豪鬼メモ

一瞬千撃

今さらE-M5 Mark3を購入

今さらながら、Olympus OM-D E-M5 Mark3を買った。しばらく使ってみて、自分に必要な機能と性能を備えたものの中ではおそらく最小かつ最適のカメラだなと思った。

背景:E-M10も良かったが

E-M10(初代)を購入して10年も経った。前々から壊れかけていたところを騙し騙し今まで使ってきたが、ついに撮影不能になってしまった。外皮が剥がれ、グリップとバッテリー室の蓋とリアダイアルが外れ、リアダイアルも外れて操作できなくなり、バッテリーは消耗しきっていて100枚も撮れず、内部電池も死にかけていてしょっちゅう時計が狂い、チルト液晶を動かすとなぜかフリーズし、何もせずとも不意に電源が切れるという、不具合のデパートのような状態であったが、いちおう撮影はできたので、最近まで現役であった。しかし、SDカードを認識しなくなり、ついにお役御免となった。


隠しコマンドで確認したところ、なんと今まで24万8千回もシャッターを切っていた。メカシャッターでこの回数動かせるとは、なかなかなものだ。働き者よ、今まで本当にありがとう。

カメラを買い替えねばならない。壊れたカメラを使い続けた身としては、期待値が非常に低くなっていて、写りさえすれば幸せになれる。なので、中古のE-M10を買い増しすることも考えたが、多少は金を出してより良い撮影体験を追求する気にもなった。E-M10には概して満足していたのだが、敢えて言えば以下の点を改善したかった。

  • 素数が1600万しかない
  • 防塵防滴じゃない
  • 電子シャッターがない

素数は普通に撮る分には1600万あれば十分だが、単焦点派である私はトリミングをよくする。トリミング耐性を上げるには画素数が多ければ多いほど良い。また、私は主にサイクリングしながら写真を撮るので、多少の雨や汗や埃でカメラが壊れてしまっては困る。おそらくE-M10に起きた故障の原因の一部は水気によるものだろうから、防塵防滴は欲しいところだ。カメラを買い替えるなら、この二つの要件は絶対だ。

電子シャッターも欲しい。E-M10は電子先幕シャッターを実装していながら完全電子シャッター(静音シャッター)が実装されていないという謎仕様だった。動き物をあまり撮らない私としては、そもそもメカシャッターが必要なことがほとんどない。風景を撮るにしても、食事などのテーブルフォトを撮るにしてもだ。メカシャッターだとシャッター音が意外にうるさいので、ラーメン屋ですら何回もシャッターを切るのは憚られるが、電子シャッターならその心配がない。

また、リアダイアルが壊れてからできなくなっていた擬似STFモードでの撮影もやりたい。擬似STFモードをするには絞りブラケットが必要だが、ほとんどのカメラではそれが実装されていないので、Sモード(SS固定モード/Tvモード)で露出ブラケット(AEブラケット)をして、絞りを変えて露出を調整させることが必要だ。また、ブラケット撮影をするので、連写速度が速いほど良く、シャッターショックがない静音シャッターの方が望ましい。

以上の要求を満たす最も古いカメラを探したところ、E-M5 Mark3が最適ということになった。画素数2000万で、防塵防滴で、電子シャッター装備で、静音連写速度30コマ/秒だ。なぜ古い方が良いかというと、中古の市場価格が安いからだ。並品なら8万円以下で手に入る。結局、ソフマップの78480円+送料550円のをポチった。付属品はフラッシュも含めて全て揃っていた。箱がない分だけちょっと安くなっていて、箱なんてすぐ捨てるのでむしろ良かった。壊れるまで使うからリセールバリューとかはどうでもいい。レンズは既存のものを使いまわせるので、これが最低限の出費だ。中古で精密機器を買うのはリスクが高いが、大手なら致命的不具合があれば返品できるので、オークションサイトで個人と取引するよりは幾分ましだ。

欲を言えば、ソニーのα7c2が欲しい気持ちもあった。画素数3300万で、防塵防滴(に配慮した設計)で、フルサイズかつEVF付きの割には筐体が小さい。ただし、価格が中古でも25万円くらいで、加えてレンズも買えば合わせて30万円くらいの出費になってしまうので、諦めた。また、カメラ内現像ができないのも不便で、連写速度も10コマ/秒なのでE-M5M3に劣る。重量の観点でもE-M5M3の方が有利だ。

可搬性のことを言うならばリコーGR3xの方が圧倒的に優れていて、価格も13万円くらいで手頃なので、そちらも迷った。しかし、機能性ではレンズ交換ができる機種に劣る。換算40mm画角だけあれば日常生活の多くの状況を撮影するのに便利だろうが、旅のお供にもすることを考えると、潰しが効かない感がある。足を使うって言っても、遠くの山には近づけないし、猫は近づけば逃げてしまうし、風景のパノラマは広角でないと収められない。総合的に考えると、廉価なM43のカメラにF1.8の広角、標準、中望遠の単焦点を組み合わせるのが最強と思う。

実製品の考察:必要十分な機能と性能が最小の筐体に

製品が届いた。筐体にも液晶にもEVFにも傷はなく、かなりの美品だった。並品扱いだったのに意外だ。おそらく、底面端子のカバーがついていなかったのが並品である理由かな。このカバーはどうせすぐ外れてなくなるっぽいから要らないけど。EVF内に埃が入っているというのはよくある話だが、今回は幸にしてそれも大丈夫だった。総じて、満足いく取引であった。

隠しコマンドでシャッター回数を調べたところ、2178回であった。つまり、あんまり使われていないものが売り出されていたようだ。運が良かった。

E-M5シリーズは、ハイエンドのE-M1とローエンドのE-M10の間の位置付けで、一言で言えば、全てが丁度良い。E-M1(OM-1)シリーズは玄人向けに最適化されていて、筐体がでかすぎて重すぎる。小さい単焦点レンズを主に使う私としては、でかいグリップは不要だ。ハイエンド機は当然価格も高い。一方、E-M10シリーズのM3以降は初心者向けに最適化されていて、筐体が小さいのはいいが、防塵防滴がないのと、UIがまどろっこしいのがいただけない。プリセットされた「撮影シーン」を選ぶのが主なUIになっていて、細かい調整がとにかくしにくいのだ。AEブラケット撮影の調整ができなかったり、設定メモリ機能が貧弱だったりするのも、私の使い方では辛い。

