豪鬼メモ

一瞬千撃

CB400SFで富士五湖ツーリング

リターンライダーのレンタルバイク行脚の最終章として、CB400スーパーフォアで富士五湖ツーリングに行ってきた。エンジンから出ている4本のパイプがめっちゃ格好いいバイクだ。


4週連続で週末を使って125ccを2回、250ccを2回乗って感覚を慣らしてきた。先週のVTR250に引き続き、今回も人気車種かつ定番車種を選んだが、排気量はついに400ccに上げた。もしいずれバイクを買うなら、一通り乗ってから判断したいので、いろいろ試したいのだ。正直、でかいバイクや重いバイクはあんまり好きじゃないので、400ccを自分で所有することはないだろう。私もCB400SFは教習所で乗った口で、なんて重くて動かしにくいバイクなんだろうと思ったものだ。京都のデルタ教習所にて、急制動で転けて流血したのはもう25年くらい前だろうか。バイクで公道を走ったこともない初心者が車重207kgのバイクを取り回すのだから、そりゃ嫌いにもなる。

しかし、CB400SFは名車として名高い。教習車として初心者が有無を言わさず乗らされるものでありつつ、バイクに求められる各種性能を全て高いレベルで備え、多くの玄人に最高と言わしめる存在なのだ。始まりにして終わりのバイク、アルファにしてオメガ、それがCB400SFだそうな。ということで、25年経って分別がついてきた私も、改めてCB400SFに乗って、過去のトラウマを精算して、違いのわかる男になろうじゃないかと。私は中免しか持っていないので、400ccの先はない。オメガに乗ったなら、これでバイク行脚は打ち止めにしていいだろう。

今回はレンタル819の八王子長沼店を利用することにした。そこからすぐに中央道に乗れば、下道の渋滞にはまることなく山梨方面に抜けられる。さて、現地でCB400SFを受け取ると、まずその重さを改めて感じた。CB400SFが教習車である理由の一つは、この重さにあるのかもしれない。これだけ重いバイクを起こしたり取り回したりできれば、中型の他のバイクでもそんなに困らないだろう。そして、重い割にはシート高が低いので、跨ってしまいさえすれば、身長164cmの私でも快適に乗れる。CB400SFのシート高755cmは先週借りたVTR250と全く同じだが、シートの幅が少し広めな分、足付きはやや悪い。とはいえ、両足だと踵がつかないが、両足のつま先の母指球はつくので、かろうじてウォーキングができる。また、片足をステップに乗っけた状態なら逆足の踵がべったりつく。停止時にケツをずらさずに楽に過ごせるのが良い。ケツをずらして立つ場合、何かの拍子に逆側に車体が傾くと、ふんばる脚が届かずに立ちごけになってしまう。よって、CB400SFの足付きが私が快適に乗れる限界だと言えそうだ。

いったん走り出してしまえば、めちゃくちゃ乗りやすいのがCB400SFである。さすが400ccの4気筒と言うべきか、VTR250とはエンジンパワーの格が違う感じだ。低回転からトルクがあるので、2速発進どころか、やろうと思えば5速発進もできる。1、2、3速のいずれも、アイドリング回転だけで半クラで調整すればクリーピングっぽい走行ができる。街乗りの場合、5速固定でスクーターのごとく走るのがなかなか楽しい。かなりの低回転低速度で走っても、エンストする気配があんまりなく、楽だ。単気筒や二気筒に比べて低回転時のノッキングが起こりにくい気がする。総じて、車体が重いはずなのに、エンジンパワーがそれを十分以上に補ってくれるので、走りやすく感じるのだ。非力な125cc車でギアを頻繁に変えて運転するのも楽しいけれど、剛力な400cc車でハイギア縛りで走るのもまた楽しい。6速目だと2500回転で40km/hまで出るので、ちょっとアクセスをひねると1秒足らずで速度違反で切符を切られる領域に加速できる。ゆえに、下道を走るならずっと4000回転以下でいられる。低回転で走るのが好きで急加速する気がないなら別に多気筒エンジンである必要ってないのだろうけど、本気を出せばいつでも飛ばせるマシンを敢えて余裕を持って走らせるってのもまたオツなのかなと。

