自転車歴は長いのに頑なにサイクルウェアを着てこなかった私だが、連日の暑さと汗に負けてついに導入することにした。パッド付きインナーパンツとサイクルグローブとサイクルジャージである。それでもガチな感じではなく一見普通の服装に見えるように努めた。
パンツ
ブロンプトンで1日200kmものロングライドをすると、めちゃくちゃ尻が痛くなる。それでも我慢して乗っていたら、尻にオデキができてきて、それでも我慢して乗っていたら、オデキが固くなって豆のようになってしまった。なんとか尻痛を改善しようと思ってサドル沼に嵌ったりもしたが、結論としてはサドルは手持ちのSelle SMPのVT30Cが最善ということになった。サドルのクッション性は適度で良く、柔らかすぎると血流が阻害されたり皮膚が擦れたりしてかえって痛みが増す。柔らかいサドルを探すよりは、厚めのパッドを備えたパンツを履く方が良い。
そこで、パールイズミの3DRメッシュインナーパンツを導入した。これは下着なので上に短パンやその他のズボンを履くのだが、外見上はパッド入りに見えないのが美点だ。その格好で普通に買い物したり図書館に入ったりしても違和感がない。、東日本縦断の旅ではそれを履いていて、とても快適だった。しかし、迂闊にも乾燥機にかけたらクッションが剥がれて駄目になってしまったので、同じくパールイズミのコンフォートレーサーパンツをを旅先で調達して履いていた。これはレーサーパンツなので、それだけを履くものだ。レーサーパンツの方が涼しいと言われるが、私の感想としてはインナーパンツと短パンの組み合わせの方が涼しかった。クッション性は3DRメッシュインナーパンツもコンフォートレーサーパンツも同じくらいで、100kmを1日乗るなら問題ないが、それを連日続けるのは辛い感じだ。
なので、インナーパンツで、よりクッション性が高いものを導入することにした。各所を検討した結果、やはりパールイズミのメッシュインナーパンツで、3DRより一つ等級が上のメガメッシュインナーパンツを選んだ。3DRでの経験上、Mサイズが私にはぴったりなことは分かっている。
実物を手に取ってみてまず印象的なのが、パッドの厚さである。最も厚い部分で2.5cmくらいある。ここまで分厚いと、サドルの高さを少し下げなければならない。ブロンプトンは乗るたびにサドルを調整するので手間は全く変わらないが、ロードバイクの場合は少し面倒だ。毎回このパンツを履くと決めたなら、その高さで運用すれば良いだけの話だが。
さて、サドルに座ってみると、分厚い座布団に座っているような感じになる。ただし、座布団と決定的に違うのは、包み込むような感触ではないことだ。2本の太い帯に尻を乗せているような感覚である。その帯は常に坐骨の下にあるので、サドルのどの位置に座っても、骨盤をどんな角度にしても、高い衝撃吸収性が確保される。パッドが分厚いと脚が動かしにくくなるという懸念があったが、それは杞憂であった。恥骨結合よりも前の部分のパッドは薄めなので、脚の動かしやすさは3DRと変わらない。欠点は、クッションの帯から外れた部分に若干の段差を感じるので、そこの尻肉に違和感が発生することだ。この違和感は3DRでも有ったが、メガだとその程度が大きい。とはいえ、痛くなるほどの違和感ではなく、慣れればそのうち忘れてしまうかもしれない。もう一つ欠点を挙げると、パンツとサドルが噛み合わないことだ。二つの帯であるパンツのクッションと、同じく二つの帯である穴あきサドルのクッションは、両方とも凸形状であるから、噛み合わない。よって、双方の帯を上下にピッタリ合わせた位置に尻を置くのに慣れが必要だ。最初はなんだか尻の置き場がしっくりこないが、二組の帯をそーっと重ねるつもりで尻の位置を決めるとうまくいく。
適切な場所に尻を置くと、分厚いパッドは本当に良い仕事をしてくれる。路面の細かい凹凸から来る高周波の振動はほとんど無くなるし、段差などを踏んだ時に来る低周波の振動や衝撃もかなり緩和してくれる。サイクリングロードにたまにあるバンプ地帯を踏んでも大丈夫だ。総じて、3DRよりも段違いに衝撃吸収性が良く、ロングライドをしても尻が痛くなりにくい。座りやすさは3DRの方が上なので、100km以下のサイクリングであれば3DRの方が良いだろう。
パッド付きインナーパンツで悩ましいのは、身長や腹囲に合わせて適切なサイズを選ぶと、チンチンが圧迫されて気持ち悪いことだ。この不快感は慣れれば忘れる程度のものだが、サイクリング中にトイレに行くとチンチンが縮み上がっているので、あまり健康によくなさそうな気がしてしまう。この点は3DRもメガも同じだ。なので、MサイズではなくLサイズを買おうとすら考えたくらいだ。しかし、大きいサイズだとパッドの位置関係がうまくいかなくて太腿が擦れそうなので、やはり今回もMサイズを選んだ。へその部分をちょっとローライズ気味にして履くと、圧迫は緩和できる。
