豪鬼メモ

抜山蓋世

ブロンプトンのFハンドルによる前傾姿勢強化

ブロンプトンのハンドルを換装して、グリップをより低く遠い位置にして、より前傾した乗車姿勢で乗れるようにした。本来はグリップ位置を高くする効果があるライザーバーを逆付けすることで低くして、さらに前に傾けてグリップ位置を遠くしたものだ。結果としてペダル荷重が増すとともに空気抵抗が低減して、より速く走れるようになった。この方式で装着したハンドルバーをここではFハンドルと呼ぶことにする。Falling and Forward leaningのFだ。正面から見ると富士山みたいなのでFujiのFでも良いかも。


ブロンプトンにはSハンドル(Lowハンドル)とMハンドル(Middleハンドル)のモデルがある。Mハンドルでステムを長くしたHモデルというのもある。昔はPハンドルという壁状の下ハンがついたものもあった。Sハンドルは、いわゆるフラットハンドルで、やや前傾気味の乗車姿勢になる。Mハンドルはアップハンドルで、直立気味の乗車姿勢になる。スポーティに走れるのはSハンドルの方だ。前傾姿勢の方が走行時の空気抵抗が少ないし、ペダルに体重を乗せやすいので、より強い力でクランクを回せる。Fハンドルは、Sハンドルよりさらに強い前傾姿勢を可能にするものだ。

ブロンプトンを購入した時には私はSハンドルのモデルを選んだのだが、今となっては少し後悔している。というのも、Sハンドルの乗車姿勢でもまだ前傾が足りないと感じたからだ。SハンドルのハンドルステムよりもMハンドルのハンドルステムの方が短いので、Mハンドルのモデルでフラットハンドルに換装した方が、より強い前傾姿勢が取れる。ハンドルステムだけを換装することは可能だが、部品だけで33000円もする。換装作業には特殊な工具も必要だ。それだったら最初からMハンドルのモデルを買ってハンドルだけ変えた方が安い。

欲を言えば、グリップを単に低くするだけではなく、サドルから遠くしたい。ブロンプトンのハンドルは折り畳みの都合でサドルに近すぎる仕様になっていて、直立気味の姿勢でまったりと乗る分には十分だが、前傾姿勢を取ろうとすると窮屈になる。前傾姿勢を取るならロードバイクのように前方に突き出したハンドルステムになっていた方が良いのだが、ブロンプトンでは折り畳みの都合で無理だ。しかし、Fハンドルなら、ステムはそのままで、グリップを低く遠くできる。Mハンドルのステムであれば元から低いのでグリップを前に突出させるだけで良いし、Sハンドルのステムであればグリップを斜め前下に突出させればよい。

私はある小技を発見してから、前傾姿勢への憧憬を強くした。サイクリングロードなどの見通しが良くて信号がない場所で高速巡行する際に、ブレーキレバーをグリップとして使うというものだ。そうすると、グリップ位置が8cmくらい下がって、2cmくらい前に出る。結果として、ブロンプトンなのにかなり深い前傾姿勢が取れるようになる。これはPハンドルの下ハンドル並に危なっかしい乗り方だが、顕著に高速化する。それを体験して、Sハンドルのブレーキレバーの位置あたりにグリップがあれば嬉しいと思った。

ハンドルのグリップ位置を変える手段はいくつかある。ハンドルステムを換装するか、ハンドルバーを換装するか、ハンドルポジションチェンジャーでハンドルをずらすか、ホーンやDHバーなどの付属品を付けて時に握り変えるかだ。ステムは大掛かり過ぎる割に前に出せないので却下だ。ハンドルポシジョンチェンジャーは前に出せるが、そうすると折り畳み時にフロントフォークと干渉するし、重量も増えるので却下だ。ホーンは既にエルゴンのGS3をつけていて、ある程度は前傾姿勢が作れるが、十分とは言えない。DHバーは折り畳みが絶望的で、しかも街中で使うには危険すぎる。

