マイクロフォーサーズの広角レンズを買うための調査の続き。前回の記事ではPhotozoneのレビューを起点として健闘したが、今回はより包括的かつ詳細な分析をしているLensTipのレビューを起点に検討してみる。
購入候補となっているレンズおよびその比較対象になりそうな定番のレンズのレビューを読みつつ、解像力と色収差について表にまとめてみた。開放絞りのF値と、開放絞りの際の解像力および色収差と、中央の解像力を最もよくする絞りのF値と、その最善絞りの状態での解像力および色収差が並べてある。解像力はlp/mm(line pair per millimeter)を単位とした値で、センサー上の1mmあたりに何本の線を引いた模様がMTF50基準のコントラストを保てるかということらしい。色収差の単位は%で、センサー上で最大何%の大きさの色ズレが見られるかということらしい。M43全ての機種のレンズは12M画素のE-PL1につけて評価しているようだ。M.Zuiko 9-18mm F4-5.6とSigma 16mm F1.4は載ってなかったので割愛。
レンズ名 | 開放F | 中央 | 端 | 色収差 | 最善F | 中央 | 端 | 色収差 |
M.Zuiko 75mm F1.8 | 1.8 | 64 | 46 | 0.019 | 4.0 | 82 | 64 | 0.005 |
M.Zuiko 45mm F1.8 | 1.8 | 67 | 47 | 0.058 | 2.8 | 75 | 62 | 0.025 |
M.Zuiko 25mm F1.8 | 1.8 | 65 | 49 | 0.046 | 4.0 | 74 | 60 | 0.064 |
M.Zuiko 17mm F1.8 | 1.8 | 51 | 42 | 0.130 | 4.0 | 66 | 52 | 0.150 |
M.Zuiko 12mm F2 | 2.0 | 60 | 40 | 0.066 | 4.0 | 70 | 55 | 0.078 |
M.Zuiko 12-40mm F2.8 (12mm) | 2.8 | 78 | 68 | 0.042 | 2.8 | 78 | 68 | 0.042 |
M.Zuiko 12-40mm F2.8 (25mm) | 2.8 | 74 | 62 | 0.032 | 2.8 | 74 | 62 | 0.032 |
M.Zuiko 12-40mm F2.8 (40mm) | 2.8 | 54 | 45 | 0.061 | 4.0 | 62 | 58 | 0.045 |
M.Zuiko 12-100mm F4 (12mm) | 4.0 | 83 | 71 | 0.105 | 4.0 | 83 | 71 | 0.105 |
M.Zuiko 12-100mm F4 (25mm) | 4.0 | 72 | 64 | 0.140 | 5.6 | 75 | 65 | 0.123 |
M.Zuiko 12-100mm F4 (100mm) | 4.0 | 65 | 55 | 0.046 | 5.6 | 67 | 60 | 0.045 |
Lumix 20mm F1.7 | 1.7 | 62 | 45 | 0.070 | 4.0 | 74 | 58 | 0.088 |
Lumix 14mm F2.5 | 2.5 | 68 | 42 | 0.072 | 4.0 | 70 | 48 | 0.080 |
Summilux 25mm F1.7 | 1.7 | 55 | 49 | 0.091 | 4.0 | 71 | 64 | 0.055 |
LensTipの分析結果も概ねPhotozoneの分析と整合していることがわかる。まず、MZ75が圧倒的に優れていることがわかる。色収差がほぼゼロで、最善の解像力も素晴らしい。MZ45がそれに続き、MZ25、MZ12、MZ17の順に画質が下がっている。個人的にはMZ25の解像力や色収差に文句はなく、一方でMZ17には解像力でも色収差でももっと頑張って欲しいと思うところなので、それらの中間的な性能であろうMZ12が「買い」なのかどうかは悩ましいところだ。