通気性や吸汗性に関しては3DRとそんなに変わらない。パッドの部分はほとんど通気しないが、それ以外のメッシュの部分は通気しまくるのでスースーして気持ちが良い。パッドもメッシュも汗を吸うが、上に履いているのが短パンである限りは蒸発も早いので、蒸れて不快に感じることはない。総じて、涼しさはレーパンと同様か、それより上かもしれない。膝近くまで皮膚を覆うレーパンよりは、最大の熱源である太腿の皮膚がほとんど露出するとともに尻やチンチン付近に風を入れてくる短パンとインナーパンツの組み合わせの方が快適だ。
パッド付きの製品は、いずれパッドがへたってくることも考慮しておくべきだ。このメガのパッドも買ったばかりだとやたら分厚く感じるが、何回も履いて洗濯してを繰り返せばパッドが柔らかく薄くなってくる。既に8回くらい履いたが、最初の頃の分厚さを感じなくなってきた。慣れの部分もあるのだろうが、弾力が落ちてきているのは間違いない。むしろそれによって座り心地が向上している。
手袋
ブロンプトンは乗車姿勢が直立気味になり、サドルに多くの荷重がかかるので、結果的に尻が痛くなりやすい。それを少しでも緩和するには、重心を前方に出して、ペダルとハンドルの荷重配分を増やすのが望ましい。そのため、私はサドルをできるだけ前に出すとともに、そこそこの前傾姿勢を取るように心がけている。理想的にはペダルだけに荷重を集中させたいのだが、現実的にはそれは無理だ。重心を前方に出せばハンドルにも荷重がかかる。その姿勢を継続していると、手が痺れてくる。ハンドルを支える手に圧力がかかるのは仕方ないにしても、圧力が一点に集中して手が痺れるのは困る。ロングライドの最中にはハンドルの握り方をちょこちょこ変えて負荷分散を図るが、それにも限界がある。また、ブロンプトンは後輪への衝撃はサスペンションブロックで緩和するが前輪への衝撃はもろに手に伝わってしまうというのも問題だ。
そこで、サイクルグローブを導入することにした。手袋は無くすリスクがあるし、汗で臭くなるのも嫌なので、今まで導入してこなかったが、痺れという切実な問題には対処せねばならない。指先が開いている方式のものであれば、外さなくても大抵の作業ができるので、無くすリスクは低くできる。また、比較的薄手で通気性の良いものを選べば、臭くもなりにくい。それでいて、手の平の部分にクッションがあり、手の痺れをちゃんと軽減できるものがよい。その基準で検討したところ、RoecklのBERNEXという製品がコスパが高そうだった。自転車屋で試着してみたところ、Lサイズが私にはぴったりだった。
試着したのと同じ商品なので、届いた実物も当然ぴったりである。Mサイズだと脱着に時間がかかる上に指をグーパーさせづらかったのに対し、Lサイズだとその問題がない。手の平の全体がクッションになっているのに、手相で言うところの感情線や頭脳線に沿って縫い目があるので、手の平を曲げやすくなっている。自転車に乗ってみると、期待通りに手の痛みは緩和された。素手での痺れの進行が100とすると、手袋をつけると50くらいに遅くなる。手袋で痛みが減るということは、やはり皮膚と一部とその直下の血管や神経に圧力が集中していたということだろう。もっとパッドが分厚い手袋の方が痺れを緩和できるだろうが、そうするとハンドルが握りにくくなるので、このパッドの厚さはちょうど良い。
生地が薄いし指が覆われない手袋だが、当然ながら素手よりは熱が手にこもる。また、手汗はどうしても手袋の中に溜まり、生地に染み込んでいくことになる。この感覚は気持ち悪いとしか言いようがないが、素手だと手汗がハンドルに付いてツルツルと滑るので、それが無くなったのは良いことだ。手の平の外側の生地は滑りにくい素材になっていて、汗をかいていてもハンドル操作が確実にできる。そして、指が露出していることで、ナビ等のためにスマホを操作するのがやりやすいし、コンビニ等に寄った際に財布を取り出したりパンの袋を開けたりする際にも困らない。
手の痺れが緩和されたことで、より攻めた前傾姿勢が取れるようになった。前傾姿勢を取る目的は空力改善とペダル荷重の割合を増やすことだが、副作用としてハンドル荷重が増えてしまい、手が痺れがちだ。体幹で上半身の体重を受け止めてペダル荷重を増やすのが理想だが、回転し続けるペダルに全荷重を移すのは不可能だ。よって、前傾した分だけハンドル荷重も増える。今までは手が痛くなるのを嫌がって前傾姿勢に制限をかけざるを得ないことが多かったが、手袋をするとそれがなくなり、制限要因は脚と体幹の筋力のみになった。単なる手袋が走行性能の向上に寄与するというのは面白い発見だ。
