豪鬼メモ

一瞬千撃

25mm F1.2と45mm F1.2の感想の補足

前回に引き続き、M.Zuiko 25mm F1.2 Proと同45mmを使い倒している。10m先とか20m先とかにある建物やオブジェを撮りたかったので、中野の哲学堂公園に行ってきた。各建物やオブジェにつけられた絶対城とか宇宙館みたいなヘンテコな名前と由来の説明書きがビックリマン的な趣を醸し出す公園である。


上記の例は45mm F1.2で20mくらい先の建物を撮った例だが、主要被写体である建物がきちんと解像するとともに、手前の木や後ろの木がそれぞれ前ボケ後ボケとして微妙ながらボケるので、結果として立体感が出る。ただ、開放で撮ると欠点もある。解像度が最善ではなく、軸上色収差が出やすい。「開放で撮りまくるのがよくない」と前回書いたが、レンズの特性を踏まえた上で開放で撮るのはもちろんありだ。

まず、20mでもちゃんとボケ味の違いが出るのかという話だが、F1.2の例とF2.0の等倍比較をするとわかりやすい。左がF1.2で、右がF2.0だ。前ボケも後ボケもF1.2の方が大きいということがわかるだろう。露出は1.3段違い、錯乱円の半径は1.6倍くらい違うので、微ボケであっても弁別できる差異がある。

解像度の低下についてだが、これも等倍比較するとわかる。ピクセル単位コントラストが明確に右の方が高い。16MPのセンサーでこれなので、20MP以上のセンサーならもっと差がわかりやすいだろう。F2.0の例でノイズが目立つのは、暗く撮って持ち上げたからである。適正露出で撮ればノイズはこんなに出ない。

軸上色収差についてだが、ピント面のちょっと前やちょっと後ろにある被写体の周囲に現れるカラーフリンジとして現れる。紫とか緑とか赤とか青とかいろいろある。F1.2の例とF2.0の等倍比較をするが、色収差は等倍で比較しなくてもわかる違いとして出てしまう。二番目の例では瓦がうっすら紫になっていることを示している。

軸上色収差を完全に消すにはF2.8くらいまで絞らないといけないことも多い。ただ、ピント面前後に現れる軸上色収差は、現像ソフトのデフリンジ的な機能で消せる。Proレンズの軸上色収差はかなり軽微なので、ほとんどの場合で色収差は視認できない程度になるだろう。軸上色収差が強いレンズだとボケの縁にカラーフリンジが出るのだが、それは幅が広すぎて後処理では消せない。Proレンズなら開放で撮ってもボケのカラーフリンジに困る頻度はそんなに多くないと思う。ちなみに冒頭に載せた例ではLightroomのdefringe=4で修正している。

つまるところ、開放で撮る利点が欠点を上回る場合、開放で撮るべきだ。利点はボケ表現で立体感を増せることであり、欠点は解像度の低下とカラーフリンジの発生だ。Proレンズであれば、解像度の低下は等倍で見なければわからない程度になっていて、色収差も後処理で修正できる程度になっているので、積極的に開放を使っていける。それが開発の狙いだと思う。とはいえ、立体感の利点を出すには、視線を誘導したい先をきちんと把握した上でそこにきちんとピントを合わせることが必要になる。要は、どこにピントを合わせるかをしっかり考えて撮影しなければならない。それが我々素人には難しい。

差がわかりやすいように、45mmのF1.2とF2.5で比較する。軸上色収差の補正はしない。まず45mm F1.2。

45mm F2.5。

25mmのF1.2とF2.5でも同様の比較をする。まず45mm F1.2。

25mm F2.5。

実際のところ、ある程度の距離があると、2段違ってもどっちでもいいかってくらいの差しかない。間をとって1段絞るとかでもいいのかな。「とりあえず1段絞って撮るべし」という経験則には一理ある。まあデジカメなんで、開放、1段絞り、2段絞りの3通りくらい撮っておいて後で選べばいいんじゃないかな。その意味でも絞りブラケットは欲しいなぁ。頼むよカメラメーカーさん。

レンズの評価という意味では開放の描写を見るのが合理的なので、とりあえず離れた被写体を開放で撮り歩いてみた。軸上色収差補正は適用してある。こうして並べてみると、離れていても大口径なりの立体感が出ているという気がしてくる。









45mm Proも25mm Proも、全身ポートレート程度の距離に寄った方が立体感が強調できる。これまた開放の例。主要被写体が浮き出てくる感じが脳を刺激してくれて心地よい。同じ被写体が並べられている例は、25mmと45mmで撮り比べたものである。










1.2 Proレンズの特徴であるfeathered bokeh効果は球面収差に由来するらしいが、それは開放付近でしか発揮されないようになっている。この設定は絶妙だと思う。上に挙げた例(特にガンジー像の例)を見てわかるように、M43のF1.2で全身ポートレートを撮った場合の被写界深度はとても使いやすい。主要被写体の全体が深度内に入って明瞭に描写されるとともに、背景は視認性を失わない程度にボケて、それでいてそのボケがとけているので邪魔にならず、視線が自然に主要被写体に誘導される。フルサイズでF1.2のレンズを使ったとしたら、被写界深度が浅すぎて逆に使いにくいだろう。フルサイズのF1.2で同様のfeathered bokeh指向のレンズがあったとしても、被写界深度を調整すべくF2.4に絞って使ったら、feathered bokehの効果は消えてしまう。フルサイズのF2.4あたり同じコンセプトのレンズがあれば使いやすいのかもしれない。各所のレビューを見る限り、Sigma 45mm F2.8とか良さそうだけど。

もっと寄って近接撮影の領域になると、むしろボケすぎる感じになる。しかし開放で撮った例の独特のボケ感は素晴らしい。




とはいえ主要被写体がボケてはしょうがないので、近接ではそれなりに絞った方がいいことが多い。絞ったときの先鋭感もまた素晴らしい。



無限遠に近いくらい離れてしまうと、もう開放でも全くボケ感などない。前ボケは入れられるけども。見てわかるように開放でも十分な画質だが、積極的に開放にする理由はない。

遠景を撮りたいのであれば普通に絞るべきだろう。これらはF5.6の例だ。画面の端から端まで解像している絵もまた気持ちがいい。


まとめ。F1.2 Proレンズ、でかくて重くて高いが、写りは良い。大口径レンズでの開放の撮影は、どこにピントを合わせるかが悩ましいことになるが、それを考えるのがまた楽しいとも言えよう。ちょい遠距離の建物などを撮って微妙な立体感を付加するのもよいし、近接撮影で圧倒的なボケのとろけ感を出すのもよいが、やはりProレンズの真価はポートレートの距離で発揮される。家族やらペットやらを撮る人は、ちょっと奮発して買ってもいいんじゃないかな。