ブロンプトンの外装2速モデルに11Tと18Tを装着して、たった2速で1.636倍のワイドレシオを実現した。ワイドレシオは街乗りには不便な気がしていたが、実際に乗ってみるとそこそこ使える。
長い前置き
ブロンプトンの外装2速モデルは、純正ではフロントは54Tの真円チェーンリングを装備し、リアには16Tと12Tの2速のスプロケットを装備している。私のブロンプトンでは、フロントのチェーンリングはO.Symetricの楕円52Tに換装し、リアは11Tと15Tに換装していた。フロントが54Tから52Tに軽した一方、リアを11Tと15Tに重くし、またショートクランクを導入した分だけ、総じて純正よりちょっと思い踏み心地になっていた。
2つのギアの比率は1.36なので、2速構成としては標準的だ。街乗りをするのに2速は便利だし、ちょっとした坂なら1速にして颯爽と登り切ることができる。急坂でも、1速でダンシングすれば何とか乗り切れる。何度も書いていることだが、ペダルを踏んだ時に感じる重さは、ペダルの移動距離に対するリアタイヤの移動距離の比率で決まる。これをペダルタイヤ推進比と呼ぼう。349タイヤとフロント52Tとリア11Tの組み合わせだと、ペダル推進比は、1速では(52/11*1340)/(165*2π)=4.480となり、2速では(52/11*1340)/(165*2π)=6.110となる、純正だと、1速では(54/16.0*1340)/(170*2*π)=4.233であり、(54/12.0*1340)/(170*2*π)=5.645だ。
標準的なロードバイク(700Cタイヤ、フロント50T/34T、リア11-28T)と私のブロンプトンの各種ギア設定においてペダルタイヤ推進比がどうなるかを改めて表にしてみた。
クランク長 | タイヤ周長 | フロント歯数 | リア歯数 | 変速比 | T/P推進比 | |
RX8 Inner 1st | 170 | 2096 | 34 | 28 | 1.214 | 2.383 |
RX8 Inner 2nd | 170 | 2096 | 34 | 25 | 1.360 | 2.669 |
RX8 Inner 3rd | 170 | 2096 | 34 | 23 | 1.478 | 2.901 |
RX8 Inner 4th | 170 | 2096 | 34 | 21 | 1.619 | 3.177 |
RX8 Inner 5th | 170 | 2096 | 34 | 19 | 1.789 | 3.511 |
RX8 Inner 6th | 170 | 2096 | 34 | 17 | 2.000 | 3.925 |
RX8 Inner 7th | 170 | 2096 | 34 | 15 | 2.267 | 4.448 |
RX8 Inner 8th | 170 | 2096 | 34 | 14 | 2.429 | 4.766 |
RX8 Inner 9th | 170 | 2096 | 34 | 13 | 2.615 | 5.132 |
RX8 Inner 10th | 170 | 2096 | 34 | 12 | 2.833 | 5.560 |
RX8 Inner 11th | 170 | 2096 | 34 | 11 | 3.091 | 6.065 |
RX8 Outer 1st | 170 | 2096 | 50 | 28 | 1.786 | 3.504 |
RX8 Outer 2nd | 170 | 2096 | 50 | 25 | 2.000 | 3.925 |
RX8 Outer 3rd | 170 | 2096 | 50 | 23 | 2.174 | 4.266 |
RX8 Outer 4th | 170 | 2096 | 50 | 21 | 2.381 | 4.672 |
RX8 Outer 5th | 170 | 2096 | 50 | 19 | 2.632 | 5.164 |
RX8 Outer 6th | 170 | 2096 | 50 | 17 | 2.941 | 5.771 |
RX8 Outer 7th | 170 | 2096 | 50 | 15 | 3.333 | 6.541 |
RX8 Outer 8th | 170 | 2096 | 50 | 14 | 3.571 | 7.008 |
RX8 Outer 9th | 170 | 2096 | 50 | 13 | 3.846 | 7.547 |
RX8 Outer 10th | 170 | 2096 | 50 | 12 | 4.167 | 8.176 |
RX8 Outer 11th | 170 | 2096 | 50 | 11 | 4.545 | 8.919 |
Brompton 52/18 | 165 | 1340 | 52 | 18 | 2.889 | 3.734 |
Brompton 52/17 | 165 | 1340 | 52 | 17 | 3.059 | 3.954 |
Brompton 52/16 | 165 | 1340 | 52 | 16 | 3.250 | 4.201 |
Brompton 52/15 | 165 | 1340 | 52 | 15 | 3.467 | 4.481 |
