豪鬼メモ

一瞬千撃

ブロンプトンにO.Symetricの楕円スプロケットを導入

ブロンプトンにO.Symetricの楕円スプロケットを導入した。Stoneの楕円スプロケットよりもさらにメリハリのある乗り味になった。元の真円スプロケットに比べて、ケイデンスが自然に上がり、平地巡行時に力強く進むようになった。

購入

Stone社の楕円スプロケット(楕円チェーンリング)を導入した話を前回の記事で書いた。丁数を54Tから50Tに落としたのと、形を楕円にしたのの効果が合わさって、登坂やストップ&ゴーが楽になり、かなり好みの乗り味になった。それに味をしめた私は、もっと楕円っぽい乗り味を体験したくなった。となると楕円率が高い製品を探すことになるのだが、Osymetric社のO.SymetricとRotor社のQ-XLがそれっぽかった。

試すだけなら中古で十分だと思ってメルカリやヤフオクを見ていたところ、O.SymetricのBCD-130対応の52Tが5000円即決で出品されていたので、衝動的にポチってしまった。定価22000円なので、だいぶお得な気がする。届いた製品がこちらである。ちょっと見た目はボロいが、きちんと機能すれば問題ない。

余談。「sprocket」は「歯車」という意味の英単語だが、自転車業界では「スプロケット」は主にリアスプロケット(ドリブンスプロケット)のことを指すらしく、フロントスプロケット(ドライブスプロケット)のことは「チェーンリング」(chainring)と呼ぶらしい。英語でも日本語でも同じ傾向だ。チェーンを絡ませるリングであることはフロントでもリアでも同じだし、歯車なのもの同じなので、なんでそんな呼び分けになるのか解せない。前と後を区別せずに歯車を意味したい場合は、「コグ」(cog)と呼ぶことが多いっぽい。本稿ではフロントスプロケットのことも単にスプロケットと呼ぶが、いわゆるチェーンリングのことだと読み替えてほしい。さらに余談だが、「対称的な」という意味の英単語は「symmetric」だが、「O.Symetric」のmは1個だけなので、検索等の際には注意だ。

さて、前回のおさらいだが、既に持っているStoneの楕円50Tとデフォルトの真円54Tを並べると、長径は若干短く、短径は大幅に短くなっている。よって、踏み込み時のトルクは若干小さくなり、踏み込み終わってから次の踏み込みの間の足運びはかなり軽くなるものだと判断できる。実際に乗ってみてもそうだった。楕円率がだいたい同じRotorのQ-Ringsなどでも、50Tであればほぼ同じことが言えるだろう。

今回のO.Symetricの楕円52Tとデフォルトの真円54Tを並べると、長径は若干長く、短径は大幅に短くなっている。つまり、踏み込み時のトルクは若干大きくなり、踏み込み終わってから次の踏み込みまでの間の足運びはかなり軽くなるはずだ。

Osymetric社もRotor社もツールドフランス等に出るプロ選手とスポンサー契約をしていて、実際に楕円スプロケットをつけた選手が優勝しているので、それなりの品質と科学的根拠はありそうだ。だからって一般人が使って益があるかどうかはわからないし、ましてやブロンプトンのような街乗り小径車につけて益があるかどうかもわからない。なので、仕様を考察して自分にとっての効能を考えてみたい。

仕様の考察

Stoneの楕円率は1.1(扁平率は1-1/1.1=0.1)なので、真円と似たように漕いでもそんなに違和感がなかった。逆に言えば、楕円ならではの特性は薄い。一方、O.Symetricは非円形ではあるが厳密には楕円ではなく、角丸長方形を想起させる形になっている。便宜上、最も中心から離れた縁の距離を長径とみなし、最も中心に近い縁の距離を短径とみなそう。長径は57T相当で、短径は47T相当だそうな。これらの数値を仮想歯数と呼ぶらしい。そこから計算した仮想的な楕円率は1.215(扁平率は1-1/1.215=0.175)となり、かなりメリハリのある形になっていることが確認できる。長さを実測したところ、最長径は235mmで、最短径は192mmだった。そこから計算した楕円率は1.223なので、だいたい仕様と合っている。

