豪鬼メモ

一瞬千撃

スラローム健康法の続き

以前の記事に書いたスラローム健康法を四ヶ月ほど続けている。目論見通りに足腰と体幹が鍛えられ、心肺能力も向上しているように思う。当然、自転車の操作もうまくなった。また、その過程でいろいろ調べて学びがあったので、それについてもメモしておく。


おすすめのスラローム練習場所は、でかい川の河川敷の道路である。東京近郊だと、荒川や多摩川の河川敷がおすすめだ。堤防上のサイクリングロードではなく、堤防の内側の河川敷にある道路であり、以下の条件を満たす場所だ。

  • 車やバイクが絶対に通らない
  • 堤防の上に別のサイクリングロードがあり、ロード乗りはそちらに流れる
  • 5mくらいの十分な道幅がある
  • アスファルトの表面が円滑であり、凸凹が少ない
  • 見通しがよく真っ直ぐな道が長く続いている

サイクリングロード上でスラロームをすると、たとえ周囲に誰もいないことを確認してから始めても、いつの間にかロード乗りに追いつかれていて迷惑をかけることがある。よって、河川敷の中の広い道を探すのが良い。道幅が広いのも重要で、オフセットスラローム的に、90度以上の旋回角がとれる方がよい練習になる。堤防上の道でも広くて空いていれば(ロード乗りがいなければ)OKで、夕方なら鶴見川相模川でもいける。

私の主な練習場所は、多摩川西岸の、ガス橋多摩川大橋の間の河川敷だ。道幅が広いので、旋回角をかなり大きくとれるのが良い。


暇な時には、サイクリングがてら現地まで行って、1.2kmのコースを3往復くらいしてスラロームの練習をしている。そのおかげで、だいぶバランス感が良くなってきた気がする。フロントタイヤの減りを見ると、ちゃんと車体を傾けられているのが確認できる。

タイヤのトレッドが摩耗しきって、中の補強ベルトが見えているのがわかるだろう。普通は中心部分が先に摩耗するが、スラロームをしまくっていると、横の部分が多く摩耗して、結果的に断面が三角形になるような尾根ができる。図らずもこれはバイクのスポーツ走行用タイヤと同じ形状であり、車体の傾き始めが素早くなるとともに、傾きの限界点でグリップがよく粘るという特殊な乗り味になる。ちなみに、摩耗する前のタイヤはこんな感じだ。

トレッドが摩耗するとグリップが落ちると思われるかもしれないが、そうでもない。溝がなくなると排水能力が落ちて雨に弱くなるが、濡れた路面ではスラロームなどしないので問題ない。むしろ溝がなくなることでスリックタイヤの如く接地面積が増えるので、グリップ力は良くなる。さすがに内部構造の露出が増えてくるとグリップ力は落ちるが、そこに至るまでの削れた状態が私は好きだ。

話は逸れるが、以前の記事ではタイヤの空気圧は高めにした方が楽に走れるということを書いたが、必ずしも高ければ高いほどいいということではないらしい。以下の記事を読むとよくわかる。
roadbike-navi.xyz

要は、凸凹が全くない道を仮定すれば、推進力がタイヤの変形に変わるヒステリシスロスが低い硬いタイヤほど良いが、凸凹がそれなりにある実際の道ではそうではないということだ。推進力が車体の揺れに変わるインピーダンスロスが低くなる柔らかいタイヤにも利点があり、そのバランスが重要だと。以前乗っていたTokyo Bikeのカチカチのタイヤが実際にはそんなに効率的ではなかったのはそれが理由かな。

