豪鬼メモ

一瞬千撃

DIYでフラットペダルのグリップを向上

自転車のペダルの表面が滑りやすいと、動かした足の力を十分にペダルに伝えられない。滑りにくいペダルに交換するのも手だが、既存のペダルに滑り止めを装着することでも対策できる。ホームセンターで針金とナットを買えば簡単にできる。


私はブロンプトンに三ヶ島ペダル(MKS)のUrban Platformとハーフトウクリップをつけて運用している。三ヶ島の製品の多くは表面に凹凸があって滑り止め効果がしっかりしているのが多いのだが、Urban Platformは例外的に表面がツルツルで滑り止め効果がない。Urban Platformはトウクリップの装着を前提とした製品であり、トウクリップは前方には絶対に滑らなくしてくれるので、ペダル自体の滑り止めは不要だと判断したのだろう。おかげで洒落た感じがしたり靴底に優しかったりと良い面もあるのだが、後方に力をかけると滑るので、その点は不満だ。

表面がツルツルだから滑るのだ。ならば、表面に何かゴツゴツしたものを貼り付ければ良さそうだ。最初は靴の裏に付けるゴムの滑り止めシートや簡易アイゼンのようなものをペダルに貼り付けることを考えた。しかし、ゴムだと接着と耐久性に問題が生じそうで、グリップ力もあまり期待できない。鉄の簡易アイゼンだとグリップ力は期待できるが、靴底の方がボロボロになってしまうだろう。スケボーなどのデッキテープを貼るという案も思いついたが、あれは粗目の紙ヤスリに過ぎず、効果が小さい割に靴底を削るのでダメだ。もうちょい立体的な何かが必要だ。下方向に圧力をかけなくても靴底とペダルが引っかかる構造にしないといけない。下死点でさらに下方向に圧力をかけるのはペダリング効率の悪化を意味するからだ。

適当な材料で最適な効果があるものを作れそうだと思ってホームセンターを徘徊していたところ、良いアイデアが浮かんだ。ナットをペダルの後方に並べて、それを針金で固定するのだ。なので、太さ0.9mmの針金5mと、M3の六角ナット20個を、それぞれ200円弱で買った。作業はラジオペンチだけあればできる。

具体的な作業内容はペダルの形に依存するが、ここではUrban Platformでの基本的な流れを説明する。まず、針金を25cmくらいに切って、ふんわりとU字を作ってから、両端をペダル後方の穴に下から通す。そして、10個のナットを片方の針金に通して並べて筒状にしてから、その筒状の部分に反対から針金を通す。左右の針金をそっと引っ張って、真ん中にナットが並んで輪で結束された状態にする。

左右の針金の先は、それぞれペダルの端っこの穴に通して裏に回す。その状態で、裏から針金を引っ張り、表のナットの輪っかが締め込まれて動かない状態にする。最後に、左右の針金を裏で捻って完成だ。針金は手の指の力でグラつかない程度の張力があればよく、ガチガチを意識しなくてもいい。靴底のゴムなりウレタンなりの摩擦に耐えられればいい。

左右のペダルとも同じ方法でやる。ナットの並びがなんか不揃いな感じがするけど、性能上は問題ないというか、むしろそれが望ましい。ナットの数を10個でなくて9個とか8個にするとこの不揃いさはなくせるのだが、不揃いなことでちょっと上に出っぱる力を持たせておく方が、おそらくグリップ力が高くなる。真ん中だけでなく左右にもナットを並べても良さそうだが、摩擦方向に対して垂直方向以外に尾根ができることでグリップが良くなるとは限らないので、とりあえずは真ん中だけにしてみることをを推奨する。

横から見るとこんな感じだ。このM3サイズのナットの高さが絶妙だ。ブーツなどの硬い靴底では深めの溝が掘られていることが多いが、その溝より少し高いくらいが最適だ。スニーカーなどの柔らかい靴底では溝が浅めだが、加圧した際に凹むので、その最大の凹みより少し高いくらいが最適だ。それより低いとグリップ力が弱まるし、それより高いとペダルを踏んだ時に違和感を感じてしまう。ナットが六角なのも重要で、鋭角な部分が無いので、靴底を削るリスクが低い。この辺は個人の好みによって調整できる。大きめかつ四角のナットにすれば、グリップ力はもっと高められるだろう。

