豪鬼メモ

一瞬千撃

246と真鶴の旅、そしてトウクリップの調整

ブロンプトンで国道246号をひたすら南西に進んで、真鶴岬まで行ってきた。今回はトウクリップの調整の試走でもある。定番の位置に来るように調整したところ、巡航速度が上がった。


前回の記事ではQ-factorとスタンス幅について考察した。結論としては、おそらくスタンス幅は狭い方が高効率なんだろうけど、自分にはあんまり関係ない話で、ちょっと広めに設定して乗りやすいようすればいいということになった。また、ペダルの滑り止めを改良して下死点付近の後ろ引き足を効率的にできるようにした。これは普通に効果があって、大腿四頭筋を温存しつつも長い距離を走るのに都合が良い。ペダルの設定は乗り味や効率性に重大な効果を及ぼすと改めて認識した。

そこで気づいたのだが、今までトウクリップの深さの調整をまともにしていなかった。ビンディングペダルだったらクリートの前後位置の調整は最初の最初にやるべきというか導入時に必然的にやらざるを得ないことだが、トウクリップの場合はなぜだか失念していた。現状を検討するに、三ヶ島ペダルのUrban Platformとケージクリップハーフの組み合わせだと、クリップの奥行きが不十分で、ペダル軸が母指球よりかなりつま先寄りになっている。私の靴のサイズは26cmで、特に大きい方ではないが、それで不十分なので、男性だとかなり多くの人はデフォルトでは最適とは言い難い。三ヶ島ペダル純正のスペーサーをつけると最大4mmまで奥行きを伸ばすことができるらしく、それで調整するのが前提っぽい。

純正のスペーサーはなんだか重そうだったので、M5*12*0.8のワッシャー20枚をホームセンターで買ってきてつけた。左右のトウクリップの各々が2つのボルトで止められているので、合計4つのボルトがある。その各々に、0.8mmのワッシャーを5枚重ねて4mmの嵩上げした。ペダルに付属のボルトの長さが2mmほど飛び出ていて、ナットの深さが6mmくらいあるので、4mm嵩上げしてもボルトとナットが4mm噛み合うので、強度的には問題ない。M5の20mmのボルトも念の為買ったのだが、使わないで済んだ。定説では母指球と小指球を結んだ線と足中心線の交点がペダル軸の中心に来るべきとのことだが、とりあえずは母指球ぴったりぐらいにしてみた。

上記の設定で近所を10kmほど走ってみたところ、明確に走りやすくなった。クランク角1時から4時あたりのパワーゾーンでの踏み込みに力が入るし、クランク角11時から1時あたりの前押しゾーンでの足運びも若干楽になった。こうなると、もっと奥行きを増やした方がいいんじゃねという仮説が立つ。そこで、ホームセンターに行って、さらに20枚のワッシャーとM5の20mmのキャップボルトを買って、各々のボルトに10枚のワッシャーを噛ませて、8mmの嵩上げを行った。こんなに多くのワッシャーを噛ませるのは強度的に問題があるのではと懸念したが、意外に大丈夫っぽい。この設定だと、定説通り、母指球と小指球を結んだ線の上にペダル軸が位置するようになる。


ペダル軸の中心と靴底の間隔をスタックハイトと言う。Urban Platformは薄型でスタックハイトの小さいペダルだが、私は通常は2cmほどのアウトソールを備えたスニーカーで乗るので、足裏とペダル軸の間隔は大きい。ペダルを踏む足は通常前下がりに傾いていて、スタックハイトを考慮すると、ペダル軸の真上はペダルが水平の時より前傾している時の方が足裏の上で後ろにずれる。なので、ペダル軸の位置に関する各々の言説は、足の角度とスタックハイトとソールの厚さを考慮しての話なのか、それらを無視しての話なのかを見極めねばならない。定説と言われる母指球と小指球を基準とした決め方も、どっちなのかよくわからない。さらに言えば、トウクリップの最適な深さは靴や靴下によっても変わってしまう。結局のところ、いかなる説も参考程度に留めて、自分で試しながら自分の最適を探るしかない。だからこそ、その過程が容易に再現できるように、こんな駄文をメモしているのだ。