となると、残る手段はFハンドルへの換装だ。ハンドルバーを買うだけなら値段もそんなに高くないし、ついでにカーボン製にして軽量化も図れる。ドロップハンドル以外でハンドルポストから下がる形状のハンドルバーは珍しいのだが、ライザーバーを上下逆に付ける事でそれを為せる。同じアイデアを既に実践している人がいて、問題なく運用できているようだ。
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装着するハンドルバーの形状は私の要求に応じて検討する。その前提として、形状の制限を明らかにする。折り畳みの際のクリアランスを調べたところ、ハンドルバーが真下に曲がる分にはほぼ無制限で、前に曲がる分にはステム付近で1cmくらい、末端部分で5cmくらいの余地があることが分かった。つまり、ハンドルポストの部分から横に水平に伸びてから上に曲がって、しばらくしたらまた水平に戻るという、普通のライザーバーの形なら使えそうだ。それを上下逆付けにして前に倒せば良い。

Fハンドルをどれだけ前に倒せるかは、折り畳み時の各種部品のクリアランスによって決まる。まず、ハンドルバーとフォークのクリアランスだ。これは、ハンドルバーがハンドルポストから横に伸びて曲がり始めるまでの長さに依存する。理想的には6cmくらい水平部分が続くと良い。それ未満の場合、曲がり始めてから曲がり終わるまでの湾曲部分とフロントフォークの干渉がどの程度なのかは、実際の製品を装着してみないと分からない。次に、ハンドルバーとブレーキレバーのクリアランスだ。ブレーキレバーはできるだけ前に迫り出させる方が使いやすいが、そうすると折り畳み時にホイールにぶつかる。ハンドルを前に倒すほど、ブレーキレバーを前に迫り出しにくくなる。また、ホーンをつけている場合、ホーンとタイヤのクリアランスも考える必要がある。エルゴンGS3のホーンは全幅52cmの純正Sハンドルにつけた場合でタイヤとの間隔が1cmくらいだ。Fハンドルでグリップを前に突出させるとホーンのクリアランスがきつくなり、おそらくこれが最大の制約要因になる。

この制限の中で、私にとって理想的なハンドルの形状は以下のものである。まず、バーエンドがハンドルポストから8cm下がって5cm前に出るのが理想だ。それでいて、グリップエンドは少なくとも14cmの直線が確保され、下と後ろにわずかに傾いていることが望ましい。

ハンドルバーにはライズ量とアップスイープとバックスイープという概念がある。ライズ量はハンドルポストからグリップまでの高さで、アップスイープはグリップの上昇角度で、バックスイープはグリップの後退角度だ。ライズ量もアップスイープもゼロなのがフラットハンドルだ。ライザーバーと呼ばれる場合、少なくともライズ量が正の値を持っている。アップスイープやバックスイープはゼロの場合もあれば、5度だったり10度だったり15度だったりする場合もある。上下逆付けすると、ライズ量は下に進むフォール量になり、アップスイープはダウンスイープになる。さらに、前に傾けた場合には、フォール量の一部は前に進むフォワード量に転換され、アップスイープの一部はフロントスイープに転換され、バックスイープの一部はダウンスイープに転換される。ライズ量とアップスイープとバックスイープの全てが大きいものはアップハンドルと呼ばれる製品になるが、さすがにそこまで大袈裟だと逆付けは難しそうだ。



ところで、そもそもライザーバーはなぜ存在するのか。それは、グリップ位置を高くすることで、BMXやMTBグラベルバイクなどで上体を起こして乗るためだ。それらの競技では空気抵抗が問題になることは少ない。それよりも、跳躍や急な下りの際に後輪側に荷重を移しやすい方が重要だ。一方、オフロードや障害コースを走るわけじゃないロードバイクでライザーバーをつける理由はない。そして、ブロンプトンでも主にオンロードを走るなら、MハンドルよりSハンドルが良く、さらにSハンドルよりFハンドルが良い。では、ママチャリ等のアップハンドルはなぜ存在するのか。ママチャリの速度域では空気抵抗が問題になることは少ないが、ママチャリでオフロードや障害コースを走るわけでもない。しかし、上体を起こした方が視野が広くなり、またペダリングで腿を上げた際に腹回りが圧迫されないので、どんな体型や衣装でも乗りやすいという利点がある。この観点では、ブロンプトンでもSハンドルよりMハンドルの方が良い。