Brompton 52/14 | 165 | 1340 | 52 | 14 | 3.714 | 4.801 |
Brompton 52/13 | 165 | 1340 | 52 | 13 | 4.000 | 5.170 |
Brompton 52/12 | 165 | 1340 | 52 | 12 | 4.333 | 5.601 |
Brompton 52/11 | 165 | 1340 | 52 | 11 | 4.727 | 6.110 |
Brompton 54/16 | 170 | 1340 | 54 | 16 | 3.375 | 4.234 |
Brompton 54/12 | 170 | 1340 | 54 | 12 | 4.500 | 5.645 |
カスタムした私の1速(15T)のペダルタイヤ推進比は、ロードバイクのアウターの4速に相当し、私の2速(11T)のペダルタイヤ推進比は、ロードバイクのアウターの7速に相当する。ロードバイクに慣れた人は、それって街乗り用としてはちょっと重めなんじゃないかと思うだろう。特に2速は数値上は重く見える。しかし、実際に私は乗車時間の95%以上は2速を使っている。これは、楕円チェーンリングの効果が大きいと思う。長径を含むパワーゾーンは56T相当、短径を含むリカバリゾーン48T相当のトルクになるので、急坂での上死点の「ひっかかり感」は48T相当しかなく、それはペダルタイヤ推進比5.640相当であり、ロードバイクのアウター6速よりも軽い。それでいて、パワーゾーンで踏み込んだ際には56T相当で推進する。それはペダルタイヤ推進比6.580相当であり、ロードバイクのアウター7速よりも重い。パワーゾーンで十分に加速できれば大きめの慣性力を残してリカバリゾーンに入るので、リカバリゾーンでのひっかかり感がそもそも感じづらくなる。つまり、登坂抵抗でケイデンスが低くなった際にも漕ぎやすくなる。一方で、パワーゾーンが56T相当なのは、平地巡航でケイデンスが上がった際にパワーゾーンでのクランクの角速度が上がり過ぎない効果もある。これは、抵抗が低くてケイデンスが高くなった際にも漕ぎやすいことを意味する。以上を総合すると、楕円チェーンリングを使うとケイデンスに対するパワーバンドが広くなると私は感じている。別に速くなるわけじゃないけど、少ないギア枚数でやり繰りするには大変役立つ。トウクリップも重要で、上死点で足を前に強く押し出せることでパワーバンドが広がる。前方への押し足に比べれば弱い力だが、下死点で足を後ろに引いたり、9時で足を引き上げたりすることでペダリング効率を上げる効果もある。
楕円とトウクリップでパワーバンドが広くなった結果として、15Tはあんまり使わなくなった。15Tのシッティングで登れる坂は、11Tのダンシングで登れてしまう。一方で、激坂を登るには15Tのダンシングでも辛いことがある。ならば、どうせなら17Tにしてしまえと思った。11Tのダンシングでも登れない時にのみ17Tを出す運用の方が潰しが効く。52/17Tのペダルタイヤ推進比3.945はロードバイクのアウター2速に相当するので、23区内の大抵の坂はシッティングでも登れるようになるし、ダンシングでも登れない坂は皆無になるだろう。
ということで、ここ1ヶ月くらい、リアを11Tと17Tにして運用していた。ちょっとした坂で17Tにしてしまうと軽すぎて遅くなってしまうので、11Tで大抵の坂を登り切れる筋力があることが前提となるが、ここぞという時に17Tが出るのは便利だ。夏からロングライドをしまくったおかげで前提を達成した私としては、11Tと17Tの組み合わせはかなり実用的だと言える。ところで、なぜ20Tとかではなく17Tなのかというと、4速化対応の2022年より前のモデルだと18T以上のスプロケットはフレームに干渉するからだ。11Tと17Tでも1.545のワイドレシオで、それはロードバイクのインナー34Tとアウター50Tの比率1.470を超えているので、実用的にはそんなところが落とし所かなと思っていた。
18Tを導入
ここ1ヶ月くらいでロードバイクで峠道を何回か走ったのだが、ブロンプトンでも走りたいなと、欲が出てきた。しかし、名のある峠ではロードバイクのインナーの1速(ペダルタイヤ推進比2.383)まで普通に使うので、今の17Tのペダルタイヤ推進比3.954では重すぎる。フロントのチェーンリングを小さくするのも手だが、そうすると峠の麓に行くまでの70kmとかの平地巡航がだるくなってしまう。なので、まずはリアのスプロケットでできることをやろう。そこで18Tの導入を検討した。
ブロンプトンではシマノのスプロケットが使える。CS-HG50 8Sなどの8速用のものが無難らしく、実際に私は8速用のスプロケットと8速用のチェーンで運用しているが、11速用のスプロケットでも普通に使える。リング式のストッパーが多少の違いは吸収してくれるからだ。となると、11Tから34Tまでよりどりみどりだ。とはいえ、私のモデルでは17Tまでしかつけられない。それ以上大きいと、チェーンステーのパイプの末端とスプロケットが触れてしまう。17Tでまじでギリギリなので、18Tは無理だ。
逆に考えるんだ。「ギリギリ駄目ならギリギリ行けるかもしれない」と考えるんだ。実際のところ、17Tと18Tの違いは5.8%しかないのだから、歯の先端を削れば何とかなりそうな気がする。なので、駄目もとで18Tのスプロケットを買ってみた。
