ」的なことがWikipediaに書いてあったが、それは誤解を招く表現だ。Cラインの欧州での価格は1495ユーロであり、それは今日現在の為替レートだと24.4万円くらいだ。日本でのCラインの実売価格は上述のように25万円くらいなので、そんなに変わらない。輸入代理店の仕入れ値が売値の1/1.5倍を下回っている可能性はあるが、それは自由経済に基づいて関係者が任意に決めるべきものだ。ここで言いたいのは、日本の輸入代理店が設定する卸価格は海外のそれと大きくずれてはいないということだ。つまり、もともとブロンプトンは高い。市場がそう決めているのだから仕方がない。それに相応の価値を見出す人は買えばいいし、そうでなければ別のものを探せばいい。

低価格帯で実用性のあるものならDahonやOri Bikeを検討した方がよいかもしれない。同価格帯で走行性能を求めるならBirdyやBike Fridayを、もっと高価格帯で走行性能を求めるならMoultonを検討した方がよいかもしれない。CaracleとかHarry Quinnとかも価格とサイズと走行性能のバランスが取れていてよさげだ。ブロンプトンは、「考えうるギリギリまで小さく折り畳める自転車でありつつ、やたら頑丈でありつつ、そこそこな走行性能を持つ」というのがコンセプトだ。最大投影面積がロードバイクの車輪一つよりも小さくなるように折り畳める製品は珍しい。それに加えて、耐久性の高さやフレーム剛性の丁度良さや製品各部の仕上げの丁寧さやメンテナンス性の高さなどの、ぱっと見ではわかりにくいところもよくできている。それでも25万円は高いが、小径車であることの利点と欠点を理解して選んだのであれば、それ相応の価値は堪能できると私は思う。予算を抑えたいなら、中古で程度のよいものを探してもいいかもしれない。中古品を吟味する際には、外観の傷の有無だけではなく、車体が歪んでいないかどうかも確認した方がいい。クランクを回してみてチェーンリング左右に振れないか、乗車してペダルを漕いでみてペダル軸の平行性が完全であるか、前後の車輪を回してみて上下左右に振れないか、フロント部のやリアトライアングルの折り畳み機構のヒンジにがたつきがないか、などだ。あと、派手な英国旗がプリントされている、いわゆる台湾ブロンプトンはあまり評判が良くないのでやめておいた方がよさげだ。新品で安価なものが欲しいなら、AcceofixやらLiteproやらRoyalやらの、いわゆるブロンプトンクローンを探してもいいだろう。ブロンプトンはパーツも高いというのが痛いところだが、それらクローン群が互換性のあるパーツを出してくれるおかげで、意外に安く手に入るようにもなってきた。とはいえ、やはり造りと耐久性に定評のある本家ブロンプトンを普通に買って長く使うのが良いような気がする。

一緒に買いたいグッズ

カスタマイズとまではいかなくても、購入時にぜひ揃えたいグッズがある。まず絶対必要なのはライトだ。「ブロンプトン用フロントライト」としてCateyeのVolt 300とかAMPP500とかが売られていて、私は前者を持っている。前輪の泥除けの上にマウントできて便利なのだが、いまだにマイクロUSB充電のものが売られているので注意だ。マイクロUSBだと充電にやたら時間がかかって使いにくい。あと、私はCateyeのAMPP800も持っているのだが、それは車体が揺れると内部のバッテリーがカチャカチャ音鳴りして鬱陶しい。そして、USB-C対応になったCateyeの新型製品群は値段はやたら高い。私は古いのを我慢して使っているのでここで新しいものをお勧めすることはできないが、とにかくUSB-Cにするのと、400ルーメンで3時間くらい持続できるものを選ぶのが良い。おそらく車体の購入時には店の人にライトを勧められるだろうが、少なくともUSB-Cかどうかは確認した方がいい。

ブロンプトンには純正の携帯ポンプが付いてくることがある(2023年現在では6段モデルにだけ付いてくる)。出先でパンク修理をした際には空気入れが使えると便利なので、それを車体に括り付けて走行できるようになっている。しかし、それが役立つのは出先でのパンク修理の時だけなので、パンク修理キットも同時に携帯しないと意味がない。私はそれが面倒なので、出先でパンクしたら輪行で撤退すればいいと割り切って、修理キットを持ち運ぶのもポンプを車載するのもやめた。また、普段使いで空気を入れるには、携帯用ポンプでは使いづらすぎる。やたら力がいるし、空気圧がわからないからだ。なので、米式バルブに対応してかつ空気圧がわかるフロアポンプを買った方がいい。空気圧と路面抵抗は密接な関係があり、適正値(体重70kg弱で良好な舗装路を主に走る私の場合100psiくらい)付近に設定するのは重要だ。