E-M5は、筐体のサイズはE-M10とほぼ同じでありつつ、E-M1と同じく防塵防滴で、E-M1とほぼ同じ機能を有している。私にとっては、双方の良い所取りの機種に感じる。筐体の材質がE-M5M2ではマグネシウム合金だったのがM3になってプラスチックになったらしいが、同じくプラスチックのE-M10を使っていたので違和感はない。むしろ軽くて良いくらいだ。像面位相差センサーでAFが高速化したのも素晴らしい。ハイレゾ機能で8000万画素の画像が作れるとかの付加的な機能は、嬉しいっちゃあ嬉しいのだが、比較的どうでもいい。通常撮影に必要な機能がE-M10に比べるとかなり底上げされているのが真に嬉しいところだ。

ファインダーが倍率1.37倍かつ236万ドットになった。初代E-M10は1.14倍かつ144万ドットだったので、構図を確認するのには十分だが、ファインダーを長時間覗いてシャッターチャンスを待ったり、ピントを調整したりするのには力不足であった。E-M5M3では、大きく改善して、ほぼファインダーだけ見ながら撮影を進めることができるようになった。液晶から有機LEDになったのでダイナミックレンジも上がっていて、かなり明瞭に見える。最新機種(OM-1は1.65倍かつ576万画素)に比べると倍率も解像度も断然劣るが、私の期待値が低いので、不満に感じるほどではない。あと、ディオプタのダイアルがE-M10に比べて回しづらくなっていて、+-0の基準点の突起もなくなっている。ディオプタの調整操作はしづらくなっているのだが、ディオプタの調整はめったにしないので、むしろ勝手に回りづらくなっているのは美点だ。

一方で、背面モニタは初代E-M10もE-M5M3も104万ドットで変わらず、ザラザラな画面である。とはいえ、それで困るかというとそうでもない。構図が確認できて、拡大表示してピントの確認もちゃんとできるので、モニタの解像度が多少低くても問題はない。もちろん解像度が高いに越したことはないけれど。

それより、背面モニターの稼働方式がチルト式でなくバリアングル方式になったのがかなり残念だ。私は横(ランドスケープ)枠で撮ることの方が圧倒的に多いので、その際にちょっと高い位置やちょっと低い位置で撮るのにいちいちバリアングルを開くのが面倒くさい。しかもバリアングルを開くと自分の目線とカメラ光軸が大きくずれるので、気持ち悪い。慣れの問題だと分かってはいるが、やっぱチルトが良かった。自転車に乗りながら使えばチルトの便利さとバリアングルの気持ち悪さが分かってもらえると思う。

背面モニタはタッチ操作対応なのだが、これは断然オフにした方がいい。タッチでAFを合わせてシャッターを切るのは最初は楽しいのだが、いずれ使わなくなる。不意に触ってしまって誤動作するのがだんだん鬱陶しくなってくる。また、タッチパネルが有効になっていると、タッチ操作切り替えのボタンとか、スマホ接続ボタンとかが画面に表示されて邪魔だ。タッチパネルを無効化すればそれらは表示されなくなる。タッチパネルでモード切り替えやスマホ接続の機能を呼び出す必然性はないと私は感じるところだが、基本的にタッチパネル操作はカメラに慣れていない人々のためにあるわけで、このUIは合理的と思う。

E-M5M3の手ぶれ補正は5軸5.5段分であり、これは初代E-M10の3軸3.5段に比べるとかなりの進化だ。3軸から5軸になったことで、筐体の上下の揺れが吸収されるので、テーブルフォトなどで近接撮影をする際の安定感が増す。そして、2段違うということは、SSを4倍遅くしても大丈夫だということだ。手ぶれ補正なしと比べれば、SSを45.25倍遅くしても良いことになる。飯撮りの際には被写界深度を深くすべくF8とかまで絞るので、その際に手ぶれ補正が効果的なのは有難い。実際のところ、露光時間1秒くらいならほぼぶれない写真が撮れる。最新機種の手ぶれ補正8段とかには及ばないが、標準画角や中望遠画角で撮る分には5.5段もあれば十分だと思う。以下の作例は25mm(換算50mm画角)でSS2秒と1.6秒で撮ったが、ブレが全く視認できない。

OM-Dシリーズに共通のことだが、ダイアルが2個ついていて、それぞれ露出補正と絞りの変更に使えるのは非常に使いやすい。ソニー機のように露出補正専用ダイアルだと、電源オフで露出補正が設定値に戻らないのが気になるが、多機能ダイアルだとその問題がない。私は基本的にAモード(のカスタムモード)で撮り、設定メモリ機能でF2.8かつ露出補正-0.3になるように設定している。電源を入れたら常にその状態になるのが重要で、そこからちょっと被写界深度を狭めたり、露出を上げたりといったことが、画面を確認しなくても指先だけでできるようになっている。なぜ暗めに撮るかと言うと、RAW撮影を前提としていて、後処理で持ち上げればいいからだ。明るすぎて白飛びしたピクセルは回復できないが、暗すぎる場合は大抵なんとかなる。

背面の十字キーがフォーカスエリアの移動に直接使えるのは必須だ。初代E-M10はそう設定できるので気に入っていたのだが、私の父が使っているE-M10 Mark4ではそれができなくなっていて非常に残念に思った。デフォルトで初心者向けに最適化するのはいいけど、中級者以上なら普通使うような機能をなぜ削るのかと憤慨したものだ。Penシリーズも同じ理由でダメだ。E-M5ではそんなことはなく、十字キーで普通にフォーカス移動できる。フォーカスエリアを変えるという操作は最も頻繁に行うことなので、それを一撃でできるのは非常に重要だ。ただ、一点だけ残念なのは、通常のライブビュー状態から十字キーを最初に押した際に、現在のフォーカスエリアが表示されるだけで、移動がなされないことだ。つまり、エリアをN個分動かしたい時は、ボタンをN+1回押す必要がある。初代E-M10では最初の押下も移動入力になっていたのでN回で済んでいたのだが、なぜかその点が改悪されている。一瞬バグかと思ったが、多分仕様なのだろう。私としては、この変更で既存ユーザからクレームが出なかったのか不思議なくらいだ。このせいで被写体の動きや構図の変化への反応が毎回0.2秒くらい遅れるわけで、普通にイラッとするだろう。N+1回押さなきゃならないと、フォーカスエリア専用の十字キーがない場合(左を押してフォーカスエリア操作モードに入ってから任意の方向のボタンを押す必要がある)と押下回数が変わらないのだ。新しい動作を導入するのはいいけど、旧来の動作も選べるようにして欲しかったところだ。

