豪鬼メモ

一瞬千撃

3DプリンタサドルAircode 3D Honeycombの使用感

エラストマー3Dプリンタで削って成形したパッドをつけたサドルが流行っていて、それを使うと長く乗っても尻の痛みが少ないそうな。私も尻の痛みには悩まされているので、廉価版のものを購入して使ってみた。結論としては、全く期待外れで、少なくとも私には合わないものだった。


エラストマー3Dプリンタで立体整形してサドルのパッドを作ると、パッドの各所で硬さや反発力を柔軟に変えられ、結果的に尻に馴染むようにできるらしい。普通の緩衝材だと厚さと素材の硬さで調整するので細かい調整はできないが、3Dプリンタならそれが可能になり、各メーカーがうまいこと計算した理想の反発力の分布が実現できるそうな。下記の動画を見ると、とても良さそうだ。「最初は柔らかく感じるが、徐々にその感覚が消えて、しっかり支えられている感じがロングライドの最後まで続いて快適である」「空気の上に乗っているようで、従来のサドルのように特定の場所に圧力が集中しない」とのこと。
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Fizik Antares R1 Versus EVOもSpecialized S-WORKS ROMIN EVO MIRRORも実売価格が5万円を超えていて、私のごときニワカが使うべきものじゃない。とはいえ、別にレースに出る人材でなくても、週末にしか乗らなくても、長時間乗れば尻が痛くなるのは共通だ。むしろニワカの方が尻が痛くなりやすい。なので、尻に優しいサドルでそこそこの値段のものを探すことにした。

純正のサドルが壊れてから、私のブロンプトンにはGorixのA6-1という2500円のサドルをつけている。購入時は1600円だった。これは格安な割に座り心地が良くて、細いので漕いでいても太ももの運動を邪魔しないので気に入っていた。ブロンプトン乗りの間では革製とかのオシャレ方向を重視することも多いが、私は安かろうがダサかろうが乗り心地が必要十分ならコスパが良いものを選ぶ。

しかし、Gorixの比較的柔らかいサドルでもさすがに1日に100kmとか走ると後半は尻が痛くなってくる。また、サドルが中割れしている割には会陰の圧迫感が大きく、気合い入れてペダリングしていると魔羅の血流が滞ってきて、真夏なのに冷えて縮んでくるという気持ち悪い現象が起きる。サドルを少し前下がりに傾けると改善することはわかっているのだが、そうすると今度は坐骨のあたりが痛くなってくる。遠乗りしていると、脚はまだまだ動くのに尻が限界を迎えて撤収することがままあるので、なんとかしたいと思っていた。ちなみに会陰とは肛門と陰茎の間の部分を指すらしい。会陰とその奥にある恥骨との間には尿道も通っているので、尿道が圧迫されるという表現もよく見かけるが、尿道だけが圧迫されるわけではないので不正確な言い方になるっぽい。

さて、上述の動画によると、FizikのもSpecializedのもCarbonという会社が製造しているそうだが、3Dプリンタによる整形は別にその会社の専売特許ではないし、そこが本家というわけでもない。実際、似たような商品が巷には多くある。それっぽく穴を開けただけのものから、ちゃんと乗り手の圧力分布の統計から計算して作ったと主張しているものまで様々だ。なので、後発メーカーの中でそこそこ評判が良いものを選べば、性能と価格のバランス点を見出せるだろう。自由競争万歳。