ところで、トウクリップを8mm深くしたならペダル上の足の置き場が8mm前にずれるので、サドルとの位置関係が変わる。足が遠くなる結果、膝が伸び気味になるので、サドルは少し下げる必要がある。それだけだと若干後ろ乗り気味になるので、それを相殺すべくサドル位置を前にずらすことも検討した方がいいかもしれない。今回は高さだけ微調整して、前後位置については追い追い調整することにした。

前置きが長くなったが、ペダルの設定を変えた上でロングライドに出発した。今回は目黒から246を通って秦野まで行ってから、二宮と小田原を通って舞鶴まで行った。本当は箱根に再挑戦するつもりだったのだが、家を出た時にギアを52T/11T&15Tの重い設定にしていたので、峠は楽しくなさそうなので海沿いに変えたのだ。走行距離は109kmくらいだったっぽい。

まずは246号を下る。自転車に乗り慣れる以前は、標識の表示で「厚木45km」なんてのを見ても意味をなさなかったのだが、今は「アルバム2枚分くらいかな」とか思うようになった。どうでもいい話だが、川本真琴のキャラメルっていう歌で「246沿いのファミレス」って節があるのだが、桜新町ロイホあたりだろうか。

小田原方面に向かう際に1号と246号のどちらを使うか悩ましい。距離的には246号の方が得なのだが、坂が多いのでどうしても敬遠しがちだ。とはいえ、すずかけ台を過ぎると台地になって意外に走りやすくなる。アンダーパスやオーバーパスも意外に自転車で通れるので、そこそこの速度で走り抜けられる。

相模川から先はいつも南下してしまうのだが、今回は初めて246を貫いて秦野方面まで行ってみた。道中にビッグモーターの店を何個も見かけて、諸行無常を感じた。背景に映る雄大な大山との対比がなんとも。

秦野に入る前の善波トンネルの手前が若干きつい坂だったが、それ以外は走りやすい道だった。それにしても、1号に比べるとアウェイ感があるのはなんでだろう。

20年ほど前にインターンで来ていた富士ゼロックスの中井研究所に寄ってみた。今は社名も変わってしまっているし、研究部門もみなとみらい21に移ってしまって、ただの地方事業所になってしまったみたいだが、なんか懐かしかった。薄暗い室内の区切られたブースでみんな黙って仕事しているのとか、話すと朗らかで知的な研究者の人々とか、終バスを逃すとかなり離れた駅まで歩くことになって地獄なのとかが走馬灯のように思い出される。しかし、研究所をこんな僻地に作る理由がいまだによくわからん。誰得なんだろう。

11時過ぎに家を出たのだが、小田原に着いたのは15時過ぎだ。80km超の距離を4時間で走ったことになる。食事休憩とか写真撮影とかも込みでこの時間なので、走行時間は3時間半くらいとすると、平均23km/hくらいの速度で走ったことになる。これはブロンプトンとしてはかなり速いので、自分でも驚いた。ペダル効果か。

ここのところ何度も来ている小田原はサクッと通り抜けて、いつも渋滞している135号で熱海方面へ。江ノ島と鎌倉の間の134号もそうだけど、山がちな地形の海沿いの道が混むのは宿命みたいなものだ。

根府川の手前で旧道(県道746号)に乗り換えると、坂は大変だが、忘れ去られたように静かな道を走れて気持ちが良い。

8kmほど走ると、真鶴に着いた。この街自体が、時代に忘れ去られたような存在で私は好きだ。小田原と熱海に挟まれて、温泉があるわけでもなく、ちょっとした漁港と岬があるだけで、話題になるのは町議会が揉めていることくらいの街。とはいえそんなに寂れているわけでもなく、心落ち着けて住むには良さそうな感じもする。