早速、これをつけて多摩川の丸子橋まで試走してきた。予想通り、グリップがかなり良くなった。前までは下死点付近で後ろ方向に足を引くとペダルと靴の間が滑る感覚があったのだが、それがほとんどなくなった。代わりに靴の中で中敷と足の間が滑るようになったことからも、ペダルのグリップが良くなったことがわかる。靴紐を緊めに締めると靴の中での滑りも解消され、晴れて下死点での動力伝達が可能となった。それでいて、2時から4時までのパワーゾーンで踏み込んだ際の違和感も全くない。突起をペダルの後方だけに置いたのは正解であった。

ロングライドでの影響も知りたいので、大人の社会科見学として、荒川から埼玉県民と東京都民の水道水を引き込む秋ヶ瀬取水堰に行ってきた。小学校の時に社会科見学で来ているはずなのだが、まったく記憶に残っておらず、なんか新鮮だった。ところで、荒川サイクリングロードは堤防の上と下を行ったり来たりさせられることがやたら多いのが気になる。多摩川サイクリングロードはもうちょいマシなんだが、川の規模を考えるとしょうがないのかな。

利根川の水を荒川に引き込む利根大堰にも足を伸ばした。こちらは初めて来たが、でかくて感動した。家康とその後継者達による利根川東遷で江戸の水害は抑えられたが、逆に明治時代に水不足になったので、上水道の取水先を多摩川から荒川に変えて秋ヶ瀬取水堰を作り、それでも水が足りないから利根川から荒川に水を引くべく利根大堰を作ったそうな。この話を聞くと、一度は見ておかねばと思うだろう。二つの堰は社会のテストに出るので埼玉県民は覚えておくこと。

利根川を越えると群馬県に入るのだが、つまり埼玉県を完全縦断したことになり、妙な満足感があった。荒川と利根川という関東二大河川のサイクリングロードを走ったわけだが、ブロンプトンで1日100km以上走ってもヘトヘトにはならなかった。最近体力がついてきたのもあるが、ペダルがほとんど滑らなくなったことも一助になっていると思う。ペダルのグリップ向上で下死点でも動力が生み出せると、トウクリップによる上死点での動力と合わせて、リカバリゾーンでの速度低下を緩和できる。結果的にパワーゾーンでの必要加速量が減るので、腿の筋肉が温存できるのだ。もちろん全てのクランク角で大きめに動力を発揮する努力をすれば巡航速度も上げられる。平坦で無風で路面状況がよければ30km/h巡行もできるようになった。400円でこの効果は、大成功と言えよう。

トウクリップと滑りにくいペダルの組み合わせで漕ぎ方がどう変わるのか、もうちょい考察してみる。まず、3時付近のパワーゾーンでは、ペダルを下方向に踏み込むだけなので、ペダルのグリップ力に関係なく全力で入力が行える。6時付近では、ペダルを後ろ方向に引くのだが、ここではペダルのグリップ力に応じて入力が変わる。ペダルと靴の間の最大静止摩擦力が入力の最大値を決めるということだ。ペダルの角度が15度くらい前下がりになっているのと、今回の突起をつけたことで、6時付近でも多少の入力ができるようになった。それでも7時になると全くグリップしない状態になるため、そこでは入力は諦めて惰性に合わせて足を動かすしかない。9時付近になるとつま先がトウクリップに引っ掛かり始めるため、ペダルを上方向に引く入力ができるようになる。そして12時ではトウクリップを最大限に生かしてペダルを前方向に押せるようになる。クランク角毎の最大入力量に関する私の認識は以下の図のような感じだ。

ペダルを滑りにくくしたことによる恩恵は、6時付近での入力量が0%から10%くらいに上がったくらいで、全クランク角の中での影響は小さい。ただ、12時で前に押す力の反作用を6時で後ろに引く力の反作用で相殺できるようになるので、デッドゾーンでの入力による速度維持がかなりやりやすくなるように感じる。また、5時付近で抜重して引き足の準備をする際に、抜重しすぎて6時でペダルが滑るという心配が緩和される効果もある。そうすると5時から8時くらいまでの無駄な力が抜けるので、全体的なペダリング効率が良くなることが期待できる。これらは全部後付けの説明なんだけども、実際のところ長距離走った後の疲労感が軽減されているので、あながち間違いでもないと思っている。

