豪鬼メモ

一瞬千撃

ボディキャップ魚眼レンズBCL-0980用のLightroom現像設定

マイクロフォーサーズ規格のカメラを持っていたら是非とも入手すべきと言いたいのが、魚眼レンズ付きボディキャップBCL-0980である。実売8000円程度と安価で、文字通りボディキャップとしての大きさしかない割には、良く写るし、遊べるレンズである。魚眼レンズのような趣味性の非常に高いものに何万円も出すのは勇気がいるが、このBCL-0980なら気軽に試せるだろう。今回はそんなBCL-0980で撮った写真をLightroomで現像するにあたっての最適な設定を探ってみる。
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以前の記事でも述べたが、BCL-0980の画質上の最大の欠点は、倍率色収差である。Olympus Viewerでの倍率色収差の補正方法はそこで述べたが、Lightroomだとどうするのがよいだろうか。結論から言えば、Lens CorrectionのRemove Chromatic Abberationをオンにした上で、同じくLens CorrectionのManual設定でPurpleを4、Greenを3くらいにするとよい。マイクロフォーサーズのほとんどのレンズは電子接点によってレンズ情報がカメラ側に渡ってEXIFデータに記録されるのだが、電子接点のないBCL-0980ではそれができない。レンズが自動判別できるなら、Lightroomが内部で持っているレンズプロファイルを適用して倍率色収差などの残存収差を補正してくれるのだが、惜しいことだ。自動判別できなくてもLightroomに該当のプロファイルが載っていれば手動で設定できそうだが、残念ながらそれもない。しかし、Lightroomの自動倍率収差補正機能はかなり優秀なので、それに任せるだけでほとんど実用上の問題はないということがわかった。

まずは、未補正の出力を見てみよう。強い白色光源下で派手に倍率色収差が出るものを選んだ。画面の端を見るとよくわかるが、明るい部分と暗い部分の境目において、暗い部分の外側に緑のフリンジが出て、暗い部分の内側に紫のフリンジが出ている。
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画面右上の拡大例を見ると分かりやすい。倍率色収差は、画面中央から離れるほどにひどくなる傾向にある。
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Lens CorrectionのRemove Chromatic Abberationをオンにすると、色収差が激減する。この機能は、画像内のフリンジを検出して、補正強度を自動的に算定して適用してくれるらしい。だからプロファイルが不要なのだ。それでいて効果は覿面で、これだけで修正を終わりにしてもいい写真も多い。
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拡大例を見ると、完全には色収差を除去できていないが、かなり軽減されていることがわかる。
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ちなみにこの自動色収差補正機能はデフォルトでオフになっている。てことは必要ないのにオンにすると何かデメリットが生じるのではないかと疑うのが自然だ。もしそうでないならデフォルトでオンにするだろうから。しかし、Web上で調べた限りでは、実用上のデメリットはないらしい。フリンジを検出しようとした結果、それがなければ補正が行われないので、画質が劣化することはない。フリンジを誤検出する可能性はゼロではないが、画面全体にに同心円上の色ズレっぽい模様が現れる可能性はほぼないため、心配しなくていいらしい。敢えて欠点を上げるなら、検出処理にかかる時間で処理が少し遅くなることだそうな。本当に画質劣化がないのかはしばらく様子を見てから判断したいが、自分でいくつか試した限りにおいては、色収差のない写真に対して自動補正をかけても視認できる変化は全くないので、やはり実用的には常にオンにしていてもよさそうだ。そうすると嬉しいのは、レンズの種類によって適用するプロファイルを切り替えなくてもよくなることだ。自分の愛用のプリセットにて色収差自動補正をオンにしておけばいい。すごいぜLightroom


上の例のように、色収差が著しい場合には、自動補正だけではフリンジが除去しきれないことがある。その際には、手動補正も併用する。自動補正をオンにした上で、ManualタブのDefringe設定のPurple-amountを4、Green-amountを3にする。そうすると、完全に色収差が消える。これもまた凄い。
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拡大しても全く色収差が全く視認できない。
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この手動設定による補正は副作用があるっぽいので、他のレンズの現像には使わないほうがいい。フリンジの発生が疑われる部分の色相や彩度を周囲に合わせるといった類の操作を行うため、画質が劣化することがある。それでも、色収差が残っているよりは境界がちょっとぼやける方が遥かにマシなので、少なくともBCL-0980で撮ったと分かっている例には積極的に適用していってもよさそう。