O.Symetricの商品説明によると、乗り手がどのくらいの力を提供できるかをクランク位置毎に調べた上で、それを実際の形状に落とし込んでいるそうな。その乗り手が誰なのかはわからないが、おそらく何人かの有能なロードバイク乗りの平均値なのだろう。Stone、Ridea、Rotorなどの他社の製品ではクランク角が4時前くらいの位置で真上に長径が来るので、それらに比べるとO.Symetricが3時に見えるのは興味深い。最大径は117°(3時54分)の位置だが、最大径の95%以上の径の領域の中心は3時くらいだ。O.Symetricの形状は点対象ではあるが線対象ではない。2時から4時までが最大径近くになっているのが特徴的だ。また、1時から2時までの間はゆっくりと径が大きくなっていく感じだが、4時から5時までの間は急激に径が小さくなっていく感じだ。つまり、1時からクレシェンド的に徐々にトルクをかけて、2時から4時までフォルテを維持して、4時半を過ぎたらフォルテピアノ的に速やかに脱力するのが期待されているっぽい。

O.Symetricは楕円率が大きいだけでなく、脱力を結構早めに行う設定になっているのが、他社の製品と大きく違う点だ。普通に4時に重さのピークがある楕円形だと、5時はまだパワーゾーンの範疇だ。一方、O.Symetricでは5時はもうデッドゾーンだ。5時半付近でもう最短径になる。そうなると、実際の人間が5時の位置で効率的な入力ができるかが気になるところだ。この記事を読むに、中野浩一クラスの熟練者になると5時(150°)でもそれなりの入力ができるが、未熟者は波形がもっと前にずれて、5時ではうまく入力できないらしい。確かに、パワーメーターやらペダリングモニターやらの記録を公開している一般人の結果を見る限り、5時の位置のベクトルは大きい割に法線方向の成分が強くて、あんまり有効な入力ができていないことが多い。しかし、O.Symetricの主要ユーザは熟練者だろうし、世界一の選手だって使うわけだから、5時はまだパワーゾーンで良いのではとも思う。とはいえ、きっとそんな単純な話ではないのだろう。トラック競技とロードレースの違いとか、平地とヒルクライムの違いとかの諸条件も勘案すると、O.Symetricの結論に至るのかもしれない。いずれにせよ、私のような未熟者が使うのであれば、パワーゾーンの中心が3時にあるのは望ましい気がする。力をかける方向に融通が利かないフラットペダルを使うから尚更だ。

ふと気になるのは、極小抵抗で等速運行をしていると仮定すると、真円スプロケットの角速度は常に一定なのに、非真円スプロケットだと1回転のうちに角速度の変動があることだ。ただ、実際には路面抵抗や空気抵抗による減速とそれに対抗する加速を繰り返すので、真円でも非真円でも角速度の変動は避けられない。というより、O.Symetricは実際に起こる角速度の変動を緩和する形状になっている。踏み込みのトルクによってパワーゾーンでは角速度は上昇を続け、パワーゾーンの末端付近で最高速に達するだろう。角速度の増加に応じて径を増やして多くの仕事をさせれば、角速度の変動を緩和することができる。これを踏まえると、O.Symetricでパワーゾーンの中心が3時でありながら最長径がパワーゾーンの末端近くにあるにあるのは合理的に思える。デッドゾーンに入るとトルクが乏しくなるために、抵抗が勝って角速度は下降を続け、下死点付近で最低速に達するだろう。なぜデッドゾーンの末端で最低速にならないかというと、デッドゾーン前半の方が角速度が大きいので仕事がしづらく、逆側のクランクでは上死点付近でトルクがかかり始めるからだ。これを踏まえると、O.Symetricで最短径が最長径の直交ではなく死点の直前になっているのも合理的に思える。いいじゃんO.Symetric。人間工学的に考えると、むしろ単純な楕円が最善だとみなす根拠がないし、もっと言えば真円が最善だとみなす根拠もない。

生体力学的シミュレーションの結果を記したこの論文によると、同じ関節の動かし方をした場合にO.Symetricは真円に比べて2.5%の増力ができるそうな。また、RotorのQ-Ringsも効果はあるが楕円率が小さ過ぎるので0.2%の増力に留まるらしい。さらに面白いのは、3時半付近をパワーゾーンの中心にした楕円率1.55の単純な俵形(hull)の増力がO.Symetricを凌駕した3.3%になっていることだ。楕円率1.55にしてしまうとディレイラーがまともに動かないから実用できないだろうと書いてあったけれども、シングルフロントなら問題ないわけで、いつかそういう製品が出てきても良さそうなものだ。とはいえ、楕円率が低いほど製品化しやすいのは間違いないだろうから、O.Symetricが楕円率1.215でそこそこの増力を示しているのは評価すべき点だろう。パワーゾーンの中心は3時がいいのか4時がいいのかは結局よくわからないが、O.Symetricの形状に一定の合理性はあるらしい。2.5%とか3.3%ってのは競技者には無視できない効果なので、それが実運用で観測できるなら、大手メーカーがこぞって非円形スプロケットを製品化しそうなものだ。しかし、実際にはそうなっていないので、実運用においては各種の落とし穴があるのだろう。