中央道に乗って高速走行性能を確かめる。当然ながら合流も楽々で、ギアが2段だろうが5段だろうが、ぐいっとひねればすぐに合流速度に達する。そして、高速走行と言えば、Hyper VTECである。バルブを多く使うと高回転時のトルクは強まるが、低回転時にはトルクが弱まるという特性に着目した技術らしい。低回転走行時には2バルブを開け閉めして走るが、6500回転を超えると本気を出して4バルブを開け閉めし始める。それによって、上で述べた低回転時の走行性能と、これから述べる高回転時の走行性能を両立させている。さて、Hyper VTECの4バルブが発動するには、6500回転まで高めねばならない。6速で6000回転まで回すと、100km/hで巡行できてしまうので、普通に運転していてHyper VTECの性能を味わうことはあまりない。でもせっかくなのでぶん回してみたところ、7000回転で120km/hまで出てしまったので、それ以上試すのは控えた。比較的暇な高速道路での走行も、「Hyper VTEC出るかな、出ないかな」といったギリギリのラインで回していると、楽しくてあっという間に時間が過ぎて現地についてしまう。感心させられるのは、Hyper VTECが発動する回転数に至っても、ドッカンターボのごとくいきなり挙動が変わってライダーを不安にさせることがないことだ。6500回転付近で、じわっと効き始めて、7000回転とか過ぎてもアクセルを回すだけどんどん吹け上がるという直感的な挙動だ。高速道路によく乗る人にはかなり嬉しい機能だと思う。VTR250と違って車重があってどっしりした走行感があるので、同じネイキッドなので走行風は体に厳しいのだが、CB400SFの方が高速巡航はしやすい。VTR250はエンジンぶん回してなんとか流れについていく感じだったが、CB400SFはHyper VTECを試すために十分な車間距離を作ろうとすると周りが遅過ぎてもどかしいくらいだ。

エンジンの振動に関しても気に入った。2気筒でありながら90度Vツイン構成にして振動対策をしているVTR250よりも、4気筒であるCB400SFはさらに振動が少ない感じがする。気筒が多い分(というか4気筒だと一次振動と偶力振動は打ち消されるが二次振動は大きくなるため)、より周波数が高い細かい振動になるわけだが、それがジャクジーの泡に手を突っ込んでいるような感覚でちょっと気持ち良い。低回転でも細かく優しい振動だが、高回転にするとさらに細かい感じになる。ただ、細かいといっても振動はしているので、おそらく高速道路に何時間も乗っていると痺れたような感覚になる気がする。長時間使っていても振動疲れしにくいのはVTR250の方かなと思った。

そうこうしているうちに、河口湖に到着した。湖畔の公園や街並みもよく整備されていて、気持ちの良い場所だ。湖も開放感があって素晴らしい。しかし、今回のツーリングは8時間レンタルの時間内で富士山麓まで往復しつつ富士五湖の全てを回るというきつめの計画なので、全くゆっくりする暇がない。ちょこっと休憩してすぐ移動。

西湖。小さい湖だが、水辺にキャンプ場がいっぱいある。オートキャンプ場が多い印象だった。

精進湖。おそらく五湖の中で最も知られていない場所だ。危うく寄るのを忘れるところだった。

本栖湖ゆるキャンで見た景色がいろいろ出てくる。ここに泊まって月明かりに照らされた富士山を眺めたら、確かに心が洗われそうな予感。

そして、若干離れている山中湖。富士山の景色としてはここが最強だと思う。湖畔には遊歩道も整備されている。富士五湖の釣りツアーとかもしてみたいな。

そして、気づいた。もうマジで時間がない。Google Mapsによると、即時に出発してもバイク返却時間まで15分しか余裕がない。ガソリンスタンドに寄って満タン返しもせにゃならん。Google Mapsの所要時間は渋滞に捕まらずに信号運がかなり良かった場合の見積もりなので、実際にはもっとかかる確率が高い。経験上、メータ読みで制限速度+10km/h(実質は制限速度+5km/hくらいか)で走って、信号や渋滞でバンバンすり抜けをしたとしてもギリギリだ。でも、帰りは最短経路が道志みちのワインディングなので、慣れないマシンで飛ばすわけにもいかない。もう割り切って安全運転で行くことにした。スキーやスノボの練習のように、コーナリングの基本動作を呟きながら右へ左へと安全にカーブを決めていく。途中の道の駅どうしにも寄って、まったり帰った。しかし、当然遅刻で到着と思いきや、なんと1分前についてしまった。CB400SFのおかげか、私の運転がうまくなっていたのか。

CB400SFの旋回性能に関して言えば、125ccのグロム125や250ccのVTR250に比べたら、悪い。キャスター角は25度強とどれも同じくらいで、オフセットが小さい分だけむしろVTR250のトレール量96mmの方がCB400SFのトレール量90mmより大きい。ならばライダーにとってのハンドリングはCB400SFの方が軽いのかというと、そうでもない。やはり車体が重くてタイヤが太い分だけ、傾きや速度の調整が難しい。ただ、このあたりは慣れの問題かとも思った。借りたばっかりの午前中は、曲がる際に内側に体重をかけても車体がなかなか傾いてくれないことに焦りすら覚えたが、午後になって、逆ハンドルを切ってゆっくり倒し込むコツをつかんだらうまいこと曲がれるようになった。旋回性と直進安定性はトレードオフなわけで、旋回の仕方を覚えればCB400SFの方が楽に走れるとも言える。車体の特性に応じて操作を変えるのは当然のことで、良し悪しの問題とは分けて考えるべきだろう。レースをしているわけじゃないのだから、自分なりのペースで動かせばよい。ただ、トレール量が25mmとやたら小さいブロンプトンという自転車に普段から乗っていることもあって、ハンドル操作が重いと戸惑ってしまう自分がいる。その点ではグロム125はかなり直感に近い挙動だった。ただ、巨大な慣性力を意のままに制御するという喜びは、重いバイクの方が大きい。そして、たぶん、400cc車の中では、CB400SFはかなり旋回性能が高い方なのかもしれない。

