豪鬼メモ

一瞬千撃

兄のロードバイク

先日急逝した兄の遺品として、ロードバイクを譲り受けた。私は宗教的信条を持たないので供養みたいな観念もないのだが、在りし日の彼を偲びつつ、せっかくなのでこれを乗りこなしてやりたい。20年振りくらいにロードバイクを手にすることになったわけで、乗りこなすまでちょっとした試行錯誤があった。それについてメモする。


譲り受けたのは、自転車本体、ビンディングシューズ、ヘルメット、サングラス、携帯用エアポンプ、ワークスタンド、予備のビンディング、予備のチューブ2つだ。本体にはライトとドリンクホルダーとサイコンもついている。これだけあれば、普通に乗り出せそうだ。

フレームはブリヂストンAnchorのRFX8で、コンポーネントシマノUltegraで、ワイヤードの11*2速ギア(フロント50-34T、リア11-28T=11-12-13-14-15-17-19-21-23-25-28)で、クランク長170mmで、キャリパーブレーキで、キシリウムアルミホイールだ。つまるところ、結構古いがかなり良いモデルっぽい。自転車本体は室内保管されていて状態は良好だ。所沢の彼の家から目黒の私の家まで乗っただけでも、きちんと走るのがよくわかる。生前の兄の話によると、それなりの金をかけて、細かいパーツをちょこちょこ軽量なものに換装していたそうな。そういえば、サドルやドリンクホルダーもそこそこ良さげなパーツを使っているっぽいし、本体を持ち上げると、発泡スチロールを持っているみたいに軽くて驚いた。

私も20年以上前、学生や新卒社会人の頃は20万円以上したそこそこなロードバイクに乗っていた。ただし、それは古き良きクロモリ車であり、このRFX8みたいに軽くなかった。時代を経たのもあるし、カーボンだし、グレードがちょっと高いこともあるだろうが、このRFX8は同じロードバイクでも全く違う。また、普段私は小径車であるブロンプトンに乗っているので、それと比べるとちゃんとしたロードバイクの何と速いことか。RFX8でダラダラと漕いでいる時の速度とブロンプトンで気合い入れて漕いでる時の速度が同じくらいだと思う。体感的にはRFX8はブロンプトンより1.5倍くらい速いように感じる。

ブロンプトンで幹線道路を走っていると、ちょくちょくロードバイクに抜かれる。気が向いた時には抜いて行った彼らに追従を試みたりもするのだが、ヘルメットとサイクルウェアをちゃんと装備しているガチ勢には基本的には太刀打ちできない。それがRFX8に乗っていると、そもそも追い抜かれないし、追い抜かれたとしてもちょっと速度を上げれば余裕で追従できる。真のアスリートは幹線道路なんかで本気を出さないから、私のような初心者でも遜色なく走れるというだけだが、それでも自分もなかなかの人材なのではと錯覚してしまう。ブロンプトンでは追従すらできなかったことを考えると、やっぱロードバイクは偉大だなと思った。

そんなわけで、暇を見つけてはRFX8でサイクリングをしている今日この頃である。速いのはいいのだけれど、ビンディングペダルが久しぶり過ぎて怖い。ロード勢がなぜすり抜け走行や歩道乗り上げなどのちょっとリスキーな走行をしないかというと、民度が高いというだけではなく、ビンディングペダルだと咄嗟に足つきできなくて怖すぎるからというのもあるだろう。あと、道の端のギリギリを攻めるとタイヤが細くて滑りやすいし、段差等の衝撃でリム打ちパンクしやすいというのもあるだろう。

ビンディングペダルの使い方とロードバイクなりの走行マナーに慣れれば、だんだん楽しくなってくる。なにせ、速い。ダラダラ漕いでも、景色がぐんぐん変わっていく。引き足も含めて気合を入れてペダリングすれば、原付並みに加速して走ってくれる。最高速度も平地で45km/hとか出るし、人力なのにこんなに高速移動できるなんてと改めて驚く。急で長い上り坂だろうが下り坂だろうが、適切なギアを選択すれば、何ら問題なく乗り越えていける。路面抵抗や空気抵抗が低いので、たとえギアをアウターフロントのリアセンターで固定にしていても、大抵の道は難なく進んでいける。ケイデンスを90くらいに上げても安定してペダリングできる。これは、いいものだ。小径車が勤勉なラバなら、ロードバイクは速さに特化したサラブレットといった感じだ。

