豪鬼メモ

一瞬千撃

ブロンプトンのグリスアップ大作戦その2:ハブ編

前回のBB編に引き続き、ベルハンマーのメタルグリスを使ってブロンプトンのチューンナップを行った。今回は前後輪のハブをグリスアップした。結論としては、前輪は3倍回るようになったが、後輪は効果がないから止めとけってことだ。


BBを社外品のものに変えたりグリスアップしたりするチューンナップは手軽にできるので定番とも呼べるものだが、ハブのチューンナップに比べると効果は低いだろう。ブロンプトンの標準的な変速比は54T/12T=4.5であるから、車輪の回転数はBBの回転数の4.5倍にもなる。小径車なので、変速比を高くして車輪の回転数を上げる必要があるのだ。また、車輪のハブは漕がずに惰性で走っている時にも回転し続ける。その回転の間にも常に体重と車重を法線方向の荷重として受けている。よって、車輪のハブの抵抗はBBの抵抗よりも大きい影響を走行性能に及ぼすと考えられる。にもかかわらず、車輪を外してハブを分解するのは面倒くさすぎるので、ハブのメンテを自分でやる人はあまりいない。難易度と手間を考えると、ハブはプロに頼んでメンテするか、むしろ車輪ごと買い替える方が賢いのかもしれない。しかし、グリスアップするだけなら素人にもできそうだ。せっかく良さげなグリスが手元にあるので、自分でやってみよう。

まず、工具の準備だ。BBシェルを外すにはいろんな工具が必要だったが、タイヤを外すのはレンチだけあればできる。まず15mmの普通のレンチが必要だ。それに加えて、とも締めになっている前輪のボルト用には13mmの板レンチが必要で、同様に後輪には17mmの板レンチが必要だ。あとはベアリングのボールをつまむピンセットやら、ベアリングのシールを外す精密マイナスドライバーやらが必要だが、つまんだり差し込んだりできる道具があれば何でもいい。13mmと17mmの板レンチはラジオペンチで代用できるかもしれない。

BBシャフトやホイールのシャフトからベアリングを抜き取るにはベアリングプーラーという器具が必要なのだが、ちゃんとしたのを揃えると結構高い。しかも、外したベアリングを戻すためにベアリングプッシャーという器具も必要になる。さらに、ベアリングの取り付け方法によってそれぞれ別の器具が必要になる。それらを揃えるのはさすがに面倒なので、ベアリングはシャフトにつけたままで作業することにした。ベアリングが外に露出した状態にさえなれば、外側のシールを外して、チェーンクリーナーで洗えば既存のグリスはほとんど落とせる。新しいグリスの封入も外側だけやれば充填率50%に届く。

前輪のハブのグリスアップを行う。ブロンプトンの前輪はカードリッジ式のベアリングを使わないでボールベアリングとシャフトを直接使うカップアンドコーン式だ。なので、シャフトを外すといきなりボールベアリングが見える。

左右10個ずつのボールを外してチェーンクリーナー(パーツクリーナーでも可)で洗浄して、カップの部分も洗浄してから、ボールをカップに戻す。その際、カップの方にグリスを塗るのだが、穴に落ちないように穴の淵の部分のグリスを高めに盛ると良い。あとはシャフトを元に戻せば完成だ。前輪の作業はめっちゃ楽だ。

後輪のハブのグリスアップを行う。後輪のハブには、車輪を左右から支えるためのベアリングが2個と、ギアとシャフトを繋ぐクラッチを支えるためのベアリングが2個が使われていて、合計4個もベアリングがある。都合のよいことに、クラッチを外してしまえば、車輪の左右のベアリングは外側から触れる状態になる。クラッチのベアリングは外側しか触れないので、今回はそれだけを扱う。


シールドベアリングのシールを外すと中のボールが見えるので、そこにチェーンクリーナーを吹きかけて古いグリスを流す。それから新しいグリスを封入して、元に戻せば完成だ。

グリスアップ前後の前輪の周り方の動画を順に並べる。グリスアップ前のものは8年前に購入してから何もしていない状態だ。グリスアップによって動きが明らかに良くなっているのがわかる。
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グリスアップ前後の後輪の周り方の動画を順に並べる。グリスアップ前のものは8年前に購入してから何もしていない状態だ。グリスアップによって動きがむしろ悪くなっているのがわかる。
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グリスアップ前後の回転時間を比較しよう。前輪はそのまま、後輪はチェーンを外し、BBシャフトはチェーンとペダルを外した状態で、それぞれを力一杯手で回してみて、停止するまでに何秒間かかるかを計測した。3回の試行の平均値を代表値としよう。