ズームレンズであるMZ12-40とMZ12-100は、広角端ではそのMZ75に匹敵または凌駕する解像力を持っていて、望遠側に行くほど解像力が落ちはするが、それでもMZ25に匹敵するくらいの解像力を維持している。単焦点並みの画質をズームで実現しているという看板に嘘偽りはない。二つのズームを比べると、明るさと色収差の点ではMZ12-40に軍配が上がり、ズーム域と解像度の点ではMZ12-100に軍配があがる。もしどちらか入手するなら、私ならやはりMZ12-100だな。
今回は前回のコメント欄で話題に出たパナソニックの3つのレンズの性能も載せた。広角単焦点レンズの中では、それらに加えてMZ12が気になっているので比較してみよう。まずMZ12だが、開放では中央は60、端は40ということで、開放はどちらかと言うとソフトな描写と言えそうだ。中央すらあまり解像力が高くないMZ17よりはマシだが、端はそのMZ17にすら負けているという評価だ。しかしF4まで絞ると中央の解像力は70まで伸びて、周辺も55まで改善する。これは絞っても凡庸なMZ17よりもかなりよく、一言で言えば「絞れば中央は立派」ということが言えそうだ。
パナソニックの神レンズと言われるLumix20に目を移すと、MZ12と同じ中央重視の傾向でありつつも一回り解像力が高く、開放から中央62と十分に解像することがわかる。開放だと端は45にすぎない。F4まで絞るとMZ25に匹敵する中央74の解像力になり、端も58と十分になる。Lumix40はAFが遅いしMZ25と画角が近すぎるので、MZ25を持っている私としては見送りだ。しかし、安価なパンケーキレンズでこの性能というのは素晴らしい。標準画角の基準が換算50mmと言われる中、自分の自然な視野感覚はそれよりちょっと広い気がしていて、さりとて換算35mmだとちょっと広すぎると感じる私としては、Lumix20の換算40mm画角というのは普段使いにちょうどいい気もする。実売価格は25000円くらい。
広角の定番といわれる換算28mm画角を持つLumix14も面白い。開放F値が2.5と控えめながら、開放でいきなり中央68の解像力はすごい。端は42なので中央重視の極端な例となっている。F4まで絞ると中央は70と微増するが、端は48とあまり改善しない。日の丸構図で中央の被写体に視線を集めることが多いならいいけど、風景を撮るにはあまり向いていないレンズと言えそうだ。でもこれも安価なパンケーキレンズなので、それ相応の価値がちゃんとあると思う。まあ今回は見送りだけども。実売価格は30000円くらい。
最後にパナソニック製LeicaブランドのSummilux50。開放だと中央55の端49という解像力で、均質的な解像力ながらも全体的に凡庸という評価になろうか。MZ17とMZ12の中間的な性能。しかし、F4まで絞ると解像力が劇的に改善し、中央71の端64という素晴らしい性能になる。中央だけよく映るのではなく画面全体がシャープになるので、ここで挙げた広角単焦点レンズの中では最も風景向きと言えそうだ。色収差も4つの中では一番マシである。MZ25で色収差が視認できることはまずないので、それと同等の値ならば問題ないはず。換算30mmという画角は絶妙で、換算50mmのMZ25を補完するのにちょうどいい気がする。風景を撮るにはちょっと狭いと感じる人も多いだろうが、風景が得意な換算28mm画角と背景付きポートレートが得意な換算35mm画角の折衷的な感じで使いやすそうだ。多くのスマホは換算30mm付近の画角なので、妻に渡す際に「長いから引いてね」とか言わなくて済むし、他人にシャッターを押してもらう際にも楽である。実売価格は40000円くらい。
