豪鬼メモ

一瞬千撃

ブロンプトンに三ヶ島ペダルとトウクリップを装着

ブロンプトンのペダルを換装して、三ヶ島の取り外しのできるペダルにするともに、ハーフのトウクリップでつま先を固定できるようにした。利便性と走行性能を両立させた設定になった。


ブロンプトンの純正ペダルは、右は普通のペダルだが、左は折り畳めるようになっている。ペダルの折り畳み方が秀逸で、クランクと一直線になってかなりコンパクトになるので、持ち運びがかなり楽になる画期的なものだ。しかし、折り畳み機構がある分、ペダルの根本がでっぱってしまい、左足だけ2cmくらい外側に足を置いて漕がなければならない。普通に走る分には気にならないのだが、ガチのサイクリストはQファクター(クランクの左右の間隔 ≒ 股の開き量)を念入りに調整するくらいなので、ペダルに起因する2cmもの左右差は何とかしたいところだ。また、右ペダルより左ペダルの方が断然重いので、走行時にペダルの回転による慣性力が相殺されなかったり、停止時に足を乗っけていない状態で勝手に左ペダルが下がったりするのも惜しいところだ。

ならば、ペダルの折り畳み機構を捨てて、取り外し式にすればよいと、誰かが考えたのだろう。折り畳み自転車用かどうかは知らないが、工具なしで簡単に取り外せるペダルはいくつかのメーカーから市販されている。中でも、三ヶ島ペダル(MKS)のものは性能もいいし、ラインナップも充実していて、ブロンプトン界隈では有名だ。ブロンプトンの純正ペダルは思いっきり空回しすると2秒くらい動き続けるが、三ヶ島のものは6秒以上回るらしい。つまり機械損失が小さく、楽に回せるということだ。それに、私の地元所沢の工場なので、ちょっと応援したいというのもある。

三ヶ島ペダルの製品は数多くあるのだが、Ezy Superiorという接尾辞がついているのが、取り外しができるモデルだ。EzyとEzy Superiorがあるのだが、若干安いEzyは取り外しと取り付けの作業に手間がかかるので、高くても2秒で作業ができるEzy Superiorを選んだ方がよい。また、私はトウクリップを装着したかったので、トウクリップ専用設計であるUrban Platformを選んだ。定価10857円らしいが、Amazonで7599円で買えた。トウクリップは同じく三ヶ島のケージクリップハーフにした。Amazonで2848円。これはいわゆるハーフクリップというやつで、足先だけを若干固定してくれるものだ。

取り付けには薄型(厚さ4mm以下)の15mmレンチが必要だ。固着を防止するためにねじ山にグリスをつけてから取り付ける。強く締め込まなくても外れないので、むしろ外す時のことを考えて弱めの締め方でいい。さて、取り付けて足を乗せてみたところ、トウクリップが微妙に内側に寄っている気がする。トウクリップはペダルの真ん中につけたつもりなのにだ。原因は、足幅が広いからだ。典型的な幅広甲高の足を持つ私は、ミズノのスーパーワイド(4E)のスニーカーを愛用している。結果として、靴底が若干普通の人より幅広になり、内側がクランクに擦りそうになっている。擦ったとしても別に事故になるわけじゃないのだが、擦った状態では抵抗になるし、擦らないように気をつけて乗るのがストレスだ。

幸いなことに、トウクリップの取り付け位置には遊びがあるので、最も外側につけることで、スーパーワイドにもちょうど良い位置にすることができた。こんな感じの取り付け位置になる。これで取り付けたところ、いい感じになった。

これで準備万端。目黒から相模原に東進して、そこから神奈川県を縦断して茅ヶ崎まで行って、海岸沿いに逗子まで行くという、100km強のサイクリングに出掛けてきた。文字通りの酷暑だったが、そこそこのスピードで走っていると走行風が涼しいので、適切に水分補給をする限り、熱中症になるほどではない。