タイヤは23Cなのだが、細くて心許ない。インピーダンスロスを減らすべくタイヤを太くして25Cや28Cにするのが最近の常識らしいのだが、そんなトレンドには全く乗っていない自転車なので23Cなのは仕方がない。当時としては結構良いパーツを使っていると思うのだが、電動シフトとかディスクブレーキとかが当たり前になっている最近の感覚からすると、古臭い自転車なのかもしれない。とはいえ、私のような初心者が使うには十分だ。

フロントギアの50-34Tはいわゆるコンパクトクランクというやつで、52-39Tのノーマルクランクに比べると変速比が小さくなり、貧脚の初心者やヒルクライムをよくやる人に好まれる設定らしい。私にはこれがちょうど良かった。というか、フロント50Tのリア11Tって変速比4.54でクランク1周9.52mも進む設定であり、それをケイデンス90で回すと速度は51.4km/hになる。フロント54Tで同じことをすると55.5km/hだ。危なすぎるし、かなりの剛脚にならないとそんなに重いギアは回せない。そう考えるとノーマルクランクって名前は奇妙に思えるが、その名称を考えた人は、サイクリストを名乗るなら55km/hくらい出せて当然でしょとか思っていたのかもしれない。

コンパクトクランクは好ましいにしても、リアの11-28Tは狭すぎると思った。素人はケイデンスの維持にそんなにこだわりがないので、それよりは広い変速比の方が嬉しい。特に軽い方でフロント39Tのリア32Tで変速比1.21、クランク1周2.55m、ケイデンス60で時速9.16kmくらいにはしたかった。素人が峠を登るとそれくらいの遅さにはなっちゃうので。まあ、気が向いたらリアスプロケットだけ変えればいいのだけれど。

サイクルコンピュータCateyeのPADRONE SMARTだ。電池を替えただけで普通に動いた。センサーと本体がBluetoothで通信しているあたりで、私がロードに乗っていた頃より断然進化していると思った。GPS連携したりメールの着信通知が出たりもするらしいのを知り、隔世を感じた。とはいえ、とりあえずは現在のスピードとケイデンスと走行距離さえわかれば他の機能はどうでもいい。ケイデンスセンサー(クランク回転計)とスピードセンサー(タイヤ回転計)のそれぞれの角度を調整してそれぞれの磁石の通過位置と合わせるのが重要だ。最初はそれを忘れていて信号が検出されずに悩んだ。

ロードバイクなら100kmまではお散歩」とか誰かが言っていた気がするが、それは言い過ぎにしても、50kmくらいなら2時間あればいけるので、かなりの行動範囲になる。例えば東京駅を起点とすれば、23区の全ての場所に対して往復しても散歩の範囲と言える。とはいえ、散歩の足としてのロードバイクの欠点は、安全に置く場所がないことだ。高価なものなので、適当な場所に置くと、頑丈めのチェーン鍵をかけていても切断されて盗まれてしまう。なので、目的地を決めずに走り回るというよりは、行程を事前に決めて走る感じの乗り方に向いているだろう。

遺品整理等で兄の家にちょくちょく通っていたのだが、帰る途中、多摩湖サイクリングロードを流したり、多摩湖自転車歩行者道を通ったりしていた。近所にこれがあったらサイクリングしたくなる気持ちがよくわかる。

おセンチついでに、兄が学生時代に走っていたジョギングコースやら、昔実家があった場所の近辺なども走ってみた。彼はもう居ないが、生き残ったものが宜しくやるしかないよなぁとかいう心境にすんなり達したのは、自転車のおかげかな。