Lightroomメタデータでフィルタして写真のリスト表示ができるので、使ったレンズの中で電子接点のないものがこの一本だけである場合には、その作例だけ振り分けて手動色収差補正付きのプリセットを適用するといいだろう。そうでない場合や、面倒な場合には、自動補正だけでもまあいいかなって感じ。


BCL-0980用の設定にはもうひとつツボがある。Detailコラムの設定だ。これはいわゆるシャープネスを高めるための設定群だが、デフォルトではかなり低い適用量でAmount=25になっている。デフォルトでゼロでないのは、おそらく、ほとんどのデジカメが採用しているベイヤー配列のデータのデモザイクによる解像度の低下を補うためであろう。センサー上の各画素はRGBのどれか1チャンネルの情報しか感知せず、現像時に他のチャンネルの情報を隣接画素から借りてくるおかげで、画素数分の解像度が出ないのは宿命だ。また、多くの機種ではローパスフィルタのおかげでピクセル単位の高周波の解像度は悪化する。よって、半径1ピクセル分の輪郭強調を行うことのメリットはデメリットを常に上回り、デフォルトでかけても問題ないということだろう。

BCL-0980の話に戻るが、このレンズの解像力は、他の単焦点レンズには全く適わないにしても、レンズキットのズームレンズMZ14-42EZとかと比べたら遜色ないレベルにはある気がする。画面周辺は甘くなるが、魚眼レンズで周辺の解像を気にすることはほぼないので、解像力には肯定的な評価をしていいと思う。それより問題なのは、マニュアルフォーカスな上に、フォーカスレバーがぐだぐだなので、実質的には目測のゾーンフォーカスで使わざるを得ないということである。したがって、主要被写体にガチピン感が出せる確率がかなり低い。言い換えれば、現像対象のファイルが持っている実質解像度の期待値は、1ピクセル単位よりもかなり低い。よって、輪郭強調の半径は1ピクセルより大きいほうが良さそうだ。シャープネスの設定に正解はないのだが、私の場合、Amount=30、Radius=2.0、Detail=30くらいにしている。
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画面中心付近の拡大画像を、デフォルトとシャープネス強化の結果を順に並べる。解像感がかなり違うことがわかる。
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もっと強く輪郭強調をかけてくっきりした画像を得ることもできるが、それはここではしない。現像時のシャープネス処理は、どんな表示装置でどんな拡大率で見ても副作用がない範囲で行われるべきだ。それを越える表示装置毎の最適化は、エクスポート時のシャープネス設定で行えばよい。。


ところで、魚眼レンズの撮像を変換して、普通の中心射影方式レンズの撮像のようにする、Defish変換というのがある。これができると、BCL-0980を普通の9mm画角(換算18mm画角)の超広角レンズとして使うことができる。この変換を行うにはレンズプロファイルが必要になるのだが、BCL-0980のものはないので、近い特性のレンズのプロファイルを代用することにする。Lens CorrectionコラムのProfileで、CanonCanon EF 8-15mm f/4L Fisheye USMを選ぶ。すると、あら不思議。魚眼の写真じゃなくなる。自分の場合、さらに、Distortionの適用量を140にして、Vignettingの適用量を0にしている。ゆがみに関しては、プロファイルのレンズよりBCL-0980の方が著しいので、過補正にならない範囲で適用量を強める方向で調整。周辺減光に関しては、Defish操作で四隅が切り落とされることでほとんど気にならなくなるので、簡易化のためのゼロに。
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Defish処理の使用前後の例を見てみると、魚眼の特徴と、その解除による影響がよくわかる。バスの例のように、主要被写体が近くにあるような場合には、魚眼の方が遠近感が強調されて面白い絵になる。橋の例のように、主要被写体が遠くあるような場合には、Defishした方が広々感が出て良い絵になるような気がする。ともかく、現像時にどちらの射影方式か選べるというのは大きなメリットだ。
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その他の修正済みの作例も列挙する。いずれも色収差が全くなくて気持ちがいい。そして、やはりパンフォーカス設定で3mくらい物を撮った時の、こちらに迫ってくるような躍動感がいいですな。「行ってきました写真」の看板撮影にも使える。
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てなわけで、Lightroomの痒いところに手が届く機能群のおかげで、BCL-0980が実用的になり、そして一段と楽しいツールになった。色収差がないってのは本当に気持ちがいい。そのまま現像て遠近感の強調を楽しむもよし、Defishして広々とした雰囲気を楽しむもよし。ポケットに入る超広角レンズ。でも、実はこいつカメラの蓋なんだぜ。