街乗りのストップ&ゴーも幹線道路の平地巡行も丘陵部の登坂も一通りしたところ、確かにちょっと楽に走れるようになったというのが感想だ。ペダルが回転しやすくなった分でほんの少しだけ乗り味が軽くなった。純正だと左足の底がペダルの折り畳み機構に当たって違和感があったが、それがなくなっただけでも気が楽だ。その上で、特に軽いギアをクルクルと回している時に、ペダルの抵抗が以前より軽くなったように感じる。ただ、体感できる抵抗の差はプラセボと言われても仕方がないくらい微妙な差だ。

走行性能により重大な違いをもたらすのは、トウクリップである。トウクリップは乗り出しの際に所定位置に足を突っ込むのが若干面倒なのだが、Urban Platformはペダルの後ろにベロがついているので、そこを踏んでペダルを起こしてからスッと足を入れる所作に慣れると、それほど苦ではない。ビンディングペダルと違って普通の靴で使えるし、簡単に外れるので立ちゴケの不安がないのが何よりの魅力だ。そして、トウクリップの導入により、フラットペダルでも引き足が使えることになり、出力が上がることが期待できる。ただし、トウクリップで可能になる引き足は、ビンディングペダルによる引き足とは全く違う、おまけ程度のものだ。ビンディングペダルの簡易版のような期待をすると全く期待外れになる。フラットペダルの踏み方の範疇でより効率的なペダリングをするためのおまけだと考えた方がいい。

フラットペダルの場合、クランクが2時から4時までパワーゾーンで100%の踏み込みをするが、それ以外の位置ではほとんど力を加えられない。そして、6時から12時までの全く踏み込みをしていない場所では、ペダルの勢いを殺さないように引き足をすることが望ましい。加速もしないが邪魔もしない引き足である。ただし、ペダルと全く同じ速度で足を持ち上げると誤差によりペダルと足が離れてしまうので、引き足をしつつも若干だがペダルに足を押し上げさせる必要がある。それはどうしてもクランクに負のトルクを与えることになってしまう。足一本の重さは成人男性で12kgくらいらしいが、3時の位置で楽に踏んで12kgの力をクランクにかけているとして、逆の足の引き足は11.5kgの力で持ち上げて0.5kgをペダルに押させているなら、全体としては11.5kgの仕事になる。パワーゾーンの仕事を100%とした場合のクランク角毎の仕事量のイメージは以下のような感じか。

トウクリップをつけると、引き足をしてもペダルと足が離れる心配がないため。理想的なペダリングスキルがあれば、加速もしないが邪魔もしない引き足を完璧な形で実現することができる。その上で、若干ながら加速する仕事をさせられたら御の字といった感じだ。さらに、トウクリップはペダルを前方向に押しやすい構造になっているため、上死点の12時より前から足を前方向に押し出す「押し足」を使うことで加速することができる。12時で押し出している際には逆側の足は6時の完全デッドゾーンであるため、そこでの速度低下を補填することになり、ペダルが1回転する間の速度の変動を抑える効果が期待できる。等速巡行時には、デッドゾーンでの減速が抑えられればパワーゾーンで必要とされる加速も小さくなり、筋肉疲労を分散して楽に走れることになる。

ビンディングペダルだったら、6時の下死点付近では「靴裏についたガムを引きずるように」足を後ろに引いて力を入れられるし、9時付近では「股関節を畳むように」膝を引き上げて力を入れられるし、12時の上死点付近では「玉乗りで後ろ方向に歩いて玉を進めるように」足を前に押して力を入れられる。しかし、トウクリップでは事情が違う。6時から7時あたりでは足の裏とペダルを固定する力はゼロになるので、絶対に力が入れられない。もし足の裏とペダルがここで圧着しているなら、それは接線方向ではなく法線方向の力に他ならず、ペダリング効率を悪化させるだけだ。よって、下死点付近での入力は潔く諦めて、ペダルと全く同じ速度で足を後ろに運ぶしかない(追記:ペダルを改良したら少しマシになった)。8時くらいになると足のつま先とトウクリップが圧着するので、接線方向へ足を引き上げることでほんの少し入力ができる。10時を過ぎるとトウクリップが足を固定する力は最大になるので、玉乗りの要領で足を前に押す入力が可能になる。例えるなら、ビンディングペダルでの入力受付時間の形状は「○」だが、トウクリップでの入力受付時間の形状は「つ」であり、普通のフラットペダルの入力受付時間の形状は「)」ってところか。

