豪鬼メモ

一瞬千撃

DIYで楕円チェーンリングのチェーン落ち対策

楕円チェーンリングの最大の欠点であるチェーン落ちの問題に対処した。市販のチェーンガイドを使ったがうまくいかなかったので、最終的にチェーンキャッチャーを自作した。チェーンガイドやチェーンキャッチャーの既製品は真円チェーンリングでの利用を前提としたものばかりで、楕円だと効果が薄い。なので、ホームセンターでクロロプレンゴムを買ってきて自分で作ったのだ。


楕円チェーンリングを導入した経緯とその素晴らしさは別の記事で語っているのでそちらをご覧いただきたいが、チェーン落ちするのが悩ましい。ブロンプトン純正のクランクだと走行中に外側に落ちることが多かった。下り坂などでペダルを漕いでいない状態で振動がかかるとチェーンが揺れる、その状態でペダルを漕ぎ始めると、ギアとチェーンが真っ直ぐに噛み合わないでチェーンが落ちるのだ。高速走行中に外側落ちするとペダルがチェーンに引っかかってバランスを崩すのでかなり怖かった。

クランクをスギノのRD2に変えてからは、チェーンリングが純正より少し外側に位置するので、外側落ちはしなくなった代わりに、たまに内側落ちするようになった。走行中に落ちることはほとんどないが、折り畳み状態から組み立てた直後になぜか内側にチェーン落ちすることがある。

なお、純正のチェーンリングは外側にチェーンリングガードが付いているので外側落ちはしないし、おそらく純正クランクだと自然なチェーンの運動方向よりも少し内側にチェーンリングがついているので、内側落ちもしなかった。うまい設計だと思う。私は楕円チェーンリング中でも最も過激なO.Symetricのチェーンリングを使ってるので、チェーンが暴れやすく、しかもチェーンガードがないので、純正クランクにつけると外落ちするようになるのは仕方ない。クランクを変えてチェーンリングの位置を外側に寄せたら、内側に落ちるのも仕方ない。走行中にはほとんど落ちないので我慢して使うこともできるが、対策できるならしたい。

まずは、チェーンガイドをつけることにした。チェーンガイドとはフロント変速用のチェーンディレイラーに似ていて、チェーンの位置を左右に儲けた壁で制御するものだが、位置が動かないのと、ガイドが前後に長くて固定能力が少し高いのが違いだ。フレームから腕を伸ばしてその先に左右にガードレールをつけた部品を位置させるだけのものなので、安物でいい。私は以下のものを買った。原価が安い製品は中華系の転売業者がOEMで出品しまくるので、安い順で検索して、送料込みで最安値のものを見つけるのが重要だ。

で、届いたところ、いきなり後悔した。製品が安っぽいのは覚悟していたが、そこではない。ブロンプトンのフレームが太すぎて、チェーンガイドの土台部分が嵌まらないのだ。よく読むと製品説明に対応フレームの最大径が書いてあったので、私の不注意である。

ブロンプトンのやたら太いフレームに対応している製品がなかったので、ホームセンターで長いネジを買ってきて、ネジ穴も電動ルーターで削って、なんとか取り付けてみた。しかし、残念ながらチェーン落ちは治らなかった。ガードレールを楕円の長径の位置のチェーンの高さに合わせると、楕円が短径の位置にチェーンがある時にはレールの範囲からはみ出してしまって役に立たないのだ。短径の位置のチェーンの高さに合わせると、長径の位置にチェーンが来た時にひっかかってしまう。チェーンの高さギリギリにレールが来るくらいでは振れを抑える効果はなく、実際に装着して使ってみてもチェーン落ちが普通に起きた。楕円チェーンリングを見越してもっと壁の高さがある製品を探したのが、そんなのはないようだ。

チェーンガイドは外側落ちも内側落ちも防ぐ仕組みだが、内側落ちに対処するだけならチェーンキャッチャーという製品もある。これはフレームの側だけに壁を設ける簡素な部品で、シングルフロント用のは単なる輪っかといってもいいくらいだ。

残念ながら、チェーンキャッチャーにおいても、真円チェーンリングでの利用を前提としたものばかりで、壁の高さが足りないものが多い。楕円チェーンリングではもっと高い壁が必要だ。なので、もう自分で作るしか無い。フレームに輪っかをつけてちょっと出っ張らせればいいので、そんなに難しいことはないだろう。

まず、ホムセンでクロロプレンゴム(CR)のシートを買う。厚さ3mmの10cm*10cmのシートを買った。1枚162円。それを適当に切り貼りして壁にする。クロロプレンゴムは天然ゴムと違って耐候性があって劣化も遅いので、屋外で使うのに向いている。接着にはアロンアルファを使い、フレームとの固定はタイラップで行う。自分は両方持っていたが、持ってない人はホムセンや100均でアロンアルファと20cmのタイラップを買うべし。

チェーンリングとチェーンが噛み合う位置を噛合点(こうごうてん)と呼ぶ。その付近のフレーム側に高さ30mmの壁を作るというのが要求仕様だ。壁の高さ30mmは、楕円の長径と短径の差によってチェーンが上下する幅にチェーンの高さを足して求めた。壁の幅は細くていいのだが、楕円によって噛合点が数ミリ前後しても、噛合点よりちょっと後輪寄りの位置でチェーンの近くに存在しつづけられる程度に広がっていることが望ましい。

