豪鬼メモ

一瞬千撃

ブロンプトンのシートポストをカーボン製に換装

ブロンプトンのシートポストをカーボン製のものに換装して、274gの軽量化を果たした。乗り味は実際のところ大して変わらないが、理論上は、より軽い力で走れるようになって、衝撃吸収性も少しよくなっているはずだ。そして、シート高の調整目盛りがついたのがめっちゃ便利だ。ついでに、シートスリーブを付け直して、ラッカーで被覆して、シートポストがずれたり摩耗したりしにくいように調整した。


ブロンプトンの純正シートポストは、強度と耐久性を追求しているらしく、重いのが難点だ。実際手に持ってみると、鈍器になりそうな重厚感がある。まあ多少重いくらいは別に気にしないのだが、乗っているうちにずれてくるのを防止しようとしてラッカーを塗ったり剥がしたりするハックを繰り返していたらやたら汚れてしまったので、それを機に別のに換装することにした。

わざわざ換装するのだから、軽量化もしたい。そうすると、アルミかチタンかカーボンかという選択肢がある。厚さや形状にもよるが、一般論として、軽さで言うと、カーボン>チタン>アルミ>鋼鉄の順だ。剛性で言うと、アルミ>鋼鉄>チタン>カーボンの順だ。耐久性はチタン>鋼鉄>アルミ>カーボンの順だ。剛性は好みの問題で、硬いアルミの方がレーシーな乗り味になるし、柔らかいカーボンの方が尻に優しい。それを念頭において各種製品を調査したところ、以下のカーボン製の中華シートポストに行き着いた。カーボン製なのに4508円とお手頃で、ピラーとペンタクリップ込みで265gの仕様だそうな。

なお、ブロンプトンの純正シートポストは直径31.8mmで、長さが535mmである。ブロンプトン用の社外品のシートポスト探す時には「シートポスト ブロンプトン」ではなく、「シートポスト 31.8」とかで探すとよい。ブロンプトン専用じゃなくても直径さえ合っていれば使える。長さが535mmより長いと折り畳みの際にサドルが下げきれない問題があるが、乗る際には問題ない。身長が175cmより高い人は敢えて長めのシートポストを選んだりもするらしい。私には縁のない話だが。

製品が届いた。早速重さを測ってみたところ、シートポストのパイプが179.6g、ヤグラの各種部品が54.6gの、合計234.2gであった。さすがカーボンだ。手に持ってみると、やたら軽い

純正も重さを測ってみたところ、シートポストのパイプが386.3g、ヤグラの各種部品が111.1gの、合計497.4gであった。つまり、236.3gの軽量化ということになる。これはでかい。先日、チェーンガードを付けて93gの増量になってしまったのだが、それを相殺して有り余る軽量化だ。

純正シートポストは下側がラッパのように膨らませてあって、上の穴からは付け外しできないようになっていて、ヤグラを外して下から挿抜することになっている。一方で、このカーボンシートポストはそれがないので、上の穴から挿抜できる。逆に、ポストの上側はヤグラを取り付けるために膨らんだ形状になっているので、下の穴からは挿抜できない。防犯上の観点では純正のように上の穴から挿抜できない方が望ましいのだが、メンテナンスの観点では上の穴から挿抜できる方が楽だ。ブロンプトンを室内保管して、外出時にも長時間駐輪しないのならば、シートの防犯よりもメンテ性が良い方がありがたい。

新しいシートポストは580mmと長いので切ることにした。私の脚の長さだと純正の長さでも使い切らないので、今回は純正より10mmほど短くする。そうすることで、畳んだ際にシートポストの下端が地面に付くリスクも低くなる。

チタンだと金鋸を使っても切断が大変だが、アルミやカーボンは鉄より硬度が低いので比較的簡単に切断できる。ただし、カーボンファイバーの切り屑は有害らしいので、吸わないように注意しながら作業する必要がある。よって、マスクをしつつ、誰もいない近所の公園のベンチで作業した。本来はソーガイドを使って精密に作業するべきだが、今回は手抜きをした。ベンチの溝にパイプを嵌めて、ベンチの端をソーガイドとみなして作業した。

切断面は紙やすりで慣らした上で、瞬間接着剤で補強しておいた。昔のカーボン素材は表面の微細な割れが内部に伝染する恐れがあったらしいが、今日の技術だとその欠点は克服されているらしいので、補強の必要はないらしいのだが、念のためだ。

短くした状態で込み込みの重さを測ってみると、168.3gだった。つまり、込み込みで、純正に比べると274.5g軽くなった。これはなかなかの成果ではないだろうか。

新しいシートポストも純正と同じ太さなので、純正と同じように装着すれば普通に使える。しかし、その前にシートスリーブを付け直す作業をした。というのも、前回の作業で根本的に間違えていたことがある。シートスリーブの上端にある突起をフレームの筒の中に収めるのが正しい方法だが、前回の作業では突起を上に出していた。そうすると、シートスリーブの内径が若干大きくなるので、その分だけフレームを強く締め込まねばならない。