実際には、ペダルの都合として入力が可能かどうかだけではなく、運転者の筋肉や関節の都合も考慮する必要がある。私の認識では、非常に単純化すると、次のような筋肉の使い方をする。9時から12時は主に股間周辺の腸腰筋を使って股関節を縮める。12時から3時は主に尻の後ろの大臀筋を使って股関節を伸ばす。3時から6時は主に太腿の前の大腿四頭筋を使って膝関節を伸ばす。6時から9時は主に太腿の後ろの大腿二頭筋を使って膝関節を縮める。もちろん、実際にはここで名前を上げたもの以外の筋肉や関節も動員されているし、12時や3時とかのクランク角で使う筋肉が急に切り替わるのではなく、各々の筋肉の働きの強さはクランク角に応じてフェードインとフェードアウトする。とはいえ、単純化したモデルの方が覚えやすい。使う筋肉を覚えておくと、使っている筋肉を意識しながら動かすと大きな仕事ができるという「意識性の法則」に乗っかってペダリングをするのに都合がいい。意識と反応には時間差があるので、私は1時間前のクランク角で意識を切り替えることにしている。つまり、8時に股間を意識しつつ上に引き始めて、11時に尻を意識しつつ前に押し始めて、2時に太腿前部を意識しつつ下に踏み込み始めて、5時に太腿後部を意識しつつ後ろに引き始める。とはいえ、トウクリップはビンディングではないので、力強く回すというよりは弱い力で綺麗に回す感じになる。

上述のトウクリップなしの数値を単純に足すと0+50+100+100+100+50+0-2-4-4-4-2=384となり、トウクリップありの数値を単純に足すと10+60+100+100+100+50+0+0+2+2+3+5=432となるので、10%くらい出力が向上することになる。これらの数値は単に私の主観というか願望なので科学的とは言い難いのだが、トウクリップがうまく使いこなせれば10%以上の出力向上があっても不思議ではないと感じている。無風で平坦なら引き足と押し足を意識するだけで巡行速度が25kmとか普通に出るようになる。もちろん引き足と押し足の所作でより多くの筋肉を使うことになるので、その10%は疲労として加算され、タダで出力が向上するわけではない。しかし、馬力が10%も上がるというのは、最高速が目に見えて上がることをも意味するので、サイクリストとして楽しくないはずがない。現実的には小径車でスプリント的な走りはあまりしないが、馬力が上がって嬉しい状況はそれだけではない。登坂時に最も嬉しいだろう。引き足なしの踏み込みではケイデンスが低くなって止まりそうになる時に、少々無理してでも強めの引き足で馬力を上げてケイデンスを回復させて、坂を乗り切るのだ。実際、トウクリップの押し足と引き足を使うと今までシッティングでは登れなかった坂もシッティングのままでいけるようになる。ただ、やっぱり無理目の押し足と引き足をすると各部の疲労が大きくなるので、ここぞというときの保険的な位置付けだ。

