豪鬼メモ

一瞬千撃

対訳電子書籍その7 語彙力ゼロでも読める語句注釈付きの英米文学

前回の議論で、任意の対訳本の各文において重要語句の語義の注釈を生成する方法を確立した。今回は、そのデータを使って、実際の作品を使ったWebサイトおよびKindle書籍を作成し、公開する。


文学作品の内容を抜粋した英文に対して、重要語句や難解語句に注釈をつけた形式の本は巷に結構ある。英米文学の著名な作品を扱っているものが定番だが、映画館に行くと脚本の語句に注釈をつけたものも売られている。それらは、当然ながら日常生活や受験に必要な重要語句のカバレッジを保証してくれることはないが、理解できれば内容がそこそこ面白いことは保証されている。面白さというのは個々人の趣味の問題ではあるが、普通の単語集の脈絡のない例文を読み続けるよりは遥かにマシなはずだ。そこで、同じような注釈付きの例文を自分の好きな作品を元に作れるようにしたのが今回のシステムである。対訳と注釈データは前回までで揃えたので、今回はそれをWebサイトとKindle用の電子書籍に変換して利用可能な状態に完成させた。

とりあえず、以下の作品のデータを作った。HTML版は、リンクをクリックすればそのままブラウザで閲覧できるようになっている。[≡]を押すと全ての注釈が隠せるとか、[⊿]を押すと個別の文の注釈を表示できるとか、フレーズ選択でのポップアップ辞書とかは、以前述べた通常の対訳本と同じ使い勝手だ。

上記のHTMLはKindleEPUBモドキの仕様と互換しているので、パッケージファイルとともにKindle Previewer 3に読み込ませればKindleに取り込めるMOBIファイルが生成できる。その結果が以下のものだ。Kindle実機にMOBIファイルを取り込む時は、USBケーブルで繋げてdocumentsフォルダの下に置けばいい。Kindleアプリの場合は、MOBIファイルをダブルクリックすればインポートされるはずだ。

作品に含まれる全ての文に対訳がつけられるとともに、LLMが重要だと判断した全ての語句に解説がつけられている。同じ語句が同じ訳で登場することは二度とないように重複排除をしているので、最初は解説が多すぎると思うだろうが、段々と解説が減ってきて読みやすくなってくる。句動詞やその他の複数語からなる定型フレーズにも、文脈に応じた解釈を元にした解説がなされているので、辞書を引くよりも意味の把握がしやすい。ここまで優しく解説されているんだから、語彙力ゼロでも読解が進められるはずだ。

対訳文だけがあれば多読にも精読にも困らないのが実際のところだが、フレーズ毎の訳と語義が把握できる方が効率がいい。英文中のフレーズと対訳文中のフレーズの対応をとるにあたって、対訳文しかないと、英語と日本語の語順の違いに当惑させられることが多い。例えば、"I saw a boy running away." の直訳は「私」「見た」「少年」「逃げる」だが、普通の訳文だと「私は、少年が、逃げるのを、見た」であるから、対応関係を把握するのに一手間かかる。また、LLMはかなり小慣れた訳文を生成する場合も多く、倒置や省略や意訳によって、対応関係の把握がより難しくなることがある。そんな場合でも、既に対応関係が取れたリストが提示されていれば、対応関係の把握に使う時間を省略して、文意や文法の解釈に集中することが可能となる。

実際のところ、注釈がないと多くの文が読解できない語彙力で1冊を読み切るのはかなりの根気がいる。かなりの頑張り屋でも、5冊もこなせないだろう。そして、語彙力がついて読解に馴れてくると、注釈は邪魔に感じるようになってくる。よって、これら注釈付きの対訳本は、初学者が最初の1冊ないし2冊の「英文学読解入門」の儀式をするための教材に過ぎない。もはや初学者でない私にとってはあまり役立つものではないが、ほとんど単語を覚えていない中学生になった気分で使ってみると、注釈は有用に感じる気もする。実際のところどうなのかは、感想をお寄せいただけるとありがたい。

追記:今まで紹介した対訳本のコンテンツとその説明を配布ページとしてまとめた。ブックマーク等するときはこちらをご利用いただきたい。
dbmx.net