今回はそれを是正し、正しい状態でも問題ないくらいフレームの隙間を広げておいた。ワッシャーと木材の切れ端を楔として打ち込んで一晩放置する作戦だ。

シートポストスリーブもスペアのものに変えた。純正のシートポストスリーブは2個セット5000円くらいで売られているのだが、そのうち一つは古いモデル用にキーと呼ばれる出っ張りが削られている。私のはそんなに古いモデルではないので、キーが必要だ。そうでないとシートポストが前後にぐらつくっぽい。よって、木の板を適当に削ったものを接着剤でつけて即席のキーにした。

シートポストスリーブをつけたら適切な内径になるように削る必要があるのだが、紙やすりで根気よく作業した。フレームに装着したスリーブの中に丸めた紙やすりを入れて、適当に回すとスリーブの内壁が削れてくれる。削りすぎないように、ちょっと削ってはシートポストを入れてみて、きつかったらまた削ってという試行錯誤を30分ほど続けた。いずれシートスリーブとシートポストの双方が削れてくることを踏まえて、少しきつめの仕上がりにしておいた。レバーを締め込まない状態で、シートポストを捻ってなんとか動かせるくらい。

その後、シートポストを挿入して、サドルをヤグラにつけた。ヤグラはシーソー式のもので、前後のボルトの締め込みの強さで角度を微調整できるのが使いやすい。ただし、構造的には純正の方式より弱いはずだし、そもそもカーボンは弱いので、締め付けトルクを強くしすぎないように注意したい。VT30Cサドルを購入した時に詳細に検討したように、サドルはやや前乗り気味にして、ほんの少しだけ前下がりに傾けるのが私の好みだ。このシートポストのヤグラは前方にオフセットしていないので、サドルの前後調整範囲の中でめいっぱい前にすることで私の好みの位置になるっぽい。なお、ヤグラをつける際には、シーソーとポストの接触部分にグリスを塗っておくとよい。シーソーの動きが円滑なほうが、サドルの角度の微調整がしやすくなる。

仕舞い寸法は、シートポストを切って短くしたおかげで、純正とほぼ同じになった。欲を言えばもうちょい低くしたいので、追ってまた15mmくらい切るつもりだ。気軽に切れるのがカーボンの良いところだ。走行設定でのシートポストとフレームの重複深度がシートポストスリーブの高さである67mm以上であることと、折り畳んだ状態でシートポストが後輪をロックするラッチに届くことが要件なので、あと30mmくらいは短くしてもいいことになる。

実際に各所を走ってみた。軽量化した分で走りが変わるかとも少しは期待したが、正直言って全然変わらない。274gなんてのは荷物に何を入れるかで変わってしまうし、飯やトイレの前後での体重の変動よりも小さいわけで、劇的に何かが変わると期待する方が無理がある。とはいえ、実際に軽くなっているのは確かなわけで、274gなりには加速性能や登坂性能が良くなっているはずだ。鋼鉄よりもカーボンの方が剛性が低いので衝撃吸収性が良いという話だが、こちらも実感できるほどではない。70kgとかの体重に何Gかかけたところでシートポストが大きくたわむほどの衝撃にはならないし、衝撃吸収に関してはリアサスペンションブロックが良い仕事をしてくれるので、そもそもシートポストにそれを期待する必要はない。

このシートポストで最も便利さを感じたのは、シート高の調整目盛りだ。純正ではこれがないので、折り畳みを展開する度にシート高を試行錯誤で調整する必要があった。乗ってみて違和感があったら高くしたり低くしたりするのが面倒なのだ。目盛があれば、自分の好みの高さに一撃で設定できる。純正でなぜつけてくれないのか理解に苦しむほど、この目盛りは便利だ。目盛りが前側に来るか後ろ側に来るかは選択できるが、前側がおすすめだ。走りながらシートポストが下がっていないかを確認できるからだ。

ところで、カスタマイズをする際には、なぜ純正で元来そうなっていないのかを考えることが重要だ。カーボンのパイプなんて今どきそんなにコストをかけずに作れるのに、なぜ純正では未だに鋼鉄のシートポストを使っているのか。それは耐久性を追求しているからだ。最高級のTラインではカーボンのシートポストを採用したが、それでも表面は鉄のシートで覆っている。つまり、表面の硬度が重要なのだ。カーボンの硬度は鋼鉄に比べると著しく低く、摩擦が大きい場所で使うのには向かない。ブロンプトンは折り畳みや展開の度にシートポストが擦れるし、走行時の振動でもシートポストは摩擦され続ける。ゆえに、カーボンシートポストはしばらく使っていると表面が削れて痩せていってしまう。実際、新品をつけて50kmほど走ったところで、既に微妙に表面が削れている感じがわかる。自転車を柵などに立てかける際にシートポストが固いものに触れた場合でも、シートポスト側に容易に傷がつく。強度は強くても硬度が弱いというのが如実にわかる。所詮は鉛筆の芯の仲間で、ノコギリで簡単に切れてしまう材料だ。