繰り返しになるが、トウクリップを使って強く加速する意識を持つと単に漕ぎにくくて疲れることになる。あくまで邪魔しない引き足と少しの押し足の補助をするための装置だ。引き足の際には、足の親指がほんの少しクリップにかかっているとか、足の母指球がほんの少しペダルから浮きそうになる感覚があればいい。押し足の際には、つま先が少しクリップを押している感覚があればいい。特にハーフクリップでは足の甲は固定されていないため、無理やり引き足で加速しようとすると足の甲をひん曲げる力がかかって足が攣りそうになってしまう。硬めの靴を履くとマシにはなるが、靴を選ぶならSPDにしろという話になりかねないので、あくまで普通のスニーカーで快適に乗れる方法を探りたい。むしろ、トウクリップをつけているからって追加的な加速を意識して漕ぐ必要なんてないのだ。単に足がペダルからずれにくくするための装置だと思ってもいいくらいだ。ハーフクリップよりはフルサイズのトウクリップの方が引き足の能力は高いだろうが、いずれにしてもビンディングペダルの能力には遠く及ばないので、あくまで補助だと割り切るべきだ。そう考えると、足のつけ外しが楽な分、フルサイズよりハーフの方が魅力的だ。

さて、ブロンプトン+着脱式ペダルの場合、トウクリップをつけるとめっちゃ良いことがある。折り畳みの際に、トウクリップでペダルを車体にひっかけておけば、取り外したペダルの持ち運びが楽になる。別の袋でペダルを持ち運んだり、専用のペダルホルダーやペダルバッグを車体に取り付ける必要がない。

ひっかけるだけだと揺らしたり逆さまにしたりしたら落ちちゃうじゃないかと心配になる人もいるかもしれない。実際にはひっかけるだけでもよほどのことがないと落ちないと思うが、念のために私はマジックテープで固定できるようにしている。フロントのギアを大口径に換装した際にブレーキワイヤとシフトワイヤが車体から離れてギアに触れるのを防ぐために車体とワイヤをタイラップでまとめるようにしていたのだが、そのタイラップと車体の間にマジックテープを滑り込ませておく。走行時にはそれは適当に巻いたままにしておいて、折り畳み時にはそれを広げてトウクリップを包む。トウクリップの三本の骨を普通に包んでもよいのだが、マジックテープの上側を上・下・上と縫うように通すと安心だ。これで全くずれないし、どんなに揺らしても落ちないし、トウクリップと車体が擦れて傷つくこともない。タイラップもマジックテープも100均で買えるし、追加される重さも10g以下で済む。

100均で売っているケーブル用のシリコンバンドを使うのも一興だ。マジックテープだと粘着力がだんだん落ちてくるので、こちらの方が無難かもしれない。要は、車体のフレームにタイラップを巻いて取っ掛かりを作っておけば、適当な紐でもバンドでも使って固定できるということだ。

ところで、トウクリップをつけたら折り畳み時に右側のペダルはどうなるのか。ペダルの収納位置が若干後ろ側に飛び出ることになるが、それはサドルの収納位置よりは内側であるため、全体の収納サイズが大きくなることはない。ハーフクリップよりはフルサイズのトウクリップの方が大きく後ろに出ることになるから、その点でもハーフクリップの方がブロンプトンに合っている。右型のペダルも外して車体に引っ掛けるという手もあるけども。

さらにおまけの利点だが、ペダルが下死点付近にあると吊り下げたトウクリップが地面を擦るのを逆に利用して、スタンドとして使うことができる。トウクリップの角度をうまいこと調整すると、車体の重さを支えられるようになるのだ。風が吹くと倒れるような支持力なので長時間放置するわけにはいかないが、ちょっと写真を撮るのとかには便利だ。

まとめ。ブロンプトンと三ヶ島の取り外し式ペダルとハーフクリップの組み合わせはとても相性が良い。ペダルを変えたからって劇的に走行性能が上がるわけではないのだが、購入金額以外には特にデメリットもなく性能が向上するので、小遣いが余ったらやる価値はある。トウクリップをつけるか普通のペダルにするのかは悩ましいところだが、長距離を乗ることがあるならトウクリップの利点を享受できると思う。トウクリップをつけると折り畳み時に車体にひっかけられるのも利点だ。追記:スペーサーで深さを調整するとさらに使いやすくなる。