タイヤの空気圧とヒステリシスロスの話については以下の動画の解説の方が詳しい。90psiの空気圧だと、ブロンプトンのような16インチタイヤのヒステリシスロスは27インチタイヤのロードバイクの1.66倍の路面抵抗があるそうな。20km/hで走ると16インチだと50ワットのロスだが、27インチだと30ワットのロスで済む。16インチでも110psiにすると45ワットくらいになるので、やはり空気圧の影響は大きい。
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というか、効率を気にするならそもそもロードバイクに乗れよという話になる。路面抵抗と空気抵抗とメカニカルロスを総合的に考えると、ブロンプトンで20km/hで走る入力をロードバイクにすると22kmで走れるらしい。なお、ブロンプトンで20km/hで舗装路を走る場合、路面抵抗が45ワット、空気抵抗が28ワット、メカニカルロスが3ワットなので、合計76ワットの入力をすると釣り合って等速で走り続けられる。成人男性のFTP(Functional Threshold Power=1時間続けられる平均出力)は100ワットらしいので、76ワットなら苦行というほどではない。でもロードバイクならそれが50ワットになると聞くとやっぱロードバイクも欲しくなるかな。

スラロームの練習では空気圧高めのほうがやりやすいと思う。まず、スラロームの練習をする場所は基本的に舗装状況が良いところだけなので、空気圧が高い方が走りやすい。また、空気圧は低い方がタイヤの接地面積が増えてグリップ力が上がると思いきや、空気圧が低いと路面を押し付ける力が減るので、結局のところ適正空気圧の範囲であればグリップ力はそんなに変わらない。空気圧を高めにした方がハンドル操作が機敏になるし接地感も良くなる。さらに、空気圧が高い方が元のタイヤの丸みが保たれるので、キャンバースラストがよく効いて曲がりやすい。おまけに、接地面積が低い方がタイヤの摩耗が少ない。

ところで、ブロンプトン純正のサドルが壊れたので、違うのに変えた。Gorixという激安メーカーの1600円のシートだが、これがなかなか良い。ロングツーリングをするなら幅広でフカフカのシートが良いのだろうが、半日くらいのスポーティなサイクリングをするなら、細長くて低反発なものの方がいい。ペダルが漕ぎやすいし、汗が尻に籠らないからだ。真ん中に穴が空いている形の方が、ちんちんの根元が痛くなる問題が起こりにくいし、通気性も優れている。

あと、長時間乗っていると手が疲れてくるので、ハンドルグリップは幅広のものが良いと思い、エルゴンのGP1ロングに換装した。それ以前は、普通に乗っているだけでも手が痺れてくることがあったが、エルゴンにしてからかなり楽になった。少なくとも、足や尻より先に手が音を上げることはなくなった。特にハンドル操作をせずに真っ直ぐ走る場合には、幅広の部分に掌を軽く置くだけにして手を休ませられるのが良い。

閑話休題。練習で掴んだコツをメモしておく。鋭く曲がるには、逆ハンドルを切ると同時に内側に大胆に体と車体を傾けることが必要だ。この構造は自転車でもバイクでも同じだ。以下の動画の解説がとてもわかりやすい。
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二つしか車輪がない自転車やバイクが倒れずに走れるということ自体が不思議で面白いのだが、外側にハンドルを切ると内側に曲がるという逆説的な挙動はさらに輪をかけて面白い。実際やってみるとそうなるのだから、本当に気持ちがいい。車体を傾けると重力の影響でもっと倒れようとして、傾きに応じてセルフステアでハンドルが内側に切れ込む。それを加味して加重とハンドルの調整をして、思い通りのライン取りをする遊びなのだ。以下の要素を考えて良い塩梅のバランスを取ることになる。

  • 重心:内側に入れる=倒れる vs 外側に戻す=起きる
    • 自転車だとニーグリップできないので、上半身をどれだけ内側に突っ込むかだけで調整
  • ハンドル:内側に切る=より曲がるがグリップがきつくなる vs 外側に戻す=曲がりが弱まるがグリップが回復する
    • セルフステアだけでは初動が遅いし切れ込みすぎるので手動で調整
  • ペダル:漕ぐ=起きるがクリップがきつくなる
    • ペダルが地面を擦らないように注意
  • ブレーキ
    • 失速してしまうので旋回中には基本的に使わない

