豪鬼メモ

一瞬千撃

サドルに手作りゴムマットを装着して尻痛対策

自転車のサドルにスポンジゴムシートで作った座布団を載せて結束バンドで固定すると尻痛が対策できるという話。原価200円で作れ、重量は20g以下で済む。

現状分析

ロードバイクブロンプトンの両方でロングライドをする身としては、ブロンプトンでの尻の痛みが気になってしまう。ロードバイクなら200km乗っても尻が痛くならないのに、ブロンプトンだとその距離だと尻が痛くて、終盤は我慢できずに立ち漕ぎをする羽目になる。クッション入りのパンツを履けば大分マシになって耐えられない痛みではなくなるが、痛いものは痛い。原因は明白で、乗車姿勢の違いにある。ロードバイクだと前傾姿勢で乗ってペダルが多くの体重を支えるが、ブロンプトンだと直立気味の姿勢になってサドルにかかる荷重の割合が増える。車体のジオメトリが違うので、ブロンプトンロードバイク並の前傾姿勢を取り続けるのは難しい。

ブロンプトンにはSelle SMPのVT30Cというサドルをつけているが、シートの形もパッドの硬さも丁度良くて気に入っている。しかし、日常の100km未満の走行であれば良いのだが、やはり100km以上になると尻が痛くなる。これのゲル挿入版が最近出たので使ってみたいのだが、7万円以上もする。さすがに高くて買えない。つか、どんなお大尽が買うんだこれ。欧州では115ユーロ≒2万円弱なので、元来は異常に高いわけじゃないらしいが。

自転車における尻の痛みは二つに分類される。ひとつは皮膚が擦れることによる痛みだ。これはサドルの幅が坐骨幅に対して広すぎるとか、サドルのノーズが太かったり幅が狭まる部分の絞りが不十分で太腿の動きを阻害するとか、パッドの縁の撫で肩が不十分で太腿の付け根を圧迫するとか、などの原因が考えられる。もうひとつは坐骨やその他の部位が体重と衝撃で圧迫されて皮膚の内部の血管や神経の機能が阻害されることによる痛みだ。これはパッドが薄すぎたりサドルの形状が坐骨の形と合っていなくて坐骨や恥骨の下の部位に圧力が集中することが原因だ。私は皮膚の擦れでは悩んでいないので、衝撃の方を対策することになる。

VT30Cの形状は概ね私の尻の形状と乗車姿勢に合っているように思う。坐骨はしっかりパッドの分厚い部分に乗っているし、尻肉が左右に余る感じもないし、恥骨が圧迫される感覚もない。しかし、ロングライドの後半では、やはり坐骨の下の皮膚が痛くなる。オデキができることもあり、そうすると数日は自転車に乗れなくなる。形が合っているのに尻痛になるのなら、パッドを厚くするしかない。パッドを厚くすると沈み込みが大きくなってかえって血管や神経を圧迫するリスクがあるが、適切な硬さのパッドが分厚いならばその問題はない。VT30Cのパッドの硬さは個人的に丁度良いと思っていて、通常走行時には沈み込みを感じることはないが、段差などで衝撃が伝わった場合は適度に沈んで圧力を分散させてくれる。ただし、パッドが厚くはないので、大きな衝撃がかかかると底付きして衝撃が緩和しきれないという問題がある。ロングライドでは数えきれないくらいそのような衝撃を受けるので、それが蓄積して尻痛になるのだ。

以上を鑑みると、VT30Cの形状のままでパッドが分厚くなれば問題が緩和できそうだ。まさに上に挙げたVT30C-Gelがその策に該当しそうだが、値段が落ち着いてかつ中古でないと買えない。同じくSelle SMPのLite 209というのもよさそうなのだが、こちらも3万円近くするので、おいそれとは買えない。もうこうなったら、自分でパッドを作れば良いのではないか。

構想と準備

VT30Cの上に、同じ形のパッドを載せたい。追加するパッドはVT30Cの元来のパッドと同じくらいの、比較的高反発で沈み込みが少ないものが良い。カバーのように被せることで横幅が広がって太腿の動きを阻害するようになってはいけないので、追加のパッドは「載せる」状態で固定し、かつ真上から見るとVT30Cの元来の形状と全く同じになるようにしたい。そして、その状態で乗車すると、追加のパッドは体重によって変形して、元来のパッドに密着して、元来の形の乗車感を変えないようにしたい。

これを実現するには、ゴムやポリウレタンなどの広義のエラストマー(伸縮性のポリマー)のスポンジシートをVT30Cの形に切って、それを載せて結束バンドで固定すれば良さそうだ。好都合なことにVT30Cは座面の中央に前から後ろまでスリットが空いているので、スリットの前端と後端に結束バンドが結べそうだ。ペダリングに伴ってシートに対して前後方向には比較的大きな力がかかるが、左右方向には大きな力はかからないので、前後の2点を留めておけばずれることはないだろう。

