豪鬼メモ

一瞬千撃

ブロンプトンのチェーンディレイラーテンショナーとプーリーの換装

ブロンプトンのチェーンテンショナーとチェーンディレイラーとそれらのプーリーを純正から社外品に変えた。走行性能の改善は微々たるものだが、走行感が上質になり、より快適に走れるようになった。


ブロンプトンの2速モデルと6速モデルの外装変速機構は特殊だ。チェーンディレイラーに付いているプーリーをチェーンステイ上のチェーンプッシャーが押してスライド移動させる仕組みになっている。また、チェーンディレイラーと一体化したチェーンテンショナーにもプーリーがついていて、それはディレイラーによってずらされたチェーンの張力によって自然にスライド移動するようになっている。二つのプーリーはディレイラーとテンショナーの腕についた水平方向のローラー(ブッシュ)の上で回転するようになっていて、純正では特にボールベアリングなどの円滑化の措置は取られていない。

純正のディレイラーテンショナーは樹脂製で、剛性も強度も心許ない。特にテンショナーアームの剛性が低いのが問題で、私のものは若干歪んでしまい、プーリーの角度が傾いでしまっていた。いかにも無駄な抵抗を発生させていそうだ。寿命なのかもしれないし、楕円チェーンリングによるチェーンのばたつきがそれを早めたのかもしれない。

プーリーだけベアリング付きのものに替えればマシになるかと思って、以下の中華プーリーを買ったが、これは失敗であった。3000円もしたのに、ベアリングの回転が渋くて駄目だ。この手の製品は手に取ってみないと良し悪しが全くわからないのが困ったものだ。よく知らんメーカーのものを買うのは分が悪い賭けで、まさにそれに負けた形になる。

回転の渋さよりも問題なのが、純正テンショナーとの相性の悪さであった。剛性が低い純正テンショナーでは、プッシャーがプーリーを横に押した際に、アームも若干ながら横にしなってしまう。純正のプーリーはプーリーとガイドの全体が回転して動いていることで横滑りしやすい構造であるため、プーリーが横に円滑に動いて、しなったアームも然るべき位置に戻る。しかし、ガイドが回らずにベアリング上の歯車だけが回る構造のプーリーだと、プーリーを横に滑らせる際に静止摩擦力が働くため、横方向の移動量が小さく、アームがしなったままになってしまう。そうすると回転中に常にプーリーとチェーンが互いに横に押し合い、チェーンが浮いて、しまいにはチェーン落ちしてしまう。これは駄目だ。

仕方ないので、ディレイラーテンショナーをアルミ製のものに換装することにした。台湾のRideaのものが有名らしいが、3万円もするので手がでない。頑張ればDIYでも作れそうな単純な部品にこの価格はちょっと無いだろうと。剛性と強度さえあれば特に走行性能に影響する部分では無いので、安物で十分だ。Liteproというブロンプトンクローンのテンショナーが本家ブロンプトンにも使えるらしい。プーリーも同じメーカーで合わせるのが無難だ。届くかどうか不安なAliExpressでしか手に入らないが、まあ仕方ない。ディレイラーテンショナーとプーリー2個のセットで2817円だった。写真にディレイラーテンショナーとプーリーが写っていてもプーリーだけの販売だったり、値段が高い出品もあるので注意だ。あと、全く同じ製品がAmazonでLondon Craftworksとかいう名義で11000円で売っているあたりに闇を感じる。

製品が到着したので、組み付けた。ディレイラーテンショナーの剛性は期待通りで、手で力を加えるくらいでは全くたわむ様子がない。強度については試すと壊れてしまうので試せないが、樹脂製より弱いってことはないだろう。プーリーのベアリングもそこそこよく回り、最初に買った3000円プーリーより遥かにマシだ。ブッシュ式の純正プーリーと比べると、プーリーを空回しする際の抵抗は同等か、むしろ純正の方が抵抗が少なく感じるくらいだ。しかし、チェーンにテンションをかけて回転軸を押さえつける力がかかった状態で回す場合、ベアリングを使う方が抵抗が少ないはずだ。