チェーンには定期的に油を差す必要がある。ブロンプトンはチェーンガードはあるがチェーンカバーはないので、ズボンの裾がチェーンに触った時に汚れにくい方がいい。チェーンオイルにはドライとウェットがあるが、ドライの方が汚れにくい。フィニッシュラインのドライルブリカントか、クレのチェーンルブドライが定番どころだろう。あとは、月イチくらいでチェーンの清掃をするためのチェーンクリーナーかな。私は仕上げにフォーミングマルチクリーナーも使っている。巷を走っていると、錆びたチェーンで走っている自転車を頻繁に見かける。そして当然ながら彼らはめっちゃ遅い。チェーンを適宜メンテするだけで速度が全然違うので、それだけでも自分でやってほしいところだ。一度錆びたチェーンはもう直らないので、そもそも錆びないように油を差すのと、車体を屋内保管するのは絶対だ。

ブロンプトンといえば輪行だが、公共の電車やバスでの輪行には輪行袋が必要だ。しかし、毎日輪行袋を持ち歩くのはだるいし、忘れてしまうこともある。そこで、車体のフレームの中に入れられる、加茂屋の「ブロンプトン用フルカバー輪行袋 ALWAYS-JP」がおすすめだ。ブロンプトンを持ち運ぶ際にはフレームやサドルを持って担ぐかコロコロで転がせばいいだけなので、本来は袋なんていらないのだが、日本で電車やバスに乗る際には関係者に怒られないために輪行袋が必要になる。輪行袋をつけないでも95%くらいの確率で改札を通れるが、たまに呼び止められてバツの悪い思いをするだろう。なので、車体全体を覆うという最低限の仕事だけしてくれる軽量の輪行袋を常に持っていると安心だ。それがフレームの中に入れられて、特に気にしなくても常に携帯することになるなら最高だ。常に輪行袋を備えていれば、突然雨に降られたりして電車やバスで移動する際にも困らない。財布とスマホだけあれば山奥で車体が故障したとしても場合でも押し歩きで最寄りのバス停に行くか、最悪でもタクシー輪行で帰ればいいので、工具を車載するよりは輪行袋を車載した方が潰しがきく。
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カスタマイズ

ブロンプトンは基本設計が考え抜かれているので、余計なカスタマイズなんてしないのがいいという人もいる。一理あると思う。純正のまま乗って、適宜メンテナンスだけしてあげれば、日常の足として10年20年楽しめるだろう。しかし、私の場合、街乗りだけじゃなくてロングライドも頻繁にするので、より走行性能に振ったカスタマイズをしたくなった。ベースとなるモデルも走行性能で選択した。ベース車はブロンプトンのストレートハンドル外装2段(S2L)2016年モデルのブラックエディションだ。それに以下に示すカスタマイズを行ってきた。費用対効果が高い順に示す。