手袋で最も困るのは外した際に無くしてしまうことだが、これに関しては、出先ではなるべく外さないのが一番の対策になる。指が開いているので手袋を外さないとできない作業は基本的にない。しかしそれでもトイレや長時間の休憩の際や輪行の際には外すことになるので、その場合に手袋をどこにしまうかが重要だ。今までの経験上、ズボンやコートのポッケだと無くす可能性が高い。一番多い過ちは、手袋と他の物を同じポッケに入れていて、他の物を出した際に手袋が落ちてしまって、それに気づかないことだろう。なので、基本的には鞄に入れることにして、鞄を持っていないで衣服のポッケに入れなければいけない場合には、手袋専用のポッケを決めておくことが望ましい。それでも無くすことが予想されるので、そもそも安い製品を選ぶのが重要だ。高くて丈夫な製品も紛失には無力だ。この手袋は安い割にちゃんとしているので、うっかり者の私には最適と言える。
ジャージ
尻と手の痛みに関しては解決したが、最近は別の問題にも悩んでいる。暑さと汗だ。異常気象が常態化したこの真夏の日中にロングライドでもしようものなら、汗が滝のように流れ出てくる。自転車なので走行風で体がある程度冷やされるが、35度とかになると風も生暖かいだけで全然涼しくならない。今まではTシャツで頑張っていたわけだが、すぐに汗でびしょびしょになって、不快なままずっと走り続ける羽目になっていた。綿でなくポリエステルのTシャツにすれば乾く速度が少しは早いが、滝のような汗の前では焼け石に水だ。吸汗速乾を謳ったメッシュっぽい生地のものを探したが、機能性を追い求めるとサイクルジャージに行き着いてしまう。
もうこの際、サイクルジャージを導入することにした。とはいえ、ピチピチのいかにもサイクルジャージ然としたものは着たくない。で、ネットで探していたところ、またパールイズミの製品で、シティライドポタージャージというのを見つけた。パールイズミのサイクルジャージには、ピチピチ度合いの順にレースフィット、ベーシックフィット、シティライドフィットという分類があり、シティライドフィットのものならTシャツとそんなに変わらない見た目になる。無地のものを選べばサイクルジャージと気づかないほどだ。サイズはMがぴったりっぽい。
着てみてすぐにわかるのは、その通気性の良さである。記事が細かいが分厚いメッシュになっていて、よく見ると下の肌が透けている。この構造は風を通すだけではなく、表面積を増やして吸った汗を早く乾かす効果もある。汗を吸うのも乾くのも早い、いわゆる吸汗速乾性能を持つわけで、気化熱が奪われて若干涼しく感じる。特に日陰を走ると、猛暑の昼下がりでもかなり涼しい。一方で、日向を走ると普通に暑い。黒いから日光で暖まりやすいし、メッシュが太陽光線を通すので日向だとジリジリ感がある。とはいえ、Tシャツより着心地が遥かに良い。自転車から降りて買い物などをしている際にも肌にベトつかないし、典型的なサイクルジャージのように肌を締め付けないので、ポロシャツみたいに着こなせる。これを着てカフェや図書館で過ごしていても違和感がない。他人がどう感じるかは確認しようもないが。
前がチャックなのも良い。まず、着たり脱いだりするのが楽だ。チャックが肌に触れて違和感があるのではと思ったが、触れないように微妙に前方にオフセットされているので大丈夫だった。また、チャックの裏帯がないので、それを噛んでチャックが動かなくなる面倒もない。走行時にチャックを少し開けると体温調整もできる。
後ろ側にあるポッケが便利だ。3つの部屋に分かれていて、それぞれに財布とスマホと補給食を入れるのにぴったりだ。3つとも入れると後ろが重くなって生地が引っ張られる感じがあるが、これも慣れれば忘れてしまう程度だ。ズボンのポッケだと、前でも後ろでもペダリングの邪魔になるが、ジャージのポッケならその心配がない。これで日帰りならカバン無しでもサイクリングできる。手袋を入れる場合はチャック付きのポッケを使うことにして、補給食はスマホと同居させる。
洗濯
洗濯についてだが、パンツも手袋もジャージも、洗濯ネットに入れれば洗濯機で洗って大丈夫だ。乾燥機は駄目だ。夏場は2日に1回くらい洗濯機を回すが、その機会に合えば洗濯機で洗うことにしている。そうでない場合には、風呂のついでに洗面器で手洗いしている。泥汚れが付くわけでもないので、薄めの洗剤で1分くらいもみ洗いしてから、水を変えつつ、泡が出なくなるまですすげばOKということにしている。速乾なので、絞るのも軽めでよく、浴室乾燥で1時間程度で乾いてしまう。
まとめ
パッド付きパンツと手袋とジャージが揃ったことで、サイクルウェア一式を着用していることになる。それでいて、ぱっと見ではサイクルウェアに見えないので、自転車から離れていたらサイクリストとして認識されないだろう。パッド付きパンツで尻の痛みを防ぎ、手袋で手の痛みを防ぎ、ジャージで暑さと汗の不快感を減らすので、ロングライドが明らかに楽になった。パンツ(と短パン)とジャージは普段着としても全然いける組み合わせであり、自転車はどこに行くにも乗るので、今回買った組み合わせは毎日のように着ている。買ってよかった。