豪鬼メモ

一瞬千撃

ブロンプトンのBB強制除去とタンゲのLN-7922への換装

締め込み過ぎて頭部が舐めて外せなくなってしまったブロンプトンのBBシェルをドリルで破壊して強制的に除去した。その上で、グリスアップしたタンゲのLN-7922を装着し、性能が向上することを確認した。

古いBBシェルを破壊

以前にブロンプトンBB(ボトムブラケット)シェルを換装したのだが、性能が改善しなかったので元に戻す作業を行ったところ、純正のBBシェルの頭を舐めてしまって、外せない状態になってしまった。

外せないだけで通常利用に問題ないので、この純正BBシェルのままで限界まで使い続けることにして、現在まで来ていた。しかし、ついにその限界が来たらしい。ヤビツ峠を走破している途中で、ペダルに違和感を感じて気付いた。左ペダルを強く踏み込むと、カクッとした振動がある。その振動源が何かすぐにはわからなかったが、振動のタイミングはペダリングのリズムと同期しているので、ペダルかクランクかチェーンリングかBBのどこかに問題があることは予想できた。

帰宅してから各部の締め付けやガタ付きを確認したところ、BBシェルの左のキャップが緩んでいるのを発見した。それを締め直して走行してみると、振動は収まった。BBシェルが原因で間違いない。しかし、数時間乗っていたら、また振動が再発した。そして、左のBBシェルがまた緩んでいる。どうやら樹脂製のネジ山がバカになっているらしく、締め直してもすぐに外れてしまうらしい。それを何度か繰り返していたら、ネジ山がほぼ完全に舐めてしまって、締め込むことすらできなくなった。このBBシェルはもうダメなので、交換するしかない。しかし、右側のネジ頭が破損している現状では、普通の工具では外せない。ということで、ついに破壊を決断した。ネジ頭がないからBBシェルを回せないのが問題なので、ドリルで穴を開けて引っかかりを2箇所作り、そこに鉄の棒を差し込んで回す作戦だ。

別件で自転車屋に行った時にこの工程ができるか聞いたら、「できるかどうかわからない」との返答だった。おそらくメニューにない作業になるので、言い値の領域になる。私だったら1万円以上はとらないと引き受けたくない作業なので、プロに頼んでもそんな感じだろう。なので、自分で機材を買ってやってみることにした。てことで、3100円の電動ドリルドライバーと1151円の金属用ドリルピットセットを調達。差し当たっては1回しか使わないので安めのもので良い。プロに頼むと1万円以上だと仮定すると5000円以下なら安いものだ。

削る場所は、シェルの縁とアクスル軸のちょうど間の2点にする。そこに、まず1.5mmのドリルで穴を掘る。深さは1cmもあれば十分だ。シェルの中身はボールベアリングであり、ボールベアリングは非常に硬い鋼鉄なので、それを穿つことは安物のドリルでは不可能だ。シェルの外郭だけを削って、十分な引っかかりができれば良い。あとは、2.5mm、4.0mm、5.0mm、6.0mmとドリルピットを変えながら穴を大きくしていく。片方の穴は5mm止まりで、もう片方の穴は6mm止まりにする。5mmの六角レンチと6mmの六角レンチを差し込むからだ。

開いた穴に2本の六角レンチを差し込み、その間にクランク回しを横に渡し針金で固定する。BBシェルの右側は逆ネジであり、緩める際に時計回り、締める際に反時計回りに回すことになる。今回は時計回りに回すので、その方向でレンチと接触するようにする。

クランク回しの両端を持って、ゆっくり回すと、あら不思議。頑固なBBシェルが回り出すではないか。後は、外れるまで回し切れば、作戦成功だ。めでたしめでたし。正直なところ、こんなにうまくいくとは意外だった。回り始めた時は、嬉しくて「おおーっ」と声が出た。


壊れかれのBBシェルが外せない状態で運用していたというのは、不発弾を抱えて生活しているようなものだ。しかもベアリングは消耗品だから、遅かれ早かれダメになるのだ。BBシェルは自転車の心臓であるから、死のウエディングリングを想起してもいた。それが、やっと、ついに、外れたのだ。めっちゃスッキリした。性能云々よりも、懸念材料が払拭されたのが嬉しい。そもそもプロに頼んでおけばこんな失敗はやらかさなかっただろうから、道具代と工数を考えると、ある程度以上複雑な整備はプロに頼んだ方が明らかに良いと思う。そのためにプロショップは存在するのだ。とはいえ、プラモやジオラマのように、組み立てたり改造したり修理したりすること自体を趣味として楽しむのなら、できる範囲は自分でやるのもありかな。

