豪鬼メモ

一瞬千撃

M43単焦点レンズ撮り比べ

通勤途中に通りがかった西郷従道邸跡にいい感じに白梅が咲いていた。春本番を控えた前哨戦として、広角・標準・中望遠域の3つの単焦点レンズで撮り比べてみた。
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まずは最近買った広角単焦点レンズLeica Summilux 15mm F1.7。開放F1.7から。枝葉でうるさくなりがちな後ボケがうまいこと溶けた感じになっていて、うまいこと主要被写体の花に視線を誘導してくれる。一方で前ボケは分身の術みたいになってて比較的うるさい感じがする。全体的にソフトな描写になっていて、よく言えば柔らかくて、夢の中にいるような雰囲気が出ているかな。
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F2.8に絞るとこうなる。傾向としては同じで、後ボケの方が綺麗に見える。前ボケの部分を手で隠して眺めてみると、立体感があって、なかなかいい写真だ。後ボケも前ボケも小さくなったが、主要被写体もよりくっきり描写されたので、個人的には開放よりこっちの描写の方が好きかな。
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F4.0に絞るとこうなる。さらにボケは小さくなり、視線誘導の効果は減ったが、色収差が減って解像度が増したおかげでクリアな気持ちの良い描写になった気がする。開放の描写から比べると、目が覚めたような感じ。
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次に、私が最も長く愛用している標準単焦点レンズM.Zuiko 25mm F1.8。開放F1.8から。後ボケも前ボケもちゃんと柔らかく溶けた感じにはなっているが、なんかすっきりしない気がする。ボケの外周にカラーフリンジが出ているのが原因かな。軸上色収差はMZ25の方がLS15よりひどそうだ。
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F2.8に絞るとこうなる。色付きが消えて、より良い描写になった気がする。ボケが小さくなっても、主要被写体もくっきり写っているおかげで視線誘導の効果は保たれている。個人的には開放よりこっちの描写が好きかな。
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F4.0に絞るとこうなる。LS15の時と同じく、ボケの小ささで視線誘導の効果は減ったが、よりクリアな描写になっていて、これはこれで好ましい。
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最後にM43界の神レンズと言われる中望遠単焦点レンズM.Zuiko 45mm F1.8。開放F1.8から。磨りガラスに写したような特徴的なボケで、さすがといったところか。後ろに何があるのか全くわからないくらいぼかしつつも、主要被写体はくっきりと写っている。前ボケは後ボケと比較すれば主張があるけど、それでも溶け込んだ感じになっている。
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F2.8に絞るとこうなる。後ボケも前ボケも被写体の形がかろうじてわかるようになってきたが、ボケの輪郭は滑らかでうるさくない。
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F4.0に絞るとこうなる。ボケが小さくなってきたけど、これでやっと25mmの開放と同じくらいのボケ具合といった感じか。ボケの境界も綺麗で、収差も感じさせず、素晴らしい描写だ。
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ポッケの中にに忍んでいたので、ボディキャップ魚眼レンズBCL0980も出してみた。ピントレバーはグダグダだし、F8の固定絞りしかできないけど、侮れない描写である。中央の解像度は十分実用になるレベルだし、ボケない代わりにパースペクティブが強調されて、すなわち距離のある被写体が小さく映るので、主要被写体にきっちり視線が集まるようにもできる。
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総評としては、月並みだが、画角や被写界深度や収差の特性は違えど、どのレンズを持っていっても花撮りに使えると思う。とはいえ、梅や桜のような小さい花の個々の花冠に着目する写真を撮る目的では、標準画角のMZ25をF2.8くらいに絞って使うのが最も適していると私は思う。中望遠だと写りはいいが構図を作るのが大変だし、ボケが大きくて溶けていればいい写真になるってわけでもない。周囲の花が適度に視認できる方が華やかでいい。同じ理由で、開放で撮ればよいというものでもなく、収差のことを考えればF2.8やそれ以上のF値に絞るのは合理的だ。広角だと主要被写体の花冠を大きく写すためにかなり寄る必要があるのだが、そうすると手の届く範囲の花しか撮れなくなる。さらに、背景に入る枝葉などが高周波になることでボケもうるさくなりがちだ。敢えて広角で撮るならもっと絞ってたくさんの花が被写界深度に入る構図にした方がよさげ。