スポンジシートはホームセンターで調達する。資材セクションのゴム素材の棚にあることが多いだろう。いくつかの素材があったが、ウレタンはスポンジにすると柔らかすぎてダメだ。天然ゴムとEPDMが最もそれっぽかった。天然ゴムは経年劣化に弱く、EPDMは引き裂きに弱いというトレードオフがあるので悩ましい。結束バンドで固定することを考えると、経年劣化よりも引き裂きの方が心配なので、天然ゴムの方を採用した。反発性がVT30Cのパッドに近いのも天然ゴムの方だ。これの厚さ1cmdで30cm四方のシートを買った。398円だ。



製作

まずは型紙を作る。適当な用紙を二つ折りにして、サドルの形に合わせて線を書いて切っていく。二つ折りにして作業することで必ず左右対称が達成できる。細かい調整は、載せては切ってという作業を繰り返して行う。

型紙をスポンジシートに転写して、切り取る。1枚のシートから2個作れるので、原価200円てことになる。

電動ルータを使って中心に穴を開ける。最前の穴と最後の穴は結束バンドを通すのに必須だが、その他の穴は通気性と柔軟性のために開ける。また、同じく電動ルータを使って、シートの縁を撫で肩になるように削る。余談だが、プチDIY入門としてぜひ電動ルータを持つべきだ。持っていると色々できる。鍵を無くしたチェーンの切断とか靴底の整形とかもできるし、爪を磨いたりもできる。

15cmの結束バンドで前後をサドルに固定すれば完成だ。ツマミで結束が解けるタイプの結束バンドであれば、つけ外しが容易にできるので、着脱式の追加パッドということにできる。

重さは結束バンド込みで19.1gである。パッドの分厚さが1cmも増えたのにこの程度の重量増加で済むのは素晴らしい。市販のサドルカバーをつけたら200gとかは増えてしまうだろう。

サドルの前後に結束バンドを結ぶ穴が都合よく空いていたのは幸運であったが、そうでない形状のサドルの場合は結束バンドの付け方を工夫する必要があるだろう。パッドの前端に穴を2つ開けて結束バンドを通して作った輪をサドルのノーズに引っ掛けるとか、同様にしてパッドの後端にも穴を二つあけてサドルの裏側からレールなどの引っ掛けるとかの方法が考えられる。

使用感レビュー

見てくれはひどいが、機能性は目論見通りになった。真上から見ると元来のVT30Cの形とほぼ同じであり、ペダリングを阻害することはない。追加パッドの浮き上がっている部分は、着座すれば元来のパッドと密着するので問題ない。

通常走行時の乗車感は、元来のパッドよりはほんの少し柔らかいと感じる程度だ。慣れれば違和感はない。むしろ、元来のVT30Cの2本レールに座っていたような感覚とは違い、平面のベンチに座っているような感覚に近付いて、快適性が増した。ペダリングに伴って前後左右にずれることもない。踏み込んだ際に尻が上下して力が逃げることもない。追加パッドのおかげで座面が1cm高くなるので、サドルの取り付け位置は1cm低くすべきだ。

段差を超えた際に坐骨への衝撃を緩和できるかどうかが肝だが、これも目論見通りに機能している。天然ゴムスポンジの硬さは、ヨガマットやトレーニングマットとほぼ同じだ。それらも厚さ1cmくらいで、膝などの硬いものを乗っけても痛くないように設計されている。この追加パッドをつけていると、路面の段差や凹凸を超えた際に起こる衝撃で坐骨部分にチクっとした痛みが走ることがない。多摩川サイクリングロード名物の意地悪バンプをシッティングで超えても全然平易だ。普通ならこれを間違ってシッティングで通ると悲鳴を上げることになるのに、このパッドを敷いていれば何ともない。

ダートやグラベルではどうかと思って、玉川上水も走ってみた。やはり追加パッドがあると大きめの岩や木の根を踏んでもチクっとした痛みを感じないので、大抵の道はシッティングのままで走破できるようになった。ブロンプトンでダートを走ると、前輪接地面にちょっとでも横Gがかかると滑って転ぶので、かなりスリリングだ。あと、タイヤをマラソンレーサーにしておくとこういうときに多少安定感が増す。

ついでに多摩湖サイクリングロードも回ってきた。多摩湖南岸はそれなりに舗装されているのだが、北岸は舗装が苔生してひび割れているので、追加パッドの有り難みを感じだ。舗装路上の小さなひびや木の根による盛り上がりなどによる小さく連続する衝撃を吸収する能力もこのパッドは長けている。