ところで、BBシェルの右側が逆ネジなのは直感に反する。クランクは右側では時計回りに回転するので、時計回りで緩む逆ネジだとペダルを漕いでいるうちに緩んでしまうのではないかと思うのだ。しかし、実際には反時計回りのスリコギ運動で締まる方向に力が働くらしい。アクスル軸の回転でBBシェルにかかる右回転の摩擦はベアリングのおかげで非常に小さい一方、BBシェルが荷重で傾くことによって起こるすりこぎ運動により、軸だけが時計回りに歳差運動する結果として外周は反時計周りの方向に摩擦される。左ペダルのボルトが逆ネジなのも同じ理由らしい。ネジの方向を間違えると悲劇が起こりうるので、このあたりの理屈を知っておくのは大事だ。

新たなBBシェル

さて、代わりのBBシェルは以前付けたがイマイチだったのでお蔵入りになっていたタンゲ精機のLN-7922しか持っていない。各所のレビューでは評判がいい製品なんだけど、オクで入手した私の個体は純正より回りが悪いのが残念だ。とはいえ他にないので、とりあえずそれを装着した。

今までの反省を活かして、強く締め込みすぎないように注意した。というか、ペダルやBBシェルなどの正ネジ逆ネジの区別がある部品の締め付けトルクは非常に弱くても大丈夫だ。なぜなら、利用している間に勝手に締め付けモーメントがかかるようにネジ方向が調整されているからだ。つまり、使っているうちに勝手に締まり、自然に緩むことはない。よって、取り付け時には隙間に水が入らない程度に軽く締めておけば良い。

黒で統一した車体なので、明るい銀のBBシェルはちょっと似合わない感じがする。離れて自転車を眺める限りはBBシェルはほとんど見えないのだが、乗っている自分にはよく見える。なので、そのうち黒に塗ってしまおう。

軸長が純正の119mmから118mmに減ると、フロントダブル化したインナーチェーンリングがチェーンステイに干渉する問題が懸念された。しかし、全くの杞憂であった。純正BBでインナーチェーンリングがギリギリだったのは、BBを締め込みすぎてシャフト軸が2mmほど通常より内側に入っていたからだ。また、純正はシェル長68mm、右テーパー長が25cm、左テーパー長が26cmの構成であり、タンゲやその他の118mmのBBシェルは左テーパー長が25mmなだけで、他は同じ寸法だ。つまり純正BBとタンゲBBは右テーパー長が同じなので、軸長が短くなった影響はチェーンリングのクリアランスには及ばない。

以前、締め込みすぎた純正BBをつけた状態でQ-factorとスタンス幅の左右差を計測したところ、左側の方が10mmも長いという結果になっていた。今回、タンゲのBBをつけて同じ計測をしたところ、左右差は完全になくなった。クランク間(左右のペダル軸の根本の間隔)の距離であるQ-factorは164mmであり、左端からの距離は82mmであり、右端からの距離も82mmであった。完璧だ。純正のBBシェルの軸長は純正のクランクを念頭において119mmなのであって、社外品のクランクを使うならむしろ一般的な軸長118mmのBBシェルを選ぶ方がいいらしい。

以前、純正BBでQ-factorを計測したした時は157mmという結果だったが、それは締め込み過ぎによる誤差を含んだものだった。今回割とまともに計測しなおした164mmという結果の方が信用できる。で、この値はロードバイクの146mmよりもかなり大きいのだが、私は多少スタンス幅が広い方が好きなので、このまま運用する。というか、Q-factorを狭くするにはBBの軸長を短くするしかないのだが、フロントダブル化した今ではそれは不可能だ。

チェーンラインについても確認した。フロントのインナーチェーンリング(1速)の距離は車体中心から43mmで、アウターチェーンリング(2速)の距離は車体中心から50mmだ。リアのインナースプロケット(1速)は45mmで、リアのアウタースプロケット(2速)は49mmだ。つまるところ、ほぼ理想的なチェーンラインになっていて、これ以上改善する余地がない。社外品のパーツを適当につけているのに、こんなにも都合よく配置されるとは驚きだ。