まずやるべきは、ペダルの換装とトウクリップの導入だ。普通のフラットペダルと、トウクリップ付きフラットペダルと、ビンディングペダルのそれぞれの間には、超えがたい断絶がある。普通のフラットペダルでトウクリップに勝つのはかなり大変だし、トウクリップでビンディングペダルに勝つのもかなり大変だ。ビンディングペダルは通勤や街乗りには不便すぎるので、日常生活で走行性能を高めたいならば、トウクリップ付きのフラットペダルに落ちつく。そして、取り外し可能な三ヶ島のペダルがブロンプトンによく合う。純正の折り畳み式ペダルが起こす足の位置の左右差が解消されるのも良い。他のことはやらないでいいから、このカスタマイズだけはやってほしい。トウクリップをつけてもすぐには高速化しないかもしれないが、しばらく運用すると必要な筋肉がついてきて、ブロンプトンでも普通のフラットペダルのクロスバイク勢には負けなくなる。
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ブロンプトンのハンドルは体に近過ぎて、前方に重心を移して強くペダルを踏み込むのには都合が良くない。鋭く加速したり高速巡行したり急坂を登ったりしたい場合、エルゴンのGS3ブルホーンハンドルがあると便利だ。シッティングでもダンシングでもかなり力が入れやすくなるので、それだけで行動範囲が広がる。ブルホーンを握っての登坂に慣れると、ブルホーンがない状態で頑張っていたのが馬鹿らしくなる。SハンドルでなくMハンドルにブルホーンハンドルをつけると変になるので、その意味でもSハンドルがおすすめだ。すでにMハンドルのモデルを持っている場合、ハンドルバーを換装するという手もある。
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S2Lモデルのリアスプロケットは12Tと16Tだ。私は平地巡航はもっと重いギアを踏みたいし、激坂にも対応したいからもっと軽いギアも欲しいので、11Tと18Tという超ワイドレシオの設定に行き着いた。シマノスプロケットが使えるので様々な歯数を揃えるのは楽だ。今や、11T、12T、13T、15T、16T、17T、18Tから適宜選んで装着できるようになっていて、靴を選ぶようにそれらを切り替えるのがなかなか楽しい。
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フロントのチェーンリングは52Tの楕円チェーンリングに換装した。O.Symetricの楕円率が過激な製品がかなり気に入っている。楕円チェーンリングを使うと同じ変速比で低ケイデンスから高ケイデンスまで引っ張れるので、ギアの枚数が少ないS2Lモデルでもスポーツ走行がしやすい。楕円の乗り味が面白すぎて、これでカスタマイズ道に目覚めたといっても過言ではない。なお、52T/11Tだとクランク1回転でタイヤは6.335m進む。したがって、ケイデンス70rpmだと速度は26.61km/hになり、ケイデンス100rpmだと38.01km/hになる。
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英国紳士のために設計されたブロンプトンの170mmクランクは私のような短足には長すぎる。よって、Sugino RD2の165mmショートクランクを導入した。これによって足が回しやすくなり、より高いケイデンスに対応できるようになった。これもギアの枚数が少ないことを補っている。
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峠を走破するためにはリアの18Tを導入してもまだ重過ぎるので、Roter Q-Ringsの楕円39Tのチェーンリングを追加して、フロントを2速化した。フロント39Tとリア18Tを組み合わせるとロードバイクのインナー2速に匹敵する軽さになるため、大抵の峠は走破できるようになった。基本的に一番重い52T/11Tをシングルスピードのように使いながらも、隠し武器が3つもある頼もしさが、サイクリングを楽しくしてくれる。
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タイヤはShewalbe Marathon RacerとShewalbe Kojakを併用している。Shewalbe Marathon Racerはオークションで探して何本か手に入れているので、今後はそれだけでいく予定。
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自転車の心臓部たるBB(ボトムブラケット)シェルを換装した際には一度失敗して痛い目を見たが、定評のあるタンゲのLN-7922をグリスアップして使うことで落ち着いた。クランクとBBの両方を汎用品に変えるとQ-factorの左右差がほぼ完全に解消されるのも良い。
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BBのグリスをベルハンマーのメタルグリスに変えたらさらに回転が良くなった。ついでに車輪のハブもメタルグリスでグリスアップしたところ、前輪がめっちゃよく回るようになった。微妙な改善も積み重なればそれなりに体感できる差になってくる。
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ドライブトレインのチューンナップの最後の仕上げとして、チェーンテンショナーディレイラーを金属製にするとともに、プーリーをベアリング付きのものにした。それらによって乗り味が上質になった気がする。
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ここまでで、私が財政節度を守りながら取り組む範囲では、走行性能の向上はほぼ最善のところまで来ている。あとは、乗り心地や利便性を向上する細かい改善をした。最も効果が大きかったのは、リアショックアブソーバーを加茂屋のジェニーサスに換装したことである。ショックアブソーバーに適切なものを使うと、振動が落ち着いてめちゃくちゃ乗りやすくなる。乗る楽しさを増すという意味では、これが最初にすべきカスタマイズかもしれない。
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ズボンの裾にチェーン油が付く問題とフロント変速時にチェーンが外れることがある問題の対策として、チェーンガードを導入した。走行性能は全く上がらないが、利便性は少し上がった。
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シートポストは激安の中華カーボン製のものにした。乗り味は対して変わらないが、結構な軽量化が果たせた。パーツを追加して重くなるカスタマイズを多くやってきたが、それらの負債を一気に払拭できた。まあ自分が痩せるのが一番効果があるんだけど。
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さらに、サドルの検討もかなり深く行って、Selle SMPのVT30Cに行き着いた。ロングライドで尻を持たせるには、適切な形と弾力のサドルが不可欠だ。また、サドルの高さや前後位置や角度と漕ぎ方の関係についても自分なりに研究した。今や200km乗っても尻が耐えられる。
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リムテープはシュワルベのポリエステル製のものにした。以前はチューブが内部破裂することがあったが、これに変えてからは起きていない。
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街乗りでもロングライドでもしばしば道に迷うことがあるが、Suuntoのクリップコンパスをマウントしておくとその際の不安が払拭される。方向さえ合っていればだいたいは目的地に近づくからだ。スマホのナビに頼らずに街を徘徊するのは楽しいものだ。
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自転車に乗る際に荷物をどうするかは悩みどころだ。普段の通勤ではChromeのAVAILバックパックを背負い、週末のサイクリングにはPOTA BIKEのフロントバッグを使うことが多い。これらは自転車のカスタマイズとは言えないけれど、自転車生活の重要な要素だ。
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これも自転車につけるものではないが、サイクリングの際には良いサングラスを着用するとかなり満足感が増す。普段の街並みが立体的に見えるので、走っているだけで楽しくなる。サングラスをかけないで長時間サイクリングしていると白内障などの障害が出るので、安くてもいいからとにかくサングラスはかけた方がいい。虫やゴミが目に入るのも抑止できるし。
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ブロンプトンにはキックスタンドがないので、自立させた姿で写真を撮ることが難しい。よって、ロードバイクでよく見る「めだたんぼー」という即席キックスタンドをブロンプトン用に自作した。これはフレーム内に収納できるので、ある意味カスタムパーツとも言えるか。
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ブロンプトンの魅力の一つとしてフロントキャリアブロックに専用バッグをつけられることがよく挙げられるが、私はそれを使ったことがない。荷物を持ち歩くのであればバックパックであることが必須だが、バックパックの背中にキャリアブロック用のアタッチメントがあるとゴツゴツしそうだなとか、重くなりそうだなとか思って食わず嫌いしているだけだ。Chromeバックパックをフロントキャリアブロックにつける改造をいずれはしてみたい。