Fハンドルの具体的な製品の選定に入る。ブロンプトンの純正Sハンドルのクランプ径は25.4mmで、グリップエンドの位置でのハンドル径は22.2mmだ。全幅は520mmで、重量は130gだ。それに互換するもので、上述の理想に近い形状のものが欲しい。色は黒が良い。強度は高くても剛性は低い方が衝撃吸収性が高くて良い。そして、できれば軽いものが良い。純正はアルミ製でかなり軽量に作られているので、それに匹敵する軽さをライザーバーの形状で実現しようとすると、カーボンかチタンじゃないと無理っぽい。それらの材質なら衝撃吸収性も期待できる。製品を選ぶ際には3次元的な構造を把握しなきゃならないのだが、商品写真からそれを把握するには慎重を要する。少なくともライズ量やアップスイープの仕様を確認して、できればバックスイープについても把握した方が良い。全幅はカーボンであれば後で切って調整できるが、アルミやその他の金属であればドンピシャな値のものを選ぶ必要がある。

ひたすらネット上を徘徊したところ、Amazonで4000円くらいのカーボン製のライザーバーがあったのでそれを選んだ。おそらく中国製なのだが、東レのT700カーボンシートを使っているそうで、その表記が嘘でなければ、4000円なりの品質は期待できる。余計なロゴがついていないのと、全幅が任意に選べるのと、上昇幅が丁度良いのと、安いのが気に入った。AliExpressで探すともっと多様かつ安価な製品が見つけられるのだが、納期がかなり先になるのでAmazonのを優先した。

製品が届いた。重さを測ったところ、106.4gであった。純正の130.2gに比べると23.8gの軽量化ということになる。フラットよりもライザーの方が複雑な形なのでアルミのままだと重量増加になるだろうが、カーボンにしたおかげで若干の軽量化ができた。



新しいハンドルバーのライズ量は55mmで、アップスイープとバックスイープはゼロだ。てことは、垂直に下がるように取り付ければ、単にグリップが55mm下がるようになる。グリップが20mm前に出るように取り付けるのなら、asin(20/55)=21.32°の傾きになるが、その際の下降幅はピタゴラスの定理で(55^2-20^2)^0.5=51.23mmということになる。30mm前に出るように取り付けるのなら、asin(30/55)=33.05°の傾きになるが、その際の下降幅は(55^2-30^2)^0.5=46.09mmということになる。40mm前に出るように取り付けるのなら、asin(40/55)=46.65°の傾きになるが、その際の下降幅は(55^2-40^2)^0.5=37.74mmということになる。

取り付けの際に問題となるのが、ハンドルポストのステムの輪が狭くて、ハンドルバーの曲がった部分が通りにくいことだ。長年使っていると締め込んだままの形状になるので、クランプ径が合っていたとしても通りにくくなるらしい。無理やり通そうとしてもハンドルバーが削れてしまうだけで通らない。よって、輪っかの部分を何とかして広げる必要があった。そのための専用工具もあるらしい。今回は、曲げワッシャーを並べてその間に木片を楔として打ち込んで少し広げた。それでも通りにくかったので、8mmアーレンキーに拡張グリップをつけたものを梃子にして、輪っかを広げながら、ハンドルバーに傷が付くのを覚悟でグリグリ捻りながら何とか入れた。カーボンだと傷がつきやすいのが困ったものだ。4本くらい傷が入ってしまったが、油性ペンで埋めたらほとんど分からないくらいにはなった。



