豪鬼メモ

一瞬千撃

甲州街道の旅

ロードバイク甲州街道をひたすら西進して甲府まで行ってきた。地図上で見るとめちゃくちゃ遠くて山超え谷超えな感じがするが、実際に走ってみると意外にちょろかった。


私が好きな小説「スーパーカブ」はインドア派の娘にも意外なことに好評だったが、その中で主人公らが甲州街道を走る描写が何回か出てくる。江戸初期に幕府が作った五街道のうちの一つで、新宿から始まって甲府を通って長野の諏訪湖まで続いている街道であり、今でも幹線道路として使われている。普段はせいぜい立川くらいまでしか走らない道だが、そのうち甲府くらいまでは行ってやろうと思っていた。で、今朝の晴れ方を見て、今季は今日が最後の機会だと思ったのだ。寒くなると山方向には足が向かなくなるからだ。明確な目的地がある場合にはブロンプトンよりロードバイクの方が使えるので、それに乗って甲府まで走った。全部で141kmの走行であった。

サイクリングは基本的に日没後になると楽しめないので、秋季冬季の活動時間は短くなってしまう。よって、8時半くらいに家を出た。まずは246と世田谷通りを通って、多摩川サイクリングロードに接続。

天気が良いと走っているだけで気持ちが良い。ただ、川沿いは向かい風が強いのが難点だ。羽村取水堰やらの見慣れた光景を見つつ、上流に向かった。途中でロード勢に何人か抜かれたが、やっぱ彼らに比べると私は遅いようだ。若者に負けるのは仕方ないにしても、どうみても年上っぽい人にも普通にちぎられる。週末にロングライドするだけではガチ勢には対抗できないらしい。

甲州街道に当たったら乗り換える必要があるのだが、その目印がこの石田大橋である。間違えてその先の中央自動車道多摩川橋に行かないように注意だ。あと、大回りしてランプを登らないと橋を渡れないのにも注意だ。

あとはひたすら甲州街道を進む。国道20号とも言う。甲府97kmとかいう看板を見た時に「たった97kmか」と思うか「まだ97kmもあるのか」と思うかは、自分次第だ。私は残念ながら後者だったが、それでも進んだことは自分を評価したい。「できるかどうかわからない」ことに挑戦する勇気と、「やればできるだろうけど実際にやるのは辛そう」なことに挑戦する勇気の間には雲泥の差があるが、後者だけでもなんとか維持したいところだ。

八王子に差し掛かると、八王子いちょう祭りとかで、甲州街道に沿って長い区間で縁日みたいな賑わいがあって楽しかった。祭り独特の匂いがとても心地よい。

高尾山口も通ったので、ついでにどのくらい混んでいるか見てみた。行きは歩いて帰りにリフトで降りるのが私のおすすめだ。そのリフトの景色がかなり良いので。

そこから先は、山道だ。孤独な戦いなので、抜きつ抜かれつする他のサイクリストに一方的に友情が芽生えてしまう。話しかけたりとかはしないけど。

大垂水峠という峠を越えたのだが、峠だったのかどうかもよくわからないほどちょろかった。後で調べたら、初心者におすすめの峠らしいが、確かに楽だった。越えてみると下り坂が長く続いたので、てことは上り坂もそれなりに登ったはずなのだが、あんまり記憶にない。

相模湖に到着して、ここで昼食。以前にバイクで来たことがあるが、相変わらず寂れていていい感じだ。

相模湖を過ぎると、その上流の桂川を辿っていくことになる。そうすると山梨県上野原市に入る。山梨に自転車で侵入するのは人生初かもしれない。

今回の旅で実感したのは、甲州街道が意外にも平坦気味であることだ。地図をみると山の中を通っているのでめっちゃ上り下りがありそうな気がしていのだが、上野原や大月を過ぎてもなぜかむしろ平坦基調で、不思議な気持ちになった。もちろん多少の上り下りはあるのだが、峠っぽいのがないのだ。


ハッピードリンクショップに遭遇すると、甲信文化圏に入ったことを感じる。ちょっと安くても、そもそも缶ジュースを買うこと自体に罪悪感を覚えるくらいに節制を叩き込まれている私は今だに使ったことがない。ロードバイクについているドリンクホルダーに入っているのは公園の水道水である。

笹子に入ってさらに進むと、だんだんと上り基調になってくる。とはいえ、7%とか8%程度なので、ロードバイクならば、きついって感じではない。

今回のハイライトは、新笹子トンネルである。やたら暗くて狭くて歩道も路側帯もない状況で車が脇をビュンビュン通り過ぎるスリリングアトラクションが3km弱も続く。トラックが通った後の吸われ方とか、ザンギのスクリューかと。安全性を考えれば自転車通行止めにすべきような状況だが、代替路として笹子峠を登れというのはあまりにも酷なので、仕方なく通れるようにしているといった感じだ。結構怖い。でも、しばらく走って慣れてくるとスリップストリームを使って加速するのとかが楽しくなってくる。内部がほんのり暖かくて、蛇の体内を通り抜けているような、不思議な感覚になる。

新笹子トンネルを抜けると、完全に山梨の空気になる。やたら寒くなったと思ったら気温7度とか標識に書いてあった。トンネルの前に沿っていた笹子川は進行方向の逆方向に流れていたが、それが進行方向の順方向に変わったので、峠を過ぎたことを確信する。実際以後は甲府までずーっと下り坂で楽ちんだった。というか速度出しすぎて走行風が寒い寒い。

甲府盆地に入ると、四方が山に囲まれていて、いかにも盆地であることがよくわかる。中央線の車窓から見るのと、自転車で走りながら360度を見回すのとは臨場感が違う。扇状地=果樹園、みたいな社会科の知識を反芻しつつ走った。

で、あっという間に甲府駅に着いた。走行時間はちょうど6時間くらいだった。信玄公に拝謁し、舞鶴城から甲府盆地を一望。


あんまり疲れていなかったので観光でもしようと思ったが、やはりロードバイクが邪魔だ。置く場所はないし、ビンディングシューズだと歩きづらいし、サイクルウェアが場違いだし、寒いしで、やる気がなくなった。やっぱ観光するならブロンプトンが良いと思ったが、ブロンプトンだったら日没前につかなかっただろうし、痛し痒しだ。そもそも日帰りで140km走って観光するのは無茶ってことだろう。なので、さっさと輪行して撤退した。中央線で中野まで乗って、それからまた自転車を組み立てて帰宅。現地でほうとうを食べるつもりだったのに食べ損ねたので、明日にでも都内で食べよう。

まとめ。甲州街道を辿ると、東京から甲府まで普通に自転車で行ける。峠も大したことがないので、私のような初心者でも余裕だったし、私よりもっと体力がない人でも日帰りロングライド入門に良いかもしれない。ただし、ずーっと幹線道路の車道を走るのと、景色があんまり変わり映えしないのが難点ではある。でも達成感はそれなりにあるので、一度くらいはやってみてもいいかもしれない。