組み付け作業は簡単だ。15mmレンチと六角レンチだけあれば数分でできる。プーリーに通すシャフトは、テンショナーディレイラーの短い腕につけるガイドプーリーの方には最も短いものを、長い腕につけるテンショナープーリーの方には二番目に短いものを使うのがコツだ。アームの寸法やブッシュの寸法も合致していて、普通に互換性品として使えるものだ。ギアとテンショナーの間のクリアランスについても全く問題なかった。色は艶ありブラックで、取り付けてすぐはちょっと目立つが、日に焼ければいい感じに馴染んだ色になるだろう。プーリーに謎のユニオンジャック模様がついているのがちょっとダサいというか、Liteproは英国企業じゃないだろうとか、そもそも国旗で英国っぽさを出すのは安易すぎだろうとか思うが、いずれ適当に削るなり塗るなりすればいいだろう。走行中に模様が回るならまだ面白げがあったのだが、プーリーの壁が回らない方式なのでそうはならない。

取り付け時に注意しなければならない点が一つあった。ディレイラーテンショナーを後輪シャフトに固定する際に回転方向に遊びがあるので、普通にナットを回してしまうと、時計回りにガイドプーリーがずれて、プッシャーとうまく噛み合わなくなってしまう。なので、プッシャーの壁とガイドプーリーの壁の上下位置が2mmほど重なるように角度を調整しながらナットを締め込む必要がある。ガイドプーリーの角度は浅い方がチェーンの転回角が減って抵抗が少なくなるはずなので、プッシャーがきちんと機能する範囲でできるだけ浅く設置した方が良いだろう。

ディレイラーテンショナーを固定したら、プッシャーの角度の微調整が必要になる。プッシャーの側面についている二つのネジを2mmの六角レンチで回して行う。ここで、変速性能と機械抵抗のトレードオフに悩まされる。変速性能を良くしたいなら、プッシャーがガイドプーリーを押す幅を大きくすればいい。しかし、そうするとプーリーがチェーンラインよりも奥に押し込むことになり、ギアとベアリングとチェーンにかかる摩擦が大きくなる。摩擦を最小に止めたいならばプッシャーの動きを小さくすべきだが、そうするとうまく変速できなくなる。特に1速が18Tで2速が11Tのワイドレシオである私の設定では、2速から1速に変速する際にチェーンが登る崖が高いため、プッシャーの調整は難しくなる。また、純正のディレイラーテンショナーだとアームがしなることで変速しやすくなっていたっぽいのだが、それがなくなったこともプッシャーの調整が難しくなった要因だろう。試行錯誤の上、変速できるかできないかギリギリの緩さにしてチェーンラインを保つようにはできたが、それでも変速性能は悪化した。

試走に出た。まず走行性能に関してだが、抵抗が低くなったという実感が多少ながらある。BBやハブのグリスアップをした時にも多少の違いを感じたが、それと同等以上には違いを感じる。軽く漕げるようになった気がする。力を抜いて走っている時に思ったより進むので、後ろから押されているような感覚を覚えることがある。少なくとも性能が悪化してはいないと思うし、走行音が小さくなって快適には感じる。機械抵抗を顕著に感じるには平滑かつ平坦な路面を低速で走るのが良いが、近所の道をダラダラ走っていると効果を感じやすい。そこそこよく回るベアリングを使っていて、それがテンショナープーリーとガイドプーリーの2箇所あるので、機械抵抗は確実に減っているはずだ。ベアリングのおかげもあるだろうが、純正アームの傾きがなくなってチェーンラインが整ったことこそが機械抵抗の低減に貢献していると思っている。先日東京湾一周をした時にはすでにこのカスタマイズはしていたのだが、ロングライドでも効果を感じた。ただし、それらの予備知識がプラセボ効果を生んでいて、私は正確な判断ができないことも認めざるを得ない。