実際に取り付けてみて、折り畳み時のクリアランスに支障がない範囲で前に傾けてみると、およそ20mm前に出すことができた。それ以上前に出すとホーンとタイヤが干渉して折り畳めなくなってしまう。また、ブレーキレバーのクリアランスも制限要因になったが、グリップをノコギリで切って2.5cmほど短くすることでブレーキレバーを端の方向にずらすとともに、ブレーキレバーの角度をより垂直に近づけることで対処した。グリップはエルゴンGS3のロングなのだが、今となってはショートの方を買えばよかったと思った。切れば同じことだけども。また、シフターのクリアランスも制限要因になったので、付け替えた。左側の前側にあるものと水平反転させて、右側の後ろ側に移した。ブレーキレバーもシフターも若干使いにくくなった感はあるが、慣れれば問題ないだろう。ハンドルが低くなった分だけブレーキケーブルとシフターケーブルの長さが余ることになるが、切らなきゃいけないほどではない。切った方がすっきりするので、いずれ気が向いたらやる。ただし、5mmの太さが切れるケーブルカッターを買わなきゃならない。

折り畳むとこんな感じだ。いろいろギリギリである。まず、折り畳みの動作でハンドルポストを回転させる際に、ホーンとタイヤ(を覆っているマッドガードフラップ)が擦っている。さらに、ブレーキレバーとマッドガードも触れそうで、タイヤとブレーキレバーも触れそうで、ハンドルバーとマッドガードステーが触れそうだ。クリアランスがギリギリということは、ハンドルを前に突出させるにあたって最善が追求できているとも言える。フロントフォークとハンドルバーのクリアランスがライザーバーの曲がり方によって確保されているのも注目だ。





最終的な車体の見た目はこんな感じになる。低くなってからツノが出る形が、水牛っぽくて強そうだ。Mハンドルのステムだったらもっとライズ量が低いライザーバーを前に出すだけで良かったわけだが、Sハンドルのステムを使っているおかげでこんなになっている。でも、見慣れると意外に格好いい気もしてくる。遠くから見ても自分の車体であることがすぐ分かる。なお、ハンドルポストの上についているのはRecマウントのブロンプトン用の台座だ。



真横から見ると、グリップ位置がしっかりと低く遠くなっていることが分かる。前方への繰り出し量が事前予想より小さいのが残念ではあるが、GS3をつけている限りはこれが最善だ。ホーンの短いGS2にするともっと前に出せるだろうが、そうするとホーンの利便性が低くなるので、差し当たってはGS3のままで運用する。

乗り心地は、すこぶる良い。グリップの位置が2cm遠くなって5cm低くなったというのは見た目には大して違いはないが、運転者への影響は甚大だ。ロードバイクのフィッティングではミリ単位で調整がなされるわけで、センチ単位でハンドル位置が変わったなら、乗り味が随分違うのは当然だ。まず、前傾姿勢が強まり、ペダル荷重が顕著に強くなった。そうすると、下方向に踏み込む力が自然に増幅される。大臀筋などの股関節を伸ばす筋肉は大腿四頭筋などの膝関節を伸ばす筋肉よりも持続力があるので、高速化だけでなく航続距離の増加にも寄与する。前傾姿勢が強くなると上半身を支えるための体幹の筋力への要求も強くなるが、ロードバイクに乗り慣れている人であれば、ブロンプトンで達成できる程度の前傾姿勢であれば何の問題もないだろう。私にとっても無問題で、むしろ乗りやすくなったと感じる。ペダル荷重が強くなった分だけ、サドル荷重が減って、尻にも優しくなった。これならレーサーパンツやクッション付きのアンダーパンツを履かなくても100kmくらいのツーリングができそうだ。ハンドルバーを変えるだけでここまで効果があるとは思わなかった。

グリップ位置が低くなったおかげで空気抵抗も減った。グリップの位置に関わらず、体を縮こまらせて頭を低くすればエアロポシジョンでペダリングすることはできる。しかし、グリップの位置に余裕があると、特に何も意識しないで漕いだ時でも前傾姿勢になって空気抵抗が低減されるし、エアロポジションを意識して頭を下げて脇を占める体勢を維持するのも以前より楽になる。ブロンプトンの速度域はロードバイクの速度域よりも低いのは確かだが、それでも30km/hくらいの速度は普通に出る。30km/hに達すると空気抵抗の割合は全体の抵抗の8割にも達するらしいので、ブロンプトンでも空気抵抗を低減することは意味がある。

