豪鬼メモ

一瞬千撃

25mm F1.2と45mm F1.2の近接描写

大口径レンズを使ってみたいなと思い立ち、サブスクリプションサービスで借りてみた。オリンパスのM.Zuiko 25mm F1.2 ProとM.Zuiko 45mm F1.2 Proだ。双方とも、でかくて重くて高いがよく写ると評判のレンズである。25mm F1.2はいわゆる標準画角レンズで、各所のレビューによると、解像度と透過率はいまいちだが、ボケ質が素晴らしいのと、軸上色収差が少ないのが美点だそうな。45mm F1.2はいわゆる中望遠レンズで、各所のレビューによると、透過率はいまいちだが、ボケ質と解像度が素晴らしいのが美点だそうな。実際どうか確かめたい。今回は近接撮影の描写を比較する。STFモードでの比較も行う。
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45mm F1.2 Proをつけて、主要被写体から80cm離れて撮る。真ん中に立てかけてあるKindle Paper WhiteのKindleロゴの部分にピントを合わせる。まずはF1.2の例。めちゃボケるし、ボケの縁が溶けていて滑らかだ。
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同じレンズで、F1.8の例。1段絞ったことになるので、ボケが小さくなる。具体的に言えば、錯乱円の面積は1/2、直径は1/√2になる。ボケ量が減り、ボケの縁が溶けなくなる。
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今度は、レンズを45mm F1.8につけかえて、F1.8の例。ボケ量はF1.2 ProのF1.8の例と同じくらいになるはずで、実際そうなっている。
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80cmという中望遠レンズにとってはかなり近接撮影になる距離だと、ボケ量はF1.2で十分というか、F1.8でも十分だ。F1.8でも、60度くらいに傾けたKindleの全体が被写界深度内に入っていないのだ。もちろん、背景を分離する効果はF1.2の方が大きい。また、評判通り、Proはボケ質が良い。F1.2では、ボケの縁がとろけていて、とても心地が良い。feathered bokehとか喧伝するだけのことはある。F1.8にするとその効果は薄れて、Proの例と無印の例はほぼ同じ描写になる。ただ、無印の方はKindleの上の縁の方に軸上色収差が視認できるが、Proの方はそれがない。若干絞って使う場合にも、やはりProの方が良い描写をする。そうでなくては値段5倍で重さ3倍のProの意味がない。と同時に、無印の方も軸上色収差さえなければ文句のない素晴らしい写りだと改めて思う。

色味に関してもProと無印で違いがある。両者ともホワイトバランスはLightroomの「蛍光灯」プリセットにしているが、Proの方が青っぽく、無印の方は黄色っぽい。つまり、Proの方では青チャンネルを加算する周波数の透過率が比較的高く、逆に赤や緑が低いということだ。一方で無印の方は緑チェンネルや赤チャンネルを加算する周波数の透過率が比較的高く、逆に青が低いということだ。どちらが理想(無色=センサー感受域全周波数の透過率が同じ)に近いのかはこの比較だけではわからないが、とりあえず双方の色味が若干違うというのは確認できた。

次に、45mm F1.2 ProでSTFモードを発動してみる。F1.8を中心に1/3EV刻みの7枚ブラケット撮影して、F1.2、F1.4、F1.6、F1.8、F2.0、F2.2、F2.5を合成する。ボケ量はF1.8相当に減るが、ボケ味はF1.2の例よりもさらに向上して、タイルの目地が完全に溶けているのがわかる。feathered bokehがさらにfeatherされて、feathered feathered bokehになっている。
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STFモードの強みは、開放以外でも発動できるところだ。Proレンズのまま、F2.5を中心に、F1.8、F2.0、F2.2、F2.5、F2.8、F.3.2、F3.5の7枚を合成する。ボケ量はF2.5相当に減るが、ボケ味はきちんと向上して目地が溶けている。近接撮影の場合、被写界深度が深い方がよいので、絞った上でSTFモードを発動するのは有用だ。
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無印に付け替えて、F2.5を中心としたSTFモードを発動させる。STFモードにすると開放の色収差が薄まってほとんど視認できなくなるため、Proの例とほとんど区別がつかなくなる。
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25mm F1.2 Proにつけかえて、主要被写体から80cm離れた同じ位置から撮影する。まずはF1.2で普通に撮る。当然、同じ距離で撮れば、焦点距離が短くなった分だけ被写界深度は増す。背景のタイルの目地のボケの溶け方を見ると、こちらもfeathered bokehであることがわかる。画面の上の方に映り込んでいるライトのボケの縁に全く色収差が見えないあたりも素晴らしい。標準画角で80cm離れてもこんなに背景がボケるのであれば、ボケを生かした写真も撮りやすくなるというものだ。
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同じレンズでF1.8に絞る。例によって、錯乱円の面積は1/2、直径は1/√2になる。ボケ量が減り、ボケの縁が溶けなくなる。といっても、まだボケの縁が滑らか気味な気がする。25mm F1.2 Proは他のF1.2 Proシリーズの中でもボケ味が特に良いとの噂だが、そう言われるとそうかもなという気になる。
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レンズを無印25mm F1.8に付け替えて、F1.8で撮る。このレンズはよく写るし気に入っているのだが、やはり軸上色収差でボケにカラーフリンジが出るのが欠点だ。画面上の蛍光灯の写り込みを見ればよくわかるだろう。とはいえ、色収差に目を瞑れば、このレンズもボケ味がかなり良いのだ。目地のボケが心地よい。
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標準画角のレンズでは、80cmというと、肩から上のかなり寄ったポートレートくらいの距離だ。そうすると、背景を強くぼかしたい場合にはF1.2の利点が大きい。そして何よりProレンズはボケ味が美しいので、なんだか写真がうまくなった風な写真が撮れそうな気がしてくる。25mm F1.2 Proは他(45mm、17mm)のF1.2 Proに比べて解像度が低いとか各所のレビューに書いてあったが、ボケを生かした写真を撮るのであれば、ピクセル単位のコントラストとか画面端の流れとかはあんまり気にしなくてよいだろう。というかこの写りで不満を持ち得ない。

