豪鬼メモ

一瞬千撃

画角とSTFモード

どんな画角が使いやすいかというのは好みと慣れの問題なので、一般論としての結論は出せないだろう。その上で、自分にとってはどんな画角が使いやすいかというのは決めねばならない。なぜなら予算も体力も有限であり、買ったり持ち運んだりするレンズは選択せねばならないからだ。さて、STFモードをより楽しく撮るという課題を掲げて活動している今日この頃だが、もうちょいボケさせるためにレンズを買い足すことを検討している。ボケを大きくするためには大口径の単焦点レンズが必要となり、予め画角の選択をしなければならない。ということで、同じ被写体を同じ大きさに映るような距離で撮った場合に背景の写りがどう変わるかをあらためて確かめてみた。
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幼児くらいの大きさの銅像を題材にする。その背後5mくらいの位置に背景として自転車を置いてある。幼児の全身ポートレートや大人の上半身ポートレートを撮る場合の距離感だと、レンズ毎に背景の大きさとボケ具合がどう違うかを確かめる。例によってレンズはフルサイズ換算30mm画角であるLeica Summilux 15mm F1.7と、換算50mm画角であるM.Zuiko 25mm F1.8と、換算90mm画角であるM.Zuiko 45mm F1.8だ。まずは全てF1.8で撮る。
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当然ながら、広角だと寄って撮るので、主要被写体と背景の距離の比率が大きくなり、結果的に背景が小さく写る。逆に望遠の場合には離れて撮るので、主要被写体と背景の距離の比率は小さくなり、結果的に背景が大きく写る。標準画角はその中間だ。ボケの大きさで言えば、望遠の方が大きくなる。F値が同じで焦点距離に応じて撮影距離を変えている限りにおいて、被写界深度は大きく変わらない。M43のF1.8では、どの焦点距離でも、焦点距離の100倍にピントを合わせた場合には、被写界深度は常に52cmくらいになる。また、ピント面に描かれる被写体のサイズは焦点距離の倍数を合わせる限り一緒になる。しかし、被写界深度から外れた被写体が描く最大の錯乱円の大きさは、望遠の方が大きい。被写界深度シミュレータで15mmの例45mmの例を比べてみると、納得がいく。ちなみにこの被写界深度シミュレータのボケはガウシアンぼかし的なアルゴリズムで再現しているっぽく、既にSTF風の滲みになっている。
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どの画角が良いかは撮影時の意図によるので、一概には言えない。とはいえ、状況に応じた経験則は成り立つ。幼児の我が子が被写体の場合には、近にいる方が安全だし、寄って自然な表情が撮れるという親の特権を生かすべく、広角の方が使いやすいかもしれない。思春期に入った子供を撮るなら、寄ると警戒されるので、望遠の方が使いやすいかもしれない。寄って撮れば、近くにいる臨場感が出せるし、離れて撮れば、客観的な表現ができる。実際の撮影位置が写真にも反映されるというだけだ。その他にも、大きいものを撮ったり、室内などの狭い場所で撮る場合には広角、小さいものや遠くのものを撮る場合には望遠という一般論は成り立つだろう。

さて、それぞれをSTFモードで加工してみた。例によってF1.8からF3.5までの7枚合成である。ボケ味がどう変わるか。
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どの例でも、背景がジワッと滲んてボケ味が向上している。そもそものボケ量が少ないので、微妙な違いでしかないが、やっぱりボケ味が良いと全体的な印象が心地よくなる。ボケの輪郭のコントラストが下がり、軸上色収差に起因するフリンジの色も薄くなっている。ボケ量が少ないのに背景が滲んで目立たないので、主要被写体に自然に視線が誘導される。それでいて、背景に何が写っているかはより視認しやすくなっているので、背景も含めたストーリー性が高まる。