街乗りでは、加速が楽になるのを感じる。加速する際にはペダルを強めに踏み込む必要があるが、同時にその反作用を制御する必要がある。ペダル荷重が弱い場合、力点と重心が遠いため、強く踏み込むと体のバランスが崩れるので、腕やその他の筋肉を使って体勢を維持する必要がある。ペダル荷重が強い場合、踏み込みに対する反作用の大部分は重力が相殺してくれるので、股関節と膝関節以外の筋肉はあまり動員しなくて済む。サイクリングロードや幹線道路をひた走る場合にも、同じことが言える。巡航する際にはあまり強く踏み込まないが、弱い踏み込みでも反作用は生じるので、それを制御する筋肉の動員が抑えられれば、心拍数の上昇が穏やかになり、楽に長く乗れる。速度域が高い場合、空気抵抗の低減の効果も顕著に現れる。実際、Fハンドルにしてからロードバイク勢に張れる確率がかなり上がった。私はスプリント的な走り方はあまりしないが、追い越しなどで瞬間的に強く加速する際にも同じことが言えるだろう。

どれくらいの前傾姿勢になるか写真に撮ってみた。Sハンドルでも一般的なクロスバイクと同じくらい前傾していたが、Fハンドルではそれ以上だ。ロードバイククロスバイクの中間くらいといったところか。ホーンを持つともっと前傾になり、ドロップハンドルの上ハンドルを持った時と同じくらいの前傾になる。さらに、ホーンを小指だけで保持して擬似TTポジションを取ると、ペダリングで股関節がきつくならない範囲の限界まで低い姿勢になる。ここまでやれば、ミニベロロードと同等の走行性能と言えるだろう。費用対効果としてはかなり良い部類のカスタマイズと言えよう。



登坂でもペダル荷重が増すことの利点は大きい。勾配が高いと重心が後ろに寄ってペダル荷重が減ってサドル荷重が増えるので、それに対抗するためには腕の力で体をハンドルの方に引き付ける動作が必要になる。これがかなり疲れるのだ。急坂が長く続くと、背中や腕の筋肉が攣りそうになるのはそのためだ。ペダル荷重が元々高ければ、その苦労が緩和される。シッティングのままでもより高い勾配に対応できる。ダンシングでも引き付け動作が楽になる効果がある。しかし、グリップが低くなったのはあまり好ましくない。グリップが前に出る分には良いのだが、低くなると引き付け動作の際に腕が伸びた状態になるので、腕が疲れるのだ。ライザーバーの前方への傾きを大きくしてグリップ位置をなるべく前に出したい理由の一つはそれだ。とはいえ、ホーンの上に手を置けば低さの問題は解決されるので、登坂性能も全般的に向上していると言える。

今回のハンドルバーは、グリップの前方への突き出し量を重視したので、アップスイープ(逆付けするとダウンスイープ)もバックスイープもゼロのものを選んだ。ちなみに、アップスイープがあると、ハンドル荷重をかけにくくなるので、ハンドル操作が軽くなり、またグリップに衝撃が伝わっても手が外側に滑ってグリップを離してしまう事故が起きにくいと言われる。ダンシングやスタンディングの際にグリップが握りやすくなる効果もある。逆に、ダウンスイープがあると、ハンドル荷重が増えて前傾姿勢を取りやすくなり、高速巡行やロングライド向きになる。よって、欲を言えば少々のダウンスイープが付いていた方が良かったと思う。ダンシングの際には主にホーンを持つので、ダウンスイープがあってもダンシングがやりにくくはならない。バックスイープがあると、グリップ位置が体に近づいて上体が起きてペダル荷重が減る一方、脇が締まって肘が内側に入ることで空気抵抗は減る。さらに握り心地が良くなる。個人的にはペダル荷重の増大の方が空気抵抗の低減よりも重要なので、バックスイープはゼロでも良い。脇を締める効果はブルホーンを握ることでも得られるし、エルゴンのグリップは後方に手のひらを置く場所があるので、握り心地も問題ない。