しかし、長時間乗ると、多少の違和感を感じてくる。追加パッドなしの場合は坐骨の直下とそれより肛門側の部分が最初に痛み出すが、追加パッドありの場合は坐骨より少し外側の部分と、太腿の付け根が痛み出した。坐骨周辺の部分は衝撃系の痛みで、大腿の付け根は擦過系の痛みだ。しかし、どちらも追加パッドなしの痛みに比べれば弱く、景色を見ていれば忘れる水準だ。パッド付きパンツと併用すると、衝撃系の痛みはさらに緩和される。100kmを超えてもシッティングのまま走行できる。すなわち、尻を保護するという目的は達成されたと言えるだろう。ここまで衝撃吸収効果が高いサドルはそうそうないと思える水準だ。ただし、天然ゴム丸出しなので、ズボンとの摩擦が大きいのが多少気になった。こいつをさらに合皮のカバーで覆うとかすれば良さそうだが、そうすると重量が増すのが悩ましい。

問題は、見てくれがあまりにも悪いことだ。ただ、見慣れるとそれほど悪くもない気がしてくる。こんなのつけているのは私だけだろうし、独自性が有って良いとも言えなくもないような。むしろ、打ちっぱなしコンクリートみたいで格好いい気がしないでもない。

付け外しが容易にできるので、普段使いでは外しておいて、ロングライドの時だけつけるというのでもありかもしれない。あるいは、ロングライドでも最初は外しておいて、尻が痛くなった時だけつけるという保険にしてもいいだろう。なにせ10円玉2枚よりも軽いので、カバンの片隅に入れておいても損はない。

乗車姿勢とサドルの角度

サドルやパッドの工夫は、ある意味では対症療法にすぎないとも言える。尻痛の根本原因は乗車姿勢であり、ペダル荷重が足りないからだ。荷重をペダルに移す方法に関しては、以下の動画で解説されている。前傾姿勢で重心を前にしていくと、ハンドルと手に荷重がかかるので、そのままだと手が痺れてしまう。なので、前傾姿勢を取りつも、骨盤を立ててペダルをしっかり漕ぐことで手にかかる荷重を減らすことが必要となる。そのためには、サドルの角度を過度に前下がりにしてはいけない。サドルの前後位置が適正であり、角度が水平に近ければ、ハンドルを手放ししても体幹で上半身を支えられるはずだ。よって、通常の乗車姿勢における前傾姿勢のままで、やろうと思えば手放し運転ができるように体幹の力とペダリング技術を訓練すべきということだ。
www.youtube.com

その動画を見て反省したのだが、私はサドルを前に傾けすぎていた。そのおかげでハンドル荷重が多くなり、それを支える手が痛くなっていたっぽい。いつもの乗車姿勢のままで手放し運転を試みたら全く上半身が支えられなかった。なので、サドルの角度を水平近くに戻した。よく言われるように、サドルの波打って持ち上がった後端部分は無視して、サドルの真ん中からノーズまでの部分が地面と平行になるように設定することにした。そうすると短時間であればいつもの乗車姿勢のままでハンドル荷重をゼロに近づけて手放しもできるようになった。そして、尻痛もだいぶ緩和された。前下がりだと着座位置が無意識に前にずれてノーズの細い部分に乗ってしまうのも良くなかったっぽい。乗り方を工夫すれば尻痛の対策はそれなりにできる。

とはいえ、ブロンプトンでペダル荷重を意識して漕ぐと速度が出過ぎるし、足が売り切れるのが早いので、ロングライドでそれを続けるのは現実的ではない。無理に続けると膝を痛めてしまうだろう。なので、ペダル荷重はそこそこで諦めざるを得ず、対症療法であると分かっていても、サドルやパッドの工夫に頼らざるを得ない。56T/11Tとかの重いギアを踏むとか、DHバーをつけて体重をそこに逃すとかも追加の工夫としてはあり得るが、いずれもトレードオフがある。

まとめ

サドル沼で散財せずに尻痛に対策する一案として、手作りのパッドをゴムスポンジシートで製作する方法を紹介した。既存のサドルが気に入っているがもう少しパッドの衝撃吸収能力が高ければ良いと望む諸兄は、この方法を試すのも一興だろう。手軽に対策できるし、軽量だし、衝撃吸収効果はかなり高い。ただ、こんなものは貧乏人の発想なわけで、理想的には自分の体に合った形でロングライド向けの衝撃吸収能力が十分なサドルを見つけたいところだ。良いものがあればご紹介いただきたい。VT30C的な感じで、ショートノーズかつ幅150mmくらいで穴あきで高反発だけど底付きしないやつ。