後ボケのボケ味を良くするために球面収差の補正をほんの少し補正不足にするのが一般的だという。しかし補正不足の分だけ解像度が落ちたり前ボケが汚くなったりする欠点があるわけで、バランスが大事らしい。ともかく、後ボケの綺麗さを追求したレンズでは前ボケが汚くなるのではと思って今回の比較に望んだわけだが、どのレンズでもどちらかと言えばやはり後ボケの方が綺麗な気がする。特にLS15は後ボケ重視の傾向が顕著で、この例を見ると後ボケの円滑さと前ボケの二線ボケがよくわかる。
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LS15は前ボケをフィーチャーするのには向いていなそうだが、もっと大胆にぼかして輪郭がわからないくらいにすれば二線ボケ傾向は隠せるっぽい。わざとらしすぎる構図だが、こんな感じ。
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LS15も、前ボケが直ちに汚くなるということではない。ピント面より前の被写体がちょっとぼける程度であれば、特に欠点を感じない。大々的に前ボケをフィーチャーするのには向いていないというだけ。
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ここで比較したレンズの中ではMZ45が最も素直なボケ味であるように感じる。前ボケも後ボケも癖がなくて、見やすい。それに比べると、MZ25はちょっと後ボケ重視で、LS25はさらにその傾向が強いということだろう。しかし、画角が違うレンズのボケ味を同じ被写体で比較するのには無理がある。ここで言えるのは、ここで挙げた3つのレンズはどれも問題なく使えるということだけだ。というか、MZ45が素晴らしくてMZ25も文句なく使えることは既に知っていたので、LS25がそれらに遜色なく使えることがわかったのが今回の収穫である。ちなみに、ここで挙げた例はどのレンズでも最近接ギリギリだったので、もっと寄りたければクローズアップレンズが必要になるだろう。


後ボケと前ボケのボケ味に関する設計思想がレンズ毎に違うということがわかったところで、駄目押しに開放にて各レンズの後ボケと前ボケの極端な例で傾向を確認してみよう。

LS15。後ボケはやはり溶け込んだ感じがするが、それに比べると前ボケは美しいって感じではない。でも画面内にちょっと前ボケが入る分には全く問題ない。
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MZ25。ボケ味的にも、LS15とMZ45の中間的な位置付けで、画角的にも解像度的にも中間的であるからして、改めて使いやすいと思った。
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MZ45。後ボケはもちろん、前ボケも美しい。スナップ用途で中望遠を使いこなすのは難しいけれど、ボケを前面に出した表現をしたいならやっぱりこのレンズだな。
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この日は東京からも富士山が綺麗に見えたので、これも撮り比べた。LS15、MZ25、MZ45の順に並べる。遠景はどのレンズでもF4.0が最善なのでそれで撮った。ガラス越しに撮ったので解像度もコントラストも落ちているが、画角と描写傾向の参考にはなるかな。
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3つとも隅々まで解像していて気持ちがいい。さすが単焦点といったところか。遠景撮影においても、MZ45が素晴らしくてMZ25も文句なく使えることは既に知っていたが、LS25がそれらに遜色なく使えることがわかったのが収穫である。隅が全く流れていないのがいいね。


お散歩スナップの例として、神社の鳥居を撮り比べてみた。LS15、MZ25、MZ45の順に並べる。主要被写体である鳥居と、その前景および背景を含めた三層が認識できるように被写界深度を浅くすべく、F2.0で撮ってみた。
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ここで学べるのは、この距離感だとM43機のF2.0のボケでは主要被写体を分離するには全く足りないということだ。どの例も全く見るべきところがない写真になってしまった。あと、開放近くだとどのレンズでも軸上色収差が出るということもわかる。こういう時は中途半端にぼかそうとせずにF4.0やF5.6に絞った方がまだマシだろう。


梅の例は近接すぎたし、富士山や鳥居は遠隔すぎたので、その中間たる人物ポートレート距離感の被写体でも比較してみよう。LS15、MZ25、MZ45の順に並べる。まずはF2.0から。どのレンズも背景が綺麗にぼけていて、主要被写体に文字通り迫ってくるような迫力があって良い。
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F2.8に絞る。この例だと背景までの距離が十分あるので、F2.8でも背景ボケは十分で、主要被写体との分離がうまくできている。それでいて被写界深度が大きくなって解像力も増したおかげで主要被写体全体がくっきり写るようになった。玉ボケのカラーフリンジも消えて、すっきりした描写に。
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F4.0に絞る。解像力や収差回避の観点ではこの絞りが最善だが、やはり背景と主要被写体の分離が弱くなってしまう。
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この中からキープを選ぶなら、私ならMZ25のF2.8にする。画角も描写も癖がなくて良いからだ。狛犬自体が持つ迫力が最もよく伝わってくる。ここでは背景を入れるのが重要でなく、遠近感を強調する構図でもないので、広角にする理由はない。広角でここまでの寄りだと鼻先が大きく見えるパースペクティブ歪みが感じられるのもよくない。逆に中望遠だとどうかというと、どの絞りでも写りは良いしボケ量も十分なのだが、パースペクティブがなさすぎて迫力がない。望遠圧縮効果で背景が近く感じて立体感が弱い。とはいえ、どのレンズの例もよく撮れててキープしたくなる。