豪鬼メモ

一瞬千撃

JAXA筑波宇宙センター特別公開

最近、宇宙のことに興味が出てきたらしい下の子。宇宙図鑑などを読んではウンチクを語ってくれるようになった。そんな折、年に一度のJAXA筑波宇宙センター特別公開があると聞いて、彼女を連れてはるばる行ってきた。

東京駅の八重洲口から筑波大学行きの高速バスに乗ると筑波宇宙センターの正門前で降りられるので、意外に楽に着いた。敷地に入ってみると、大学のように広大で気持ちがいい。そして、我が国が誇るH2Bロケットがお出迎えしてくれる。
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開場は10時でその40分前くらいに着いたのだが、既に入場待ちの列ができていた。いくつかのイベントは整理券制なので、早めに入ってそれを入手する必要があるのだ。イベントが盛りだくさんな中でどれを選ぶか話し合いつつ待っていると、開場時間になった。
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大西・金井宇宙飛行士のセッションとかなり迷ったのだが、当家は磁気試験設備ツアー零磁場体験を選んだ。磁気試験設備は敷地の奥の方にあるので、ダッシュして整理券を確保。ペースに着いて来られない子は泣き叫ぶも、なんとか目的を達成できた。
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グラウンドでは、JAXA職員が製作したスペシャルロケットの打ち上げを見ることができた。筐体は小さいが火薬で推進する本物のロケットを、しかも実際の宇宙ロケットの発射を担当している職員の方々が、実際の手順を模した小芝居をしつつ打ち上げるのが近くで見られるのだ。ドラマチックでかっこいい。
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研究開発棟での革新的衛星技術実証1号機の展示。7つの革新的な研究テーマの衛星を一回の打ち上げで軌道に乗せる企画。自分で革新的と言うくらいなのだから研究員の皆さんはその革新性をアピールするのに余念が無い。そんななか「なんでこの真ん中のとこって金ピカなんですか?」とか素朴な質問をしても丁寧に答えてくれた。ちなみにそれはFAQで、黄色いポリイミドをアルミニウムに蒸着させた断熱材で衛星本体を保護しているからとのこと。飾りじゃない。
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食堂で一休み。はやぶさ2カレーやらの宇宙っぽいメニューがいくつかあって子供も大喜び。これがヒルズの特設展のコラボメニューとやらだったら1500円くらい取りそうなところだが、なんと600円。しかも結構美味い。
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そうこうしていたら整理券の時間になったので磁気試験設備ツアーに行った。XYZの3軸の巨大電磁石で地球の磁場を打ち消すことで、人口衛星の微小な磁性を測定可能にする施設だ。人口衛星が少しでも磁性を帯びていると地球の両極を向くトルクが働くから姿勢制御が難しくなるので、それを打ち消すか、それを前提に姿勢制御するかといった対策が必要になるらしい。ここでも実際の研究員の人と話をすることができて、「地磁気が変動するのにはどう対応するのか」とか「こんなにでかくても中心部しかゼロ磁場にならないと思うが、それよりでかい衛星はどうやって扱うのか」とか聞くとわかりやすく答えてくれた。磁力を測るだけでもこんな大規模な設備と高度なノウハウが必要な世界に胸熱。
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宇宙飛行士養成棟。ここは宇宙兄弟でも出てきたあれこれが見られる。例の宇宙服展示とか、例の閉鎖環境施設とか。
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事前申し込みに当たれば、きぼう運用管制官模擬体験とかもできたらしいのだが、後で知って後悔。来年はぜひやろう。
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廊下に張り出してあったJAXA十訓みたいなのが印象に残った。いろいろいいこと書いてある。
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再びグラウンドに行って、水ロケットの打ち上げ体験。加圧した空気の力で水を噴射する、よくあるペットボトルロケットの仕組みなのだが、さすがJAXA、飛びが違う。遥か遠くまで飛んで行ったロケットをダッシュで追いかけて取りに行く子供たちの姿が良かった。
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展示館の常設展示を見に行った。ここは特別公開日でなくても見られるので他を回りたかったのだが、子供が行きたいと言うので仕方ない。でも実物大のはやぶさ2ISSきぼうモジュールの模型が見られて良かった。単に見て回るより、ガイドツアーに付いて行って話を聞くのが断然良い。
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まだまだ見たいものがあったのに、あっという間に閉場時間になってしまった。これは毎年来ねばなるまい。今回は足を捻挫して来られなかった上の子も連れて、来年以降も来たい。最後にロケット博士によるH2ロケットガイドがあったので、参加した。例によって実際のロケット開発に携わっている人による解説を聞けるのだが、ならではの話が聞けて面白い。3000度にもなる燃焼室はそのままだと溶けてしまうから液体水素で冷やすための管が必要で、それがスジスジの正体で、職人さんが一つずつ付けているのだとか。
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ここで、今まで漠然と疑問に思っていたことを質問することができた。ロケットの打ち上げ後、機体が垂直に上がった後に、徐々に傾いて飛んでいくが、あれってどうして? 風に流されてるの? で、答えはもちろん、全て計算して行っているというものだった。打ち上げ時には垂直に上げることでなるべく早く重力を振り切りたくて、さらに地球の自転の力を利用して飛ばしたいので東向きの軌道を取るべく傾けるのが典型的らしい。そうなると、翼もないのにどうやって姿勢制御するかという話になるが、噴射口を微妙に傾ける装置がついているのでそれが可能らしい。そして機体の位置は発射後にアンテナで追跡して軌道の微調整ができるようになっていると。実はこの質問もFAQらしい。さらに、もう一つ質問をした。液体燃料ロケットが噴射口付近で水素と酸素を混ぜて燃やすのはわかったが、固体燃料ロケットは固体をどうやって噴射口に送り続けるのか? 答えは、固体燃料ロケットの燃料はは噴射口だけで燃えているのではなく、機体の内側全体で燃えているということだ。どの程度の速度で燃焼するかは、燃料にギザギザの切れ目を作って反応の伝搬速度を調整して制御しているとのこと。どんな形にするとどう燃えるかはミサイル技術の発展に伴って研究されたそうな。固体燃料ロケットは出力を動的に調整することができないので、設計や事前の燃焼実験がとっても大事になる。じゃあなんで扱いにくくて効率も悪い固体燃料を使うのかというと、発射時には早く重力を振り切りたいので効率よりもパワー優先にしたいから。なので、大型のロケットは液体燃料の本体と固体燃料のブースターを組み合わせ、小型のロケットは固体燃料だけで実現するという。そんな話を実物を見ながら教えて貰えるのはなかなか得難い経験であった。
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まとめると、JAXA筑波宇宙センター最高。日本の頭脳たる研究者や技術者の方々にとっては、一般公開の対応なんてのは焼そばみたいな仕事なのに、本気でやってくれている感が伝わってくる。組織としては、スポンサーである納税者の皆さんに活動への理解をいただく必要がある。しかし、個々人の対応がここまで丁寧なのは、やはり仕事に誇りを持って楽しく働いているからであり、その楽しさを一般の人にも知ってほしいという思いがあるからだろう。当家の娘たちもこんなところで働ける人材に育ってほしいものだ。

宇宙兄弟(1) (モーニングコミックス)

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