それはさておき、楕円スプロケットに関する各所のレビューを見ると、2.5%程度の効率の差を弁別しているとは思えないような感想が多い。巡航速度が3km/h上がったとか、ケイデンスが15rpm上がったとか、タイムが8%短縮できたとか。私とて、「楽に速く走れる気がする」といった主観評価を恥ずかしげもなく書いている。ブラインドテストをしていない限り、プラセボ効果ホーソン効果からは逃れられないが、必ずしもそれだけではないだろう。人間の適応能力は存外高いので、刺激が違えば筋肉の反応もがらっと変わり、2.5%どころでない違いが出たとしても不思議ではない。と同時に、真円スプロケットに既に適応能力を発揮しているのだから、それが楕円になったところで大して結果は変わらないのかもしれない。ともかく、楕円スプロケットを使うことであまりに顕著に走行性能が上がったというレビューを見たなら、言及されていない前提条件やトレードオフがあると考えるのが自然だ。走行性能が上がった代わりに筋力を余計に使って疲労が大きくなっているとかだ。うまい話なんてそうそうないのだ。そう思うのになぜ楕円スプロケットを買ったかというと、ペダリング効率の向上以外にも有益性があると思ったからだ。ギアの段数が少なかったり状況が刻々と変化したりといった理由でケイデンスの制御がしづらい状況がそれに当たる。

私のブロンプトンは外装2段モデルで、デフォルトではフロント54T、リアは16Tと12Tの2段の構成だ。つまり減速比は1速だと3.375、2速だと4.5だ。減速比と言いながら増速しているが、なぜか増速比とは呼ばない。タイヤの外周を1.340mと仮定すると、1速はペダル1回転で4.52m、2速はペダル1回転で6.0m進むことになる。簡単のために、以後は2速の場合のみを検討し、タイヤの外周は気にせずに減速比だけで考える。フロントを52Tに換装すると、減速比はデフォルトの4.5から4.33に落ちる。つまり、若干軽くなる計算になる。しかし、楕円スプロケットの実用性を考える場合、全周の歯数ではなく、パワーゾーンの平均仮想歯数に注目すべきだ。O.Symetricの楕円52Tの最大仮想歯数は57Tだが、最大の部分はごく一部に過ぎないので、パワーゾーンの平均仮想歯数56Tに注目する。パワーゾーンにおいては、減速比は4.66相当になるので、デフォルトの4.5に比べて重くなると感じるはずだ。デッドゾーンの平均仮想歯数は48Tなので、減速比4.0相当の軽さになるはずだが、それは軽さというより、ペダルをパワーゾーンに戻すまでのリカバリータイムの短さとして感じられるだろう。言い換えると、O.Symetricの楕円52Tに換装すると、デフォルトでは54Tの重さだったトルク感が56Tの重さに増しつつ、そのトルク感の勢いで全周を回せば、全周平均して52T並のケイデンスになる。結果として馬力は1.07倍になるが、当然ながら1.07倍の仕事をしているので1.07倍疲労するという代償がある。界王拳みたいなものだ。この計算にペダリング効率は考慮されていないのだ。もしペダリング効率が2.5%上がるならば、疲労が1.05倍で済むことにはなるが、それは人と場合によるとしか言いようがない。楕円率1.215だけから考えると、内装3段モデルの2速と3速の比率と同じくらいなので、クランク半回転毎にそれらを切り替えながら走っているような奇妙な乗り味になる。ペダリング効率が上がるかどうかはわからないが、新鮮な感覚が味わえることは間違いない。

