豪鬼メモ

一瞬千撃

スラローム健康法

最近は、折を見て自転車でスラローム走行をしている。足腰と体幹と心肺能力を同時に鍛えられ、反射神経や平衡感覚も鋭敏になり、体脂肪を燃やし、ついでに移動もできるという一石四鳥の健康法だ。


オートバイで峠を一日中走ると、腹筋を中心に、体の各所が筋肉痛になる。カーブを曲がる度に前後左右に荷重を移動させる必要があり、それがなかなかの運動になっているのだ。オートバイはアクセルをひねれば推進できる楽な乗り物なので、街乗りでは全く疲れないが、クネクネ曲がりまくる峠道を走る活動はある種のスポーツと言ってもよい。四輪車でも峠を本気で攻めればスポーティになるだろうけども、二輪車では普通に峠を走るだけでもそれなりにスポーティになる。なぜ峠でないとだめかというと、サーキット以外で曲がりくねった道は峠しかないからだ。自然の中をそれなりのスピードで走り抜けていると、興奮してアドレナリンが出続け、本来なら辛いはずの身体負荷に苦もなく耐えることができる。これはまさにスポーツの特徴だ。

そこで思った。曲がるという操作が良い運動になるならば、まっすぐな道でも左右に車体を振ってスラローム走行すれば、どこでも運動できるじゃないかと。しかし、公道上でオートバイでスラローム走行をしたら、危険運転になってしまう。ならば、自転車でやればいいじゃないかと。そうすれば、自転車乗りの効能である足腰や心肺能力の鍛錬に加えて、オートバイ乗りの効能である反射神経や体幹や平衡感覚の鍛錬もできる。遠出しなくても、金をかけなくても、比較的安全に楽しめる。パイロンやペットボトルでコースを作って8の字カーブの練習をしまくるという手もあるのだが、それだとすぐ飽きるし、乗り物酔いになってしまう。やはりサイクリング中にスラロームをする方が楽しいし、長い時間続けられる。

自転車の種類は電動でなければおそらくなんでもよい。私はブロンプトンの小径車を使っているが、ママチャリでもロードバイクでもマウンテンバイクでもBMXでもいいだろう。適当な自転車に乗って、普通に街中や公園などを走っていて気が向いた時に、スラローム走行をするだけだ。もちろん、周りに人や車がいない状況であることは前提となる。状況が許せばやればいいし、そうでなければ普通に真っ直ぐ走ればいい。存分にスラロームを決めたい場合には、駒沢公園多摩川沿いなどのサイクリングコースに空いた時間に行くとよいが、別にその辺の路地でも構わない。交通の妨げになったり事故を起こしたりしないことが重要だ。スラローム走行している奇人とすれ違ったり追い抜いたりするのは誰もが嫌なので、前方だけでなく後方を確認してから始めるのは必須だ。逆に言えば、それさえ守れば、どこでもスラローム走行は実践できる。

で、実際にやってみると、これがかなり楽しいのだ。自転車で普通に走って、走行風を少し感じる15km/hから20km/hくらいの快適な速度に達したら、スラローム走行をする。オートバイと同じように、プッシングリーンというテクニックを使うの重要だ。カーブ内側(曲がりたい方向)に荷重すると同時に、内側のハンドルを少し前に押して一瞬だけ逆ハンドル(外側にハンドルが向く)状態にすると、車体が一気に内側に傾く。ハンドルを持つ腕の力を抜いておくと、セルフステアで勝手にハンドルは内側に切れ、鋭い旋回力が得られる。旋回中には遠心力が働くので、それに負けないように荷重をさらに内側にかける。曲がり終わろうとする時には荷重とハンドルを元に戻して、遠心力で車体を立てるとともに、次の逆方向の旋回に備える。あとはそれを繰り返せばよい。

オートバイと自転車の最大の違いは、自転車の推進力が人力であることだ。オートバイの場合、旋回中に加速して遠心力を高めたり後輪のグリップを増したりする操作がアクセルをひねるだけで簡単にできるが、自転車だとそれは難しい。旋回中にペダルを漕ぐと地面を擦って転ぶおそれがあるし、多少ペダルを漕いだところでオートバイほどの荷重は得られない。とはいえスラローム中でもなんとか加速しないと止まってしまうので、左右旋回の間の切り返しのタイミングでうまいことペダルを漕いで加速する必要がある。また、旋回中に内側のペダルが下死点付近にあると地面を擦るので、それを念頭にペダルを漕ぐタイミングを決めねばならない。

スラロームをする際に、小刻みにやりすぎてヤンキー乗りっぽくなるのはあまり気持ち良くない。ここで言うヤンキー乗りは、自分の体はあまり傾けずに車体だけを傾けるリーンアウト走法で、低速で小刻みにスラロームする乗り方である。それとは反対に、できれば道の幅いっぱいを使って、体を車体と一緒に傾けるリーンウィズ走法で、大きくカーブを描くのが気持ちが良い。そのためには、しっかりライン取りを意識した上で左右の荷重移動を行うことになる。とにかく手の力を抜いて、主に荷重移動とセルフステアで進行方向を制御できるようになりたい。