初代E-M10ではダイアルの任意の位置にカスタムモードを割り当てられたが、E-M5M3ではそれはできなくなっている。ダイアルをCに合わせるとカスタムモード1が呼び出されるようになっているが、カスタムモード2以降はメニューから呼び出さねばならない。また、カスタムモード1以外のカスタム設定の記録内容に露出モードが含まれなくなったので、Aモードで作ったカスタムモード1を割り当てたダイアルCにて、Sモードで作ったカスタムモード2を呼び出しても、露出モードはAのままだ。うぬぬ。既存のモードを上書きするのは確かに攻めすぎな気もしていたが、それを無くすならせめてC1とC2の二つくらいはダイアルにしてほしかった。ただし、止まり物と動き物の切り替えであれば、Fnレバーが使える。Fnレバー1にはAF-Sのシングルターゲットを設定して、Fnレバー2にはAF-Cの9点グループターゲットを設定しておけば、咄嗟に犬猫や鳥や飛行機が撮りたくなった時にも対応できる(連射への切り替えはドライブモードボタンを押してやる必要があり、できればドライブモードの変更もFnレバーに紐付けられるようにしてほしかったが)。それにしても、モードダイアルが既にモーダルUIなのに、Fnレバーでさらにサブモード的な概念を導入するとは、複雑さここに極まれりと言ったところだ。viエディタかスト4のゲンか。慣れると確かに強力なのだが、ユーザ層がかなりエンスー寄りじゃないとできないことだろう。

オリンパス機の設定メニューの構成は使いにくいと評価する人もちらほらいるが、全ての設定を網羅したメニューの構成が複雑怪奇になって使いにくくなるのはどのメーカーも同じだ。ソニー機のメニューも使いにくいし、店頭で試した限りニコン機もキヤノン機も複雑のなのは変わりない。たまにしか使わない設定メニューの構成は多少複雑でも構わない。それより、撮影時に使うコントロールパネルの使い勝手が大事だ。OKボタンで呼び出せるスーパーコントロールパネルは、かなり使いやすい方だと思う。現在の設定が一目でわかるし、個々の設定を個別に変更することも容易だ。

サムグリップの出っ張りが大きくなっていて、片手でも筐体が保持しやすくなっているのが素晴らしい。どのみちEVFのアイポイントが出っ張っているわけだから、その高さくらいまではサムグリップを出っ張らせても収納性は変わらない。フロントグリップが小さいのをここで補ってくれているので、そこそこ重いレンズをつけても片手で保持できるはずだ。私はでかいレンズを持ってないけど。

サムグリップの上にはISOボタンがあるのだが、これは興味深い。私も含めて多くのユーザはISOをオートのままで使うので、なんでこんな一等地にISOボタンがあるのかと理解に苦しむかもしれない。しかし、感度は絞りとSSと並んで露出の三要素の一つなので、それを絞りやSSを変えるダイアルの近くに置くのは合理的とも言える。ISOボタンを押してから十字ボタンを押して変更操作をするとなると、一等地にISOボタンがある意味がないと一瞬戸惑うが、ISOボタンを押してからフロントダイアルで変更操作をするのが正解だ。ダイアルで操作するからこそ、ダイアルの近くにISOボタンがある。これは、中級者以上なら状況と撮影意図に応じてISOを設定して最適化してほしいという開発者からのメッセージだと思われる。

最高SSが速くなったのは地味に嬉しい。本機ではメカシャッターの最高SSが1/8000秒で、電子シャッターの最高SSが1/32000秒だ。E-M10ではメカシャッターしかなくて最高SSが1/4000秒だったので、それからするとかなりの進化だ。晴天の日中でF1.8で撮影しようとすると、SSが1/4000秒では感度を拡張であるISO100に落としても適正露出にならないことがあるが、1/8000秒だとまずそれがない。たった1段の違いだが、実用上はかなり意味がある。万が一1/8000秒でも足りなければ、電子シャッターに切り替えればいい。SSが足りない事態は結構なストレスだったので、それが皆無になったのは嬉しい。

像面位相差AFがついたのでC-AFを使ってみたが、期待通り速い。E-M10のC-AFは全く使い物にならなかったので、電車や走る子供などの動きものは今まで置きピン連写で撮っていたが、E-M5M3ならば主要被写体をC-AFで追従しても撮れる。置きピンだと、予め決めたピント面に主要被写体が来た時に画面内でどの程度の大きさになっているかを予想するのが大変だったのだが、C-AFで追う方法ならその必要がないので、成功率が飛躍的に高まる。C-AFと連写Lを組み合わせれば、前後に動く乗用車や電車くらいなら何とか撮れる。

基本的にAF-SではコントラストAFが働き、AF-Cでは位相差AFが働くらしい。合焦速度は圧倒的に位相差AFが速いので、AF-Sでも位相差AFを使えばいいのにと思うところだが、おそらくコントラストAFの方が精度が高いから使い分けているのだろう。実際、AFのターゲットを狭くすると、AF-Cではピントが合わないのにAF-Sでは合うということはよくある。コントラストが低めの被写体の場合は特にそうだ。なので、止まり物はAF-S、動き物はAF-Cという使い分けは相変わらず必要になる。AF-Sでも初動だけは位相差AFで方向を決めて高速化していると開発者のインタビューに書いてあったが、そう言われてみるとAF-Sもほんの少し高速化しているような気がしなくもない。ただ、もともとAF-Sも止まり物に対しては十分すぎるほど早かったので、違いがいまいち分からないのが正直なところだ。

AF-SにはAF-S+MFという変種があり、AFを動作させた状態でレンズのピントリングを動かしてピントを微調整することができる。これは花の雌しべにピントを合わせたい時などに便利だ。また、AF-CにはAF-C+TRという変種があり、被写体の形を認識してAFエリアを自動的に移動させてくれる。これは中央でピントを合わせてからカメラを振って構図を合わせる使い方や、鳥や車など素早く動く被写体を撮る際に便利だ。