紛失してしまったMZ17を引き合いに出しつつ、持ってもいないレンズの使用感を予想するという行為は、辞めた会社もしくは別れた彼女を貶して強がってるみたいでちょっとダサい。MZ17の名誉のために書いておくと、あれは持っていると便利で楽しいレンズだ。確かに解像力に褒めるところはない。そもそもMZ17を購入した理由のひとつとして、ePHOTOzineのレビューでの評価が高かったからというのがあるのだが、そこでの画質のグラフは縦軸がExellentとかGoodとかいう謎のラベルであることに気づくべきであった。グラフの形だけ見て、Summilux15よりもMZ17が優位であると誤認してしまったのだ。MZ17はパンフォーカスで撮ろうとしても画面周辺が流れ気味になり、強いコントラストがあると倍率色収差も目立つレンズだ。しかし、実際に撮った写真で画質の欠点を感じる頻度はそれほど多くない。自分のレビューにも書いたが、家族との生活を記録するのにうってつけのレンズだった。画角はちょうどよかったし、主要被写体の表情や仕草に視線が誘導される自然な写真が撮れていたと思う。結果として、撮った写真のキープ率は高かった。冒頭の魔女や下の眼鏡っ子の写真もその一つだ。だからこそ、次に買うレンズにはその体験を上回らせてくれることを期待してしまい、比較表まで作って検討しているのだ。
各レンズのFlickr上の作例を一覧するのも参考になる。後処理されている例が多いのでレンズの素性を探るのには向いていないかもしれないが、巷の人々が各レンズでどんな被写体を選んでいるのがわかる。
- M.Zuiko 75mm F1.8
- M.Zuiko 45mm F1.8
- M.Zuiko 25mm F1.8
- M.Zuiko 17mm F1.8
- M.Zuiko 12mm F2
- M.Zuiko 12-40mm F2.8
- M.Zuiko 12-100mm F4
- M.Zuiko 9-18mm F4-5.6
- Lumix 20mm F1.7
- Lumix 14mm F2.5
- Summilux 15mm F1.7
望遠寄りのMZ75やMZ45では花や人のポートレートが多い。標準画角のMZ25やLumiix20だと人が少なくなって、何かの一部分にフォーカスした抽象的な写真が多い。MZ17やSummilux15はストリートフォトやスナップ写真っぽい例が多い。MZ12やLumix14は風景写真や旅行写真が多い。解像力から言えばLumix14よりSummilux15の方が風景撮影向きで、両者の画角は換算28mmと換算30mmとかなり似通っているにも関わらず、実際にはLumix14は風景撮影が多くてSummiluxはそれ以外の用途が多い傾向が明確にわかるのが面白い。
標準域を挟んだズームであるMZ12-40やMZ12-100だと、画角的にはどんなものでも撮れるはずで、実際多様な例が見られるが、ポートレートやストリートフォトにはあまり使われないらしい。レンズがいかついからかな。MZ9-18の例には見事に風景写真しかない。望遠端が換算36mm画角とはいえ、それで家族写真を撮る奴なんかいないらしい。
ここまでの検討で、単焦点の中ではSummilux15が最も良さそうだという結論に達した。F4まで絞れば画面全体が文句のない写りになるので、風景を撮る際にはそうするだろう。比較的近くに主要被写体があってパンフォーカスが欲しい場合にはF5.6やF8にするだろうが、その際にも十分な解像力が維持されている。回折のせいでF4を超えて絞っても解像力が上がらないのはM43のほとんどのレンズに言えることだが、画面中央の解像力のピークと画面端の解像力のピークが同じ絞り値だと使いやすい。背景付きポートレートを撮る場合にはF2.8を基準に調整すればよさげだ。画面中央はF4とほぼ同等の解像をするし、画面端も流れない感じで描写されることが期待できる。背景との分離が重要な場合は開放寄りの設定にするだろうが、F2.0でも中央は十分に解像するのがナイス。開放F1.7は、ボケ量を重視したい場合と暗い時に使う感じかな。
