豪鬼メモ

一瞬千撃

広角でSTFモード

さらに手持ちSTFモードの布教が続く。読者諸兄姉もぜひやってみてほしい。最も簡単には、SモードのAEブラケットで撮った画像をLightroomでスタックしてHDR合成すればいい。その実践が多く見られるほど、カメラ製品でも採用される確率が上がるだろう。さて今回は、広角レンズしばりにしてSTFモードの作例を集めてみた。結論から言えば、すごく寄れば、いい感じの効果が出る。


今回はM43のレンズLeica Summilux 15mm F1.7である。解像度は高いが開放付近だと軸状色収差が出やすいレンズだ。なので、後ボケの縁に緑のフリンジが出やすいのだが、STFの合成によりその色はだいぶ薄くなる。

広角レンズだし、M43なので、とにかく寄らないとボケない。STFのスイートスポットは焦点距離の40倍までという経験則からすれば、ピント面は60cmくらいまでにしたいところだ。逆に言えば、寄ればしっかりボケるので、STFによるとろけた背景も味わえる。広角のパースペクティブで映る背景は相対的に小さくなって線遠近法の効果が出るので、STFのボケによる消失遠近法効果と相まって、いい感じに立体感が出る。

広角の場合、めっちゃ寄るほど、めっちゃ良くなる。被写体の全体を写そうなんてせずに、見切れていいから、大胆に寄るのがいい。そして、STFモードを使うと、視線誘導と視認性を両立させた絵になる。


ピント面がちょっと離れると、当然あんまりボケずに、STF効果も薄くなる。このレンズの場合、2mも離れたらもうSTFっぽくはなくなる。微ボケも美しいのがSTFの美点のひとつではあるが。


ここまで離れてパンフォーカス気味になると、もうSTFである意味がほとんどなくなる。ただ、微妙に前ボケしているバスのところを見ると、ちょっと上品な表現になっている。意味がなさそうでも、静止物はとりあえずSTFで撮っておいて損はない。複数枚を平均合成すると、大数の法則で誤差が0に近づくので、ノイズが減って階調性が増すのも美点だ。

今回気づいた注意点は、ピントがあった被写体の範囲が狭過ぎたりコントラストが低かったりすると、Huginによるずれ補正(アラインメント)処理が失敗する確率が上がることだ。失敗すると、以下の例のようになる。犬や狐の目にピントを合わせて撮ったが、しっかりピントが合っている部分がその周辺だけで、しかも実際には石像なのでコントラストが低いので、そのピント部分のコントラストを頼りにアラインメントを最大化させるアルゴリズムが通用しなくなってしまうのだろう。そういう場合はそもそも構図ぶれしないように三脚を使うなり脇を占めて頑張るなりするしかない。

テーブルフォトも撮れる。STFによって被写界深度が深くなるのがむしろ良い。とはいえ、標準レンズの方が向いているとは思うけれど。

おまけ1。AEブラケットの刻みを1/3EVではなくて2/3EVや1EVにするとどうなるだろうか。やってみた。結論としては、刻みを大きくすると、ハロ効果っぽくなる。STFな感じではなくなるけども、これはこれで面白い。

なぜ、1/3EV刻みだとバンディングが視認できないことが多いのか。1/3EV刻みで7枚ブラケットをする場合、2EVの幅が出る。つまり、最も大きい錯乱円と最も小さい錯乱円の大きさは、面積で4倍、半径で2倍異なる。2倍を7分割するので、重ね合う錯乱円の大きさは7乗根2 = 1.1倍しか変わらないことになる。距離が1/10進むごとに1/7のコントラストが減るのが7回も続けば、人はそれをクラデーションであると認識してしまうことが多いだろう。ボケを重視して元来の錯乱円も縁のぎりぎりがグラデーションになるレンズの場合、結果的に段差はもっと小さくなる。逆に元々二線ボケ傾向のあるレンズの場合、段差は大きくなってしまう。無限遠にある強力な点光源を大きくぼかした場合、つまり、光源が本当に点とみなせるくらい小さく、かつ元来の錯乱円の縁のコントラストが非常に大きく、かつ錯乱円のサイズが非常に大きい場合には、1.1倍の差も識別できるだろう。しかし、そんな状況は限られる。イルミネーションを後ボケさせた場合とかかな。ところで、7枚合成の最も小さい錯乱円の内部は、合成後も、点光源のものであれば均一色になるはずだ。その縁から、もっとも大きい錯乱円の縁にかけて、線形に(実際には7段の階段で近似して)輝度を下げていく。このような、半径半分までは輝度均一でそこから線形に輝度を下げるという曲線は、ミノルタの本家STFレンズも同じらしい。出典は忘れたので、興味があったら調べてみてくだされ。

おまけ2。家電量販店にOM-1を見に行ったが、まだ置いていなかった。せっかくなので、EM-1のマーク3でSTFモードができるか試してみた。レンズはM.Zuiko 12-40mm F2.8で、広角端と望遠端の両方を試した。F2.8のレンズだと、F4.0を中心に1/3EVで7枚ブラケット撮影することになり、結果としてF2.8、F3.2、F3.5、F4.0、F4.5、F5.0、F5.6の画像を合成することになる。F1.8のレンズよりも効果は小さくなるが、寄ればちゃんと効果が出る。

E-M1M3の静音シャッター連写「H+」設定の連写能力であれば最大50FPSの連写ができるはずだが、ブラケット撮影だと実際どの程度か、STFモードの撮影方法でストップウォッチを撮影して調べてみた。結果としては、0.46秒かかっていた。シャッター速度は1/30秒だったので、7枚の合計である0.21秒は露光時間だ。それを最小化して0に仮定すると、最短0.25秒でSTF撮影ができることになる。やはり絞りを変える操作のレイテンシのためか、単なる連射よりは遅い。それでもシャッタースピード1/5秒程度の心持ちで撮影できるはずだ。レンズ毎の絞り調整にかかる時間で結果が変わるとは思うが。


きこえますか… カメラ… あなたのカメラです… いま… あなたの心に… 直接語りかけています… きこえますか… Sモードで… AEブラケット撮影… それを合成すれば… STFモードになります… ボケがとろけて… 気持ちよくなります… よいですか… STFモードを… 世に… 広めてください… カメラからの… お願いです…