せっかくなので、真鶴岬にも行ってみた。ここに来るのは二回目だ。強いて言えば沖に奇岩があるが、取り立てて珍しいものがあるわけでもない岬だ。東側を向いているので夕日が見えるわけでもない。まあでもそんな感じが真鶴っぽくていいのかも。

トウクリップの位置を調整した感想だが、めっちゃ良い。一般的に、クリートを浅く(つま先寄り)にすると足首の動きでペダルと足の位置関係を調整する余地が大きくなるため、最大出力は上がる一方、足首の負荷が大きいので持続力は落ちると言われている。逆にクリートを深く(踵寄り)にすると足首による調整が利きづらくなるため、最高出力は落ちるが持続力は上がると言われている。私の場合、ロングライドで楽に乗りたいのだから、深い設定の方が有益そうだ。というか、今までのトウクリップの設定が浅過ぎたので、それを標準の位置に戻しただけだ。4mmのスペーサをつけてペダル軸が母指球の真下あたりに来るようにしただけでも走りやすくなったが、さらに4mmを追加して8mmのスペーサをつけてペダル軸が母指球と小指球の間くらいにする定番の位置にしたところ、かなり楽に走れるようになった。

どう楽なのか。まず、クランク角1時から4時までのパワーゾーンでの踏み込みの際に、足首が頑張っている感覚がなくなった。自然に体重をかけるだけで、あるいは足の重みをペダルに乗っけるだけで、そこそこの強さの入力ができる感じがする。これは登坂の際や強めの加速をする際に便利だ。大腿四頭筋を温存するためにあまり強い踏み込みをしないで乗る私だが、登坂や加速の際にはきちんと踏み込むべきだ。今まではその場合でも足首が頑張るのが嫌で、他の筋肉ばかり使っていた。そのせいで、ハムストリングス腓腹筋が先に売り切れて失速していた気がする。今回の変更で適宜踏み込めるようになったので、加速力と登坂力が著しく増した。

楽になったのはパワーゾーンだけではない。クランク角10時から1時くらいまでの足運びも楽になった。この範囲では股関節を引き上げた状態で膝関節を伸ばして推進力を生み出すのだが、効率を上げるためにはペダルを十分な高さに持ち上げるのが重要になる。そのためには、股関節を深く屈曲して足を高く持ち上げる必要がある。足首が硬いとクランク角12時付近ではつま先が下向きになって、それを補うように股関節を深く曲げなければならないが、その悪影響はペダル軸が踵に近いほど小さくて済む。私は踵を地面につけてしゃがめないほど足首が硬いので、この特性は好都合だ。足首が柔らかくて強ければ引き足で足首を畳む動作を入れて推進力を増せるらしく、その効果を増すためにはトウクリップは浅い方がいいが、私には難しい。

さらに、ペダルの形状に依存する利点だが、トウクリップが深い方がペダル上の滑り止めのグリップが良くなり、クランク角5時から7時くらいまでの後ろ引き足が安定してできるようになる。足圧中心が前方にあるほどペダルは前方に傾くとともに、滑り止めが足圧中心の後方に引っかかるので、足を後ろに引いた時のひっかかりが安定するからだ。ビンディングペダルであり足首が強ければ足首を伸ばしてペダルを後ろに蹴ることで推進力を増せるらしく、その効果を増すためにはトウクリップは浅い方がいいが、私には難しい。

つまり、トウクリップを深くすることで、パワーゾーンでもリカバリゾーンでも効率的に入力ができるようになったため、楽に速く進めるようになった。トウクリップが浅いと足首をうまく使って推進力を増すことができる人もいて、競輪選手やスプリント型のロード選手は浅いトウクリップやクリートの設定を好むらしい。しかし、その分だけ足首に負荷がかかるし、少なくとも私にはその能力がないので、デメリットの方が大きい。よって、トウクリップが浅過ぎたならば、それを適切な深さにするだけで巡航速度も加速能力も登坂能力も上がる。クリート設定の定説に習って単にトウクリップにスペーサーを入れただけだが、効果は予想以上だった。もっと深くすることもできるかもしれないが、これ以上はボルトとワッシャーの強度に問題が出そうだ。深くし過ぎると荷重重心がペダル軸より前になって足が前につんのめる感じになるが、前にはトウクリップがあるので、足がペダルから外れそうになることはない。しかし、足首に余計な負担がかかるのは確かであるため、深くし過ぎない方がよい。やはり母指球のちょい後ろくらいのペダル軸が来るのが最適だと思う。