Fハンドルでブルホーンを握ると、ちょっと戦闘的な気分になる。私はブルホーンが好きなのだ。都会を走っているとたまにメッセンジャー(自転車を使った配送業者)の人を見かけるが、彼らの多くはブルホーンを使っていて、それが格好いい。メッセンジャーが求めるのは平均速度の向上であり、それをいかに楽に安全に安定的に達成するかが重要となる。彼らに追従してみると、速いながらも無駄に最高速を出さないことに気づく。それがまたプロっぽくて格好いい。彼らがドロップハンドルを使わないのは、街乗りの速度域では下ハンを握る機会が少ないからだろう。私がブロンプトンに乗る場合の速度域も、メッセンジャーの人々のそれとだいたい同じくらいだ。よって、ちょっと低めで前めのハンドルにブルホーンを付けるのは合理的だ。

真のブルホーンハンドルではブルホーンの先端にブレーキがついていてブルホーンを握りながらブレーキ操作もできるのだが、後付けのブルホーンだとそれができない。私のは後付けなので、走行中に交差点などに差し掛かる度にフラット部分に握り変える必要がある。しかし、それも慣れると一瞬でできるようになる。手のひらの根本をフラット部分とホーン部分の中間点に置いて、それを支点にして手を左右に回転させればいい。この所作を身につけると、走行時間のほとんどはブルホーンを握っていられる。

余談だが、ロードレースの競技会の多くではブルホーンハンドルが禁止されている。それには二つ理由があるらしい。ひとつは、後付けのブルホーンだとブレーキ操作が遅れて危ないことだ。もうひとつは、走行時や落車時にブルホーンが他者と引っかかると危ないということだ。しかし、私はそれが不服だ。ブルホーン用のブレーキが付いていれば一つ目の理由は回避できる。そして、ドロップハンドルのブラケットも前方に突き出ているので、二つ目の理由はそもそも不合理だ。実際、ブルホーンハンドルとドロップハンドルの形状の違いは下ハンがあるかないかだけなので、殊更にブルホーンを禁止するのは意地悪すぎる。ドロップハンドルの下ハンを切り落としたら出場は認められるのかどうか、主催者に聞いてみたいところだ。それが認められるなら、じゃあなんでブルホーンが駄目なんだという話になるし、認められないなら、その理由が安全性のためじゃないことが明らかになり、やはり矛盾が生じる。

ここまで前傾姿勢の利点を語ってきたが、当然欠点もある。まず、顔が下を向くので、視野が狭くなる。顔を上げると首が疲れる。また、体型や衣装を選ぶ。股関節の角度が深くなるので、腹が出ている人には難しいし、スカートやきついズボンなども太ももの動きが妨げられるのでダメだ。さらに、上半身の重みを支えるための各種筋肉が疲れる。特に、広背筋、脊柱起立筋、僧帽筋などの背中の体幹の筋肉が疲れる。ロードバイクで前傾姿勢に慣れていれば大した問題ではないが、ママチャリなどしか乗っていない人には最初は辛いかもしれない。とはいえ、いずれの問題も慣れが解決する。姿勢は慣れればそれが普通になるし、必要な筋肉は自然についてくるし、服装はそれに適したものを選択するようになるし、続けていれば腹も引っ込んでくる。よって、定期的に一定時間以上自転車に乗る人にとっては、ある程度前傾姿勢の方が良いだろう。逆に、自転車に乗る時間が少なく、速く走りたいわけでもない人にとっては、前傾姿勢にしても疲れるし乗りにくいだけで特に良いことはない。