走行性能に関するカスタマイズと言えば外装多段化がよく挙げられる。スプロケットを増やして5速とか7速とかにするのだ。私もそれに興味はあるのだが、今のところ控えている。というのも、乗車時間の90%以上は52T/11Tを使っているからだ。多段化するとトップギアのチェーンラインが外側に斜めになるので、機械抵抗が増えてしまう。使う頻度が少ない軽いギアを増やすために普段使う重いギアの効率を落とすのは本末転倒だ。もちろん、ケイデンスをできるだけ一定に保つために多段化するのは理に適っているが、あんまり細かく変速するのは面倒だと思ってしまう性格なので、今のフロント2速リア2速のワイド4速運用くらいが丁度いいと思っている。そういえば、最近Pラインの12速モデルが発表されたが、誰得なんだろう。12速のトップのクランク一周9.32m推進だと、ケイデンス100rpmで55km/hの速度になるわけだが、ブロンプトンでその速度域に達する脚力がある人間がどれだけいるというのか。

多分、ブロンプトンのカスタマイズの究極は、20インチ化だと思う。小径車であることの宿命的な欠点も大径化すれば緩和できる。しかし、私はやらないだろう。だって、折り畳み寸法がでかくなったらもはやブロンプトンである意味がないし、小径車としてのアイデンティティがなくなってしまう。面白そうではあるが、それは超えてはいけない一線の向こうにある気がする。
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20インチ化とか電動化とかの急進的な手段を除けば、走行性能を向上させるカスタマイズでやるべきことはだいたいやった気がする。フレームや各種パーツをチタン等で徹底的に軽量化して4kg軽量化したとしても、乗車重量は5%くらいしか変わらない。重量は登坂では重要な要素だが、平地巡航性能やロングライドの航続距離への影響はそんなに大きくない。100Wのパワーで20km/hで走っている場合、機械抵抗が7W、路面抵抗が53W、空気抵抗が40Wくらいかかって拮抗して等速直線運動になるそうだ。各種ベアリングを全てセラミックに置き換えると機械抵抗が数%下がるだろうが、全抵抗への影響はその7%に過ぎない。タイヤをShewalbe Marathon RacerからShewalbe Oneに変えると路面抵抗が32%くらい減るそうで、そうすると同じ入力で22km/hで巡航できるという話だ。おそらくそこに金をかけるのが最もコスパが良いのだが、1本1万円なので、前後で2万円の消耗品を買うかは悩ましいところで、今のところ手がでない。空気抵抗を低減するためにはドロップハンドルを導入するのとピチピチのサイクルウェアを着るのが有効だが、ドロップハンドルをつけると折り畳みが厳しくなり、ピチピチは嫌いなので、双方とも却下だ。他にもドレスアップ的なカスタマイズは無限にやりようがあるだろうが、小汚いのがむしろ味だと思っているので、それらには手を出さない。