楕円スプロケットが得意とされるのが登坂性能である。登坂の際には、ペダルがデッドゾーンにある間の減速が登坂抵抗によって大きくなるので、それを埋め合わせるためにパワーゾーンで大きく加速しなければならない。結果としてペダル半回転の間での速度差が大きくなり、それに伴って路面抵抗や機械損失が大きくなり、また体への負荷も大きくなる。楕円スプロケットをうまく使うと、パワーゾーンの滞在時間が長くなって加速しやすくなり、デッドゾーンの滞在時間が短くなって減速しにくくなる。パワーゾーンの仮想歯数が同じなら、楕円によってデッドゾーンの仮想歯数が少なくなる方が登坂性能は上がる。デッドゾーンの仮想歯数が同じなら、楕円によってパワーゾーンの仮想歯数が増えると登坂性能は下がる。ギアを軽くしてケイデンスを上げることでも速度差を小さくすることができるが、いかんせん私のブロンプトンは2段しかない。減速比3.375の1速で頑張るしかなく、おいそれとケイデンスは上げられない。デフォルトの真円54Tと比べると、O.Symetricはパワーゾーンの仮想歯数56Tは増えていて、デッドゾーンの仮想歯数48Tは減っているので、登坂性能はだいたい同じくらいだと思う。Stoneの楕円50Tと比べると、パワーゾーンの仮想歯数は増えていて、デッドゾーンの仮想歯数は同じなので、登坂性能は明らかに悪化している。

真円54TとStoneの楕円50TとO.Symetricの楕円52Tの減速比を表にしてみた。リアスプロケットは2速の12Tとする。「パワー運行率」とは、パワーゾーンのトルク感に合わせて全周を回し切ってケイデンスを上げた場合の仕事量の比率である。

全周減速比 パワーゾーン減速比 デッドゾーン減速比 パワー運行率 楕円率
真円54T 4.50 4.50 4.50 1.00 1.00
Stoneの楕円50T 4.16 4.33 4.00 1.04 1.10
O.Symetricの楕円52T 4.33 4.66 4.00 1.07 1.21

繰り返しになるが、多くの素人レビューではこのパワー運行率の増加を感じて、平地巡行が速くなったと書いているように思う。増加した馬力の分だけ体力を使って疲労しているはずなのだが、楽しくなっちゃってそのことに気づかないのだろう。また、パワー運行でケイデンスが上げられる限りにおいて、デッドゾーンでの減速による速度変化が低減されることを感じて、登坂性能も良くなったと書いているように思う。楕円スプロケットは、「熟練者がペダリング効率を0.2%なり2.5%なり上げるかもしれない装置」という側面がありつつ、「一般人が図らずして4%なり7%なり頑張ってしまう装置」という側面もある。むしろ後者の方が支配的なんじゃないかと私は思う。ただし、元来ペダリング効率が良くなかった人達や、フラットペダルを使っている人達にとっては、ペダリング効率を向上させる効果もそれなりにあるのではないかと期待もしている。それを踏まえた上で、自分の好みに合う減速比の製品を選択すべきだ。この表を見ると、Stoneの楕円50Tは「街乗り・登坂・貧脚」に寄せた設定であり、O.Symetricの楕円52Tは、「遠乗り・平地巡行・剛脚」に寄せた設定であることがわかる。両方手に入れたなら、行き先や気分によって使い分けるのが吉だ。

取り付け

取り付け方法は前回の記事で述べたのと同じだ。長径を真上にした時にクランクが3時くらいになるように取り付ければ良い。O.Symetricは角度の微調整ができないので、取り付け角度に悩むことはない。ロードバイクのようにフロントスプロケットが複数ある車種の場合、O.Symetricのような楕円率だとフロントディレイラーの調整をきちんとしないとチェーン落ちの心配がある。しかし、我らがブロンプトンにそんなものはないので、ただフロントスプロケットをつければ良い。前後スプロケットの全体の丁数が大きく変わらなければ、チェーンを変更する必要もない。

デフォルトの真円54Tに比べると最大仮想歯数の57Tは大きいので、長径に相当する部分の歯は以前より突出する。そのクリアランスについて考えなければならない。走行用に車体を広げている状態ではかなり大きくなっても問題ないのだが、携行用に車体を折り畳んだ際に問題が発生する可能性がある。折り畳んだ前輪を車体に固定するためのフックが、フロントスプロケットと干渉するかもしれない。右ペダルを収納位置に下げるとフロントスプロケット長径の角度がちょうどフックの位置に来るからだ。これは本当にギリギリなので、組み立ての精度や取り付け後の歪みなどで干渉するかしないかが変わるだろう。もし干渉した場合、フックを無理やり前にずらすか、別のフックに取り替えることが必要になる。私はフックが少し後ろにずれていて干渉したのだが、ずれを戻したらなんとかなった。

折り畳み状態ではフロントスプロケットは車体の後部に位置する。右ペダルを収納位置に下げた状態では、フロントスプロケットの楕円の長径の位置が最後尾に来るので、真円54Tよりも若干後ろに張り出す形になる。