具体的な候補を探してみると、中国製がやたら多い。中国製だからダメってわけじゃないが、玉石混交の世界で評判を調べにくいというのは厄介だ。なので、Youtubeで日本語と英語のレビューを探していたところ、この動画を見つけた。Ryetという中国メーカーのAircodeという製品が、安い割には、「思ったより悪くない」らしい。良いとは言っていないところが味噌だが、ガチのサイクリストが理由を述べつつ評価しているので、値段なりの価値はあると期待できる。
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以下のレビューではFizikとの直接的な比較をしている。この人もいろいろサドルを試しているようで、内容は信用できそうだ。Aircodeの形状がフラット寄りであるという意見は上のレビューとも共通している。Fizikと比べると、Ryetの方が幅が広く、高さが低く、長さは短く、パッドは薄く、シェルは硬く、重さは軽く、レールの弾力は低いとのこと。確かに二つの形を見比べると、明らかにRyetの方が平べったくて、どっしり座りやすそうではあるが、脚の運動性という意味では劣りそうだ。メッシュの中身を見ると、Fizikは緻密に密度が変えられていて、端に近いほど柔らかくしている一方、Ryetの方は均等で、あまり高度な設計をしているわけではないっぽい。値段なりという部分はここにあると。3Dプリンタの技術は簡単にコピーできるが、乗りやすさを考えた高度な設計は一朝一夕にはできないとの主張だ。実際に乗ってみると、Fizikは文句のつけようがないが、Ryetはいくつか欠点があるとのこと。パッドの薄さが感じられ、サドルの先端が広いので太ももとの摩擦が大きく感じられ、サドルの土台が体に触れるのが感じられて不快なことがある。総じて、悪くはないがFizikに比べると劣るとのこと。そりゃそうだと納得できる内容だ。
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おそらくサドルの設計の難しいところは、幅広でクッション性の高い形状にすると脚の運動性を阻害してしまうことだろう。脚がうまく動かせないと前方寄りの細いところに座りたくなり、結果として細い部分に会陰が圧迫され、尻の重心を支える面積も小さくなってしまう。脚が動かしやすいように細くすると、深く座っても尻が痛くなる。この問題を緩和するために、ある程度の幅を確保しつつ端に行くほど柔らかくするという設計思想が出てきたのだろう。従来の方法では実現できなかったが、3Dプリンタならそれができるということで、流行り始めたのだ。その構造をきちんと研究した結果がFizikやSpecializedの製品であり、それらを外見上模倣したのが有象無象の廉価製品なのだろう。

そもそもなぜ尻が痛くなるのかを考える。それは、尻のどこかの組織に負荷がかかるからだ。なぜ負荷がかかるのかというと、体にかかる重力とサドルから押し返される反力によって圧力が生じるからだ。その圧力がどこかに集中して閾値を超えると神経が圧迫されたり血流が滞ったり組織が損傷したりして痛みが生じる。なので、多くのサドルにはクッション性が備わっている。それは圧力を時間的および空間的に分散させる措置である。

自由落下計算機というサイトがあるので、それを使って衝撃を計算してみよう。体重70kg弱の私は、自転車に乗っている際に10kgはハンドル荷重で支え、60kgはサドルで支えるものとする。つまり、通常は60kgfの荷重がサドルに加えられ、それに等しい反力が尻にかかっているとする。走行中に自転車に衝撃がかかって、サドルが1cm飛び上がる運動をしたと想定しよう。1cm飛び上がるということは1cmの自由落下の終速と同じ初速を持つため、サドルは0.44m/s(1.59km/h)で動いて尻にぶつかってくる。仮にサドルがカチカチで全く衝撃を吸収せず、坐骨も微動たりともせず、すでに体重で潰れている尻肉がさらに5mm潰れて衝撃を制動するとしよう。そうすると237kgfの力がかかる。もしサドルが5mm縮むことで制動に参加するなら、制動距離は10mmになり、衝撃力は半減して118.5kgfになる。実際には坐骨やその他の部位も変形して体全体で衝撃を受け止めるし、そもそもそんなに大きい振動は制動しきれずに体も飛び上がるので、サドルと尻肉だけで制動するという単純なモデルに実用性はない。ただ、尻肉の潰れに相当する規模でサドルが変形するなら衝撃吸収性の向上に大いに寄与することは想像できる。舗装路を走っている際には1cmもサドルが上下するような振動は稀で、実際には数ミリの振動が絶え間なく続くだろう。小さい振動ほど振動源に近い部位で多くを制動することになるので、サドルや尻肉が制動に果たす役割はより大きくなる。