てことで、やりたかったカスタマイズは全てやり終えた。車でもオートバイでも自転車でもカメラでも、機材に凝る人が陥りがちなのが、カスタム燃え尽き症候群だ。機材は楽しんで活動するための手段に過ぎないが、機材を揃えるのが目的になってしまい、それが一通り揃った時点で情熱が冷めてしまうという本末転倒である。私の場合は日常の足を改良しているだけなので、情熱があろうがなかろうが乗るのを止めることはない。通勤や週末の気晴らしにほぼ毎日乗っている。むしろ仕事帰りに無駄に遠回りしてサイクリングしてしまうくらいだ。とはいえカスタマイズが一段落したのは事実で、もう消耗部品のメンテくらいしかやることがない。逆に言えば、壊れない限りは、これ以上金をかけずに自分にとって最良の状態の自転車に乗り続けられるのだから、それに越したことはない。

サイクリングのススメ

自転車には不思議な魅力がある。単にダラダラ走っているだけでも気晴らしになるし、季節の変化を肌で感じられるし、周囲の地理を把握してその変遷を見届けられる。そして、健康と美容に良く、転けなければ怪我もしにくい。日常の移動手段を車や電車から自転車に変えるだけでも、動ける紳士淑女に労せずしてなれる。自転車で最も重要なパーツはエンジンである自分の脚と心臓なのだが、自転車に乗っているだけでそれらは進化する。ここ数ヶ月でロングライドをするようになった私は25km/hで巡行してもへばらないようになったし、30km/hも10分くらいなら継続できる。25km/h出せれば、12.5km離れた場所に30分以内で到達できる計算になる。実際には道は真っ直ぐでなく信号等でつかまりもするので、都市部で平均25km/hで移動することは現実的ではないが、1時間で20km圏内に到達するくらいなら普通にできる。地図上で渋谷を中心に半径20kmの円を描くと、東京全域を覆っていることが確認できる。北は川口、南は横浜、西は府中、東は浦安まで行っても、ブロンプトンなら散歩の圏内だ。行った先で酒飲んで電車で帰ってくることもできる。

サイクリングしながらたまにする中二病的な空想がある。スプラトゥーンのローラー武器みたいな感じで、私が自転車で走った地点の半径1kmは私の領地になるというものだ。なので、なるべく同じ道は通らず知らない道を走ってみることにしている。おそらく東京23区の95%以上の面積は既に塗っているし、所沢近辺もほぼ完全網羅だろうし、川崎・横浜の主要部も網羅しているし、湘南方面もよく行くし、千葉・木更津・柏・九十九里・横須賀・三浦・鎌倉・小田原・箱根・厚木・飯能・川越・上尾・足利・羽生・筑波・土浦・大月・甲府などなどの遠出もしているので、自分の脳内では関東平野一帯は支配した構図になっている。もはや日帰りで行ける場所のネタ探しに困るようになってきた。

ロングライドするなら小径車よりロードバイクの方が良いという意見は常識的なものであり、私も異論はない。しかし、近場を散歩するつもりで走っていたらいつの間にか100km超えていたというような偶発的ロングライドは、小径車の方が発生しやすい。普段着とスニーカーで気負いなく乗り出せて、速度やケイデンスを気にせずマイペースで走れるので、結果的に走行距離が伸びる。特にトウクリップと楕円チェーンリングをつけて乗るようになってからは、頑張らなくても勝手に入力が大きくなるので、気がつくと遠くにいるということが増えた。しかもそれを何度かやっていると勝手に筋力がつくので、もっと楽に遠くに行けるようになった。結局のところ、乗る頻度と時間が多いほど能力が高まるので、気軽に乗れる車体の方が良いという見方もできる。ロードバイクの後にブロンプトンに乗ると、その気軽さと便利さが新鮮に感じるし、ブロンプトンの後にロードバイクに乗ると、その走行性能の高さが新鮮に感じる。なので、両方乗るのが最高と思う。

まとめ

可搬性、耐久性、走行性能と三拍子揃ったブロンプトンを購入して大いに活用している。走行性能に関しては「小径車にしては」という条件付きなのだが、各種のカスタマイズを施すことで改善し、「小径車なのにめっちゃ走る」というくらいには引き上げられたと思う。乗っているうちに体力も向上して、今や100km超えのロングライドも普通にできるようになった。日常の足としても旅の手段としても健康器具としても改造趣味の対象としても楽しめて、一粒で四度おいしいのがブロンプトンである。