豪鬼メモ

一瞬千撃

河津桜とSTFとHDR

前回実装した手持ちSTFモードのテストも兼ねて、職場から家に帰る途中に西郷山公園に寄ってきた。丘の上にある河津桜が満開で、スマホなりカメラなりで撮りまくる人々で囲まれていた。この例も手持ちSTFだ。大してボケてないのになんだか立体感が出るのは不思議だ。
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主要被写体が近距離であるほど、立体感が出やすい。主要被写体がしっかり被写界深度に収まってよく解像するのと、背景がボケすぎないできちんと視認できることの相乗効果だと思う。
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ボケすぎない方が立体感が出ると言ったが、その前提条件について整理してみたい。今まで述べてきた、2段分のSTF効果を出す撮影方法だと、最大のボケ量は開放より1段絞った時と同じになる。F1.8のレンズの場合、F2.5を基準にF1.8からF3.5までのブラケット撮影をして平均合成をするので、結局F2.5と同等のボケ量になる。つまりF2.5で背景と主要被写体の分離ができる条件を考えることになる。

今回のレンズはM.Zuiko 25mm F1.8だ。1枚目のピント面の距離は3.52m、2枚目は0.81m、3枚目は1.67mとEXIFデータは言っている。1枚目はもっと遠かった気がするし、3枚目はもっと近かった気がするが、カメラの距離計がピント面をそう判断しているのだから仕方ない。2枚目と3枚目で十分なボケ量があるが、1枚目のボケ量はちょっと理想より少ない感じだ。私の経験上、M43で実焦点距離25mmでF1.8の標準レンズを使った場合、STF効果による不思議な立体感を存分に味わえるのは、ピント面が1mくらいまでの時だ。F値を1.8で固定して焦点距離に対して一般化すると、焦点距離に40をかけた距離までがSTFのスイートスポットということになるだろうか。15mmの広角レンズであれば、60cmまでだ。45mmの中望遠レンズであれば、1.8mまでだ。撮像におけるボケのサイズは実焦点距離に比例するので、APS-Cやフルサイズなどでも実焦点距離で同じ計算になるはずだ。フルサイズの50mmでF1.8の標準レンズであれば、2mまでがスイートスポットということになる。1段明るいF1.2の大口径レンズなら、距離を√2倍にしても同じくらいボケるはずで、スイートスポットがより広がることになるだろう。スイートスポットを過ぎると、STFの効果は実感しにくくはなるが、それでもボケ味が悪くなることはないので、使って損はない。

その他の例も載せておく。良い作例を得るべく街を彷徨ったが、完全静止している被写体って結構限られるというのが正直な感想だ。ちょっと風があるだけで花撮りは失敗するし、後処理のぶれ補正も回転ぶれの補正はうまくできないっぽいので、それで失敗することも多い。E-M10が電子シャッターがないのも辛い。ハマればいい絵が出るんだけどなぁ。
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ところで、HDRモードでenfuseを使う実装を入れたので、その能力を試してみたくなった。HDRが必要になる典型的な状況は、逆光だ。背景に比べて主要被写体がやたら暗くなるので、背景が飛ばないように露出を決めて撮ると、以下のように主要被写体の視認性が著しく悪くなってしまう。
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とはいえ、単写でもRAWで撮っておけば、後でシャドーを持ち上げることで、主要被写体がきちんと認識できる絵になる。とはいえ、背景のハイライトの階調は当然ながら犠牲になる。
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ここでHDRだ。AEブラケットで露出の違う写真をたくさんとっておいて、あとで合成するという作戦だ。今回は以下の7枚を用意した。
youtu.be

enfuseで合成すると、主要被写体を明るくしつつ、背景の階調も維持できる。とはいえ、わざわざ合成した割には、印象がそんなに変わらない。確かに空の階調は残っているのだが、空が白飛びしたって別にいいじゃんと思う今日この頃。
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というか、単写のRAWでも、空は白飛びしていないので、うまく現像すれば階調を残せるはずだ。そこで、擬似HDRを発動させる。単写のRAW画像から、暗い画像と中間露出の画像と明るい画像を現像し、それをenfuseで合成するのだ。そうすると、順光並みとは言えないまでも、逆光なのに色がきちんと認識できる絵が出てくる。
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何が言いたいかというと、本物のHDR撮影が必要なケースってそんなにないということだ。たとえ逆光であっても、センサーのダイナミックレンジを超えていない限りは、擬似HDRで十分だ。ダイナミックレンジがとりわけ広いわけでもない8年前のM43センサーを積んだ無印E-M10でも普通に逆光が扱えているのだから、最近の製品だったりより大きいサイズのセンサーだったりすれば、HDR撮影が必要なシーンはかなり限られているだろう。RAW撮りしとけば、後でどうとでも加工できる。この作例だと、敢えて逆光で撮ってるんだから、無理やり視認性を良くしなくてもいいとは思う。しかし、人物が主要被写体である場合はその表情をきちんと見せたくなったりするから、AEブラケットや擬似HDRの手法が選択肢としてあるのは悪いことではないだろう。

ちなみに、E-M10内蔵のHDR撮影機能は、かなりいけてないのだ。以下の例のように、眠い絵が出てくる。シャドー部の色味が抜けてしまうのが最もダメなところだ。むしろダイナミックレンジが狭くなっている感じすらする。これを使うくらいだったら、RAW撮りして後で調整した方がいい。
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