先週末は横浜やMM21あたりを走ってきた。全行程で80kmくらい走ったが、それでもまだまだ体力が余っていた。速度が速いと、かいた汗も走行風でどんどん乾くので、炎天下で走ってもむしろ涼しいのが良い。ロード乗りが毎週走り込んでしまう気持ちを少し思い出してきた。ただ、車体を置く場所に困るし、ビンディングシューズだと歩きづらいので、現地で観光っぽいことがあんまりできないのは玉に瑕だ。まあ東京だの横浜だのの大抵の観光地はすでに行き尽くしているからいいんだけど。

楽しくサイクリングできたのは良いが、帰りに異変が起きた。ビンディングシューズの底がカパカパと開いてきて、見たらネジが吹っ飛んでいたのだ。それでも騙し騙し乗っていたら、接着剤も剥がれ、縫い目がほどけて、靴としての体をなさなくなってしまった。さらに、公園で休憩でもしようと思ったら途中の段差でリム打ちパンクをしてしまい、結局歩いて帰る羽目になった。空気圧が低すぎたのかもしれない。その時点で自宅の近所まで来ていたので良かったが、輪行や修理の装備を持っていなかったので、遠くだったらやばかった。

そのあたりを考えても、やっぱ散歩の足としてはブロンプトンなどの折り畳み小径車に軍配が上がると思った。16インチとかだとタイヤの空気圧がやたら高いのでリム打ちパンクなんてしたことないし、たとえパンクしても輪行で帰れるので修理用の装備や心配も不要だし、輪行用の追加装備も必要ない。気に入った場所があれば20秒で折り畳んで持ち込めるので保管場所の心配も少ない。普通の靴で乗れるので現地での徒歩移動も問題ない。素早く曲がったり止まったりできるので、路地や歩道上を走るのも得意だ。そもそも帰路は輪行するのを見越して遠くまで行くこともできる。先々週は茨城の牛久まで行って輪行で帰ってきた。ただ、ロードバイクのあの速さを経験した後に小径車に乗ると、やっぱ遅く感じてしまう。なので、どちらが良いという話ではなくて、適材適所という当然の結論に落ち着く。

今後ロードバイクを乗りこなしていくには、いくつか装備を買わねばならない。まず、ダメになったビンディングシューズを買い替えるのと、パンクを直すのが必要だ。予備チューブとしてPanaracerのW/O 700x18-23C仏式バルブ48mmがあったので、まずはそれを使う。バルブの長さは10mmくらい短くても良さげなので、買い替え時には40mmくらいのを探そう。あと、輪行袋とツールボトルも買いたい。予備チューブとタイヤレバーと輪行袋をツールボトルに入れて、ボトルケージに収める。パンクは現地で直して、それ以外のトラブルがあったり疲れたり雨が降ったりした時に輪行で帰れるのは重要だ。あとは、鍵か(実際には錠だが)。チェーンロックとU字ロックの併用が最強だろうが、そもそも長時間外に置くつもりはないので、普通のワイヤーロックでいいかな。全部で3万円以上使うことになりそうだが、自転車自体がタナボタなだけに、その程度はいいよね。おそらくそのあたりの装備も遺品の中に入っていたと思うのだが、貰い損ねて廃棄処分になってしまった。

ところで、登山も趣味だった兄の遺品として、ソロキャンセットも貰った。おそらく上等品であろうバックパックやらテントやらマットやらバーナーやらカトラリーセットやら。つまり、ソロキャンデビューもすべき感じに自分の中でなっているのだが、それはもうちょい涼しくなってからかな。釣り道具セットもあったので貰った。多趣味だった兄を改めて尊敬する次第だ。

まとめ。兄の遺品としてロードバイクを譲り受けたので、とりあえず乗ってみた。ロードバイクの楽しさを思い出してきたので、これからボチボチ乗っていく。兄がやりたかったであろうことの一つか二つくらいは、これから私がやってみようかなと思っている。それがレースなのかブルベなのかツーリングなのかは今となってはよくわからないのだが、とりあえず週末サイクリングをしながら考えていこう。