オリンパス機はセンサーのゴミ落とし機能が超音波方式で、センサーにゴミが付かないのに定評がある。中古で買ったこのE-M5M3でもセンサーゴミはついていなかった。F22とかまで絞って白い壁を撮影すると確認できる。ゴミが少ないとか目立たないとかじゃなくて、皆無だ。10年間主に屋外で酷使したE-M10も、センサーゴミで悩んだことは一度もない。他の会社のカメラのレビューを見ているとセンサーゴミの話をよく見かけるので、おそらくこの点でオリ機は優れている。これは外でレンズ交換を頻繁にする単焦点派にはとても重要なことだ。今後も海や山にバンバン持ち出す気にさせてくれる。防塵防滴性能と同様にセンサーゴミ除去の性能は評価されるべきと思う。惜しむらくは、F1.8小型単焦点レンズシリーズが防塵防滴ではないので、レンズのことを考えると結局雨や飛沫からの保護策は取らねばならないところか。

SDカードスロットは1つで、UHS-2対応だ。ハイエンド機種だとスロットが2つついていて冗長記録ができるようになっているが、絶対にデータを消せないプロの仕事をするわけじゃないので不要だ。むしろ使わないスロットがあるのは勿体無い気がするので、スロット1つの方が気楽だ。SDカードには、Lexar Professional Gold 1800xの前の世代の64GBの製品が4355円と安売りされていたので、それを買った。書き込み速度180MbpsでV60なので、連写しても快適だし、4K動画も問題ない。E-M5M3はE-M1M2に比べるとバッファ容量が1/3だそうで、電子シャッターの30コマ/秒の連射をすると20コマくらい撮ったところでバッファが一杯になり、以後はSDカードの書き込み速度に律速される。とはいえ、その状態でも9コマ/秒くらいの速度にはなるので、私の使い方では全く問題はない。E-M10では7枚ブラケット撮影をするだけで、結果を見るまで3秒くらい待たされたが、本機では全く待たずに確認と次の撮影に移れるようになった。

E-M5M3はE-M10と違ってフラッシュが内蔵されていないが、私はフラッシュはあまり使わないので、むしろ望ましい。とはいえ、激しい逆光の時には日中シンクロを使いたくなることが稀にある。外付けフラッシュ(FL-LM3)が同梱されているので、それをバッグの底に入れておけば対応できる。また、バウンス撮影もできるので、室内で物撮りする際にも便利だ。

接続ケーブルがマイクロUSBなのは明白な欠点だ。E-M5M3の発売時にはUSB-Cがとっくに普及していたはずだが、それでもなおマイクロUSBを採用したのは下策だったと思う。既存ユーザでマイクロUSBのケーブルを持っている人々に配慮した部分もあるだろうし、既存の部品を再利用するコスト削減の意味もあったのだろうが、今となってはマイクロUSBの存在は負債でしかない。今やスマホもPCもその他ほとんどの製品はUSB-Cなのだから、それらの機器はUSB-Cのケーブルさえ持っていればアダプタやモバイルバッテリーから充電できるし、PCとの接続もできる。しかし、そこにマイクロUSBの製品が加わると、いちいち専用ケーブルを持ち歩かねばならない。しかも付属のマイクロUSBケーブルのPC側端子がUSB-Aなので、USB-AからUSB-Cへのアダプタを買うか、USB-CからマイクロUSBの変換ケーブルを別途買う必要がある。それらを持ち歩けばいいだけの話だと言う人もいるだろうが、まずケーブルの種類が増えるのが鬱陶しいし、給電能力が最大9WしかないマイクロUSBと最大100WのUSB-Cでどちらが優れているかは明らかだろう。

なお、2019年発売のE-M5M3は既にディスコンになっていて、後継機としてOM-5が2022年から販売されている。しかし、3年を経てモデルチェンジした割にはOM-5とE-M5M3の機能と性能はほとんど一緒のマイナーチェンジで、ブランド名をOlympusからOM Systemに変えただけのような製品になっている。マイクロUSBすらそのままだし。しかし、見方を変えれば、E-M5M3の機能と性能は最新機種と同じとも言える。それが比較的安価に手に入るので、今が狙い目だと思う。オリンパス銘なのも早晩ノスタルジックな価値を感じられそうだし。あるいは、積層センサー搭載で真のメジャーチェンジをすると期待されるOM-5M2を待ってもいいかも。まあ私は今カメラが欲しいので、待つという選択肢はなかったのだが。

実写:なんだかんだ言って使いやすい

ここまで色々と細かい機能について述べたが、実際に重要なのは、使う際に心地良いかどうかと、出てくる絵が満足行くかどうかだ。これまで10年間使っていた初代E-M10と新しい(といっても発売はもう5年前になるが)E-M5M3で出来ることはほぼ変わらないことは確かめたので、あとは使用感と出力の微妙な違いが焦点となる。それを探るべく、都内を散策してみた。レンズは例によってM.Zuiko 25mm F1.8とM.Zuiko 45mm F1.8とLeica Summilux 15mm F1.7と魚眼BCL 9mm F8を持ち出した。

どのレンズを使う場合もそうだが、主要被写体と背景の距離の比率が大きければ、それなりの立体感が出る。M43のF2.8とかでも普通に立体感のある絵になる。


主要被写体が離れてくると、当然立体感は減ってくる。それでも、どこにピントを合わせているのかが一応わかる程度のわずかな立体感がある自然な絵になる。


一方で、背景だけを撮ったような写真は、被写体の形や光がよっぽど面白くない限りは、良い写真って感じにはならない。これはどのレンズでもどのカメラでもそうだろう。とはいえ、見知らぬ土地を旅しているなら、適当に撮った風景も思い出になる。良し悪しに拘泥せずに、見たものを気楽に撮ればいいと思っている。







オブジェ的なものが写っていると、何が言いたいのかわかりやすい絵になる。とはいえ、離れた被写体の立体感をボケで演出するのは難しい。


結局のところ、構図をある程度工夫した例が一番面白くなるような気がする。その意味では、カメラもレンズも写真の良し悪しにはあんまり関係ないと、身も蓋も無いことを思ってしまうのであった。

高感度の画質だが、ISO800くらいまでは普通に見られる画像が出てくる。1600くらいからノイズが視認できてきて、6400はもうザラザラだ。以下は800と6400の例である。手ブレ補正が強力なので、ISOオートの上限設定は1600くらいにしておくといいかも。なお、ISOオートの低速限界をオートにするとレンズの焦点距離で自動的に決まるのも、痒いところに手が届いていて素敵だ。

サイクリングしながら適当に各所を撮って回るという使い方において、やはりカメラの小ささと軽さは非常に重要だと再認識した。グリップが小さい本機でも筐体とレンズが軽ければ取り回しには全く問題ない。バッグからカメラをサッと出して、パシャパシャと何枚か撮って、収納してまた走り出すという使い方ができる。