恒例の燃費チェック。今回は212.4km走って、7.01Lのガソリンを使ったらしい。ガス代は1100円。燃料消費率は30.29km/Lとな。なんとVTR250の26.04km/Lよりもかなり良いではないか。400ccクラスの基準で考えれば、30km/Lも出れば高燃費と言えるのではないか。低回転のトルクに任せて高いギアを使いまくったのが奏功したのかもしれない。高速道路でバンバン回した気でいたが、所詮は6500回転前後しか回していないので、結果的に全行程で低燃費運転をしていたことになるのかな。5速までしかなくて回転数が上がりがちなVTR250に比べて、6速あってトルク重視だから比較的高いギアが使えるCB400SFには燃費上の利点があるということかな。Hyper VTECの裏の功績は、2バルブのトルクで低燃費走行ができることにあるとも言えそうだ。

そして、自分の尻の状態チェック。肛門は無事だった。VTR250の時と違い、イボ痔にならなかった。シートの形はVTR250とCB400SFで大差ないが、CB400SFの方がシートが若干幅広で、かつ尻上がりの角度が小さい分、尻への負担が小さい。あるいは、タイヤやサスペンションがよりうまく衝撃を吸収してくれたのかもしれない。比較のために、CB400SF(緑)とVTR250(赤)のシルエットを同じ縮尺で重ねてみよう。双方とも全長は208cmで、シート高は75.5cmなのだが、形の違いがよくわかる。CB400SFの方が若干ではあるが平べったく、座っていて楽そうだ。

同様に、CB400SF(緑)とグロム125(青)も同じ縮尺で重ねてみる。グロム125の全長は176cmで、シート高は76.1cmだ。グロム125の小ささがよくわかるとともに、CB400SFのシート高がグロム125より低く抑えられていることに改めて好感を持つ。だって、公道で立ちごけしたら対向車に轢かれて死ぬかもしれないし、轢かれなくても金銭と精神に多大に損害を被るわけで、それに怯えてバイクに乗るなんて嫌じゃん。

総評。パワーがあって運転しやすくて燃費が良くて足つきがよくて尻が痛くならないバイクなわけで、CB400SFってめっちゃ良い気がしてきたぞ。車重が重いのだけが唯一の欠点だと思ったが、400ccクラスの車重としては普通だ。VTR250も良かったけど、CB400SFもいいなぁ。引き締まった筋肉の塊みたいな筐体から出てくる強大なパワーを制御する喜びがある。正直、CB400SFのパワーは私のような素人にはオーバースペックもよいところだが、そのパワーの一部だけを使って余裕のある走りをするのもありかなと。CB400SFは完成されすぎててつまらないとかわけのわからないことを言う輩がいるらしいが、何が完成なのか定義が曖昧なのは置いておくにしても、それを乗りこなす自分が完成されていないのは確かなので、それで向上心や探究心が挫けるってことはないだろう。バイク行脚の最終章で、良いバイクに巡り会えて良かった。残念ながらこのCB400SFも廃番になってしまっているが、排ガス規制に負けずにぜひまた後継製品を出していただきたいものだ。

いくつかバイクを借りてきた上での、「俺の考えた最強のバイク」は今の所こんな感じだ。性能は下道特化だけどいざとなれば高速にも乗れる、自転車みたいに軽くて曲がりやすくて低燃費のバイク。言い換えれば、排気量150ccくらいの低回転高トルクエンジンを積んでいて車重が100kgくらいと軽いがオフ車みたいに車高が高くない、シート高740mmくらいのネイキッドバイク。さらに言い換えれば、グロム125をちょっとパワーアップしつつシート高を下げるか、VTR250 Type LDをちょっと軽くしつつ燃費を改善するか、CB400SFをスモールライトで0.8倍にしたようなバイク。現代の技術でできないはずはないので、私がイーロンマスクだったらそういうのを作らせたいなんて中二病的な妄想をしてしまう。で、結論としては、現実的にはグロム125をまったり乗るか、ジクサー150やXSR155をローダウンするかってあたりになるのかな。