装着しようとしてみたところ、なぜかハブとの接触がキツすぎてなかなかハマらなかった。ハンマーで叩けば入るのだが、各所が歪むリスクが怖いし、付け外しが大変なのは嫌だ。なので、電動ルーターとダイヤモンドヤスリで接触部分を薄く削ったところ、普通に入るようになった。それで装着してみたところ、予想通りフレームに干渉した。ギアの隙間を縫って装着はできるのだが、当然回転できない。しかし、歯の先端を0.5mmくらい削ればいけそうなこともわかった。なので、電動ルーターとダイヤモンドヤスリで根気よく削った。だいたい荒削りした後は、装着して回転させてみて干渉する歯だけ削るという工程を3回くらい繰り返すことで、うまいこと収まった。11Tと重なっているところを見ると、大きさの違いがよくわかる。
問題の干渉部はここだ。削った結果、マジのマジでギリギリ干渉しない状態になったが、そこからさらに全体を0.1mmほど削っている。金属は温度で膨張収縮するし、予期せぬ変形もするだろうから、安全マージンが必要だ。
装着を完了し、ペダルを回してみたところ、何の問題もなく軽快に回転した。大きさが違いすぎると大きい方のギアにチェーンをかけるのに問題が生じる心配もしていたが、ブロンプトンの純正ディレイラーが思ったより優秀らしい。17T以上だとギアの歯先とディレイラーと干渉するという噂もあったが、17Tでは大丈夫だったし、18Tでも歯先を同じくらい径に削ったのだから、当然ながら問題ない。変速操作に関しては、多少悪化する。特に11Tと18T(または17T)を組み合わせると、径の差が大きすぎるので、2速から1速に下げる時に(つまり大きいギアにチェーンをかける時に)多少もたつくことがある。うまくギアを変えるコツは、チェーンにテンションをかけない状態で変速することだ。また、プッシャーの角度を調整して、インナー側の押し幅を調整するのもよい考えた。
52Tと18Tの組み合わせだと、ペダルタイヤ推進比は3.734になる。これはロードバイクのアウター1速と2速の間くらい、インナーで言えば5速と6速の間くらいだ。17Tの時と大して変わらないじゃないかと思うかもしれないし、実際大して変わらないとも言えるが、体感できる程度の違いはある。トルクは105.8%になり、踏み応えは94.4%になる。
試走
18Tをつけて実際に走ってみよう。まず、通勤で通る道玄坂。緩すぎて18Tを出すまでもない坂だが、全く息を切らさずにゆっくり走るという目標を立てるにおいては、意外に18Tが快適にも感じる。特に人混みに紛れて歩行者と同じ速度で徐行する際には、軽いギアが便利だ。とはいえ、普通に走る分には、軽すぎるのは否めない。ここは15Tシッティングが丁度いいところだ。
1.636のワイドレシオともなると、坂の途中でギアを2速から1速に変えた瞬間に、いきなり軽く遅くなって、困惑する。そして、坂を登り終えてからギアを1速から2速に変えた瞬間に、いきなり重くなって、どっと疲れが出る。とはいえ、この使用感は17Tでも同じで、対処法はわかっている。覚悟すればいいだけだ。1速に落とさねければならないほどの坂であれば、むしろ速度を落として休憩するつもりになればいい。そして、そのような坂を登り切ったのであれば、体を労わって、しばらくは軽いギアのままで漕いで、それに飽きてからギアを上げればいいのだ。ワイドレシオは速く走るには全く向いていない設定なので、そもそも速く走ることを放棄するのが肝要だ。といっても、95%の道を11Tで高速に走り抜けられれば、遅さにイラつくことはない。
246を進んで三軒茶屋やら駒沢やらの平坦区間を通過した。いつもは11Tで快走するところだが、敢えて18Tで走ってみた。17Tでも軽すぎたわけだが、18Tにしてしまうともう足が回りすぎて反動で尻が跳ねてしまう。もちろんゆっくり走ればそうはならないのだが、遅すぎる。また、ペダルの踏み込みが軽すぎるとサドル荷重になりすぎるので、長時間18Tを使い続けると尻が痛くなってしまう。これは平地巡航に使うギア比ではない。
超激坂と言えば高輪のまぼろし坂だが、あれは車道ではないし、実生活で出会うような道でもない。その意味では、岡本の富士見坂がベンチマークとしては良いだろう。車道なのに最大斜度22%もあって、距離も100m以上ある立派な坂だ。わざわざ仕事帰りに寄ってみた。以前に来た時に17Tではシッティングでは登れなかった坂だが、18Tでもシッティングでは無理だった。ギリギリ行けそうかもと思ったが、止まりそうになったので思わずダンシングしてしまった。ダンシングでは何の問題もなく登れた。
17Tを18Tにしたところで、たかが5.8%のトルクアップなので、優位な差ではあるにしても、劇的に登坂能力が上がるというわけではない。簡単な算数でわかっていたことだが、体感としてもまさにそんな感じだ。なので、18Tの導入をもって峠をスイスイ走れるようになるかというと否だと結論せざるを得ない。短い急坂を無酸素運動で登り切るのと、急坂がずっと続く道を有酸素運動で登り続けるのはわけが違う。とはいえ、16Tで箱根峠を走った時にはギリギリ登りきれなかったことから考えると、18Tならギリギリ行けそうな予感もする。スイスイは行けないが、ギリギリ行ける範囲は確実に広がったはずだ。