前後ダイアルによる絞りと露出補正の操作はやはり手に馴染む。カスタムモードでは電源を切ると設定がプリセットしたものに戻るのが重要だ。私の設定では、Aモード、露出補正=-0.3、絞り=F2.8、ISO=オート、AFモード=AF-S、AFエリア=シングルの中央位置、Fn2のAFモード=AF-C、Fn2のAFエリア=9点グループの中央位置、WB=オート、といった感じになっている。ここから状況に応じていろいろいじるが、元に戻す操作が不要であるからこそ、気兼ねなくいじれるのだ。なお、ファインダー切り替えボタンにAFホームポジションを割り当て、露出補正ボタンにはデジタルテレコンを割り当てている。AF十字キーとドライブモードとAELとISOと絞りプレビューはそれぞれの元々の機能をそのまま使うので、私が使う全ての機能はメニューを介さずに呼べるようになっている。といっても、基本的には露出補正と絞りの変更とAF位置の調整くらいしかしないけど。

本機のメカシャッターは「ぷるん」という擬音が似つかわしいようなまろやかな音と振動を出すので、撮っていて快楽を感じる。止まり物であればメカシャッターを使う必然性はないのだが、屋外では、音と振動の快楽を求めてメカシャッターが使いたくなる。電子先幕シャッター(低振動シャッター)も実装されているので、基本的にはそれを使う。電子先幕シャッターはSSが早すぎると像欠けする欠点があるが、SSが一定より早い場合だけ電子先幕ではなくメカ先幕が使われるようになっているのも素晴らしい。

EVFの性能は私には十分に感じた。ハイエンド機のリフレッシュレートが120fpsなところ本機は60fpsだが、カメラを振り回してもカクカクした感じはせず、遅延もあまり感じない。ただし、AF-Cを動作させながらカメラを振ると処理落ちっぽくなってカクカクしてしまう。実際のところ、カメラを振り回しながらAF-Cをやり続けなきゃならない被写体は鳥やレースカーくらいなので、それらを扱わない私にとってはこのEVFに不足はない。筐体の小ささから言っても、旅とか登山とかサイクリングとかで使うことを主眼としたカメラだろうから、EVFに費用をかけないのは妥当だと思う。倍率が高くはないのでピントの確認には拡大が必要だが、そもそも止まり物に関してはこのカメラほとんどピントを外さないので、確認する必要があまりない。動き物に関してはその限りではないので、動き物が主眼の人はやはりハイエンド機を選ぶべきだろう。

私は親指AF派ではなくシャッター半押し派なのででどうでもいいのだが、本機では親指AFはやりづらい。フロントグリップが小さいので、筐体を片手で保持するためにはサムグリップに親指を置いておきたくなるからだ。親指の付け根で筐体を支えて親指を伸ばせばAFL/AELボタンに届きはするが、付け根の力加減と指先の力加減を同時に調整するのが難しい。両手でカメラを持てばその問題はないが、片手で操作せねばならない状況が何割かあるなら、片手操作を前提としてカメラを設定せざるを得ない。親指AFの最大の利点はAF-CをAF-Sと同様に使えることだが、FnレバーでAF-SとAF-Cの切り替えが簡単にでき、AF-C+TRも使えるので、ほとんどの場合で親指AFは不要だ。置きピンを多用する場合でフォーカスエリアを変えずにカメラを振って構図を整えたいような場合でも親指AFは便利だが、その場合は両手でカメラを使う前提で親指AFを設定しても良いかもしれない。ただ、AF-Cが強化された今では置きピンの優位性はだいぶ薄れたと思し、置きピンするならいっそMFにしちゃった方が確実だ。

総じて、本機の使い勝手は素晴らしい。もうちょいこうしてほしいという点は幾つかあるにせよ、ほぼ完璧な操作体系だと思う。惜しむらくは、しつこいようだが、背面モニターがチルトでなくバリアングルなことだ。頭上や腰下にカメラを構える際にバリアングル機構を回すのが億劫なので、あたかも固定モニタのように使う羽目になっている。

画質に関しても、少なくとも日中に低感度で使うならば、申し分ない。ノイズは全く感じられないし、解像度も十分だ。4Kモニタで等倍で見ても粗を感じない。測光やホワイトバランスにも癖がなく、ほとんどカメラ任せで問題ない。初代E-M10に比べると解像度が上がっているのにダイナミックレンジも改善しているらしく、確かに空が入る写真でもそんなに白飛びの心配をしなくて良くなっている。細かい調整を考えずにシャッター押すだけでそれなりの画質の絵が出てくるので、それも使いやすさに貢献している。

Webに載せる際には横1750ピクセルとかに縮小しているので、ここに挙げたデータでは画質に関しては評価しづらいだろう。このサイズで閲覧するならば、センサーの画素数が1600万だろうが2000万だろうが1億だろうが大して変わらない。とりあえず言えることは、2000万画素(5184*3888)はブログに載せる写真を撮るのに十分だということだ。長さ的に50%、面積的に25%までトリミングして2592*1944に落としてからさらに1750に縮小したとしても、Webに載せる分には許容範囲(ほとんどの人がトリミングしたと気づかない水準)だろう。その例が以下だが、十分美しい。もちろん、ダウンサンプリングする際にも入力データの周波数は高い方がよいわけで、その意味では画素数が多いセンサーの方が有利だ。しかし、閲覧用の画像を作る最終工程でアンシャープマスクをかけるのであれば、その半径以下の周波数の情報はあまり意味を持たないので、結果は大して変わらなくなる。

適宜トリミングしても良いと割り切ると、15mm、25mm、45mmの単焦点レンズだけ持ち運べば、ズームレンズがなくても、広角域から望遠域までの撮影ができることになる。この3本のレンズはいずれもエツミのインナーフードが装着できて、全部バックパックに放り込んでも嵩張らない。小柄な本機に小柄なF1.8単焦点シリーズを付けて歩いて、多目的な撮影ができるというのは、とても気軽で良い。

縮小しない2000万画素の例を見ると、レンズの解像力に対して十分な画素数があることが分かる。これはM.Zuiko 25mm F1.8をF2.8に絞って撮ったものだが、中央の解像力と画面端の解像力が明らかに異なる。つまりこのレンズのこの絞りで撮るなら、これ以上画素数を増やしても、少なくとも画面端の情報量は顕著には増えないことを示している。もちろんF5.6とかまで絞ると画面内の解像力の均質性は上がるのだが、中央と端のパレート最適状態で中央が十分に解像しているのだから、センサーの解像度だけこれ以上高めても実用上の意味は薄い。