1mmあたりに何対の線が引けるかというlpmmを、センサーの短辺上に何本の線が引けるかというlwphに変換して考えてみる。開放の中央55lpmmという解像力は55*13*2で1430lwphに相当する。これは16MPセンサーの短辺解像度3456の半分に満たず、センサーの限界解像力を引き出すには程遠い。55lpmmの作例と70lpmmの作例を等倍で見て比べると、前者は甘いという印象になるだろう。逆に考えて、3456lwphで解像する理想的なレンズを想定すると、3456/13/2で132lpmmが必要となる。ベイヤー配列の画素補完で多少の情報が失われるとしても、等倍で鑑賞すると80lpmmくらいまではレンズの解像力の差異が識別できると言えそうだ。それでいうとF4で70lpmm出すという設計目標は現状のセンサーに対して現実的だと思う。
ただし、センサーのポテンシャルを引き出すのが写真撮影の目的ではない。自分の鑑賞スタイルで必要十分な解像力でいい。例えばこのブログに載せる画像は長辺1800の短辺1350に縮小しているのだが、それなら1350lwph=51lpmmを超える解像力は不要だ。開放55lpmmの解像力は十分なので、解像力のためにボケ量やシャッタースピードを犠牲にして絞る必要はない。とはいえ、私は長辺3600の短辺2700の画像を保存しているので、2700lwph=103lpmmまでなら高い方がありがたくはある。一方で、大口径レンズの多くは開放付近で敢えて球面収差が出るようにして解像力を犠牲にしつつも主に後ボケの錯乱円の境界を曖昧にしてボケ味をよくするなんて話もあり、その設計意図を汲むならたとえピント面も描写が甘くなっても開放で撮るというのも有用な選択肢だ。自分で試していないので何とも言えないが、そういう選択ができるレンズであるとすれば、なお価値があると思う。
DPREVIEWの作例を見る限りでも上述の理解でだいたい合っているような気がする。軸上色収差の影響か、ピント面付近のパープルフリンジと玉ボケのグリーンフリンジが目につくことがあるのはちょっと心配だ。とはいえ、MZ45とMZ25とMZ17でも同じ問題はある。目立つ時はLightroomのdefringeで潰せるから致命的な問題ではない。もちろんカラーフリンジは元から無いに越したことはないけど。
あとはボケ味とか色乗りとかの主観的な性能も考慮したいところだが、レビューや作例によって評価がまちまちなのが難しい。一般論として、「ツァイスだけにキレキレ」「ライカならではの空気感」「ツァイスだからこってり」「ライカなのにあっさり」「さすがオリンパスブルー」「しっとりとして艶のある描写」とかいった表現から話者の正確な意図を汲みあげるのは容易ではない。色乗りに関しては同一の白色光源を写した画像のRGB各チャンネルの統計値を比較すれば定量的に評価できそうなもんで、ボケ味も点光源のグラデーションを分析すれば定量化できそうだけど、そういうレビューは全く見かけない。そうしたところで直感的に理解できる人が少ないだろうから誰もやらないのかな。ともかく、できるのは複数のレビューを話半分と思いつつ読みあさることだけだ。このCameraLabsのレビューとかTools&Toysのレビューとかを見るとSummilux50は色乗りでもボケでも好意的に評価されているが、別のレビューでは逆のことが書かれたりしているので悩ましい。「自分が気に入って使えるかどうかが大事なんだ」なんて結論をたまに目にするけれど、買う前にそれがわかったら苦労しないぜ。とはいえ、購入者バイアスを考慮しても、Summilux15のレビューは概ね好意的なものが多い気がする。絞りリングがオリンパス機だと動作しないというのは残念だが、問題というほどでもない。
ということで、ハイエンドのズームだったらMZ12-100に、ローエンドのズームだったらMZ9-18に、単焦点だったらSummilux15に、という選択肢が手元に残っている。広角から望遠まで単焦点並みの解像力でまかなえる便利ズームか、ポケットに入る唯一無二の超広角ズームか、最も身近な画角で高画質を狙える単焦点か。この記事を書いている時点ではかなりSummilux15に気持ちが傾いてはいるのだが、他の二つの選択肢も捨てがたい。いずれにせよ、今週中にはどれかをポチることになるだろう。
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