衝撃吸収のことを考えれば、サドルは体重程度の荷重に応じて変形し始め、走行中の振動による荷重でも底付きしないものが良い。なので、基本的には分厚いサドルが良いことになるのだが、ふかふかである必要はない。サドルをショックアブソーバーとして捉えると、乗車1G荷重状態で最大ストローク量の1/3くらい変形するくらいの固さがよい。サドルがあまりに柔らかすぎると、衝撃で底付きしやすくなるし、MTBの柔らかすぎるショックアブソーバーでペダルボブが起きるように、ペダルの踏み込みの力がサドルの変形に使われて無駄になってしまう。体重に応じた適度な固さが肝要ということだ。つまり、万人に最適のサドルというのは存在せず、少なくとも体重によって適切な固さが違うということだ。おそらく各メーカーは想定購買層の平均的な体重を設定した上で、物理的に制約されたストローク量の中で最も制動力が高まるように構造を設計しているのだろう。一流メーカーの製品は衝撃力ごとにどの程度沈み込むかを計算し実験した上で製品を作っていて、それが値段に反映されているのだ。

圧力を空間的に分散させることでも尻の痛みを緩和できる。仮にサドルが平面の剛体だとすると、坐骨とサドルの間に挟まれた筋肉や皮膚に圧力が集中してすぐに痛くなってしまう。もしサドルの形が尻の形と全く同じであれば、圧力が接触面に理想的に分散されて、尻の特定の部位に負荷が集中することがなくなる。しかし、現実的には尻の形は人によって違うし、座る場所も乗っているうちに変わるし、股関節や大臀筋の動きによって尻の形は常に変わり続けるので、静的な形状だけでは負荷分散は実現できない。なので、圧力が大きくかかったところを凹ませることで、動的にサドルの形を尻の状態に合わせることになる。そして、一流メーカーは、サドルのどの部位にどの程度の圧力がかかるのかの統計データを持っていて、それを元に各部位の高さや弾力を調整しているらしい。3Dプリンタによる製造の自由度は設計の柔軟性を高め、研究の成果を製品の品質に直結することが可能になったのだろう。

ここまで考察すると、高額でも名の知れた製品が使いたくなる。しかし、そんな金はない。実際にはあるけど、さすがにサドルに5万円以上出す度胸がない。なので、所詮は外見上の模倣だと覚悟しつつも、Ryetのやつを買ってみることにした。値段から言って研究開発にも製造にも手間暇をかけていないことは想像できるのだが、一級品の8割方の性能が発揮できていれば十分かなと。つまり、適度に固いながらも乗車するとちょっとだけ沈み込んで空間的に負荷を分散してくれて、衝撃がかかればそれより多く沈み込んで時間的に負荷を分散してくれるというのが実現できていればそれでいい。細かい最適化は期待していないし、そもそも高いのを買っても自分に合っているかは賭けになるので、とりあえず安いのでいいかなと。

RyetのAircode 3D Honeycombは最安だとAliExpressで6956円だった。AliExpressは前回注文したクランクが今だに届いていないので全く信用できないのだが、他のサイトで新品を手にいれるのは難しかったので、仕方なくポチった。プラスチック版とカーボン版があって、前者の方が少し安いが重く、後者の方が高いが軽い。今回は後者にした。同じ価格帯で似たような製品がいっぱいあるが、見た目でも商品説明でも良し悪しは判断しかねるので、とりあえずいくつかレビューを読んだ上で酷評はされていなかったRyetのものにした。幸にして、今回はちゃんと届いた。

ブロンプトン純正とGorixとRyetを並べて形状を比較する。Ryetに着目すると、長さが最も短く、後部の幅も前部の幅も最も太く、厚さは最も薄い。Ryetの長さは255mmなので、ショートノーズ寄りの形状だ。また、純正には中心の窪みがなく、Gorixは前後の中程にだけあり、Ryetは先端まで窪んでいる。先端の幅は純正とGorixではほぼ同じだが、Ryetはやや幅広だ。前後方向は純正は波型で、GorixとRyetはフラットだ。