真円54Tの時からそのリスクはあったのだが、持ち運びの際にフロントスプロケットが後ろに張り出すと、持ち運びの際にチェーンが手足や衣服や輪行袋に触れやすくなる。特に、輪行袋をかけずにサドルを握って車体を持ち運んでいる時に、持ち手の左右を入れ替える時が危険だ。車体を体の前に持っていって持ち手を左右の手の間で受け渡すわけだが、その際に張り出したスプロケットがズボンに当たる可能性がかなり高い。おかげで私のズボンはいつも真っ黒けだ。手を汚さずにスプロケットの後ろだけを覆えるカバーを発明したいと思っている。

ブロンプトンに58Tのフロントスプロケットをつけている人がいることは知っていたのでクリアランスの問題は何とかなるとは思っていた。しかし、確認したわけではなかったので、冷や汗ものだった。58Tを超える真円スプロケットや最大仮想歯数が58Tを超える楕円スプロケットをつける場合は、折り畳み時のクリアランスに問題が発生すると覚えておこう。

実際の乗り心地

実際に乗り出してすぐに思ったのは、Stoneの楕円50Tよりも踏み込みが明らかに重いということだ。Stoneの楕円50Tのパワーゾーンは52T相当なのに対して、O.Symetricの楕円52Tのパワーゾーンは56T相当もあるわけで、重く感じるのも当然だ。重い分、加速感はいまいちだ。ただし、荷重と抜重で漕ぐのを意識すると、いい感じに速度が出せるようになった。力一杯回すのではなく、1時あたりから前方に荷重を始めて、2時くらいから脚の重みだけで回して、4時過ぎたらもう抜重を始めて、5時には後方に引き足になっているイメージ。ややこしいようだが、サドルを適正な高さ(気持ち高め)にした上で力を抜いて漕げば自然にそうなるっぽい。

平地巡行はStoneの楕円50Tよりもやりやすくなった。ケイデンス70rpmだと、50Tでは22.3km/h出るが、52Tなら23.19km/h出ることになる。もちろん、重いギアで同じケイデンスを出すにはより多くの入力が必要になるのだが、踏み込み(というか置き足)と引き足のタイミングだけ意識してゆっくり漕いでいくと、勝手に高いケイデンスに到達する。面白いことに、あんまり力を入れないで漕いだ方がケイデンスが上がるのだ。結果として、楽に早く巡行できるようになった。

頑張ってケイデンスを上げると、最高速度も上がる。ブロンプトンでも、滑らかな舗装路で無風であれば、30秒間くらいなら40km/h出して走れる。私も含めて多くのカジュアルサイクリストは、ケイデンスが100rpmとかに高まると、踏み込みが軽くなりすぎてそれ以上パワーが出せなくなるのが普通だろう。楕円率が高いO.Symetricを使うと、ケイデンスの割には踏み応えがあるので、ケイデンスが上がってもテンポ良く入力していけばそれなりのトルクが出せる。とはいえ、私とブロンプトンの組み合わせだと、筋力とペダリングスキルの限界でそれ以上の速度は厳しいし、心肺能力の限界で30秒以上やると死にそうになる。

一方で、ギアが重くなったので、街乗りのストップ&ゴーでの加速感は鈍った。走り出しですぐ力を入れて漕ぐと疲れるので、ゆっくりまったり加速するのが良い。とはいえ、デッドゾーンの重さはStoneの48T相当と同じなので、2速でも動き出しの引っ掛かり感はない。言い換えると、たとえ上死点から踏み出したとしても、止まっている状態から倒れない程度の速度に加速するまでは軽いので、落ち着いて行動する限りは、街中でずっと2速のままでもストレスなく行動できる。走り出してからペダル3回転まではゆっくり走ろうという意識でいると、楕円のケイデンス上昇の効果で、その3回転が思ったより早く済んでしまい、なおかつ思ったより速度が上がっているのに驚く。一気に踏んでもグイッとは進まないんだけど、じわっと踏み重ねるとヌヌヌーって進むのが気持ち良い。同じことを1速でやれば、信号ダッシュでロード乗りを抜くこともできる。後で追いつかれると気まずいのでやらないが。

登坂もしてみた。デフォルトの真円54TをStoneの楕円50Tに変えた時には、登坂がやりやすくなって嬉しかったものだが、さらに楕円率の高いO.Symetricの楕円52Tに変えたらどうなるのか。目黒雅叙園と目黒駅の間にある勾配20%の行人坂を登ってみた。1速のシッティングでなんとか登り切れたが、結構疲れた。楕円だと踏み込み始めの引っ掛かり感は低減するので、シッティングで登れる範囲はStoneの楕円50TとO.Symetricの楕円52Tでそんなに変わらないと思う。