STFの効き具合を画角で比較すると、ボケが大きい分だけ、望遠の方が効果が大きく感じる。STFモードは錯乱円の半径の半分から縁までにかけて濃度を線形に薄くするという効果があるだけなので、ボケの大きさが同じであれば、効果も同じだ。ただし、ボケが大きいほど、STFの効き具合が描写に大きく影響する。また、背景の物体が大きく写ることで、鑑賞者の意識がそちらにも行きやすくなるので、STFの意義がより大きくなる。

別の例も見てみよう。自転車をアップで撮り、背景がもっと遠くにある場合にはどうなるか。以下は既にSTFモードで加工している。当然ながら傾向は同じで、望遠の方がSTFの効果を実感しやすい。
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ということで、STFモードの効果を十分に感じたいならば、望遠レンズを使うべきだ。本家STFレンズが100mmなり135mmなりの望遠レンズで発売されているのはそういう理由だろう。

しかし、画角の個人的な好みで言えば、標準画角が好きだ。私にとって望遠は使いにくい。三つ理由がある。ひとつ、私は視力が良くないので、遠くにある面白いものを見つける能力に乏しい。ふたつ、背景を調整すべく被写体を中心に円周方向に歩くのが大変だ。みっつ、トリミングで画角を狭くすることはできても、広くすることはできない。かといって、広角にも難点はある。四つ理由がある。ひとつ、寄って撮らないと面白くならないが、家族や知人以外の人間が被写体だったり店舗等の衆人環視下だったりすると大胆に寄る度胸がない。ふたつ、寄らないで風景を広く撮るなら、そもそも大口径レンズでボケさせる必要がない。みっつ、スマホが広角なので、差別化の意味では標準か望遠の方がいい。よっつ、中央以外をトリミングすると、シフト歪みが大きく出る。

とはいえ、望遠よりは広角の方がよく使うので、選ぶなら標準か広角かという話になる。飯撮りなどのテーブルフォトを考えても、標準と広角の間くらいが使いやすい。望遠だと立ち上がらないと撮れないので店ではやりにくいし、広角だと斜めから撮った際に奥の皿が小さくなりすぎる。換算40mm付近の標準と広角の間くらいのレンズが最近よく出ているのは、おそらく同じようなことを考える人が多いからだろう。STFのことを考えると、望遠の方が効果を感じやすいが、大口径レンズでボケを大きくできるのであれば、広角でも十分に楽しめることになる。むしろ、本家STFレンズでは味わえない広角画角でのSTF効果こそ、面白いとも言える。以下は標準のSTFの例だ。これがもうちょい広角なら、立ち上がって撮らずとも、コップやその他のカトラリーを入れることができただろう。
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さて、M43で標準か広角の大口径レンズというと、M.Zuiko 17mm F1.2か、M.Zuiko 20mm F1.4か、M.Zuiko 25mm F1.2か、Leica Summilux 25mm F1.4か、Sigma 16mm F1.4といったところだろうか。わざわざF1.8から買い足すのであれば、1段明るいF1.2が欲しくなる。そうするとボケの半径は1.41倍になる。となると、M.Zuiko 17mm F1.2とM.Zuiko 25mm F1.2の勝負になる。それぞれF1.2で焦点距離の100倍にピント面を合わせる場合、被写界深度シミュレータでは以下の結果になる。被写界深度は両者とも35cmくらいになり、十分だ。これ以上浅いと、顔全体が被写界深度に収まらなくなってしまう。
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15mmと25mmを既に持っていることと、レビューの評価などを見ると、M.Zuiko 17mm F1.2が欲しくなる。17mmでもF1.2の大口径となればそこそこボケるので、背景と主要被写体が分離した描写が楽しめそうだ。高いのでおいそれとは買えないけども。

おまけ。都庁のライトアップが美しかったので、STFモードで撮ってみた。手持ち撮影だったので手ブレ防止でISO1600まで感度を上げたが、7枚合成するとノイズがほとんど見えなくなった。HDR効果があるのでダイナミックレンジも広くなるし、夜景でSTFモードは結構使える。
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