ハンドル幅は52cmで今のところ満足だ。ちなみに、ハンドル幅が広いほど、大きなトルクが生まれるので、軽い力でハンドル操作ができる。オフロードではこの特性が有利だ。道路交通法で歩道に進入できる自転車の幅は60cmまでと決まっているので、MTBの多くは60cmのハンドル幅になっている。一方で、ロードバイクのハンドル幅はもっと狭い。38cm、40cm、42cmのいずれかなのが普通だ。空気抵抗を減らすためにはハンドル幅は肩幅(骨の間隔ではなく筋肉と皮膚も含んだ外幅)より狭い方が良いとされ、成人男性の肩幅の平均は45cmくらいなので、ロードバイクはかなり空気抵抗を重視した設定になっている。また、ロードバイクの速度域で曲がる場合、ハンドルはほとんど動かさずに体重移動で旋回力を起こすので、ハンドル操作が軽い必要はない。ブロンプトンは両者の中間くらいだ。オフロードを走るわけではないが、ロードバイクよりは低速走行だからだ。とはいえ、私の肩幅は46cmくらいなので、主にブルホーンを握るのであれば、ハンドル幅も46cmくらいにしても良いと思うことがある。しかし、GS3をつけたままではハンドル幅は短くできないので、やるとしたらGS2に換装しないといけない。

私はバックパックをハンドルにぶら下げた状態でブロンプトンに乗ることが多い。その場合、Fハンドルの特徴的な姿はバックパックに隠されてしまう。ところで、バックパックグラブループをハンドルポストに引っ掛ける方式は、SハンドルモデルのFハンドル換装と相性が良い。ハンドルポストの高さが変わらないので、今まで使えていたバックパックがそのまま使える。私はChrome Avail Backpackを愛用しているが、それはSハンドルの高さと丁度良い。さらに、Fハンドルではショルダーストラップとハンドルがほとんど接しなくなるので、ハンドル操作が重くなる影響が若干小さくなる。

ハンドルバーがアルミ製からカーボン製に変わったことによって、若干ながら衝撃吸収性が上がったような気がするが、プラセボ効果かもしれない。パイプの厚みは新旧でほぼ同じで、東レT700カーボンはアルミよりも剛性が低いので、衝撃吸収性は上がっているはずだ。しかし、ハンドルバーにかかる荷重や衝撃はそんなに大きくないので、僅かな撓みの差を判定するのは難しい。とはいえ、前傾姿勢でハンドル荷重が上がって手にかかる負担は増えているはずだが、長時間乗っても以前のような手の痺れが起きにくくなった気がしなくもない。もしそうなら、これはロングライドで嬉しい特性だ。ついでに、カーボンは熱伝導率がアルミより低いので、寒い時にハンドルバーに手が触れた時のひんやり感がない。グリップ越しに熱が逃げて手が冷えることも若干ながら防げる気がする。

ハンドルポストよりもバーエンドが低くなると、保守作業の際に車体を上下逆に置くのが難しくなる。従来は上下逆に置くと、シフターと一体化したベルと、逆側のバーエンドが前方の支点になって、サドルとともに三点支持で安定させられていた。しかし、バーエンドが低いとハンドルポストが突出してしまうので、左右どちらかに傾いてしまうことになる。

その解決策を探していたら、ドンピシャな解決策があった。コロンブスの卵とはこのことだ。
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ダイソーの掃除用具コーナーで「ワンキャッチ」なる商品を買うべし。足の部分は適当な木材で作った。これで家でのメンテ作業はメンテナンススタンドが無くてもできるようになった。洗車の際にもこれを使えば良い。



外出先でメンテ作業をする際にはワンキャッチ台は使えないので、その時はバッグやら石やらを台にするか、適当な溝を見つけるしかない。

まとめ。ブロンプトンはサドルとハンドルが近すぎて乗車姿勢が窮屈になりがちだが、ライザーバーを逆付けして前に傾けると、グリップ位置が低く遠くなり、前傾姿勢で乗れるようになる。前傾姿勢になるとペダル荷重の増加と空気抵抗の低減が見込め、加速性能も巡航速度も向上する。通勤通学や趣味で比較的長い距離を乗るならば、このカスタマイズによる利点は大きいだろう。

追記:後日、グリップをエルゴンGP2に変えてハンドルをさらに前に出す設定に変えた。
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