高輪にある最大勾配29%のまぼろし坂に再挑戦。1速のダンシングでなんとか登れた。しかし、Stoneの楕円52Tで登った時よりも明らかにきつく、坂の最後の最大勾配部分は死力を尽くして全身で踏み込まないと止まってしまう感じだった。結局のところ、ダンシングでの最大登坂能力はパワーゾーンの仮想歯数の少なさで決まるが、Stoneの仮想歯数52T相当に比べるとO.Symetricの仮想歯数56Tは明らかに重すぎるわけで、登坂能力が落ちるのは当然だ。

一方で、勾配5%とかの普通の坂は、O.Symetricの楕円52Tでもスイスイ登れる。ケイデンスが下がりそうならば早めに1速に変えてグルグル回した方がいい。楕円だと踏み応えがあるので、敢えて重いギアを使って休むダンシングをしてもいい。前のめりで立ち漕ぎしながら、荷重をハンドルとペダルで分かち合いつつ、踏み下ろす足と同じ側の腰を入れるというのがコツだと認識している。前荷重を意識して尻を前に出しすぎると窮屈になるので、重心がペダルの1時くらいの位置の直上に来るように意識する。ところで、休むダンシングって、昔の日本人がやっていたという説のあるナンバ歩きに似ていると思う。動かす足と同じ側の腰を入れると、大腿骨の上方に腰の寛骨が位置するので、股関節を稼働させる力が少なくて済む。重力による荷重を効率的にするためには荷重する方の足とは逆方向に車体を倒してバランスを取ることになるが、それをするためにはハンドルを踏み込む足の方向に若干だけ切る逆操舵が必要になる。オートバイのプッシングリーンと同じ理屈だが、倒したい側のハンドルを押すのではなく、その逆の起こしたい側、すなわち踏み込む足の側のハンドルを引くことで、舵角を作る。つまり、右足に荷重する、右腰を入れる、右手を引き付ける、というのを同時にやり、今度は左側で逆のことをやるというのを繰り返すことになる。そんなことを考えながら乗っていると、長めの坂も意外に楽しい。

多摩川沿いでスラローム走行もしてみた。Stoneの楕円50Tではスラロームが感動的にやりやすくなったが、O.Symetricの楕円52Tではその良さはほぼ失われて、真円54Tと同じくらいに戻った。スラローム中に踏み込む前にはカーブ内側のペダルを0時過ぎの位置にしておくのだが、それは車体を傾けた時にペダルが地面を擦らないようにするためだ。カーブの頂点を過ぎたらペダルを踏み込んで、加速によって車体を立て直す。この操作を脱出前加速と呼ぼう。車体が垂直になってからも連続的に加速を続け、次のカーブで必要十分な速度に達する。これを脱出後加速と呼ぼう。

デフォルトの真円54Tの場合、脱出前加速も脱出後加速も54Tの重さだ。脱出前加速で十分な推進力を得るには、54Tの重さだとかなり強く踏み込む必要があった。これが疲れの原因になり、登坂や逆風だとスラロームを続けるのが辛かった。Stoneの楕円50Tにしたら、脱出前加速は48T相当に軽くなったので、失速しづらくなった。脱出後加速は52T相当であり、54Tよりは軽く踏めるので楽な一方、一漕ぎでの到達速度は控えめで、低速スラロームをするのに都合がよかった。O.Symetricの楕円52Tになると、脱出前加速は48T相当で同等あり、失速を心配せずにスラロームを続けられるのは同じだ。しかし、脱出後加速は56T相当に重くなり、これが疲れの原因になる。一漕ぎでの到達速度は大きくなって、高速スラロームはしやすくなった。だが、高速スラロームは疲れるし危ないので、あんまりやりたくない。