8000万画素=10368*7776(JPEGだと5000万画素)の絵が出てくるハイレゾ撮影もやってみた。半ピクセルずつピクセルシフトして8枚の画像を連続撮影してから合成するのを自動でやってくれる。データの画素数が上がるだけではなく、RGBフィルタのデモザイクの補完処理が必要なくなるので、画素あたりの解像度も上がるのが素晴らしい。本機の世代では手持ちハイレゾには対応していないので、三脚を持っていくか、現地で台などに置いて撮影する必要がある。それはいいのだが、ハイレゾで撮るべき被写体を探すのが難しい。構図よりも高周波成分が面白い被写体ということになるだろうが、なかなか日常にはない。旅先で水平に広い風景を撮りたいが、アスペクト比を16:9にすると画素数に不満が出てくるというケースでは便利かもしれない。16:9だと10368*5832の画像が出てくるので、パノラマ写真的な扱いをするのに丁度いい。標準RAWの現像結果とハイレゾRAWの現像結果を並べる(はてなでは幅が10000ピクセルを超える画像を上げられないので、10000ピクセルにトリミングしている)。クリックして等倍で見てほしい。マイクロフィルムをルーペで眺めるようなフェティッシュな楽しみがある。



本機は4K動画も撮れるので、やってみた。センサーの手ぶれ補正と電子手ぶれ補正が併用できるので、手持ちでもかなり安定した映像が得られる。画質が良いのは素晴らしいのだが、33秒で383MBなので、1秒あたり12MBくらい容量を食う計算になるから、ローカルではちょっと管理しづらい。個人的な内容でなければ、YouTubeに上げてしまえばいいけど。
youtu.be

パッテリーはE-M10と同じくBLS-50(1210 mAh)であり、OM-1等ハイエンド機が使うBLX-1(2280mAh)に比べるとかなり劣っている。グリップ部が小さいことで電池室も大きくできないので、仕方ないだろう。中古で買うと、新品よりはバッテリーが劣化している可能性が高いが、私のは撮影枚数が少なかったのでほぼ新品同様な感じがする。しかし、元々容量が小さいので、電源つけっぱなしで持ち歩かないようにしている。撮影時にだけ電源を入れる使い方をしているなら、一日中の写真散歩をしても確実に持つ。二日でもギリギリいけるかも。家に帰ったら現像作業をしながら充電する癖がついているので、一日持つなら困ることはない。

E-M10と違って本体にケーブルを差して充電できるのは便利だ。旅にはUSB-CとマイクロUSBの変換ケーブルだけ持っていけば、スマホと一緒に充電できるし、モバイルバッテリーも使える。しかし、マイクロUSBでの充電は遅いのでで、家では充電器を使うことにしている。ただし、充電器で充電すると、バッテリーをカメラに入れ直さずに出掛けてしまうリスクがある。その失敗は今まで何度もやっている。最近気づいたが、充電器での充電中はカメラのバッテリー室の蓋を開けておく習慣をつけると、持ち出し時に気づくので効果的だ。

擬似STFモード

さて、みんな大好き擬似STFモードの時間である。AEブラケットがSモードだと絞り可変になることは、本機のマニュアルに明記してある。このような細かい仕様をちゃんと書いてくれるのは良心的だと思う。実際にはソニーやキャノンやニコンの多くの機種でも同じような挙動になるっぽいが、モード毎の挙動がマニュアルに明記されていない場合、実機で確かめる必要がある。ソニーαシリーズだと、「露出はISOで調整する」的なことが書かれているのだが、SモードでISOを固定するとちゃんと絞り可変になってくれる。絞り可変のAEブラケットが設定できたなら、その結果を後処理で露出を合わせてから平均合成すればSTF風になる。

初代E-M10では擬似STFモード用のカスタムモードを作っていたのだが、本機ではカスタムモード用のダイアルが1つしか使えず、それは通常撮影で使うので、擬似STFモード用にダイアルは割り当てられない。仕方ないので、Sモードのダイアルで代用している。カスタムモード2として、露出ブラケット0.3EV*7枚、静音シャッター、露出補正=-1.0、ISO=200の設定を作っておいて、それをSモードで呼び出すのだ。P/A/S/Mの各モードはそれぞれの現在の設定を記憶していて、電源を切っても設定が消えないので、Sモードは基本的にSTFモード専用で運用する。もし通常撮影でSモードを使いたくなった時には、Sモードでカスタムモード1を呼び出せばよい。再度擬似STFがやりたくなった時にはSモードでカスタムモード2を呼び出せば良い。なお、ISOは固定しなくてもSモードなら絞り可変になるのだが、開放F1.8のレンズで2.0から1/3段下げたF1.58にはできないので、ISOオートだとその部分だけISOを変える挙動になる(E-M10ではF1.8にしてくれたが、本機ではF2.0のままISOを上げてしまう)。それを防ぐにはISOを固定する必要がある。その上で、SモードでF2.5になるようにSSを設定すると、F1.8、F2.0、F2.2、F2.5、F2.8、F3.2、F3.5の7枚撮影になる。

Sモードにおいては、被写体の明るさが変わればF値がころころ変わるので、ダイアルでSSを調整して狙ったF値にしても、構図を調整している間にF値が変わってしまうことがある。そこで役立つのがAELボタンだ。狙ったF値に調整できたら、まずAELボタンを押して露出を固定して、その状態で構図やらピントやらの微調整をすればいい。

M43のF1.8レンズはボケがとりわけ大きいわけではないが、擬似STF処理を入れると、とても上質な写真になる。ボケの縁がさらにボケて、被写界深度が深いのにピント面が引き立つという不思議な画像になるのだ。何度も書いてきたことだが、ストーリー性を出すためには背景はボケすぎずに視認性が高い方が良いが、主要被写体に視線を誘導するには背景の陰影を溶かしたい。STFはこのジレンマを解決してくれる。ボケが小さくても、背景が目立たなくなるので、立体感のある絵が出てくる。そして、立体感は脳に快楽を与える。元絵と擬似STFの例を見比べると、多くの人が後者を好むのではないか。

絞り可変のAEブラケットに対応したカメラであれば、どのレンズでも擬似STFモードを試せる。STFの効果は元々のボケが大きいほど高まるが、微ボケでもそれなりに効果はある。本物のSTFレンズとは違い、どの焦点距離でも、ズームであろうとも、どの絞りを起点としても、それなりの効果が出るのが擬似STFモードの利点だ。とはいえ、経験則としては、焦点距離の100倍を最小F値で割った撮影距離よりも近くで撮ると、効果が実感しやすい。この式は実焦点距離を使っているので、フルサイズでもAPS-CでもM43でも同じ式が使える。

