富士フイルムのカメラが備えるベルビアというフィルムシミュレーションの絵作りをLightroomで再現してみた。RAW撮りすれば他社製カメラでもOK。
以前の記事でクラシッククロームの再現を試みて、なかなか上手くできたと自己満足している。彩度が低くて渋い絵が出て来て楽しい。そのクラシッククロームと好対照を成すのが、ベルビアというフィルムシミュレーションである。公式サイトの説明によると、実在するベルビアというリバーサルフィルムの再現だそうで、「記憶色」を表現することを目指したものだそうな。実際の被写体の色への忠実性を捨てているという点ではクラシッククロームと同じだが、彩度を高くして鮮やかな色を表現するので、風景写真に向いているそうな。
例によって実際のパラメータは公開されていないのだが、Lightroomに付属しているカメラプロファイルによる現像例からリバースエンジニアリングを試みた。公式の説明を読んだり何十個かの作例を見て私が理解した範囲では、ベルビアには以下の特徴がある。
- 全体的に彩度が高い。
- 色相が赤に傾き、シアンは青寄りに、青はマゼンタ寄りに、黄色はオレンジ寄りに、緑は黄色よりになる。
- 赤系統の色の輝度がやたら高くなり、青系統も少し高くなる。
- ダイナミックレンジが狭く、特にシャドウが潰される。
ここで挙げた特徴をLightroomの現像プリセットとして解釈すると、以下のものになる。これをVelvia.lrtemplateとかいう名前でLibrary/Application Support/Adobe/Lightroom/Develop Presets以下に置くと使えるようになる。この設定を豪ベルビアと呼ぶことにする。
s = { id = "4D725B5E-3953-6725-C92B-A3B780633012", internalName = "Color Velvia", title = "Color Velvia", type = "Develop", value = { settings = { CameraProfile = "Adobe Standard", EnableCalibration = true, RedHue = 0, RedSaturation = 10, GreenHue = -2, GreenSaturation = 0, BlueHue = 4, BlueSaturation = 0, Contrast2012 = 5, Clarity2012 = 5, Shadows2012 = 5, Blacks2012 = -35, Highlights2012 = -5, Whites2012 = -35, Vibrance = 25, Saturation = 0, ShadowTint = 3, EnableColorAdjustments = true, HueAdjustmentRed = 1, SaturationAdjustmentRed = 0, LuminanceAdjustmentRed = 40, HueAdjustmentOrange = -2, SaturationAdjustmentOrange = 0, LuminanceAdjustmentOrange = 15, HueAdjustmentYellow = -5, SaturationAdjustmentYellow = -10, LuminanceAdjustmentYellow = -5, HueAdjustmentGreen = 5, SaturationAdjustmentGreen = -5, LuminanceAdjustmentGreen = -5, HueAdjustmentAqua = 10, SaturationAdjustmentAqua = 0, LuminanceAdjustmentAqua = -5, HueAdjustmentBlue = 5, SaturationAdjustmentBlue = 0, LuminanceAdjustmentBlue = -5, HueAdjustmentPurple = 0, SaturationAdjustmentPurple = 0, LuminanceAdjustmentPurple = 15, HueAdjustmentMagenta = 0, SaturationAdjustmentMagenta = 0, LuminanceAdjustmentMagenta = 30, ToneCurveName2012 = "Linear", ToneCurvePV2012 = { 0,0,5,5,150,162,250,250,255,255 }, ToneCurvePV2012Red = { 0, 0, 255, 255 }, ToneCurvePV2012Green = { 0, 0, 255, 255 }, ToneCurvePV2012Blue = { 0, 0, 255, 255 }, }, uuid = "A744E490-34EF-4301-8141-C03B6D060003", }, version = 0, }
まずは輝度から着目していく。リバーサルフィルムのダイナミックレンジの狭さを再現すべく、Blackを大幅に落としている。それだけだとシャドウが潰れすぎるので、Shadowsを上げてシャドウの立ち上がりを急激にしている。WhitesとHighlightsは下げて、白飛びしにくくする。ContrastとClarityは少し上げる。
色相環を参照しつつ色相を調整する。青をプラスに振って赤方向にずらし、緑をマイナスに振って赤方向にずらす。その結果として、青空がマゼンタかぶりで描写され、草木の葉は黄色かぶりで若草色っぽくなる。全体の彩度はVibranceで大幅に上げて、Saturationで微調整する。そうすることで、彩度が低い部分の彩度を重点的に上げ、彩度が既に高い部分は少ししか上がらないので、色飽和しにくくなる。ShadowTintはプラスに振ってマゼンタかぶりにする。
色調整パレットで微調整を行う。赤系の輝度を上げて、それ以外の色の輝度を下げる。黄色と緑は色相を赤方向にずらす。黄色が強すぎると違和感があるので、黄色の彩度をちょっと落とす。仕上げにトーンカーブを調整して、コントラストの調整で暗くなった分を明るくして調整する。そうすると、あら不思議。ポップでビビッドな絵が出てくる。写ルンです以外でフィルム写真を撮ったことがないのでリバーサルだのベルビアだの言われてもあまりピンと来ない私だが、この絵を見ているとなんだか懐かしい写真を見ている気になる。ポップでビビッドだけど何か昭和的な感じがするのが面白い。
Lightroomのデフォルト設定とこの豪ベルビア設定を並べると、効果がわかりやすい。まず、青の色転びが激しいのがわかる。Lightroomデフォルト設定の空色でも既にマゼンタ寄りなのに、そこからさらにマゼンタ方向に振っているのだからそうなるのもわかる。フィルムのベルビアで撮った作例をいくつか見る限り、本当にこんな感じの紫色を出してくるっぽい。
肌色の描写も結構いい。ポートレート用の設定ではないが、風景を入れた記念写真に適用するのはありだと思う。
ダイナミックレンジというかラティテュードが狭い状態を再現しているので、比較的コントラストが高いシーンでは適正露出になるように現像時に調整するのが大事だ。
色相を調整した結果、紫だけでなく黄色も出やすくなっている。光源が暖色だと黄ばんだ感じになることもあるので、注意が必要だ。夕日を撮るのとかには都合がいいかもしれないけど。
元々濃い色の被写体は色飽和しがちだけど、それも含めてこの設定の味なんだろう。
富士機で撮ったRAWファイルにはLightroomのベルビアプロファイルを適用できるので、それと豪ベルビアを比べてみる。デフォルト、豪ベルビア、ベルビアプロファイルの順に並べる。
ベルビアプロファイルの方がコントラストについても彩度についてもより強烈に調整しているようだ。しかし、それをそのままオリンパス機のRAWファイルに適用してしまうと、ちょっとやりすぎ感が出てしまう。よって、豪ベルビアでは、本家ベルビアの方向性は尊重しつつも、より保守的な設定にしている。
ポップだけどなんだか懐かしい味わいのリバーサルフィルム風のプリセットを作るという目的は達成できたかな。それにしても、記憶色って何だろう。「青空の色を選んでください」と100人に聞いて色彩カードを選ばせるとかすれば統計的に明らかにできそうだが、そうしたとしてベルビアの紫の空が選ばれるとは私には思えない。こんな空は見たことがない。フィルム時代からカメラに親しんでいる人にとっては親しみ深い色なのかもしれないが、私にとってはもはやアートフィルタのような位置付けだ。そう割り切るなら、もっとラディカルな味付けにしてもいいのかもしれない。逆に、Hue関係の設定をゼロにしてからコントラストを下げてやればプロビア風プリセットも作れそうだ。
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