抵抗とは別の変化もある。テンショナーのバネが純正より若干強くなったおかげでチェーンのテンションが上がったので、楕円チェーンリングに起因するチェーンの暴れが減った。チェーンのテンションが上がると抵抗が増える傾向にはあるらしいのだが、ベアリングによる抵抗低減を覆すほどの悪影響にはなっていないと思う。チェーンのテンションが上がると、漕ぎ出しの際の反応がほんの少し機敏になるのも良いところだ。総じて、乗り心地は良くなったと思う。おそらくチェーン落ちする確率も下がることだろう。

変速性能は、やはり悪化している。1速から2速に変速して小さいギアにチェーンを落とす際にすら、0.5秒ほどの遅延がある。2速から1速に変速する際には、1秒くらいガチャガチャ鳴ってからギアが変わるのが通常で、10回に1回くらいなぜかいつまで経ってもガチャガチャ言うだけでギアが変わらない。ただし、対策がある。シフターのレバーを単に左に弾いて切り替えるのではなく、レバーを左の奥まで押し込むのだ。そうすると確実にギアが変わる。逆に言えば、この挙動を前提としてプッシャーを緩く設定することで、チェーンラインを最も摩擦の小さい状態に保つことができている。頻繁に変速するのが普通であるロードバイクではこんな挙動は許されないだろうが、たまにしか変速しない小径車では問題ない。とはいえ、変速性能が気になるなら、プーリーだけは純正のを使ってもいいかもしれない。

テンショナーやプーリーが起こす抵抗については以下の記事が詳しい。デュラエースのハイエンドのプーリーが3.25ワットで、さらに高級なセラミックベアリングが0.85ワットとのことなので、ベアリングの違いによって、無視できない程度の抵抗差があるらしい。また、ブロンプトンで採用するのは現実的では無いが、プーリーの径を大きくしたビッグプーリーを使うと0.5ワットほど抵抗が減るらしい。
rbs.ta36.com

サイクリングサイエンスという本が図書館にあったので、借りて読んでみた。それによると、ちゃんとしたベアリングの摩擦はひとつあたり0.014Nでしかなく、転がり抵抗の1から3Nに比べると無視できる程度とのこと。言っていることが上の記事と真逆のようだが、ベアリングの抵抗が転がり抵抗の1%以下であるという点を抜き出せば、矛盾はない。無視できるかできないかというのは書き手の主観にすぎない。ホビーライダーにとっては、無視できると言っていいんじゃないかと私は思う。プッシャーの抵抗については述べられていないが、せいぜい数倍の抵抗だとすれば、それも無視できる程度だろう。一方で、チェーンの伝達効率についても興味深い記述があった。チェーンテンションが76Nと緩く、11Tの小さいスプロケットを使って50Wの弱い力で漕ぐ場合、力の損失は19%にもなるらしい。チェーンテンションが305Nと高く、22Tの大きいスプロケットを使って200Wの強い力で漕ぐ場合、力の損失は1.4%で済むとのこと。あれ、変だな。普通、チェーンテンションって緩い方が摩擦が少ないと言われて、インナー・トップの組み合わせでチェーンが外れないギリギリまで緩める方がいいとかよく聞く。チェーンを張りすぎたらチェーンとチェーンリングとスプロケットだけでなく、BBやハブにも無駄な力がかかって良くないという説明の方が直感的だ。この本の説明ではどんな実験でどこのテンションを計測したのかがわからないので何とも言えない。チェーンの軌道の上側のテンションのことを言っているなら、強い力で漕げばテンションが上がるのは当然で、強い力で漕げば伝達効率が上がるのもわかる。チェーンの軌道の下側のテンショナーによるテンションのことを言っているのなら、なんか話がおかしく感じる。305Nものテンションがかかるテンショナーなんてないだろうから、前者なのだろう。となると、テンショナーによるテンションが高い方が伝達効率が良いと言っているわけではないので、テンションは緩い方が抵抗が低いという通説の信憑性は揺らがない。一方で、チェーンリングもスプロケットも、径が大きい方がチェーンが曲がる角度が小さいので抵抗が低くなり、逆に軽が小さいチェーンリングやスプロケットは抵抗が大きくなるという説明は明快だ。また、チェーンラインを真っ直ぐにするのも重要とのこと。チェーンの話とは関係ないが、ソールが全く曲がらない自転車用の靴とよく曲がるランニング用の靴では足とペダルの間の力の伝達効率が1.9%違うらしいので、フラットペダルでもちゃんとした自転車用の靴を買おうと思った。