トウクリップの適切な深さはペダルの前後長と使用者の足の大きさと靴の形状と好みの漕ぎ方によって変わるので、デフォルトのまま使っていること自体が浅慮だった。深くするのはスペーサでできることを考えると、多くのトウクリップの製品は浅めに設計するのが自然だろう。三ヶ島ペダルのUrban Platformとケージクリップハーフの組み合わせでは、おそらく大抵の人には浅過ぎる。ペダルの調整をきちんとすることはペダルの選定と同様に重要なことだ。

ペダルの設定としては、上死点と下死点での足運びが楽にできるようになったのだが、実際に効率的な入力ができるかはまた別の話である。そこで、「骨盤を使ったペダリング」的な概念を試行錯誤しているのだが、正直言って意味がわかりにくい。シッティングの場合、骨盤は坐骨を通じてサドルに固定されているのだから、骨盤を大きく動かすことは現実的ではない。動かせたとしても、ほんの数センチくらいだろう。パワーは力と速度の積であり、速度は移動量を時間で割ったものなので、移動量が小さければパワーは小さい。よって、骨盤の動きを足してもパワーはほとんど上がらないはずだ。もちろん、骨盤ペダリングというのは、そういうことが言いたいわけじゃないだろう。何かの比喩に違いない。骨盤の前にある腸腰筋や骨盤の後ろにある大臀筋をうまく使えということだと思う。その観点で調べてみると、上半身を前傾させるとともに骨盤の中心である仙骨を前に突き出して体幹を安定させるのが重要っぽい。上半身を前傾させると骨盤も前傾する力が生じるが、チンチンを前に突き出すように力を入れると腸腰筋の力で拮抗して体幹(=骨盤と背骨)が安定する。その状態で引き足(7時半から11時)をすれば腸腰筋が優位に働くし、体幹が安定していれば押し足(11時から1時半)や踏み足(1時半から4時)で大臀筋も働かせやすい。重心を前方で安定させるためには、脇を締めた状態でハンドルに寄りかかるように体重の一部を預けるといいっぽい。これらを実践してみたところ、確かに巡航速度が上がり、それをそこそこ長い時間続けていられるようになった。無理に大出力を出そうとせずに各関節や筋肉が楽に稼働ができるタイミングを探すのがコツか。これが骨盤を使っていることになるのかは知らないが、しばらくはこの漕ぎ方を続けていこうと思う。

まとめ。トウクリップの調整をして、真鶴までのロングライドをしてきた。細かい調整ではあるが、確実に走りが変わった。真鶴は相変わらず丁度良いひなび方で良いところだった。サイクリングは楽しい。日々の鍛錬で行動範囲が段々と広がる喜びが味わえるとともに、チューニングひとつでそれが激変するという驚きも味わえる。


おまけ。長野の親の家で野焼きと芋掘りをしてきた。雑草を刈り取る作業を3週間前にしてあり、乾燥した雑草を焼くのが今回の作業だ。刈り取るだけでは繊維が硬過ぎて、耕運機に巻き付いてしまうそうな。なので、集めて焼いておき、冬前に耕運機をかけて土に混ぜ込んでしまう。なぜ冬前に耕運機をかけるかというと、残った雑草の根を引きちぎって根絶やしにするためだそうな。草を集める作業は刈るのと同じかそれ以上に重労働だった。家庭菜園レベルの畑でこの大変さなのだから、農業ってのは全く楽じゃない。「引退して悠々と畑仕事」みたいなのは幻想であると気付かされた。