色味に着目すると、やっぱProは青っぽくて、無印は黄色っぽい。この例での光源は暖色の蛍光灯で、私にとって実物の見た目は両者の例の中間くらいか、どちらかと言うと無印に近い気がする。Proの方はレンズ枚数が多い分だけ透過率の低下や偏りが出やすいのだろう。とはいえ、露出やホワイトバランスを調整すれば、レンズの違いが弁別できない程度には修正できると思う。というかオートホワイトバランスで撮る時点でほとんど違いに気づかないだろう。

25mm F1.2 Proに戻して、STFを発動してみる。F1.2、F1.4、F1.6、F1.8、F2.0、F2.2、F2.5を合成する。例によって、feathered bokehがさらにfeatherされて、feathered feathered bokehになっている。被写界深度が深くなって主要被写体の視認性が上がり、私好みの絵になった。
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Proレンズのまま、F2.5を中心に、F1.8、F2.0、F2.2、F2.5、F2.8、F.3.2、F3.5の7枚を合成する。ボケ量は減るが、やはりボケ味は良い。被写界深度が深い写真が好きなの私としては、焦点距離25mmでこの撮影距離でもF2.5相当のボケで十分だと思う。
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無印につけかえて、F2.5を中心としたSTFモードを発動。軸上色収差は薄まり、ボケ味も向上して、被写界深度もいい感じになった。七難隠すSTFモード。
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標準画角で今回の被写体を撮るなら、もっと寄る余地がある。よって、40cmまで接近して、同じ比較をしてみた。まずはProでF1.2の例。STFでなくても溶けたボケになって素晴らしい。
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ProのままF1.8。素直で描写で、何の欠点もない。
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無印のF1.8。こちらも十分に良いのだが、色収差が惜しいところだ。
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ProのSTFモードF1.8中心、ProのSTFモードF2.5中心、無印のSTFモードF2.5中心を順に並べる。
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参考までに、Leica 15mm F1.7でも40cmの同じ場所から撮ってみた。絞りはF1.8。やはりこちらも解像とボケは十分だが、色収差が玉に瑕だ。
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そして、F2.5を中心としたSTFモード。やはりボケが美しくなり、色収差も薄くなる。広角で寄って撮るとやっぱ迫力があっていいな。STF被写界深度が深くなる美点も生きてくる。
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25mm F1.2 Proだけをつけて外を散歩してきた。開放F1.2の例とSTFモードの例を並べて掲載する。設定を誤ってISO3200で撮ってしまったので画質が荒れているが、開放F1.2単写でもSTF並にボケが綺麗であるということに着目してほしい。
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こちらは45mm F1.2 Proの例。やはり開放単写でもSTFばりにボケが綺麗だ。
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総評としては、やはりF1.2 Proレンズは伊達じゃないということになるかと。開放から十分に解像するし、ボケが美しいし、色収差も少ないし、写りに欠点がない。とはいえ、近接撮影の場合、F1.2ではボケすぎるので、絞ることが多いだろう。絞った場合でも無印F1.8シリーズのレンズよりは写りが良いのも確かだが。でも絞って撮るなら12万円の価値は引き出せないかな。やはり大口径が活かせるのは被写体からの距離が離れても一定のボケ量が欲しいというシーンだろう。それに関しては日を改めて考察したい。

余談だが、Proレンズの市場価格を調査していたら、在庫一掃セールと銘打って新品の17mm F1.2 Proが5万弱で売り出されているのを見つけた。これは買いでしょと思って決済画面を開いたが、そこでふと冷静になった。そんなうまい話があるはずがないと。経済原理というものがあるのだ。分別のある大人は、エネルギー保存則を無視した永久機関の話を聞いたら警戒するだろう。それと同様に、経済原理を無視した価格設定のセールを見たら警戒せねばならない。で、調べてみたら、案の定、そこはフィッシングサイトであった。サイトの構成がかなりよくできていた。恐ろしい世の中だ。というか、一瞬でも欲に目が眩んだ自分の弱さが怖い。皆さんもお気をつけください。