まずは換算90mmの中望遠画角であるM.Zuiko 45mm F1.8の例から。焦点距離は45mmで、開放F1.8を最小F値にするなら、主要被写体が45mm*100/1.8 = 2.5m以内になるように近づいて撮ると、いい感じのボケ感になる。


そして、換算50mmの標準画角であるM.Zuiko 25mm F1.8の例。25mm*100/1.8 = 1.38m以内で撮りたいところだ。この式は単に私の好みを表しているだけで、特に科学的な根拠はない。






最後に、換算30mmの広角画角であるLeica Summilux 15mm F1.7の例。15mm*100/1.7 = 0.88m以内まで近づいて取れば、広角レンズでさえSTFの効果が如実に現れる。ソニー富士フイルムの本物のSTFレンズは中望遠なので、広角でSTF効果を使うと、巷の人々とは一味違った作例になる。



上掲の作例はすべてF2.5を中心とした7枚ブラケットだが、近接で撮ったものはもうちょい被写界深度が深いほうが良かったと反省している。ボケは大きけりゃいいってもんじゃない。上に述べたスイートスポットより近い場合、F2.8やF3.2を中心にした方が結果が良くなることも多い。逆にスイートスポットより離れた場合、F1.2とかの大口径レンズを使ってF2.0を中心にSTFがやりたくなる。以前F1.2シリーズをレンタルしてSTFを試したが、口径が1段大きいと適応範囲が広がるのは間違いない。センサーが大きいのも同様に有利だ。フルサイズのF2とか持ってたらかなり離れた被写体でも浮き立たせることができるだろう。

主要被写体が離れていてほとんどボケないという場合でも、STF効果をかけると微ボケが若干ながら上品になり、ちょっと立体感が増す。効果が微妙すぎるので、敢えてやることもないのだが、やっといて損もない。

以前、量販店でハイエンドのE-M1M3で擬似STFモードのためのブラケット撮影を試したところ、SS=1/30で0.5秒あれば終わることが分かっている。SSがもっと早ければそれより速く完了するだろう。E-M1M3の静音連写は50コマ/秒で、本機の静音連写は30コマ/秒なので、それにかなり近い結果が出ると期待できる。シャッターショックを抑えるためにブラケットの連写は静音シャッターで行うが、そうすると連写速度は電子シャッターの同調速度に律速されることになる。つまり、1/250秒以下のSSにしても1枚あたり1/250秒はかかるので、それが7枚だと7/250=0.028秒が最低時間となる。これにレンズの絞りを動かす時間も含め、その他のハード/ソフト的な準備時間が加算される。

本機の実際のブラケットの速さがどうなのか実験してみよう。ストップウォッチをSモードで7枚のAEブラケット撮影をして、1枚目と7枚目の時間の差を見ればいい。SSは1/320秒となる明るい場所でやったので、これが最短時間になるはずだ。結果としては、0.25秒で済むことがわかった。ここまで早ければ、手持ちでも問題なくSTFが楽しめる。モデルに静止してもらえばポートレートですら使えるレベルだ。

本機において、手持ちでの擬似STFモードの成功率が高い原因は、連写速度が高いからだけじゃない。E-M1M2以降では、手ぶれ補正の設定に「連写速度優先」が指定できるようになっているからだ。本機はE-M1M2と同じ世代なので、その機能を備えている。開発者の談話によると、「連写中の手ぶれ補正を連続的に行うことで、コマ間の画角変動を最小限に抑える」とのことだ。これはまさに連写合成のためにあるような機能で、渡りに船ではないか。こういう細かい配慮をしてくれるのもオリ機の良いところだ。

つか、ここまで技術基盤があるんだから、もうオリンパス(OM System)がカメラ内STFモードを実装してくれよと思う。ハードウェアの機能は全て揃っているので、あとはソフトウェアで絞りブラケットと電子ブレ補正と平均合成を組み合わせれば実装できるはずなのだ。そうすれば、ゲームチェンジャーは言い過ぎかもしれないが、かなり訴求効果があると思う。なにせ全てのレンズのボケ味が極上になるのだ。露出ブラケットではなく専用の絞りブラケットを用意するなら、F値が大きい(SSが遅い)方からF値が小さい(SSが速い)方に順に変えていけば、絞りの動作が最小化して連射が高速化するような気もするし、ブレやすい方を先に処理することで手ブレ補正機構としても有利な気がする。ソニー機だとなぜかこの順序設定ができる。あと、ソニー機だと0.3EV刻みの9枚撮りもできるが、そのノリで11枚撮りとかも実装したらどんな絵になるのかも見てみたい。

大口径レンズやフルサイズセンサーは必要か

必要性を論じる際には、前提として目的を設定しなければならない。目的を達成するのに欠かせないものは「必要」と見做され、無くても目的の達成ができるものは「不必要」と見做される。例えば、「私はこの組織に必要なのか」というサラリーマン的な問いがあるが、多くのまともな組織においては、ほとんどの個人は「不必要」が答えになる。会社組織の目的は存続して利益を上げ続けることだ。メンバーが一人抜けたくらいで存続が危ぶまれるような組織は脆弱すぎるし、おそらくブラック体質なので、そんなところからは逃げ出した方が良い。つまり、健全な組織においては個々のメンバーは不必要である。不必要ではあっても、無用だとは言っていない。価値はあるし、有用だし、貢献は評価できるとしても、必要とまでは言えないということだ。必要性と有用性の区別ができないと議論が食い違うことになる。

話をカメラに戻すが、カメラの目的は写真を撮ることだ。どんな写真を撮りたいかは当然ユーザによって違うので、自分のユースケースに限定して話をすべきだ。で、私の典型的なユースケースでは、自転車や人間や標識など、長さ1mから2mの物体を主要被写体にしつつ、それがどういった場所や状況にあるかを説明する背景を枠に収める。換算50mm画角の標準レンズで1mの被写体をフレームの短辺一杯に映す状況では、撮影者と被写体の距離は1.92m離れることになり、その場合の被写界深度はM43のF2.0で39cmになる。広角レンズを使っても、中望遠レンズを使っても、F値が同じで、主要被写体がフレーム内に同じ大きさで映るように撮影距離を調整するならば、被写界深度はあまり変わらない。人間の頭の前後は20cmくらいなので、被写界深度が39cmであれば、頭ひとつ分よりずれた前景または背景は被写界深度から外れ、大なり小なりボケ感が発生することになる。つまるところ、このユースケースで背景を被写界深度の外に追い出して主要被写体と背景を分離するというのを目的として設定するならば、M43のF2.0のレンズはほとんどの場合で十分だ。その場合、フルサイズは不必要と言えるし、M43のF2.0未満のレンズも不必要と言える。