今回のカスタマイズでは、ギアの径は変えておらず、チェーンリングは真っ直ぐになり、チェーンテンションは少し上がり、プーリーの性能が上がった。チェーンテンションが上がったのは抵抗を増やしていると考えられるが、チェーンラインが真っ直ぐになったことによる抵抗低減が顕著なので、全体としては効率が上がっていると思う。なお、フロントダブル化してアウター+トップまたはインナー+ローで主に運用する場合、チェーンラインがシングルスピードと同等に効率化する。また、チェーンのテンションが上がった副作用として、ペダルを踏んだ際の剛性感も少し上がった気がする。リアサスペンションブロックは体重だけではなくチェーンのテンションによっても縮んでいるので、チェーンの遊びが少なくなると車体の剛性が上がったように錯覚するのだと思う。一方、プーリーがベアリングになったことによる効果がどれだけ効率に寄与しているのかはわからない。

ところで、シマノロードバイクコンポーネントでも、105以下のグレードはブッシュプーリーで、アルテグラデュラエースだけがベアリングプーリーらしい。105だから遅いとか文句を言っている人はあまり見かけないので、実用上はブッシュプーリーでも全く問題ないのだろうとは思う。プーリーの換装を勧める記事や動画の多くは「効果がある」と定性的な文言や希望的観測を並べるだけで、具体的な数値を示さないことが多い。そこから考えると、おそらくプラセボ効果か、私の今回の例のように別の要因による効果を感知しているだけなのではないかと思う。とはいえ、よく回るのとよく回らないのをどちらか選べと言われたら、回る方を選ぶのが人情だ。それでもそれに万単位の金を出す気にはなれないが。

それにしても、お高い本家ブロンプトンの純正ディレイラーテンショナーを、廉価版クローンのメーカーであるLiteproの部品に置き換えると乗り心地が改善するというのは皮肉な話だ。BBといいディレイラーテンショナーといい、部品単位では意外に安っぽいのがブロンプトンの奇妙なところだ。壊れたら交換すればいい部分に金をかけない方がいいし、剛性が必要ない部分は樹脂製にして軽くするのも合理的ではある。ただ、チェーンテンショナーに関して言えば、剛性が高い方が抵抗が低くなるし乗り心地が良くなると今回感じた。内装ギアのモデルがある時点でブロンプトンは走行性能への最適化を重視していないことは明白である一方、部品を替えれば走行性能を追求できる余地があるのは素晴らしい。とはいえ、Liteproのおかげで安価で実用的な部品が手に入ったから良いが、クローン勢がいなかったらRideaのような特注的な値段のものを買う羽目になっていただろう。本家には頑張って欲しいが、クローン勢がいるおかげで世界が良くなる面もある。自由市場万歳。

これまでのカスタマイズで、ペダル、クランク、チェーンリング、チェーン、スプロケット、プーリー、ディレイラーテンショナー、ハブからなる、ドライブトレインの全般において、カスタムパーツの導入やグリスアップなどのチューニングを施したことになる。なので、一連のカスタマイズは完成した。結果として、小径車の割にはかなり走る部類の車体になったと思うので、満足だ。補修やドレスアップ的なことは気が向いたらやるかもしれないが、今後はもう自転車に金や手間をかけないで済む。

まとめ。純正のディレイラーテンショナーとプーリーをLiteproのものに換装したら、若干だが抵抗が低くなり、乗りやすくなった。おそらくベアリングの効果というより、テンショナーアームの剛性が上がったことでチェーンリングが真っ直ぐに維持されるように設定できるようになったことが大きいと思う。また、ペダルを踏んだ際の反応が機敏になり、走行音が静かになった。変速性能は少し悪化したが、シフターを押し込むという対策で乗り切れる。総じて、何だか上質な乗り味になったので、やってよかったカスタマイズである。