豪鬼メモ

一瞬千撃

硬いサドルをプチプチで覆うとどうなる?

梱包用のプチプチをサドルに敷いたら、硬いサドルもフカフカで乗りやすくなるんじゃないかと思って、実際にやってみた。結論としては、確かにフカフカになるし、尻痛は緩和される。ただし、耐久性に難ありだ。


サドル沼に嵌った諸兄は、思ったより硬いサドルで後悔することは多いだろう。形はいいんだけど、もうちょい柔らかかったらなぁと。サドルカバーを追加する手もあるが、軽量サドルを買った意味がなくなるし、そこまで強くフカフカにしたいわけじゃない。あとほんのちょっとだけクッション性が高ければと願うだけだ。

プチプチ巻いたら丁度いいんじゃね?と誰もが思うだろう。見た目はダサすぎるだろうが、一度くらい試してみたいと思うだろう。なので、やってみた。実験対象は、シェルもパッドも硬くて乗り心地が悪い中華サドルRyet Aircode 3D Honeycombである。

サドル自身が送られてきた時についてきたプチプチを巻いてやる。プチプチを二重に折りたたんでから、サドルよりちょっと大きめに切り取る。それから、ガムテープでも養生テープでもいいのだが、裏側に引っ張ったプチプチを適当に止めれば完成だ。所要時間15分くらいだ。重さはテープ込みで20gも行かないと思う。


乗ってみると、これが意外に良い。レーサーパンツ等のクッション付きパンツではなく普通の短パンを履いていても、パンツ側のクッションと同等以上に、細かい振動や摩擦感を取り除いてくれる。それでいて、そんなにゴワゴワしないので、足の動きを邪魔する度合いも思ったより小さい。

強めの衝撃がかかった際にも、ガツンと底付きする感覚はなく、下にある元来のパッドのクッションと協調して、そこそこ良い仕事をしてくれる。沈み込み量は大きく無いので、ペダルを漕ぐ度に力が逃げるような感覚は皆無だ。にもかかわらずクッション性は格段に増しているので、水平方向への圧力分散がかなりうまく働いているように思える。見てくれは壊滅的だが、普通に乗りやすいサドルになった。元のAircodeサドルのシェルが出っ張っていて足の付け根を圧迫する問題はそんなに緩和されていないが、坐骨下部の肉や会陰の痛みは激減した。脚の動きが気になるようなら、坐骨の部分にだけ貼り付けてもいいかも。

プチプチは荷重を空間的に分散することで坐骨や会陰などの出っ張った部分の圧力を下げるのには長けているが、厚みは大したことないので、制動距離を伸ばして瞬間的な荷重を下げる性能は弱い。その意味ではパンツ側につけるパッドに役割が似ている。なので、シェルが硬くてパッドが柔らかいサドルよりは、シェルが柔らかくてパッドが硬いサドルと組み合わせるのに向いていると思う。つまりこのAircodeはあまり良くない適応例だ。おそらく、Tiogaのスパイダーメッシュサドルとかだと相乗効果が期待できると思う。メッシュの通気性は台無しになってしまうけれど。

私が現用しているSelle SMPのVT30Cにもプチプチをつけてみたところ、快適性がかなり向上した。VT30Cはコシがあって強い衝撃をしっかり受け止めてくれるサドルだが、パッドが硬めなので、着座位置と坐骨の角度を自分で調節しないと尻への圧迫感があるという特性がある。レーパンなどのクッション付きパンツを履いて乗るとその特性は緩和されて、着座位置や角度が比較的自由になる。プチプチを巻くとそれと同等以上の効果があり、適当に座っても快適になるし、最適な座り方をすれば、まるで空気に座っているかのような、どこにも圧迫を感じない乗り味になる。通常路面の弱い衝撃はほぼ無効化され、段差などを踏んだ際の強い衝撃は力強くも柔らかく受け止めてくれる。

惜しむらくは、プチプチは耐久性が低いことだ。10kmくらい乗っただけで気泡のいくつかがヘタってきて、50km乗ったら坐骨の出っ張りが当たる部分の直径3cmくらいの円の範囲の気泡はほとんど潰れてしまった。とはいえ、その周囲が潰れていなければ、むしろ坐骨を浮かせる働きをする。その周囲の気泡が生きていればしばらくは意味を持ち、それらも潰れたらもう完全に無意味なビニールシートに成り果てる。おそらく100kmくらいまで対応する使い捨てクッションとしてなら実用できる。使い捨てなんてエコじゃないと思うかもしれないが、元々捨てるプチプチを再利用しているだけならば、環境負荷は増加しない。環境とか無視するなら、サドルにシールで貼り付けるだけで装着できる使い捨てプチプチサドルシートを1枚100円とかで売るってのもありかも。

妄想する。プチプチカバーを毎回作るのは面倒なので、この構造を持ったサドルをどこかの会社が作ってくれればいいのにと。ポンプ付きで空気を充填できるサドルがあるのは知っているが、それに多少の工夫をするのだ。まず、空気の層はプチプチのような小部屋で区切られていて、それが微妙にずらした二層で並んでいるべきだ。2層のハニカム構造を微妙にずらして重ねるような感じかな。そうすると上層の各小部屋の圧力は確実に下層の四つの小部屋で受け止められる。小部屋にすることで、圧縮された際の空気がその小部屋に閉じ込められて高密度になるので、適度な弾力を実現できる。そしてそれが複数の層になることで、圧力を適度に分散できる。二層ではなく三層以上にしてもいい。そして、部屋の間の空気の移動には大きな抵抗が伴うべきだ。言い換えると、圧力をかけても小部屋の間の空気の移動がゆっくりにしか起こらず、衝撃を受けても個々の部屋が簡単には潰れないようにすべきだ。そうすれば、ストローク量を小さくしても底付きしにくくなり、走行性能とクッション性の両立ができる。空気の充填にはポンプフューリーみたいな簡素なポンプを一体化させてもいいし、大きな圧力が必要ならば、タイヤ用のポンプで空気を入れるようにしてもいい。むしろ、プチプチがそうなように、大気圧だけでも機能するかもしれない。要は、高耐久のプチプチを作ってそれを重ねてパッドにするということだ。小部屋間の空気の移動を制限する性質と空気を補充する機能とを両立させるのが難題になりそうだが、工夫すればなんとかなりそうだ。隔壁に横長のスリットを開けておいて、圧力がかかるとそれが潰れて穴が塞がるようにするのはどうか。そのためには、スリットの上下で尾根と谷が噛み合うようにすれば良い。

実際のところ、自分に合ったサドルとそれに合った乗り方を見つけられれば、既存のサドル製品で1日に100km以上乗っても尻は耐えられるだろう。私はVT30Cを普通に使うだけで、ロードバイクでも小径車でも、レーパンやクッション付きインナーを履かなくても、100km超えのロングライドに耐えられるようになった。しかし、耐えられる事と快適な事の間には無視できない隔たりがある。なので、ポリウレタン(ウレタンエラストマー)などの硬めのパッドを基盤としつつも、坐骨の部分だけでもプチプチ的なエアクッション層を備えた快適なサドルがあったら夢のようじゃないか。

まとめ。硬めのサドルにプチプチを被せると、尻に優しい上に走行性能も高い理想的なサドルが出来上がる。ダサいのと耐久性がないのが難点だが、使い捨てと思って使う分には実用になる。週末ロングライドやブルベの秘密兵器としていかがか。