以前の偏光サングラス礼賛の記事でも述べたが、人間の目の焦点距離は24mmくらいらしい。てことは、焦点距離25mmで標準画角(対角46.8°)と呼ばれるM43のセンサーのサイズは人間の網膜の近似としては望ましいものだ。また、人間の瞳孔の散大時の直径は20歳で8mm、30歳で7mm、40歳で6mmらしい。つまり人間の目のF値は20歳でF3、30歳でF3.5、40歳でF4である。てことは、M43の25mm F2.0のレンズが表現できる立体感は、人間の目の立体感よりも大きいということになる。標準画角において、人間の目の立体感を再現することを目的とするならば、M43のF2.8のレンズで十分であり、より小さいF値のレンズは不必要と言えるし、より大きいセンサーも不必要であると言える。

もちろん、私個人の目的設定が万人に当てはまるわけではない。主要被写体がもっと離れていても背景を分離した描写をしたい場合もあるだろうし、人間の目の立体感よりも誇張した立体感を写真で表現したい場合もあるだろう。私もそう思うことがたまにある。その場合、大口径レンズやフルサイズセンサーが必要になる。また、非常に暗い場所での撮影や高解像度の画像が欲しいという場合にも、大口径レンズやフルサイズセンサーが必要になることがある。この文脈では大は小を兼ねるので、とりあえず大口径レンズやフルサイズセンサーを備えておくということも妥当な考えだ。あとは、費用や可搬性との相談ということになる。

結論としては、私の撮影目的に照らせば、M43のF2.0のレンズでほとんどの場合は十分であり、フルサイズも大口径レンズも不必要だ。不必要だからって欲しくないわけじゃなくて、むしろ欲しいのだが、財政規律を守りたいのと、荷物をできるだけ小さくしたいのとで、割り切って現状の機材を選んでいるというわけだ。

可搬性礼賛

M43の機材の良さは、小さくて安いことだ。小さいことで荷物の容量を圧迫しないことは当然だが、安価(実売8万以下=スマホ並み)であることも重要だ。高い機材であれば故障を防ぐために専用のカメラバッグに入れて壊れないように保護する気になるが、安い機材であれば、壊れたら買い替えればいいと割り切ることで、ある程度はぞんざいに扱うことができる。乱暴に扱うという意味ではなく、保険的な意味合いでの保護策を省略するという意味だ。結果として、普通のバックパックなりハンドバッグなりトートバッグなりに裸で放り込むことになり、どこに行くにも気軽に持ち運べるようになる。実際私はE-M10を10年も使い倒し、山で海でも海外でも持ち歩いた。

E-M10にM.Zuiko 25mm F1.8をつけると530gで、E-M5M3に同じレンズをつけると563gだ。双方とも、ズッシリ感がないので、片手で持っていても全く疲れない。また、バッグに普通の荷物と混在させても、重みで他のものを潰す心配が少ない。500mlのペットボトルを入れたようなものだからだ。スーパーに行った帰りに卵パックの上に載せても大丈夫だった。ちなみに、α7M4(658g)にFE 50mm F2.5 G(174g)をつけると832gになるが、それくらいでもギリギリ許容範囲だろう。ただ、レンズを複数個持ち歩くとなると、フルサイズだとだいぶ嵩張ることにはなる。私の基準としては、合計1kg以下なら普通のバックパックに放り込んでもいいかなって感じだ。

昨今のAIスマホのカメラも優れているので、敢えてカメラを持ち出すならフルサイズセンサーや大口径レンズのボケで差別化を図りたいという人もいるだろう。それには同意する。スマホで表現できない大きく自然なボケは、フルサイズセンサーや大口径レンズの存在価値とも言えるだろう。ただし、背景があまりにもボケている写真って、どこで撮ったんだか分りゃしないので、本末転倒になることも多い。背景がある程度視認できる状態で、主要被写体が引き立つくらいのボケ感がちょうどいいと私は思う。そして、M43のF2.0はかなりの場合でそれを実現できる。むしろSTFでボケ量を減らしながらボケ味を改善した方が良い結果になる。その目的を満たすのは、M43のF2.0か、APC-CのF2.8か、フルサイズのF4.0だ。その3つのどれも、レンズの大きさや重さは同じくらいになるだろうが、カメラ本体のサイズと重さはM43が若干有利だ。

オリンパスのOM-Dシリーズはそこそこ頑丈にできている。廉価版のE-M10で10年使えたのだ。E-M5以上だと防塵防滴だし、電子シャッターも使えるので、より長持ちすることが期待できる。軽いことで、何かにぶつけた時の慣性力による衝撃が小さいことも利点だろう。おそらく数年使い倒すと接着剤が劣化して外皮が剥がれてくるのだが、むしろそうなってから真のカメラ道じゃなかろうか。

ということで、主に可搬性の観点で、M43規格はそれなりの存在意義があると私は思っている。とはいえ、市場の動向を見るに、M43の先行きが芳しいとは言い難い。スマホとフルサイズの板挟みになって衰退するのはある意味仕方ないのかもしれない。でも、私を含め、M43の「丁度良さ」を好む人々も一定数いるわけで、もうちょい頑張って欲しいところだ(最新機材を買って貢献できずにごめんと思いつつ)。

まとめ

E-M5 Mark3を購入して、自分のユースケースでの使い勝手を確認してみた。今まで使っていたE-M10で操作感に慣れているからというのもあるが、やはり使いやすい。構図を決めて、絞りを決めて、露出を調整して、フォーカス位置を設定して、シャッターを押す、という一連の流れがストレスなくできる。画質や立体感も必要十分だ。擬似STFもやりやすい。それでいて、筐体もレンズも小さく軽く、そして安くて丈夫なので、日常や旅の記録で使い倒すのにぴったりだ。最新機種やハイエンド機種を買うのもいいが、自分の要求仕様に合う中でコスパが最高のものを選ぶのも一つの考えだ。その意味では、E-M5 Mark3で幸せになれる人はそこそこいると思う。