O.Symetricの楕円ですらない独特な形には慣れが必要だと言われている。曰く、パワーゾーンではしっかりトルク感があるのに、その前後では急にトルク感が乏しくなるので、踏み込むタイミングを合わせるのが難しいと。しかし、これは悪いことではないとも言われる。いつ踏み込むべきかをスプロケットが教えてくれるとも考えられるからだ。踏み応えがあるところで踏んで、そうでないところでは脱力するように訓練する機会になる。とはいえ、私の場合、フラットペダルを使っていることもあり、そもそもパワーゾーンでしかトルクをかけられないらしい。まったり漕いでも、必死に速度を上げても、O.Symetricでトルク感が乏しくなったことがない。上死点付近で敢えて大臀筋を全力稼働させるつもりで前に押すとか、下死点付近で敢えてハムストリングスを全力稼働させるつもりで後ろに引くとかをしたいところだが、フラットペダルだと前後方向にかけられる力は非常に小さい。つまるところ、フラットペダルでO.Symetricを使う際には、慣れる必要すらない。いちおう、考察で示した通りのペダリングのコツを実践してはいるのだが、真円スプロケットでもそのコツは当てはまるので、O.Symetricだから特別何かするわけではない。

考察で述べた通り、56Tのトルク感で52Tのケイデンスを出すパワー走行をすると、確かに速度が出る。ノーヘル勢には負けなくなった感すらある。しかも、速度を出して走っている間は、アドレナリンが出ているのか、あまり疲れも感じない。しかし、踏み込みの回数だけ疲労は蓄積するのだから、そのツケは必ず回ってくる。張り切って4時間とか走ると、だんだん疲れてくる。とはいえ、サイクリングはある意味で疲れるためにやっている面もあるので、意図せず体力を使ってしまうというのは美点でもあるだろう。さらに、楕円スプロケットにはもう一つ美点がある。サイクリングの後半に疲れてきたら、ケイデンスを落として足の重みだけで漕ぐ省エネ走行をすることになるが、その際にもなぜか思ったより速度が出ることだ。平地の舗装路なら、5時の足を持ち上げて1時に置く動作を続けるだけで20km/hくらい出る。夕暮れの中、だらだらと都会や郊外を流して走る賢者モード的な時間が私は結構好きだ。

パワー運行でケイデンスが上がると速く走れるというのは分かりやすいが、まったり楽に走れるという感想はそれとは矛盾しているようにも思える。しかし、両者は同じことを違う速度域で語っているだけだ。真円54Tで30km/hで巡航するためには83.3rpmのケイデンスが必要になる。その際、ペダル1回転でパワーゾーンとデッドゾーンが2回ずつ出てくるが、双方の滞在時間は1:1の割合だ。パワーゾーンで30.5km/hまで加速して、デッドゾーンで29.5km/hまで減速するというような操作を繰り返すことになる。つまり、パワーゾーンの滞在時間0.180秒で1km/hの加速をする仕事をして、デッドゾーンでは各種抵抗によって0.180秒の間に1km/hの失速を被る。一方、楕円52Tで30km/hで巡航するためには、86.2rpmのケイデンスが必要になる。当然、ペダル1回転でパワーゾーンとデッドゾーンが2回ずつ出てくるが、双方の滞在時間は54:46くらいになる。デッドゾーンの滞在時間は0.88倍の0.160秒なので、同じ環境では失速は0.44km/hとなり、デッドゾーン末端での速度は29.56km/hになる。それに応じて、パワーゾーンでは30.44km/hまで加速することになるので、滞在時間0.187秒の間に0.88km/h加速する仕事をする。つまり、楕円52Tの毎回のパワーゾーンで必要な加速は、真円54Tに比べて、84.7%になる。よって、速く走ろうと思えばもっと速くできる。20km/h巡航で同じ計算をしても、同じような結果が出る。同じ速度で走るなら、弱い力で漕げるということだ。この論理はエネルギー保存則に反していない。楕円だと漕いでいる時間の割合が長いから、じんわり加速できるというだけの話だ。パワーゾーン内でも抵抗があって、それに抗って速度を維持する仕事もあるので、全体の仕事量が減っているわけではない。

フロントスプロケットがシングルであるブロンプトンではチェーン落ちの問題は起こらないと思ったが、O.Symetricにしてから変速時にたまに起こるようになった。1速から2速にギアを変えた時にフロントスプロケットが外側に落ちることがある。リアのギアを変えたらフロントのギアのチェーンが外れるという奇妙な現象だ。どういう条件で起きるのかを検討したが、よくわからなかった。漕ぎながらチェーンにテンションをかけた状態だと起こりやすいのか、逆に漕がないでチェーンを緩めた状態だと起こりやすいのか、パワーゾーンで巻き取るチェーンが持ち上がっている時に起こりやすいのか、デッドゾーンで巻き取るチェーンが下がっている時に起こりやすいのか、低速だと起こりやすいのか、高速だと起こりやすいのか、いろいろな条件を試したが、どの場合でも起きる場合と起きない場合があり、原因が謎だった。デフォルトの真円では起こらなかったし、Stoneの楕円でも起こらなかったチェーン落ちが、O.Symetricの楕円だと起こるということだ。純正のスプロケットは外側にチェーンガードがついているのでチェーン落ちが起き得ないというのと、Stoneのスプロケットはナローワイドなのでチェーンが外れにくいというのは認識している。O.Symetricの楕円率が高いのも認識している。ただ、その違いだけでこんなに変なことになるのは解せなかった。