1 2 3 平均
前輪ハブ(グリスアップ前) 31 36 35 34.0
前輪ハブ(グリスアップ後) 121 124 125 123.3
後輪ハブ(グリスアップ前) 58 57 59 58.0
後輪ハブ(グリスアップ後) 32 37 33 34.0

前輪は効果覿面だったが、後輪は完全なる失敗だ。カップアンドコーン方式の前輪はグリスが劣化しやすいので、グリスアップの効果はあるが、シールドベアリングである後輪はグリスが劣化しにくいので、むしろ素人が余計なことをすると性能が悪化するっぽい。

このままだとむしろ遅くなってしまうので、後輪のグリスアップを再挑戦した。二回目はフォームクリーナーも使って洗浄を徹底的に行うとともに、グリスを封入してから20kmほど走って当たりをつけてから計測を行った。その動画と結果が以下である。
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1 2 3 平均
後輪ハブ(グリスアップ再挑戦後) 55 58 59 57.3

ということで、なんとかグリスアップ前とほぼ同じ性能に戻った。余計なことをして性能が戻らなかったら後輪ハブを買い替える羽目になっていたので、冷や汗ものだった。ちなみに純正の後輪ハブだけの販売はないっぽいので、後輪全体で36300円となるところだった。これを機にハブとホイールを純正でなく外装3段のものに換装するとかも考えたが、やはり金がもったいない。使える限りは純正でいきたい。

シールドベアリングは普通はグリスアップするものではなく。ベアリング自体を交換するのが定石らしい。プロがグリスアップしたとしても、元の性能には戻らず、若干悪化した状態にしかならないそうな。前回のBBのグリスアップで性能が改善したのは、シールドベアリングでも中のグリスが固着していたから、それに比べればグリスアップしたほうがマシだったからだろう。今回の後輪ハブのベアリングはまだ固着していなかったので、グリスアップの効果がなかったというわけだ。結果論としては徒労だったことになるが、グリスアップで以前と同等の性能に戻す術が学べたことは収穫だ、ということにしておこう。メタルグリス以外のグリスでグリスアップするとどうなるかの実験もしたいところではあるが、面倒かつリスキーなので割愛。

さて、グリスアップで明白に効率が向上した前輪ハブと、おそらく性能が変わっていない後輪ハブの使用感を試すべく、試走してきた。自宅から1号をひた走って、いつもの通りの湘南コースで大船・藤沢・江ノ島・鎌倉・逗子あたりを流してきた。

結論としては、若干ではあるが明確に乗り味が軽くなり、ブラインドテストで弁別できる程度には走行感が改善した。ハブの抵抗低減はBBのそれよりも効果が感じやすく、ペダルを踏んだ際により軽い力で推進するのを体感できる。今回は前輪だけが改善して後輪の抵抗は変わっていないので、劇的に軽くなるというほどではないが、それでも体感できる程度の違いはある。速度を上げてから漕ぐのをやめて惰性で走っている際に進める距離が確かに伸びた。また平坦な道をゆっくり目に巡航していると、以前より弱い力で漕いでいられる。つまり、少しだが楽に巡航できて、疲れにくくなった。疲れてからダラダラ漕いでいる時にも意外に速度が出ている時にもグリスアップの効果を感じることだろう。

ハブの抵抗の差を顕著に感じたいならば、路面抵抗と登坂抵抗が少ない道を走り、変速比を最大にして少ないペダル回転かつ多いタイヤ回転で巡航し、空気抵抗を小さくするためにゆっくり楽な速度に徹するのが良い。サイクリングロードをゆっくり流すのが典型的であり、その際にはグリスアップの効果が確実に感じ取れるだろう。一方で、加速感や最高速度の伸びが劇的に良くなったとは感じないだろう。加速感は慣性力(=車重と体重)に強く支配され、最高速度は空気抵抗に支配されるからだ。とはいえ、いずれにも機械抵抗の低減は微妙にだが貢献する。グリスアップで機械抵抗を減らす措置は、成功するならば、メリットしかない。

まとめ。ベルハンマーのメタルグリスで前輪ハブと後輪ハブをグリスアップしたところ、前輪はよく回るようになったが、後輪は良くならなかった。前輪ハブのグリスアップはおすすめできるが、後輪ハブは触らないほうがいい。前輪のグリスアップによる効果は確かにあり、走行感が少し軽くなることが体感できる。