マイクロフォーサーズの単焦点レンズの色乗りについて、同一環境でグレーカードを写して比較してみた。結論としては、私が持っているレンズでは色乗りの違いは全くないとわかった。
同じ光源下で同じ被写体を同じ露出設定で写して同じ現像設定で書き出しても、レンズが違うと色の表現が変わってくるらしい。レンズの素材やコーティングの方法によって変わってくるそうな。描写される色の違いが色乗りの違いとか発色の違いとか言われてレンズの特徴として語られることも多い。しかし、この色乗りは評価者の主観的な言葉で語られることが多く、素人が読んでも理解できない。最も単純に「良い」「悪い」の軸で語られた場合にも、何をもって良し悪しを判断しているのかがわからない。「あっさり」「こってり」の軸で語られることも多いが、色の濃さを基準にするのであれば各色毎の傾向が知りたくなる。「暖色寄り」「寒色寄り」という軸はかなり分かりやすいが、できれば定量化して語ってほしいところだ。結構な頻度で見かけるのが、暗めに写っていることで色が濃く見えて「こってり」と評価し、逆に明るめに写っていることで色が薄く見えて「あっさり」と評価している記事だ。ホワイトバランスがオートな比較は論外にしても、露出も厳密に合わせないと色味の適切な評価をするのは難しい。F値が同じでもレンズ毎の透過率が違うから実際の光量は異なる。レンズを交換している間に太陽も雲も動いてしまう。なので、フィールドテストの類の作例から色乗りを判断するのは現実的じゃない。
結局のところ、レンズによる色乗りの違いはレンズの分光透過率で決まるらしい。すなわち、光の波長(=色)によって透過率が変わるので、そのバランスが悪いと本来の色がセンサーに届かなくなってしまう。赤チャンネルで検出される波長の透過率が低いとシアン被り、青チャンネルで検出される波長の透過率が低いとイエロー被り、緑チャンネルで検出される波長の透過率が低いとマゼンタ被りになるわけだ。長波長の透過率が比較的高いと暖色寄り、短波長の透過率が比較的高いと寒色寄りになるとも言える。そういった偏りが軽微なレンズが色乗りの良いレンズと言えそうだが、色の認識や趣向は個々人の生理と心理の問題なので、必ずしも二元論で語れる話ではない。一方で、分光透過率のグラフさえ出してくれれば主観的な言葉の解釈に悩む必要はないはずだ。カラーフィルムの青感層・緑感層・赤感層の反応を想定したISO色特性指数(ISO/CCI = color contribution index)という規格もある。そういった客観的なデータを元に主観的な判断を個々人が下せばいい。しかし、おそらくその測定は第三者が行うには面倒すぎるのだろう。
しかし、私のような素人でも、自分のカメラでの使用に限って語るならば、各レンズがどのような色乗りをするかを定量的に言うことができる。同じ被写体を同じ設定で撮って出力データのRGB値を比較すればいいのだ。50%グレーカードを白色LED光源で照らして同じ場所を撮影して、それを同じ設定で現像する。各レンズとも、絞り値はF2.0で、シャッタースピードは1/200秒で、感度はISO200とした。現像はLightroomのデフォルト設定をベースに、ホワイトバランスは晴天プリセット(色温度5500K、色かぶり補正+10)にし、sRGB色空間で書き出した。
広角単焦点レンズPanasonic Leica Summilux 15mm F1.7。
標準単焦点レンズOlympus M.Zuiko 25mm F1.8。
中望遠単焦点レンズOlumpus M.Zuiko 45mm F1.8。
おまけでOlympus BCL 9mm F8.0 Fisheye。これだけF8固定なので、SS1/15秒にした。
一枚ずつ見ていくと、素人目にはほとんど同じように見える。なので、全例をぴったり並べて見比べてみよう。そうすると明るさがほんのちょっと違うことはわかるが、色味がどう違うかは微妙すぎてわからない。というか、ほとんど同じように見える。ブラインドテストでこれらを弁別できたらかなりすごい色覚の持ち主なんじゃないかと思う。
人間の目はあてにならない。なので、各々の画像の各チャンネルの値の統計値を見てみよう。出力は16ビットTIFFなので各ピクセルの各チャンネルは0から65535までの値を持つのだが、それを0から1とみなして、全チャンネルと各チャンネルの平均値を出してみる。identify -verbose hoge.tif とかやればいいだけなのだが。露出や撮影位置の微妙な違いを吸収するために、各チャンネルの値を全チャンネルの値で割った値も載せる。