重さは純正が385gでGorixが310gでRyetが160gなので、Ryetはかなり軽い。手で持てば重さの違いは明白だ。ただ、自転車に装着してしまえば、ヒルクライムでもしなければ体感できないだろう。とはいえ乗り物において軽さは正義なので、これは美点だ。

座面を指で押してみると、純正はかなり固めで、Gorixが最も柔らかく、Ryetは中間くらいだ。純正はどの部位も硬い。Gorixは、座面の後ろの広い部分は比較的固く、真ん中のくびれている部分が最も柔らかく、先端は比較的硬い。Ryetはどの部分もだいたい同じくらいの硬さだ。沈み込みのストローク量は、純正は4mmくらい、Gorixは8mmくらい、Ryetは5mmくらいだろうか。Ryetはシェルもレールもカーボンなので、座面以外の剛性が高く、逆に言えばクッション性が低いことも特筆すべきだ。純正とGorixはシェルを手の力でたわませることができるが、Ryetだと全く動かない。

Gorixの方が沈み込みストロークが長いが、弱い力でも沈み込み始めるために、底付きするのに必要な荷重は同じくらいに感じられる。つまり、Gorixの方が明らかに柔らかいが、乗車1Gで状態からの底付きまでのストローク量はそんなに変わらないかもしれない。よって、衝撃吸収力という意味では、Ryetは硬い割には良いのかもしれない。ジェニーサスを導入した際にストローク量について考察したが、サドルでも同じことが言える。ただし、乗車1G状態で大きく沈み込むほどに尻肉の多くの面積と接することになるために、乗り心地はGorixの方が良いはずだ。

GorixからRyetに換装して実際に乗ってみると、予想通り、Ryetの方が乗り心地は悪い。というか、圧倒的に悪い。一言で言えば、クッションが薄くなって、ペラペラになった感じがする。Gorixの座面は柔らかく分厚いので坐骨を包み込むことで圧力を分散する効果があるが、Ryetはそれがなくて、尻肉が坐骨とサドルにがっつり挟まれて圧迫されている感覚がある。いちおう、道路の凸凹を踏んでサドルに衝撃がかかった時には、それなりにクッションが機能する。カーボンの軽量サドルの括りの中では、そこそこマシなクッション性があるのかもしれない。しかし、カーボンシェルの剛性が高過ぎて全く撓まないので、その上に10mmに満たないエラストマーの層を設けたところで、クッション性は高が知れている。大きめの凹凸を踏めば簡単に底付きして、尻肉にガツンと衝撃が来てしまう。さらに、座面が左右方向にフラットすぎるので、坐骨を点で支えている感じがあり、衝撃時の圧力が坐骨の下の肉に集中してしまう。これは決して乗り心地を良くするために買うサドルではない。

Ryetは純正やGorixに比べて先端が幅広なので、内腿とサドルの摩擦は大きめだ。漕いでいると内腿が擦れてくる。座面が広まった部分の縁が出ていることで足の付け根も擦れてくる。エラストマーのカバーと足が擦れるだけじゃなくて、カーボンシェルがカバーから飛び出していることによって硬いシェルと足が擦れるのが問題を悪化させている。これらも明確な弱点だろう。ちょっと気になるとかいう話じゃなくて、1時間も漕いだら皮膚がヒリヒリしてくる。全長が短いので太さが邪魔にならないんじゃないかと期待したが、普通に邪魔になっている。細くて柔らかいGorixの方が圧倒的に足を動かしやすい。