このように、単にスラロームするだけでもそれなりにコツが必要なのだが、それらがばっちり決まると、ある種の快感が得られる。オートバイでS字をうまく曲がれた時も同様なのだが、スキーでウェーデルンをしている時に似た爽快感があるのだ。カーブの頂点で、上半身、骨盤、自転車のフレーム、そしてタイヤまで軸が通って地面を外側に蹴って、その反作用で自身が内側に跳ねる感じ。それを繰り返していると、大して速度は出していなくても、興奮してくる。100メートルもやれば、体が温まってくる。500mもやれば、汗ばんでくるだろう。実際には100メートルも一気にスラロームできる道は多くないので、たまに機会があれば20メートルほどのスラロームを決めるというのを繰り返しながら走っていくことになる。たまにやるくらいの頻度だと、息が上がったり大量に汗をかいたりせずに、ちょっと汗ばむ程度の負荷でサイクリングが続けられる。

タイヤの空気圧はやや高めに設定しておいた方がいい。私のタイヤは110PSIが標準なのだが、私の好みは120PSIくらいだ。ちゃんと設定するには、圧力計付きの空気入れが必要だ。空気圧が高いとタイヤの接地面積が減るので、グリップ力も下がるが、路面抵抗も下がり、楽に走れるようになる。タイヤが固くて断面の円形が維持されている方が車体の倒し込みもしやすい。滑りやすくなる欠点はあるが、そもそも滑りやすいところでスラロームなんてしちゃいけない。また、走っても走らなくても空気は抜けてきてしまうので、週イチくらいで空気を入れ直した方がいい。あと、スラロームするとタイヤの摩耗が早くなるが、頻繁に変えると面倒だし経済的にもよくない。路面が荒れていていかにもタイヤが摩耗しそうな場所ではスラロームしないほうがいい。サドルは、ペダルの下死点に足の母指球が届く範囲で、できるだけ高く設定した方がよい。その方がペダルの踏み込みに力が入るし、重心が高い方が軽やかに旋回できる。

ロードバイクで遠出してスピードやスタミナを追求したり、マウンテンバイクで林道を走破するのも楽しい。一方で、それらと違ってスラロームは近場でいつでもできるし、負荷も任意に調整できるのが良い。通勤や通学の途中でも実践できる。実際、私は通勤中にも安全かつ一目につかない場所でスラロームしている。たまに遠目に見られて奇人変人だと思われることもあるだろうけど、私は元気です。

スラローム走法で獲得した旋回方法を実際のコーナーで適用すると、かなり鋭角に曲がれる。旋回前に、T字ハンドルの先端を小刀に見立てて、それに体重を乗せて内側斜め前方の敵に突き刺すイメージ。旋回中に左右の荷重移動を徹底してもっと鋭く曲がりたい場合には、肩を内側に入れて荷重をもっと内側にかけるとよい。立ち上がりで加速するには旋回中にペダルを踏み込む必要があるが、車体が最も傾く場所では内側のペダルを上げる癖をつけたい。そこまでやると、グイッと加速しながらコーナーを曲がれるようになり、また一味違う乗り味が楽しめる。コーナリングをばっちり決めることを考えながら単に街乗りするのもまた楽しい。ただし、見通しのよいコーナーでないと出会い頭の事故が起きるので、使い所には注意だ。

先日はスラロームしながら千葉まで行ってきた。浦安の埋立地あたりは全然人がいなくて、ひたすらスラロームできた。さらに幕張の方まで進むと、面白げな陸橋があったので登ってみたら、俺ガイルで有名な稲毛陸橋だった。スラローム聖地巡礼もできちゃうよ。

そこで感慨に耽っていたまではよいのだが、再び乗り出してみたらどうにも前輪が重い。調べたら、ガラスっぽい何かが食い込んでパンクしていた。タイヤを削りすぎるとパンクしやすくなるのかも。こう言う時、折りたたみ自転車だと輪行して帰れるのが良い。

さて、健康法というからには、健康の維持向上に貢献しているとの証左が求められる。私一人が実践しているだけでは統計的な説得力は全くないが、とりあえず数週間続けて私に起こった変化は次のものである。年末で美味しいものを食いまくっている割には体重が3kgほど落ちた。腹が凹んで腹筋の筋がより見えるようになった。太腿が太くなって歩くだけで筋肉がピクピクするのが分かる。L字懸垂ができる回数と普通の懸垂ができる回数が同じくらいになった。風呂上がりに足の指の間を拭く際に片足立ちでやっても全くふらつかなくなった。

そして何より、スラロームをしまくっても全く疲れなくなった。また、スラロームで進むのに必要な筋力に比べると普通に真っ直ぐ走るのに必要な筋力は遥かに小さいので、スラロームしてから普通に真っ直ぐ走ると、まったり休憩がてら走っているつもりでもかなりスイスイ走ってしまう。亀仙流の甲羅を外した時のような気分になる。

まとめ。自転車で出かけたついでに、機会を見てスラロームを決めると、いい運動になる。しばらく続けていると、体がちょっと機敏になった気がしてくる。おそらく自転車やオートバイの運転も少しうまくなる。スラロームをするためにわざわざ出かけるようなものではないが、もともと自転車に乗る習慣がある人は、たまにやってみてはいかがだろうか。