レンズ | 全体 | Red | Green | Blue |
Summilux 15mm F1.7 | 0.734 | 0.715 (0.974) | 0.758 (1.032) | 0.727 (0.990) |
M.Zuiko 25mm F1.8 | 0.739 | 0.721 (0.975) | 0.765 (1.035) | 0.731 (0.989) |
M.Zuiko 45mm F1.8 | 0.739 | 0.720 (0.974) | 0.765 (1.035) | 0.732 (0.990) |
BCL 9mm F8.0 | 0.768 | 0.754 (0.981) | 0.798 (1.039) | 0.751 (0.977) |
ということで、各チャンネルの平均値の比率は上三つのレンズ間で0.2%も変わらない結果となった。つまりほとんど全く同じ色だということだ。誤差以上の違いはない。BCL09だけちょっと暖色寄りかもしれない。比率を算出するなら本来はsRGB色空間でなく線形RGB色空間に直すべきたが、それでも結果の傾向は同じはずだ。
ちなみに、この測定結果からでは、白色LEDが出さない波長域で透過率に差がある可能性は否定できない。太陽光には近紫外線や近赤外線に近い可視光も含まれている。ただ、日中に外で白い看板を撮り比べた場合にも同じような結果だったので、全般的な分光透過特性は3つともほぼ同じと言えそうだ。外だと再現性のある測定ができないのが辛いところだが。
結論。LS15とMZ25とMZ45の色乗りは、ほぼ全く同じである。人間である私が見る限りでも同じだし、数値からも同じだと言い切れる。実は、なぜこの測定をやったかというと、LS15の方が青が鮮やかに出るような気がしていたから、それを定量値として示したかったのだ。しかし、それは気のせいだったことが明らかになってしまった。新しいレンズを買って気を良くしていただけだった。チャンネル毎の透過率の逆数を掛けて色乗りを平準化するプログラムを書いたりとか、その処理をLightroom上で近似する設定を編み出したりとかいう計画もあったのだが、必要なくなってしまった。
私が所有するいくつかの個体の調査だけで断ずるのは尚早かもしれないが、まともなメーカーの新しめのレンズなら、実は色乗りはそんなに変わらないんじゃないかな。さすがライカだとかツァイスだとかナノクリだとか、そういうの単なる気のせいなんじゃないかな。各メーカーがそれこそ分光透過率測定器を使って品質管理をしているだろうから、そんなに外れたものは出てこないだろう。色乗りの差異が市場価値を左右するほどあるのなら分光透過率のグラフがMTF曲線などとともに製品紹介に載ってもよいはずだが、そうなっていないのは、多くの製品で顕著な差異がない証左ではないか。色乗りに関する言及は往往にして、撮影環境、露出設定、現像設定の違いと選択的記憶が結びついて起こる思い込みではあるまいか。
- 出版社/メーカー: 銀一
- メディア: Camera
- この商品を含むブログを見る
Panasonic 単焦点 広角レンズ マイクロフォーサーズ用 ライカ DG SUMMILUX 15mm/F1.7 ASPH. ブラック H-X015-K
- 出版社/メーカー: パナソニック
- 発売日: 2014/05/15
- メディア: エレクトロニクス
- この商品を含むブログを見る
OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 ブラック マイクロフォーサーズ用 単焦点レンズ
- 出版社/メーカー: オリンパス
- 発売日: 2014/02/28
- メディア: Camera
- この商品を含むブログ (1件) を見る
OLYMPUS 単焦点レンズ M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8 ブラック
- 出版社/メーカー: オリンパス
- 発売日: 2013/06/14
- メディア: Camera
- この商品を含むブログを見る