会陰が圧迫されて魔羅が縮んでしまう問題に関しては、Ryetで緩和された。中心の窪み大きく、また先端まで続いているので、前寄りに座ったり前傾姿勢で乗ったりしても会陰が圧迫されにくい。太ももの動きを邪魔しないためには先端が細い方が良いにもかかわらず、敢えて先端の幅を持たせているのは、おそらくこの窪みを先端まで貫通させても上面に最低限の面積を維持するためだろう。先端が短くなって下方向に少し湾曲しているのも会陰には優しい。しかし、クッション性が低いのは致命的であり、会陰以前に坐骨と皮膚が耐えられない。テトリスの凸ブロックに乗っている気分だ。

Ryetの美点を挙げるなら、質量が軽くなったことと、通気性が良くなったことで、軽快さは増したことだ。いつも私が履いている短パンで乗ると、尻に風が感じられて不思議な感じだ。シェルもレールもやたら硬いのは、尻が上下しないのでペダリング効率の損失が少ないことを意味しているので、スプリントとかには向いているのかもしれない。総じて、ロングライド用というよりは、街乗りで短時間乗るのに向いているだろう。ただ、その短時間ですら尻が痛くなることは覚悟せねばならない。15分くらいで違和感を覚え始めるので、30分くらいが楽しく乗れる限界かな。

しかし、日本語のレビューでも英語のレビューでも、私が上に書いたような酷評まではしていなかった。彼らは何者かに忖度しているわけではなくて、一流の製品には負けるけど使えないこともないという感想を率直に述べているっぽい。だが、私の率直な感想は、2500円のサドルに圧倒的に負けているというものだ。A6-1は実際のところ安いのに良い製品なんだけども、それにしてもRyetのAircodeは私には期待外れだった。

では、私と彼らの違いは何なのか。まず、彼らは比較対象が他の軽量サドルなので、クッション性に対する期待値が低いことが考えられる。坐骨が多少圧迫されるくらいは普通だと思っていれば、耐えられるのかもしれない。また、彼らはロードバイクに乗っているが、私は小径車ブロンプトンに乗っていて、乗車姿勢も前傾気味と直立気味で違いがある。さらに、体重が違う。体を絞っている彼らと体重70kg弱の私では、サドルの沈み込み具合が異なるはずだ。最後に、彼らはクッション付きのレーサーパンツを履いていて、私はクッションのない普通の短パンを履いている。微細な振動をレーパンのクッションが吸収してくれるのを前提とした硬めのパッドであれば、普通のパンツで乗ると不快なのは然りだ。

レーサーパンツを履いて乗ってみたら状況が改善するかと思ったが、改善しなかった。レーサーパンツの尻のクッションが足されれば、振動がない状態または弱い状態での圧力は多少分散されるが、振動吸収性が大きく増すわけではない。足の擦れはレーサーパンツの滑らかな生地により改善されるが、擦れが無くなるわけではない。つまり、レーサーパンツを履くと乗り心地は改善するが、悪いサドルが良くなるわけではない。良いサドルにレーサーパンツを履いた方が乗り心地が良い。前傾姿勢で乗れば坐骨の痛みは改善されるが、これも同じ話で、悪いサドルが良いサドルになるわけじゃない。

兄から引き継いだロードレーサーにもつけてみた。もともとはPrologoのkappaがついていたが、それをRyetに付け替えてみた。サイクルジャージにレーサーパンツのフル装備で走ってきた。ブロンプトンよりも明確に前傾姿勢になるので、レーサーパンツのクッションも併さって、骨盤の負荷は多少軽減された。とはいえPrologoよりは乗り心地は悪化していて、やはり骨盤は痛くなりやすい。さらに、脚の付け根の圧迫は前傾姿勢になったおかげでよりひどくなり、血の巡りが悪くなると感じるほどになった。サドルの角度を前下がりにすると軽減されるが、それでもまだ圧迫は感じられ、擦れ感は消えない。そして前下がりにすると骨盤がより痛くなりやすい。前下がりでも後ろ下がりでも厳しく、水平にしても両方の問題が起こる。ブロンプトンにつけた時よりはマシだが、わざわざPrologoから変える意義は全く感じられない。