締め込み部がこんなにすぐ削れてしまっては、1年も持たなそうだ。なので、対策を考えた。折り畳みや展開の際にシートポストの全体が擦れることについては、フレーム側を広げる上述の措置である程度対策できている。レバーで締め付けた際にフレーム側が狭く変形していかないように、レバーによる締め付けはできるだけ弱くしたいところだ。しかし、締め付けが弱くて走行中にシートポストがずれる事態になると、その際の摩擦でシートポストが削れてしまう。そこで、シートポスト側に透明ラッカーを吹き付けて太くすることにした。まずはシートポスト全体に軽く紙やすりをかけてから、全体にラッカーを吹き付ける。これは太くなるほどはやらずに、薄く全体をやる。色味や質感を合わせるためと、全体的な傷の耐性を上げるためだ。満遍なく塗布するには、遠くから吹いて、根気良く何度も異なる方向から吹くのが大事だ。

次に、締め付け箇所だけを太くしていく。他の箇所を太くすると、組み立てや展開の際にシートポストを動かすのが大変になるからだ。締め付け箇所に吹き付けたラッカーは次第に削れてくるだろうが、削れた分だけまた吹き付ければいい。また、締め付け部の少し上に、締め付け部よりほんの少し分厚いラッカーの層を設ける。そうすると、フレームがそこに引っかかってそれ以上ずれなくなる。

ひっかかり部を作るということは、ひっかかり部の設定よりシート高を低くして運用することを困難にすることを意味している。よって、まずは自分にとって最適なシート高がどれくらいであるかを念入りに調べておくべきだ。いろいろ試した結論としては、股下74cmの私は目盛りが1のところが最も力を伝達しやすい。ペダルの下視点で脚が伸び切る少し前になる高さだ。もっと高い方が短期的には早く漕げる感じがするのだが、そうすると漕いでいる際に脚を伸ばす動作で尻が若干左右にずれることで、ロングライドで尻が痛くなるリスクが高まる。尻の持続性を考えれば脚力の最適解よりも10mmほど低くした方がよく、やはり目盛りが1のところが最適だ。よって、1のところを引っかかり部にすることにした。

現実的には、0.05mmとかの厚さを設定して塗料を吹き付ける技術は素人にはない。よって、試行錯誤しながら調整していくことになる。まずは、マスキングテープで他の部分を被覆しつつ、ひっかけ部だけにラッカーの層を作る。次の工程で少し厚くなるので、この時点では薄めにしておく。乾いたら、下側のマスキングテープだけを剥がして、気持ち程度、非常に薄めに、締め付け部とひっかかり部の双方にラッカーを吹き付ける。やりすぎるとシートポストがきつくなりすぎるので、本当に軽くでいい。厚さが足りなければ後で足せるが、やりすぎたのを削ってやり直すのは面倒だ。

完成するとこんな感じになる。見た目ではほとんどラッカーの層がわからないが、目盛り1の部分がひっかけ部と締め付け部の境界になっている。走行する際には、その境界とフレームの上端を一致させるようにシートポストの高さを設定する。

この状態でしばらく運用しているが、レバーによる締め込みをあまりきつくしなくても、走っているうちにシートポストが下がってくることがなくなった。また、シートポストが走行中にずれることがなくなると、それによる摩耗も抑制されるので、締め付け部のラッカーが剥がれることも今のところはない。それでいて、折り畳みや展開の際にはシートポストが円滑に動かせるので、ストレスなく使えるようになった。ラッカーより強い塗料も探せばあるんだろうけど、弱くていい。最も脆弱なラッカーがまず削れることでシートポストスリーブが削れることを防ぎ、次に脆弱なシートポストスリーブが削れることでシートポストが削れることを防ぐという企図だ。そのはずなのだが、シートポストスリーブの値段の方がシートポストの値段より高いので、なおさらラッカーが弱い方がいいということになる。削れた分を吹き付け直すのは手間になるが。

まとめ。ブロンプトンのシートポストをカーボン製のものに換装して軽量化を果たし、目盛りもついてめっちゃ使いやすくなった。シートポストがずれたり摩耗したりする問題は、ラッカーを吹き付けることで対処できた。こんなにうまくいくならもっと早くやればよかった。博打になりがちな無名中華パーツも、当たれば悪くない。とはいえ、長期的に運用してどうなるかは、時を追って見極めるべきだろう。