逆ハンドルによる旋回は、一旦内側に転けそうになってから、それを各種操作で相殺してライン取りをする方法と言える。逆ハンドルを使わない通常旋回はその逆だ。単にハンドルを内側に切ると遠心力で外側に転けそうになるので、内側に加重してそれを相殺するのだ。逆ハンドルによる旋回の方が、先に倒れることで重力とセルフステアを利用できるので、より素早く曲がれる。スラロームを一旦始めてしまえば逆ハンドルを意識している暇はない。しかし、車体を傾けながら曲がっているので、逆ハンドルによる旋回中の操作と全く同じことが要求される。

旋回中は、前を見るのではなく、カーブの内側中心を睨み、そこに顔を向けて、さらに肩と上半身をそこに向かって傾ける。ペダルを漕がねばならないのでバイクのようなリーンインはできない分、上半身を内側に突っ込ませて補うのだ。そのためには、ハンドルを握る腕の肘は曲げて余裕を持たせておく必要がある。このバイク動画を見てから理屈がよくわかるようになった。
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ほぼ真横を見るクセをつけるのがコツであり、安心してそれをするためには道の前方に危険がないことが確認できている必要がある。なので、見通しが良く交通量がほとんどない河川敷の道が練習に適する。また、旋回時には前輪のグリップ限界の方が先に来るので、できるだけ前輪に荷重してグリップを上げるべく、前傾姿勢をとるのが望ましい。内側かつ前方に重心を移した結果、ハンドルの内側のグリップの上方に頭が位置することになる。この体制だと、腕全体がフロントサスペンションの役割も担うことになる。コーナーの頂点付近では、上半身だけで前輪のみの一輪車に乗っているつもりになって、腕で前輪の接地感を感じつつ、ステアリングと荷重の調整をする。

ペダル操作に関しては、何度も転けた末に自然にできるようになった。車体が傾いているときに内側のペダルが下にあると地面に擦って転けることになるため、旋回中には内側のペダルは上死点付近に上げておいて、旋回後半で車体を立て直す時に一気に踏み込むのが基本だ。ただそれだと1旋回につき1回しか踏み込めないので、大角度のスラロームを続けると失速してしまうことがある。速度を補うためには切り返し中にペダルを踏むことが必要になるが、そうすると次の旋回までにペダル角度を調整するのが難しくなるので、軽いギアを使うなどの工夫が必要だ。

旋回中の操作が十分にできるようになると、次にグリップ限界を知ることが課題となる。あまりに急旋回するとタイヤが滑って転ぶことになる。タイヤのグリップの話はこの動画を見るとよくわかる。
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自転車はバイクと違って固定サスだし微妙なアクセルワークもできないので、グリップ力を加重によって増減させるということは難しい。ただ、グリップ限界があることは同じなので、タイヤの潰れ方や滑り方を車体を通じた振動で感じながら旋回角度を調整する必要があるのは同じだ。何度も滑って転んだ上で、最近やっと、タイヤが滑り始める感覚がわかるようになった気がする。前輪の接地感と言い換えてもよい。一説によると、前輪のグリップがしっかりしていれば、バンク角を大きくするほどにセルフステアでハンドルが切込もうとする力が大きくなるはずのところ、グリップ限界に近づくとそれが弱くなるらしい。もしそうであれば、セルフステアが切れすぎないように一定の力でハンドルを押し返していれば、グリップ限界に来たところで自動的にステアリングを戻すことになり、それを感じ取って荷重も戻せれば、転倒は免れることになる。そんな高度なことをやっている自覚はないが、ズリッと滑った感じがして転けそうになったけど転けなかったことは数多くあるので、そのようなことを無意識にやっているのかもしれない。人間ってすごいと思うし、絶妙なセルフステアを起こすように自転車が設計されていることにも感心する。

そんなわけで、いい歳こいたオッサンが多摩川河川敷でスラロームをしている次第である。体作りでやっていることだが、ついでにいろいろ蘊蓄を調べるのも楽しい。挙動が様々な物理的法則に支配されていることに気づくと、自転車とかバイクとかの奥深さが増してくる。