フレームと噛合点の最短距離は32mmくらいだが、壁はそれより10mmくらい後輪側にあるのが理想的だ。チェーンがずれて噛む前に位置を直さねばならないからだ。フレームから42mmくらい離れた場所に壁を作るとなると、100mmのシートを折り返して涙型にするのが良さそうだ。10cm*10cmのシートを切って、3cm*10cmにする。それを横長に置いて、右上端から10mm*10mmの場所と、右下端から10mm*10mmの場所に、タイラップを通す穴を開ける。それらの座標を起点にして上端または下端に5mmのスリットを作るということだ。同様に、左上端から20mm*10mmの場所と、左下端から20mm*10mmの場所にもタイラップを通す穴を開ける。カッターや彫刻刀で掘ってもいいし、穴あけポンチや電動ルータを使ってもいい。実際のところ、タイラップが通りさえすれば、形も位置も適当でいい。穴をあけたら、タイラップが通ることを確認する。

シートを涙型に丸めて、端と端を接着剤でつける。アロンアルファを両端の1mmくらいの幅に塗ってから接着すればよい。その状態で、タイラップがちゃんと通ることを確認する。

いよいよ、この自作チェーンキャッチャーをフレームにとりつける。自転車はひっくり返して作業すると楽だ。2本のタイラップをフレームに巻いて、仮止めする。仮止めといっても、かなりふんわりさせて、チェーンキャッチャーの上下位置や回転角度を容易に調整できる余裕を持たせる。それから、チェーンキャッチャーの上下位置を合わせる。楕円の長径でも短径でもチェーンが壁から飛び出さないようにする。その際、短径側でのガードを重視すべきだ。つまり壁をどちらかと言えば下寄り(ひっくり返して作業しているなら上寄り)につける。噛合点が短径近くにある時の方がチェーンのテンションが弱く、その状態でチェーンが上振れした際に最もチェーンが外れやすいので、それを防ぐのだ。

そして、ギアを1速にしてチェーンをフレーム寄りにさせた状態で、チェーンキャッチャーをフレームを軸に回転させて、壁がチェーンに触れるか触れないかギリギリの場所にする。理想的な隙間は0.5mmとかだ。その状態で、クランクを回してみて、壁とチェーンが接触しないことを確かめる。で、ペンチで引っ張るなどして、タイラップを本締めしてから、余ったバンドを切る。本締めしてもちょせんはタイラップなので、力を入れて回せばまだ調整はできる。

これで完成だ。試走してみても、問題ない。チェーン落ちもしなくなった。タイラップで固定しているだけなのだが、ゴムの弾力でフレームに圧着しているので、走行の振動程度では全くずれない。柔らかいゴムでありながら、左右に振れたチェーンを押し返すのに十分な剛性はある。また、チェーンのギリギリまで壁を接近させて、チェーンに触れてしまったとしても、柔らかいゴムなので大きな摩擦にはならず、事故にならない。接触していれば摩擦抵抗は生まれるが、早晩ゴムが摩耗して接触しない状態に戻る。よって、かなりギリギリまで安心して寄せられる。材料がゴムシートの切れ端とタイラップだけでネジすら使っていないので、重量が軽いのも利点だ。

ブロンプトンでなくても、フロントシングルの自転車であればこの方法でチェーンキャッチャーを作れる。特に楕円チェーンリングの場合、壁の高さを自分で決められるのが重要だ。O.SymetricやQ-Rings XLのように楕円率が高いものなら3cmが必要だし、RoterやRideaのような穏健派なら2cmくらいあればいいだろう。真円でも使えて、その場合は高さは1cmあればよい。

余談だが、楕円チェーンリングでなくても、ブロンプトンは比較的チェーン落ちしやすいっぽい。なので、最近の4速モデル用には純正のチェーンキャッチャーも出ているくらいだ。折り畳みの都合上チェーンテンショナーが弱めに設定されているのが原因だと推測するが、定かではない。ロードやMTBに乗っていたらチェーン落ちなんて日常の一部で、手は汚れるが30秒で直す話に過ぎないが、背広のビジネスマンの通勤途中でチェーン落ちしたら厳しいものがある。チェーンキャッチャーとチェーンガードの両方をつければほぼ完璧にチェーン落ちは阻止できるので、ちゃんと純正部品で対応してくれるのは素晴らしい。それでいて、私のように社外品やDIYでカスタマイズする余地も十分にある。このあたりの塩梅に、スポーツ車とは違った領域で自転車文化を作る意気込みが感じられて、ブロンプトンを好きになる。車体も部品も高いけど、良いものは良い(トートロジー)。
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まとめ。ブロンプトンに楕円チェーンリングをつけたなら、純正クランクだとチェーンが外側落ちするので、フロントダブル対応のクランクに変えてチェーンリングを外側につけると良い。それでほとんど落ちなくなるが、たまに内側落ちするので、それを回避するにはチェーンキャッチャーを自作すると良い。市販のどのチェーンキャッチャーよりもしっかり内側落ちを抑止できるはずだ。クロロプレンゴムシートとタイラップとアロンアルファだけあれば作れるので、材料費は500円以下だ。こんな苦労までして楕円チェーンリングを使っているのは、楕円でヌルヌルと走るのが楽しいからだ。お洒落なブロンプトンで爆走する喜び。