つまるところ、RyetのAirCodeの乗り心地は悪く、私にはほとんど利点のないものだった。おそらく、これを開発した人達は自分達で使っていないと思う。ちょっとでも乗れば、シェルの縁の違和感は気づくはずなのに、それを是正していないのが根拠だ。ユーザのフィードバックを得てイテレーションを経ている著名ブランドと、表面だけ真似した無名ブランドの差はここにある。「Eat your own dogfood」だ。安物買いの銭失いだったとも言えるが、7000円弱の授業料で済んだのでマシな方か。ただし、Ryetの製品がイマイチなのはわかったとして、5万のものを買ったとしても私には合わなかったかもしれない。脚が擦れる問題は著名な製品では緩和されていることが期待されるが、クッション性は似たり寄ったりだと予想する。そもそも論として、ロードレーサーガチ勢のサドルにはクッション性など不要であり、軽量化を追求したカーボンシェルだけの状態が基準と考えるべきなのかもしれない。乗り手にとって必要最小限のクッション性はレーサーパンツ側で確保するのが前提であり、3Dプリンタで整形したカバーはオマケに過ぎないと。そしそうならば、そもそもブロンプトン3Dプリンタのサドルをつけようとしている時点で無理筋というものだ。

今回得られたもう一つの教訓は、おそらく3Dプリンタのサドルは、ロングライドでの快適性を求める私には向かないということだ。クッションが薄すぎて体重と衝撃を受け止められない。高い製品を買えば少しはマシかもしれないが、おそらく構造的に不向きだ。カーボンのシェルとレールの剛性が高いものも駄目だ。パッドが適切な硬さであることはもちろん、シェルが撓んで衝撃を受け止められるものを選びたい。また、座面の左右形状が平たすぎるのと、ノーズが太すぎるものも駄目だ。それらは腿の付け根や内側が擦れて痛くなる原因だからだ。ラウンド形状でノーズが細めのものを選びたい。真ん中の穴または凹みもあった方がよく、できれば先端まで割れているものがいい。剛性などの触感はネットで仕様を見るだけだとわからないので、サドルは店頭で吟味して買うべきだろう。

Gorix A6-1に戻してからまたサイクリングしてきた。所沢方面に行って70kmほど走ったが、やっぱRyetよりも断然快適だ。日本製なのに安いし、期待通りに機能するのが何より素晴らしい。

Prologoのkappaをブロンプトンにつけてサイクリングしてみた。今度はいつもの多摩川コースだ。Gorixよりは硬めだが、グミっぽい絶妙な感触のパッドとラウンド形状のシェルおかげで尻に優しい。というか、かなりこれはかなり快適だ。ノーズが細いしシェルの縁のカーブがなだらかなので、とにかく脚が動かしやすい。気楽に漕いでいるだけで、自然に速度が上がる。パッドが分厚くはないのと、会陰保護の凹みが後ろにしかないのとで、ロングライドには向かないかもしれないが、50km未満の走行ならこれで十分だ。通勤通学で使うなら理想に近いかもしれない。kappaの新版であるnew kappa pasとやらは凹みが前まで来る形に変更されているので、それ欲しいな。今のボロいのをずっと使うのもなんだし、色が合ってないし。

まとめ。3Dプリンタで作った軽量カーボンサドルとして、RyetのAircode 3D Honeycombを使ってみたが、尻が痛くなり過ぎて私には合わなかった。軽量かつ剛性が高いので、レーシーな乗り心地が欲しい人にはいいかもしれない。走行性能を追求するなら座面が広過ぎたりノーズが太過ぎたりシェルの縁が出っ張り過ぎているのは欠点だ。総じて、イマイチなものだった。しばらくはPrologoのkappaをブロンプトンでも使おうと思う。欲を言えば、その形を維持しつつ、もうちょいクッション性が高いものが欲しい。サドル迷子は続きそうだ。