豪鬼メモ

一瞬千撃

ブロンプトンのグリスアップ大作戦その1:BB編

ベルハンマーのメタルグリスでブロンプトンのBBシェルをグリスアップして、個々のパーツで簡単な性能測定をした。シマノのプレミアムグリスに比較して明確によく回るようになった。


自転車という乗り物は、人間がペダルを動かした力を変換して後輪を回転させて地面を押して進む機械だ。ペダルから後輪まで力が伝達する経路にある駆動関係の部品(ペダル軸、BB、チェーンリング、チェーン、スプロケット、プーリー、ハブ)の総称をドライブトレインと言うが、そこでの摩擦をいかに減らすかが、機械損失を減らして速く走るために重要である。

ペダルは定評のあるMKSを使っていて、メンテナンスフリーのベアリングが非常に円滑に回ってこれ以上望むことはない。チェーンリングとチェーンとスプロケットの間の摩擦は定期的に油を差すことで管理している。ディレイラーテンショナーに付いている二つのプーリーもチェーンオイルで潤滑している。最もメンテが滞っているのが、BBとハブである。それらはベアリングを使った部品であり、メンテナンスフリーでないベアリングは定期的にグリスアップすることが望ましい。以前、BBを換装した際にグリスアップしたのだが、その際にグリスを封入したら抵抗が著しく増えたのを体感した。また、車体を購入してから8年間全くグリスアップしていなかった前輪ハブと後輪ハブを手で回してみたところ、なんだかゴリゴリして大きめの抵抗を感じた。

ところで、ベルハンマーというグリスが巷で話題だ。中でもメタルグリスという製品は、ベアリングやシャフトなど金属同士が擦れる場所の摩擦低減に大きな効果があり、かつ効果が長く持続するという点でかなり高い評価がされているのを多く見かける。もしかしたらそれらはステマかもしれないし、集団プラセボ効果かもしれないが、自分でもちょっと試してみたくなった。前後の車輪とBBシェルのグリスアップをするついでに、ベルハンマーのメタルグリスを試してみようではないか。グリス300gで4000円というのは比較的高い値段設定だが、セラミックベアリングを買うよりはずっと安いので、駄目元で試してみるのも悪くない。

まずは、BBのグリスをシマノのプレミアムグリスからベルハンマーのメタルグリスに変えるとどうなるかを試したい。BBは以前装着したタンゲのLN-7922をそのまま使う。以前にやった時とほぼ同じ手順を踏襲し、ベアリングをシャフトにつけたまま外側のシールだけを剥がして洗浄とグリス封入を行う。

作業前のシマノプレミアムグリスを封入した状態と、グリスを落として抵抗を最小にした状態と、メタルグリスを封入した後の状態で、それぞれクランクの回り方の動画を撮った。なぜかノイズが入っているので音量は下げて再生されたい。
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それぞれの条件でクランクを思いっきり押して空転させてみて、停止するのに何秒かかったかを測った。5回ずつ試行した結果の平均値を代表値としよう。

1 2 3 4 5 平均
シマノプレミアムグリス 19.84 21.20 17.97 21.71 20.87 20.31
グリスなし 58.21 57.48 59.76 57.35 45.21 55.60
ベルハンマーメタルグリス 27.25 28.02 25.55 25.06 26.38 26.45

当然ながらグリスなしの状態が最もよく回る。BBの抵抗の多くは封入したグリスの抵抗なのだ。セラミックベアリングがよく回るのはセラミックが摩耗しにくいのでグリスを封入しなくて済むからだ。しかし、普通の鋼鉄ベアリングには絶対にグリスが必要だ。自分で試したことはないが、グリスなしだと数10kmも持たないらしい。で、以前は定番であるシマノのプレミムグリスを封入していて、動きがグリスなしに比べて悪いのは当然と割り切れば、普通によく走ると思っていた。今回それをベルハンマーのメタルグリスに変えたところ、明らかに回転が良くなった。BBのシャフトを指で回しただけでも違いがわかる。