グリスアップ

中古で買ったタンゲのBBでも普通に走れるし、変な振動がなくなっただけで幸せでもあるのだが、純正より明らかに回らないとわかっていながら使い続けるのはちょっと寂しいものがある。新しいものを買おうとも思ってトーケンのTK866CMあたりを検討もした。しかし、少し冷静になって考え直した。BBシェルってのは二つのボールベアリングの真ん中に軸を通しただけの製品であり、その回転性能はボールベアリングの性能によって決まる。そして、ボールベアリングの性能は、まともなメーカーの製品同士を比較する限りは、そんなに変わらないはずだ。なぜなら、ボールや軌道輪の精度が一定以上であれば、その抵抗は十分に低くなり、中に封入するグリスの抵抗の方が支配的になるからだ。よって、双方とも定評のあるタンゲとトーケンで性能に体感できる差が出るとは思えない。セラミックベアリングなら摩耗しにくいからグリスの量が減らせて抵抗がより低くなるらしいが、16000円とかするのでちょっと手が出ない。というか、たかだか120RPMくらいでしか回転せず、たかだか100kg重程度の荷重しかかからないのがBBシェルのベアリングである。超高性能なものにしたところで、おそらく差が体感できないと思う。BBシェルに金かけるなら、タイヤやハブに金かけた方がいい。

とはいえ、現有のタンゲのBBシェルLN-7922が純正のBBシェルより回転が悪いというのは事実だ。手で回すとゴリゴリするのだ。では何が悪いかと言えば、おそらく内部のグリスが劣化するか枯渇しているかだろう。メルカリで買ったのだが、買った時からゴリゴリだった。出品者が書いた説明には、走行距離は100km程度とか書いてあったのだが、乗ってはいなくても古いものである可能性はある。ボールや軌道輪には損傷がないのであれば、グリスの劣化や枯渇が怪しいことになる。なので、グリスアップすれば復活するかもしれないと考えた。グリスアップは初めての作業になるが、臆せずやってみた。

グリスアップするにはベアリングを露出させねばならないのだが、そのためにはBBシェルのキャップを外す必要がある。モンキーレンチをキャップの縁にひっかけた状態でそのモンキーレンチをハンマーで叩くとキャップが外せる。その際に、キャップの縁だけにモンキーレンチを引っ掛けて、ネジの溝を傷つけないようにするのが大事だ。

シャフト軸からボールベアリングを外すのも同様にモンキーレンチでできるのだが、今回は外さずに作業した。露出したボールベアリングのシールをカッターの歯先やら精密ドライバーのマイナスの歯先やらでこじ開けて、中のボールベアリングを露出させる。その状態でパーツクリーナーを大量に吹きかけて、使い古しの歯ブラシで適当に磨く。本来であれば露出していない裏側も同様に処理すべきなのだが、パーツクリーナーを吹きかけて適当に回していると裏側のグリスも溶けるので、今回はそれで良しとした。だいたい掃除したら、エタノールをかけてパーツクリーナー自体を洗い流す。

エタノールはすぐ乾く。乾いた状態でシャフト軸をまわすと、めっちゃよく回る。全く潤滑剤をつけていないハンドスピナーのベアリングが非常によく回るように、潤滑剤をつけていないBBシェルも非常によく回る。乾いた状態でよく回るならば、ボールと軌道輪の性能は問題ないということだ。しかし、潤滑剤をつけていない鋼鉄はゴムより早く摩耗するので、あんまり回しちゃ駄目だ。遊ぶのはほどほどにして、グリスを封入する作業をする。シマノのプレミアムグリスを露出面にだけたっぷりと塗って、外したシールを再び装着する。グリスの充填率は40%から50%くらいがいいらしいが、露出面だけに塗って裏側には塗らないことで、それが自然に達成される。

あとは、シールを元に戻して、キャップを被せて、その上にモンキーレンチを当てがってからモンキーレンチをハンマーで叩けば、元のBBシェルの姿に戻る。これで完成だ。グリスを封入した途端、抵抗が圧倒的に増えて回りが悪くなる。グリスを入れなければ最高に回るBBシェルになるわけだが、それは早晩劣化してしまうだろう。グリスの代わりにチェーンオイルを入れることも考えられるが、オイルだと数日で流れてしまうのでかなり頻繁に入れ直さねばならず、現実的じゃない。よって、グリスは入れざるを得ない。ベアリングの品質が一定以上であれば、むしろグリスの種類が性能に影響を強く与えるような気もするが、それについてはいずれ考えよう。

性能測定

グリスを封入した直後は十全な性能が出ない。なので、20kmほど試走してから性能測定することにした。そうすることで、グリスが空間内に満遍なく行き渡ると同時に、グリスが存在する状態で最もよく回るように稼動部品の位置が定まるそうな。「馴染む」「当たりが出る」なんて言う表現をすることもあるが、言っていることは同じだろう。

その後、以前にやったように、クランクを空回しさせて何秒で止まるかのテストをした。チェーンを外して、クランクにペダルをつけた状態で、クランクを全力で回す。それが止まるまでの時間を測った。チェーンリングは以前の条件と同じになるようにシングル状態にした。6回ずつ試行して平均をとった。以前の結果と今回の結果を表にする。