留意すべきは、接線方向に対してペダルに引っ掛かりがあるクランク角ならば物理的に入力が可能であるというだけであって、実際に乗り手が入力できるかどうかはペダリングスキルと筋力によって決まるということだ。私がトウクリップをつけたばかりの頃は9時で上方向に入力したり12時で前方向に入力するのがうまくできなかったが、今はそれなりにできる。同様に、ペダルを滑らなくしても6時で後ろ方向に入力するのはすぐにはできなかったが、何日か練習したらそれなりにできるようになった。適切に筋肉を動かす方法を会得するだけでは不十分で、それなりのパワーと持続時間で入力できる筋力も必要だ。最近はビンディングペダルロードバイクにも乗るようになったので、そこでの訓練もフラットペダルに生かされてきている。12時で前に押すのだけ意識して漕ぐとか、6時で後ろに引くのだけ意識して漕ぐとか、6時と12時の押し引きのバランスを意識して漕ぐとか、9時で上に引くのだけ意識して漕ぐとか、3時でしっかり体重をかけるのだけ意識して漕ぐとか、3時と9時の押し引きのバランスを意識して漕ぐのとかをしばらくやったあとで、全方位で接線方向に最適入力をするように努力すると、そこそこ練習になる。ただ、そういうのを忘れて無心かつリラックスして漕いでいる時が最も効率が良い気もするので、不思議なものだ。

まとめ。滑りやすいペダルに針金でナットをくくりつけてやると、滑りにくくなる。滑りにくくなると、下死点で入力できるようになり、デッドゾーンでの推進力を向上させられる。デッドゾーンでの推進力が向上すると、パワーゾーンを負荷を下げて楽に巡行したり、巡行速度を上げたりすることが期待できる。微々たる差かもしれないが、体感できる程度に差はあるので、やって損はない。



追記。もうちょいグリップ力を上げたい欲求が湧いてきたので、4Mの四角ナットを組み合わせて作り直してみた。3Mの六角より4Mの四角は大きいのがまず利点だ。また、六角と四角を交互に置いて靴裏への食い込みを良くしている。さらに、四角ナットの角度を垂直に保つためにナットとペダルの床の間に捻った針金を通している。

複雑な構成になったが、若干グリップ力は増した。踏み込んだ際の違和感もないので、この構成の方が私の好みに合う。このくらいのクリップ力だと、下死点の荷重と抜重の指標としても使えると思っている。つまり、下死点で足を後ろに引いた時に、靴底に引っ掛かりを感じた瞬間に、引き足の方向を後ろから上に切り替えるのだ。もし靴底に引っ掛かりを感じないならば、それは踏み込みが浅すぎるか、抜重が早すぎることを意味しているので、足を引き上げるタイミングを少し遅らせる。靴底の引っ掛かりが長く続くようならば、それは踏み込みが深すぎるか、抜重が遅すぎることを意味しているので、足を引き上げるタイミングを少し早める。荷重と最大静止摩擦力の関係を感じながら走る訓練は、どんな漕ぎ方をしても足がずれないビンディングペダルではできないので、トウクリップならではの利点だと思う。実際、トウクリップのブロンプトンに乗った次の日にビンディングロードバイクに乗ると、下死点の力加減に対して敏感になっている自分に気づく。

さらに追記。トウクリップは使っているうちに変形してくるので、たまに形を確認した方がいい。もし曲がりが浅すぎたり深すぎたり左右差があったりしたら、手でひん曲げて直した方がいい。私にとっては、購入時の形よりもちょっと多めに曲げた方が靴をしっかり保持してくれて漕ぎやすくなることを発見した。調整するとしないのとでは使い勝手がかなり違うので、一度確認してみることを勧めたい。

さらに追記。エンザートとステンレス針金とピアノ線を組み合わせた最強のバージョンを作った。これはめっちゃ満足している。