メタルグリスはカッパーグリスの一種らしいが、見るからに銅の粉みたいなものが入っている感じがする。実際そうなのかは知らないけど。商品説明の写真では真っ黒なペーストに見えたが、電球色の灯の下で見ると銅色だ。粘度はプレミアムグリスより明らかに低い。例えるならケチャップくらいか。手で触ると歯磨き粉のようにザラザラしているので、これで本当に潤滑するのか不安になる。しかし、実際にBBに封入してみると、粘度が低いおかげかよく回る。シャフトを手で回しているとザラザラ感が普通に感じられるにもかかわらず、抵抗が低いというのは奇妙な感覚だ。メタルグリスは圧力がかかると鉄の表面の組成を変えて潤滑力を高めるとかいう解説を見たが、それが本当なら、使っているうちにさらに回転が良くなるのかもしれない。粘度が低いグリスを使えば抵抗が低くなることは当然であり、それでも効果が長持ちするかどうかが重要だ。持続性に関しては時間を追って見ていくしかない。

BBに封入したついでに、チェーンにもメタルグリスを塗ってみた。そのままだと浸透しないので、ブラシでグリスを塗ってからドライのチェーンオイルを添加して、さらに塗り込んだ。チェーンが銅色というか錆色っぽくなるのが逆に格好いいかも。はみ出ている分を拭き取ったら分からなくなったけど。

グリスアップ後に街に乗り出してみた。いつも通りに重めのギアで漕ぐ限り、BBの抵抗の違いは全く分からなかった。たとえセラミックベアリングにしたとしても、普通に走っていて弁別することは難しいだろう。BBの抵抗を際立たせるには、空気抵抗を最小化すべく低速で走行し、路面抵抗を最小化すべく平滑な舗装の道を選び、BBと車輪の回転の比率を最低化すべく最も軽いギア変速比を選ぶことが望ましい。よって、乙女1速で渋谷の繁華街を人の流れに合わせて歩くような速度で走行した。そうすると、若干軽くクランクを回せると感じた。この乗り方だともともとスカスカの踏み込み感しかないが、それがさらにスカッスカッになり、確かに軽くなったと感じる。平滑な路面を20km/hとかのゆったりめの速度で巡航している際にも、巡航速度に達してペダルをほぼ空転させているような状態になると、ペダリングが以前より軽くなったように感じる。

低速走行や漕ぎ出しが若干軽く感じるくらいのことは肉体の疲労軽減への寄与は小さいだろう。しかし、心理的にはそれなりの効果があると思う。漕ぎ出しが軽いと、漕ぎ出すことに快楽を見出すことになるので、止まるのが苦でなくなるからだ。特に街乗りではこれが重要だ。大袈裟に言えば、BBを適切にグリスアップするともっと街に出たくなるという効果がある。

繰り返しになるが、全ての走行抵抗に占める機械抵抗の割合は小さく、全ての機械抵抗に占めるBBの抵抗の割合も小さいので、BBの抵抗を減らしたとしても体感できる差は生まれにくい。ロードバイクのホローテック2のBBがスクエアテーパーのBBよりも抵抗が大きいのは、それでも実用上の問題がないからだろう。また、クランクを空転させて微弱な慣性力での回転性能を高めるのはBBの性能目標ではない。実際にペダルを漕いでいる時のように、接線方向だけではなく法線方向の力も強くかかり、かつ強い力と高い速度で回転する際に抵抗を一定以下に保つことだ。よって、クランクを空転させる性能測定には参考程度の意味しかなく、ちゃんとローラー台の上で走って入出力を調べるのが望ましい。とはいえそこまでやる動機はないので、実際に走ってみて「若干だが軽くなった気がする」程度で良しとする。

まとめ。ブロンプトンのBBに使われているベアリングをベルハンマーのメタルグリスに変えたら、抵抗が顕著に減って、よく回るようになった。BBを新しくするよりは低コストでできるチューニングだし、作業が面倒な以外は特に副作用もないので、やって損はないと思う。BBの抵抗の差は、通常の巡航速度で走行していると気づかない程度の影響しかもたらさないが、確実に全体の抵抗低減には寄与しているはずだ。体感できる恩恵は、軽いギアでゆっくり走る時や、軽いギアで漕ぎ出す時に、若干軽く感じるところだ。次回は前後輪のハブのグリスアップを行う予定だ。