1 2 3 4 5 6 平均
純正 23.10 23.49 23.84 24.26 25.56 25.11 24.22
LN-7922(グリスアップ前) 20.84 22.12 21.18 20.97 21.00 22.11 21.37
LN-7922(グリスアップ後) 35.09 31.67 31.69 31.85 30.62 33.96 32.48

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てことで、グリスアップしたタンゲLN-7922の性能は目に見えて向上した。トーケンのハイエンドのBBシェルであるTK877TBTで同じようにクランクを空回しする動画がYoutubeにいくつかあるが、LN-7922と円滑さはそんなに変わらないように見える。
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以前の評価でLN-7922がイマイチだったのは、グリスの問題だったと言えそうだ。製品に瑕疵があったわけではないし、私の測定に瑕疵があったわけでもないし、前の所有者の利用法に瑕疵があったわけでもないだろう。ベアリングの内部のグリスは経年劣化するというだけの話で、それが回転性能に多大な影響を及ぼすということだ。以前の評価ではタンゲ製品に汚名を被せてしまった感はあるので、今回の評価にてそれを晴らせたのは良かった。純正BBシェルもグリスアップすれば同じような性能回復が見られたのかもしれないが、破壊してしまったので試せない。

グリスアップで復活したタンゲBBシェルを装着して、都内の幹線道路やら多摩川サイクリングロードやらを走り回ってきた。ペダリングがほんの少し軽くなったような気もするし、実際に軽くなっているはずなのだが、正直言って確信はない。BBの抵抗なんてチェーンやスプロケやハブの抵抗に比べれば微々たるものだし、その機械抵抗全体も路面抵抗や空気抵抗に比べれば微々たるものなのだ。よって、まともなBB同士を弁別するのは難しいし、グリスアップの前後を弁別するのも難しい。普通に走っていてBBシェルの抵抗の差を弁別できるとしたら、非常に状態の悪いBBシェルからまともなBBシェルに変えた時くらいのものだろう。なので、BBシェルを変えたことで「ギア1枚分軽くなった」とか言っているレビューの多くはプラセボ効果ではないかと思っている。

乗車時に体感できるほどの違いではないとはいえ、実際に機械抵抗が減っていることは間違いないところだ。ローラー台で入力を管理しながら一定距離を走行して時間を測れば、0.1%とかであっても有意な差が出るはずだ。なので、グリスアップはして良かった。一方で、グリスアップによる違いが乗車時に弁別できなかったということは、セラミックベアリングのハイエンド製品を買ったとしても私は弁別できない可能性が高いことを示唆しているし、素人レベルでは時間を測定しても優位な差が出ないかもしれない。なので、差し当たってはグリスアップしたタンゲで満足して暮らすべきであろう。

機械抵抗を考えるのであれば、より回転数が高い前後車輪のハブのグリスアップもした方が良さそうな気もする。ペダル、チェーンリング、BB、チェーン、スプロケット、テンショナーブーリー、ディレイラープーリー、後輪ハブ、前輪ハブが自転車の機械抵抗のほぼ全てだ。ペダルは回転に定評のあるMKSで、BBのグリスアップは今回やって、チェーンの油差しは毎回のロングライドの前にやって、チェーンリングとスプロケットとプーリーはチェーンの油で潤滑されるので、残るは車輪のハブだけだ。これは8年間何もしていない。ただ、車輪を手で回してみると普通に回るので、むしろ余計なことをしない方がいいような気もしていて、悩ましいところだ。ベルハンマーのグリスが評判良さげなので使ってみたい気もする。

ふと気づいたのだが、MKSのペダルのベアリングがBBシェルのベアリングよりもずっとよく回っている。BBシェルとペダルの要求仕様(荷重や耐久性や回転数)はほぼ同じであるにもかかわらずだ。だったら、もうMKSがBBシェル作れば最強なんじゃないかな。単なる妄想だが。

まとめ

締め込みすぎてキャップが破損して外せなくなってしまっていたブロンプトンの純正BBシェルを、ドリルと六角レンチを使ってなんとか外すことに成功した。代わりにタンゲのLN-7922の軸長118mmの製品を導入して、Q-factorやチェーンラインが理想的になることを確認した。回転が悪かった問題は、グリスアップすることで解決できた。BBシェルが換装できないという懸念が解消されただけでも喜ばしいが、性能も多少上がったっぽいのが気分的には嬉しい。ただし、つぶさに体感できるほどの差ではないというのが正直なところだ。