チェーンの伸びが原因ではないか思い、試しに変えてみたらドンピシャだった。ブロンプトンの外装2段モデルは3/32幅の102リンクとのことだが、8速用(8S)の一般的なチェーンなら互換性があるらしい。で、シマノのCN-HG71を買った。CN-HG40という廉価版との違いは錆に強いことだけらしいが、室内保管だから錆びることもないので安い方でも良かったかな。古いチェーンと新しいチェーンを並べてみると、やっぱ伸びていた。伸びていると横方向に曲がりやすくなるので、リアスプロケットの変速時の揺れがフロントスプロケットの噛合部にまで伝わっていたのだろう。チェーンを変えてからは、チェーン落ちは一度も起きていない。機械損失が減ったのか、走りも若干軽くなった気がする。写真の古い方のチェーンの接合部の汚れを見れば、さもありなんと。この8年間で何万キロ走ったかわからないが、恥ずかしながら一度もチェーンを変えていなかったのは、変えなくても何も困らなかったからだ。しかし今回、その末路を学んだ。ここでまた余談なのだが、自転車などの整備をして手に油がついた状態で、エーテル系ウレタン(エラストマー)製品を触ってはいけない。私はイヤホンのイヤーピースにウレタンのものを愛用しているのだが、チェーン交換の後にうっかりイヤーピースを触ってしまって、一撃でダメになった。ちょっと汚れるだけでもダメで、ウレタンがふにゃふにゃになって、イヤホンから外れてしまうようになるのだ。かれこれ3回ほど同じミスをしている。不用意なのが悪いとは言え、勿体ないことだ。リアサスペンションブロックのエラストマーはさすがに耐油性の高いものを使っていると期待するけども、プラスチックやゴムの製品にはなるべく油をつけないようにするという経験則は心の片隅に置いておくべきか。

O.Symetricの52Tにしたのは、たまたまヤフオクに出品されていたからだ。もしそれが50Tや54Tでも買っていただろう(BCD-130用は58T・56T・54T・52Tしか製造されていないが)。しかし、図らずも52Tを入手して良かったと思っている。Stoneの楕円50Tは、「パワーゾーンでデフォルトよりちょっと軽くなることによる軽快な加速感と登坂性能」を味わうもので、O.Symetricの楕円52Tは、「パワーゾーンでデフォルトよりちょっと重くなることによる高速な平地巡行性能」を味わうものだ。両者とも楕円なので、図らずもパワー運行をしてしまってケイデンスを高める効果があるが、O.Symetricの方がその度合いが大きい。O.Symetricの楕円52Tで平地巡行すると、ブロンプトンなのに25km/hとかを出してしまう。自然に速度が出るのは気持ちがいいし、減量とか筋トレの観点でも良さそうだ。

もし後で軽い乗り味にしたくなかったら、リアスプロケットを現状の12T/16Tから13T/17Tに換装する手もある。リア12Tを13Tに変えた場合、O.Symetricの楕円52Tのパワーゾーン56T相当の重さは、56T * 12T / 13Tで、51.69T相当の重さになり、それはStoneの楕円50Tのパワーゾーンの52T相当の重さとほぼ同じだ。それでいて、楕円率1.215による1.07倍界王拳の効果が味わえる。リアスプロケット単体なら東急ハンズで1100円とかで買えるので、試してみてもいいかも。

まとめ

O.Symetricによる乗り味の変化は劇的だ。楕円率1.1であるStoneの50Tに変えた時には「トルク感は落ちていないのに、ちょっぴり速く回せて楽しい」という感想だった。楕円率1.215であるO.Symetricの52Tに変えたら、「トルク感は増しているのに、なぜかやたら速く回せて、気持ちいい」という感想になった。楕円スプロケットペダリングの効率をわずかに向上させる効果があるかもしれないが、私のような素人が受ける実際の効果は異なる。図らずも多くのエネルギーを投入してケイデンスを上げてしまう「界王拳」効果だ。1.07倍界王拳を使って、明日もサイクリングに行こう。